やけどというのはあっけないものだ

弊息子、左腕に二度の深さの火傷。

朝、普段は立ち入り禁止にしているキッチンに入り込み、よりによってドリップ途中のコーヒーメーカーをひっくり返してしまいやけどを負った。

もちろん親として、子どもがあれこれ触らないように危険が予見されるものは遠ざけるようにしている。立ち入り禁止にもしている。キッチンにはベビーゲートを装備し、タケが立ち入ることができないようにしていた。

ただこの日、マンションの定期点検があるということでデベロッパーとゼネコンが家を訪問することになっていた。冷蔵庫まわりの床のきしみが気になることは事前アンケートに伝えていたので、キッチンまわりを整理していた。ベビーゲートを一時的に撤去したのも、そのせいだ。床のきしみがベビーゲートのせいかもしれないからだ。

その間隙をついて、タケはなんなくキッチンに潜入。これまで禁断の地だった場所に入ることができて、そりゃあ心がときめいただろう。そして真っ先に目についたのがゴボゴボ音を立てて湯気を出しているコーヒーメーカーで、とりあえず手を伸ばして確認してみたかったのは納得だ。

で、その結果、触って「アチッ」となるだけなら良かったのに、手加減を知らずにドリッパーとサーバーを両方とも床に落としちゃった。そのせいで左腕にほぼ沸騰しているお湯をかぶる、という憂き目にあった。

我が家のコーヒーメーカーは「珈琲王」と名乗る強気の製品で、お湯の抽出口が95度、ドリッパー内でも93度の熱湯をキープするのが売りだ。そんなものをひっかぶると、大やけどするのは当然だ。ダイニングのお味噌汁をこぼした、というのとはわけが違う。

このとき、僕ら親がふたりともキッチン周辺にいた。あとで保育園の先生から教えられたが、子どもの事故というのはむしろ両親がいるところで起きやすいのだそうだ。「相方が見てくれている」という油断が、子どもの無茶ぶりを見落としてしまうきっかけになるという。今回がまさにそうだ。

皮膚科と小児科を兼ねている病院が家の近所にあったので、すぐに受診する。

お医者さんいわく、水疱はとっとと潰してしまって、剥離した皮膚は除去するのが現在の治療法なのだという。皮膚はいずれ壊死して雑菌の温床になるので、早めに除去して患部を露出させたほうがよい、と。そのため、先生のゴッドハンドによりピンセットでタケの皮膚はズル剥けにされてしまった。

ただ、やけどの患部は細菌が感染しやすいので、そこはきっちりとカバーする。親から見ても「おいおい、これは大げさじゃないか?」というような分厚いパッドが患部に貼り付けられ、さらにそれが剥がれないように透明なテープでぐるぐる巻きに腕に固定された。

僕は医学の知識に疎いので知らなかったのだけど、こういうのを「ドレッシング材」と呼ぶそうだ。ドレッシング!サラダと不可分な言葉だと思っていたけど、医学でも使う言葉だったのか。

パッド部分が「ハイドロサイト プラス」という名前のポリウレタンフォームで、テープは「オプサイト」という名前だった。どちらも「スミス・アンド・ネフュー ウンド マネジメント」という会社の製品で、聞いたことがない。

夜、介護の経験があるいしにこの製品名を伝えたら、「ええもん使うてるやんけ、これは高いやつやで」と言う。業界人ならば知っている高級品?らしい。いや、いしは介護業界の人じゃないけれど。介護でも使うのか?と聞いたら、寝たきりで褥瘡(じょくそう)になった人に使う製品なんだそうだ。

タケの左腕を見ながら、「1枚使っているのかな、いや、2枚かな」なんて枚数勘定まで始めている。それくらいコスト管理が気になるものらしい。

やけどといえば患部に塗り薬を塗って、ガーゼに包帯なのかと思ったけど、今どきそんな治療はしないという。そんなユルユルな隙間だらけだと、患部か化膿して予後が悪い。完全に密閉してしまうほうがよいそうだ。

とはいえ、このポリウレタンフォームはなんともごつい。キズパワーパッドみたいな半透明シール状態のハイドロコロイド製品を使うならともかく。

処置をしてくれた看護師さんいわく、患部から浸出液が多く出ているときはハイドロコロイドだと吸いきれないので、ポリウレタンを使うのだという。なるほど。単に「傷口に何かが当たったら痛いので、それを保護するためにクッション材が入っています」というわけじゃないんだな。この分厚いウレタンそのもので滲出液を受け止めようというわけか。

それにしても驚くべきはハイドロサイトとオプサイトの組み合わせよ。処置が終わると、タケはすっかり平静さを取り戻した。痛みがずいぶんと落ち着いたらしい。腕が動かしづらいという不自由さはあるにせよ、やや元気になってきた。

やけどの痛みは、その多くは患部が空気に触れて染みる痛みだ。今回の処置で患部が保護されたおかげで、痛みは和らいだらしい。ひとまず安心した。

それにしても仰々しいハイドロサイトだ。これでラリアットを食らったら技をかけた側とかけられた側のどっちがダメージ大きいかな?とプロレス好きだった僕はついそんなことを考えてしまう。

それ以降、ほぼ毎日病院に通って傷口の確認とドレッシング材の張替えを行っていった。数日でハイドロサイトは薄型のものに切り替わり、一週間で傷口がむき出しの状態でもオッケー、というスピード治療となった。へええ、早いものだな、てっきり一ヶ月くらい頻度を空けながら通院するものだと思った。子どもの新陳代謝のスピードがすごい、ということもある。

後で知ったのだけど、火傷の治療というのは保険適用が基本的に2週間以内だった。なので、「一ヶ月くらいかかるのかな?」という発想自体がそもそも間違っていたことになる。

ドレッシング材が取れたからといって、何事もなかったかのようなツルンとした皮膚になっているわけではない。やっぱり火傷の跡がまだらになって残っている。

看護師さんからは「傷が残らないようにするためにも、この夏は日焼け止め対策をしっかりやってください。紫外線を浴びると、傷跡が残ります」と言われた。まじか。ちょうど今6月で、これから夏到来なのに。

結局彼は、通院終了から2ヶ月間くらいは自宅でガーゼとドレッシングテープを毎日張替え、患部を保護する生活を送ることになった。つくづく思うのは、ごく普通のものであってもドレッシングテープやガーゼを買うと高くつくなー、ということ。なにせ病院だと幼児医療費無償化なので、特にそう感じる。

テープを貼っていても汗で剥がれてくるので、長袖を着せて保育園に通わせようともした。しかし保育園側から「夏場の子どもは汗をかくので、できるだけ半袖でいてほしい。長袖を着るなら、通気性の良い薄手のものにしてほしい」と言われて断念した。探しても、そんな都合の良いものが見つからなかったからだ。

UVカットするけれど、長袖・・・というのを探すと、水遊び用のラッシュガードしか見つからない。で、ラッシュガードは通気性が良いものではない。たぶんこれを室内で着ていると、暑い。

子どもというのはすぐに風邪を引いたり熱をだしたりするものだ、というのは当初から覚悟していた。小児科のお世話にはなるんだろうな、と思っていたが、実際はこうやって皮膚科に毎日通うことになったり、別件で耳鼻科にほぼ毎日通院するようになったり、僕はタケを病院に連れていく日々になっている。子どもが成長するって大変なことなんだな。

(2022.06.14)

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