ある日、僕は弊息子タケと大浴場で入浴していた。僕が湯船に浸かっている間、タケは洗面器をあちこちのカランから集めてきて、湯船のヘリに並べることを一生懸命やっていた。何が楽しいのかわからないが、彼が大浴場に行くと必ず行う遊びだ。
その様子をなんとなく見ていて、ギョッとした。それは、彼が足の指を猫のように丸め、よちよち歩きをしていたからだ。
最初、面白半分でやっているのかと思った。しかし、何かの防衛反応として彼が指を丸めているようだった。僕は慌てて彼を呼び止め、「足の指を開いて歩いて。指を丸めて歩くと、転ぶかもしれないので危ないよ」と教えた。しかし丸まった指はなかなか元に戻らず、僕が無理やり指を広げさせた。
初めて見る光景だったので相当驚いた。一体いつからこんな歩き方をしていたのだろう?いつも足の指を丸めているわけではないはずだが、歩いている最中の子どもの足の指先なんてしっかりと見る機会がなく、僕はこれまで気が付かなかった。
いしに聞いて見ても、「知らない」という。「浴室の床が滑りやすいから、指を曲げていただけでは?」とも言う。
そういう会話をしている夫婦の側で、彼がまたぎゅっと足の指を曲げ、立ち上がった。「あっ、指が曲がってる」「本当だ」
彼がこれを楽しいと思って、ふざけてやっているなら「ねえねえ、見て見て!」とニコニコしながら僕らに見せびらかしにくる。でも、彼はとても普通の顔をしている。大真面目に、足の指を曲げていることが自然になりつつあるようだ。
これは異常だ。放置しておくとまずい。
慌ててネットで検索してみたら、どうやら「屈み指(ハンマートウ)」という状況であることがわかった。
「ハンマートウ」は病気ではなく状態を指す言葉で、整形外科に彼を連れて行っても「病気ではないので」と相手にされない可能性が高い。ハンマートウが長年続いて、結果的に骨の歪みなどが生じて生活に支障が出て、そこではじめて「病気」となって保険適用の医療にアクセスできる。
もちろんそうなるまで彼の症状を放置するわけにはいかないので、できるだけ早く対処することにした。
どうやらハンマートウは靴のサイズが合っていない場合に生じやすいそうだ。
靴が小さすぎると、足のつま先が靴に当たって痛いので、指を曲げて防ごうとしてハンマートウになる。
または、靴が大きすぎると、靴の中で足が安定しないので、自然と指で踏ん張る癖がついてしまい、ハンマートウになる。
うーん、弊息子タケの場合、「靴が大きすぎる」のかもしれない。
彼は、足の形が人よりも幅広甲高だ。このため、西松屋の激安子ども靴だとすぐにマジックテープが外れてしまう。このため、ニューバランスの「313」という型番の靴をいつも履いている。幅広に作られた靴だ。
13,5cmの靴を買ったのが2023年2月だが、どんどん靴のサイズがあわなくなってきて、0.5cm刻みで大きなサイズの靴を買い直してきた。2023年9月には、15.5cmの靴を購入している。彼が生きていく上で、食費よりもオムツ代よりも、靴代のほうが高くついているくらいだ。
そこまでして頻繁に靴のサイズアップを実施しているので、靴のサイズが大きすぎる可能性がある。特に彼の場合、幅広の足にあわせた靴を選んでいるため、長すぎる寸法の靴を履いているのかもしれない。
だとしたら、「幅広だけど長さが短い靴」を探したい。さあ、そうなるとネット通販で靴を買うのは無理だ。靴屋さんに親子で行って、実際に靴を履いてみてピッタリの靴を探したい。そして、できるならちゃんと彼の足を採寸し、店員さんにアドバイスをもらいたい。
そう思って、子どもの足を採寸してくれるお店を探してみたら、「Genki-Kids」というお店の存在を知った。
https://www.moonstar.co.jp/genki-kids/
靴メーカーのムーンスターが手掛ける、子供靴専門店。へー、全く知らなかった。
このお店の特徴は、子どもの足を機械測定し、その結果を踏まえて最適な靴を提案してくれるそうだ。まさに僕が望んだスタイルで、これはありがたい。さっそく、お店を訪れてみた。
これが「Genki-Kids」の特徴ともいえる、足のサイズを機械で測定する「フッ撮る」。
子どもは裸足になってこの機械の上に乗り、ちょっとだけ待てばすぐに測定が完了する。あっけないくらいだ。
足を上下左右から撮影し、その画像を解析して左右の足の「足長」「足幅」「足囲」を判定する。それら数値を踏まえて、「推奨靴サイズ」を提案してくれる。もちろん、この数値と足の画像データは「データシート」という名前でプリントアウトしてくれて、紙で渡してくれる。
それによると、弊息子タケは16.5センチの靴が合っている、と店員さんが言う。えっ、16.5センチ!?でかい!
ニューバランスの靴だと、1サイズ小さめに見積もってもよく、その場合は最適な靴のサイズは16センチ。
いずれにせよ、彼が今履いている靴は明らかに小さい、ということがわかった。
驚いた。むしろ、靴が大きすぎるくらいだと思っていたのに。
店員さんによると、「つま先から靴の先まで、1センチほどの余裕が必要」だそうだ。そして、靴を買う際はインソールを外して子どもの足とあわせてみて、インソールから足がはみ出ている部分がないかどうか確認するように、と言われた。
試しに彼が今履いている15.0cmのニューバランスのインソールを彼の足裏に押し当ててみたら、小指周辺が窮屈になっていることがわかった。
彼には気の毒なことをした。もっと早く気がついていれば良かったのに。
こうなると、「じゃあ16.5センチの靴を安いネット通販で買います」とは言えない。すぐにでも対処して、彼が歩くのを楽にしてあげたい。
結局この日、このお店でムーンスター製の靴を買って、そのまま履いて帰った。16.5センチ3Eの靴だ。
「15.0センチの靴、使い始めて間もないんだけどなぁ。15.5センチの靴も、すでに買って用意してあるんだけどなぁ」とは思うが、「我慢してしばらく窮屈な靴を使ってくれ」とは言えない。なにしろ、今後ますます足は大きくなっていくのだから。デブに「痩せるまでの間、窮屈な服でも我慢して着ろ」と言うのとはわけがちがう。
新しい靴を買ったからといって、ハンマートウがすぐに治るわけではない。何ヶ月もかけて身についた防御反応がハンマートウだろうから、それと同等、またはそれ以上の期間をかけてゆっくり正常な状態に戻していくしかない。
保育園の先生に話を聞いてみたら、先生も彼のハンマートウには気がついておらず、昔からずっとこの状態だったわけではなさそうだった。
このハンマートウに気がつく直前、彼を上高地に連れていき、徳沢までの7kmの道のりを歩かせた。この体験で彼は「抱っこをせがむのではなく、自分の足で歩かなくては」という自覚が芽生えたと思う。そんなタイミングで最適な靴が見つかって良かった。
新しい靴は彼にとって気に入ったようで、今では抱っこをせがむことなく、元気に走り回っている。
(2023.10.07)
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