
我が家の寝室の窓に、アルミシートと段ボールが取り付けられた。
いしによる迅速かつ容赦のない工作の成果だ。
僕は当初から、「まるで反社会的な何かを企てているアジトのようで嫌だ」と、反対の姿勢を示していたのだけれど、あっさりとその防衛線は押し切られた。
この部屋には窓が2つあるのだが、1つ目が密閉されてから間もなく、もう1つも同様の処置が施されてしまった。そして、一日中陽の光を浴びることのない、暗い部屋へと変貌した。
ただただ、悲しい。
もともと、この窓に向かって僕の仕事机は据えられていた。
テレワーク中心の身にとって、街の景色を眺めながら仕事ができる環境は貴重だった。昼の街並みも、夜の街の明かりも、根を詰めすぎずに正気を保つための素晴らしい清涼剤として機能していたのだ。
しかし、今年1月に次男のリョウが我が家に生まれ、それに伴って長男タケの就寝スペースがこの部屋へと移動した。これが全ての引き金となった。僕の仕事机は「遷都」を余儀なくされたからだ。
僕の机には車輪がついている。そのため、電源の取り回しさえ気をつければ、家庭内のあらゆる部屋への移動が比較的容易に行える。僕はこれを「遷都」と呼び、今の家に移り住んでからの5年間で、すでに7~8回は遷都を繰り返してきた歴史がある。
大抵は、この窓がある部屋と、リビングにつながっている部屋との行き来で遷都は成り立っていた。
「ベッドと仕事机が同居する部屋だと、まるで一人暮らしのようだ。仕事が忙しいと、一日のほとんどをこの数畳の空間で過ごす羽目になる」と僕がウンザリし始めると、リビング側へと遷都する。
しばらくはそこで快適に過ごすのだが、生活の動線上に支障が出たり、あるいは息子が病気になって病児保育のシッターさんに数日間来訪してもらうタイミングが訪れると、また窓のある部屋へと戻る、という往復だった。
そして今回の遷都先は、これまでいしとタケが寝室として使っていた部屋となった。
当初はいしとリョウの2人がそこで寝ていたのだが、いしが「タケと一緒に寝られないと寂しい」と涙ぐむものだから、僕が机をどけて撤退するしかなかった。結果、その狭い部屋にベッドとマットレスを敷き詰め、家族4人が川の字になって寝ることになった。
玉突き事故のように移動した結果、僕は自らの仕事専用の部屋を得ることになった。しかし、悲しいかな、この部屋はいわゆるマンション業界の俗語で言う「行灯部屋(あんどんべや)」であった。
正確に言うと廊下に面した窓はあるのだが、プライバシー配慮のために外の様子が一切見えない、波打ったくもりガラスが嵌められている。外が明るいのか暗いのか、その程度しかわからない。
その暗がりに閉じこもり、一人で黙々とテレワークをこなす日々。せいぜいトイレのために部屋の外に出るくらいなのだが、その正面に見える例の窓は、今やアルミシートで完全に覆い尽くされている。
外の様子は、全くわからない。雨が降っているかどうかも、わからない。
つくづく閉塞感を覚えてしまい、気分がずっしりと重たくなる。
それもこれも、すべては弊息子タケの起床が異様に早いことに起因する。
「お前、絶対に疲れているだろう」という日であっても、彼は朝の6時過ぎには容赦なく目を覚ます。それどころか、保育園では昼寝をしないんだ、と堂々と親に間違った自慢をかますし、実際に週末は昼寝を一切しない。
おかげで夕方には何やらヘロヘロフニャフニャしているくせに、夜はなかなか寝ようとしない。その上、朝はきっちり早いのだから、親としてはたまったものではない。
そんな彼を少しでも長く寝かせるために、いしが苦肉の策として考案したのが「窓を完全に塞いで目覚めを阻止する」という作戦だった。その結果が、これである。どうやら100円ショップで買ってきたらしい、本来は車のフロントガラスに取り付けるためのアルミシートが窓一面に貼り付けられている。
完璧に部屋が漆黒の闇に包まれたわけではないが、これまでの隙間だらけだったローマンシェードの状態に比べれば、部屋は劇的に暗くなった。効果は確かにあるのだろう。
これが、夜明けとともに取り外し、日没とともに取り付けるような容易な着脱が可能であれば、僕もまだ笑って許せた。しかし、さすがにそんな面倒なワンタッチ機構は備わっていない。お陰で、僕は毎日、仕事部屋から出てくるたびに、この外されることのない目張りを見つめて重たい気持ちになるのだった。
要塞のように暗く閉ざされた部屋を見て、仕事の疲れがリフレッシュできるわけがない。
さらにタケは、寝ている間に「暑い、暑い」と連呼する。幼児ならではの、驚異的な基礎代謝による暑がりだ。
彼の自己申告によると、「暑いから、涼しい場所を求めて夜の間にベッドの上を大移動している」のだという。ちなみに現在、彼は僕の隣で寝ている。
その結果、僕は毎日彼に蹴飛ばされ、ベッドの隅っこへと追いやられる羽目になった。時には彼がベッドの真ん中で完全な「真横」になって寝ているため、僕もその直角に合わせて横を向かざるを得ず、首から上と膝から下が宙に浮いた状態で夜を明かす、なんていう曲芸のような日もある。というか、これを書いている昨晩がそうだった。
この劣悪な睡眠環境を改善し、彼を1分でも早く寝かしつけるため、いしは寝室のクーラーをガンガンにかけるようになった。
「寝付くまでの間だけ冷やす」というのが当初の取り決めだったはずなのだが、設定ミスなのか何なのか、僕が深夜になってようやく寝床に向かうと、轟音を立ててエアコンが唸りを上げていることが頻発している。
しかも就寝用のマイルドなモードになっていないため、容赦のない冷風が直接体に当たって無駄に寒い。寒すぎる。
「寒い、寒い」と独りごちながら毛布にくるまり、何度押し戻しても僕のパーソナルスペースへと侵入してくるタケの四肢を避けつつ暮らしてきたが、もう限界だ。体力の貯金が底をついた。
これを書き終えたら、今晩から一人で静かに仕事部屋(行灯部屋)の床で寝るつもりだ。赤ちゃん用の小さな敷布団を床に敷いて、体を丸めて。
仕事が殺人的に忙しすぎて、1日の睡眠時間が2時間という日もある過酷なフェーズにおいて、まともに眠れない環境は肉体的に命に関わる。背に腹は変えられない。
悲しいなあ。結局、家族の中で、割を食うのは男親の宿命なのだろうか。そうして僕が暗闇に潜む間も、母子は仲良く、健やかに暮らしていくのだろう。
(2026.05.28)

コメント
コメント一覧 (1件)
うわぁ~…子供の寝相の悪さなどで割を食うんは仕方ないにせよ…窓塞ぎ&在宅勤務…ワシには無理、百発百中で精神を病みます、3日もせん内に10円ハゲが出るでしょう…
自分だけが割を食えば良い、と心をお決めになっておられるのかも、ですが、御自身の精神衛生だけではなく、
将来的にそれが御家庭内の不和にまで繋がりかねない、と冗談は一切抜きで御心配を申し上げます。
奥様のお考えも決して分からぬではないですが、よく話し合って環境自体をお変えになる事をお勧めします。