登場人物(1名)
おかでん:夏だから、山なのです。・・・と、自らを追い込んでしまっているんです、最近。
2002年07月13日(土)
皇海山。
比較的新しめのATOKで変換すると、一発で表示される山の名前だが、登山の趣味を持っている人か地元民でしかこの読み方は分かるまい。
こうみさん、と読みます。
・・・いくら知られていない名前だからって、うそを教えてはいけません。
ごめんなさい。正解は、「皇海山」とかいて「すかいさん」と読みます。なんで「皇海」が「すかい」と読むのか、さっぱり分からない。深田久弥著「日本百名山」にはそこら辺の見解が書いてあったかもしれないが、面倒なので調べるのはパス。
・・・手を抜くな、だって?くそ、面倒だな。ええと。
(ごそごそ)
調べました。でも、仮説でしか語られていないし、しかもその仮説もわざわざ紹介するほど面白くもないんで、却下。
っていうのも殺生なので簡単に説明すると、昔は「こうがい山」と呼ばれていたらしく、「こうがい」が「皇開」とあて字され、「皇海」になり、「皇」は「スメ」と読むから、「スカイ」となっていたんではないか、と。
なんか詐欺師に言いくるめられたような煮え切らない感じを抱くけど、ま、いっか。
ま、どっちにせよ、知名度の低い山だって事だ。何でそんな山に登るの、と言われると、単に日本百名山に入っているからというだけの理由だったりする。そこら辺にいる「百名山ピークハンター」のオッチャンオバチャンと動機付けは一緒ってのが悔しいが、まあ仕方がない。
しかしこの山、交通の便がすこぶる悪い。足尾銅山から入山した場合、山中1泊でギリギリだという。なのに、山頂の展望はとくに良いわけでもなく、途中ヤブこぎをしなければならない険しい道というじゃありませんか。「日本百名山でもなければ登らない」なんて揶揄される山たるゆえんだ。
ただ、逆にそういう山だからこそ、僕は興味を持った。行きたくてもいけない山。人があまりいない山。なのに関東地方に位置する2,000mオーバーの山。これは、行くしかあるまい。
幸い、車という「身軽な足」はある。思い立ったが吉日、早速突撃してみることにしよう。朝4時すぎ、東京を出発。
いくらなんでも、足尾銅山から2日がかりで登る気はしなかったので、裏口に位置する群馬県沼田方面から侵入を試みることにした。こちら側だと、日帰り登山が十分にできる距離まで車で接近できるという。ただし、途中20kmの林道を走らなければいけないというのがネックのようだが。
東京から関越自動車道を通って約3時間。吹割の滝から脇道に入り、さらに脇道に・・・と行くと、ありましたありました、皇海山の入り口表示が。さて、ここから林道となるわけですな。車があるからこそ、できる山登りとはこのことだ。公共交通機関だと、とてもじゃないがこうはいかない。
・・・ん?
皇海山の看板の下に、「通行止」の看板が転がっている。大丈夫か、おい。
しかも、隣にはもう一つ通行止看板が立っている。「落石のため全面通行止めとなりますので、ご協力をお願いします」だって。おいおいおい。
しかし、工事期間が記述されていない。もう終わった工事なのだろうか。そもそも、道をふさぐように配置される看板が路肩に置いてある事から、この看板が有効なのか無効なのかの判断ができない。
まあ、もう一つの「通行止」看板がうち捨てられているところからみて、放置されっぱなしになっている看板なんだろう。いいや、そのまま車を進めることにしよう。
しばらく行くと、路肩にこんな看板があった。
「落石路肩悪路キケン 通行者は自己責任で通行をお願いします」
「危険 落石 通行者は自己責任で通行してください」
「自己責任」という表現が2回も出てきた。うわ、これは本格的に悪路なのかもしれない。
道はどんどん悪くなっていく。時速10kmを出すのが精いっぱい。
かきん、ぱきん。
あああーっ、新車のボディにはねた石が当たるよーっ。
がりがりがり。
い、今のは底をこすった音ですか?そうなんですか?こすっちゃったんですか?うわああーっ。
涙が出てきてしまった。車購入直後は「いやー、この車は最低5年間は乗るつもりだから、どーせのりつぶすんだしビシビシ攻めるよ?少々のキズやへこみなんて気にしないよ」なんて剛気な事をほざいていたのだけど、いざこうやって車が傷ついていく様を五感に感じながらハンドルを握るというのは、切なくて失禁してしまいそうだ。
と、シートベルトに体を阻まれながら悶絶していたら、路肩の木にくくりつけられた「なだれ注意」の看板が・・・。この雰囲気、あながちあり得ない話じゃないので笑えない。
おーい!
く、崩れてるぞーっ。
右側、がっぽり10m以上崩落しております。通行者がそのまま突っ込んでしまわないように、崩れている周辺に赤ペンキを塗った石を並べている様がなんだか気味悪い。一瞬、事故現場の血みたいでどきっとする。
しかし、油断も隙もない。夜にこの道を走ると、そのままこの崖にダイビングする可能性大。
うわぁ。
こ、今度は本当になだれてるんですけどーっ。
谷側に気をつけていると今度は山側だ。危ないったらありゃしない。
慎重に、慎重に・・・がたん。わ、石を踏んでしまった。
1時間かかっても、林道の半分すら通過できていない状況にいい加減うんざりしてきた。この間ずっと、ボディに石は当たるやら崖崩れやら深いわだちに精神をすり減らしていたのだから相当しんどい。
さらにだめ押しをするように、目の前に再度現れた「全面通行止め」の看板。
今度は、道を半分ふさぐような形で、斜めに配置されている。先ほど見た林道入り口の看板がやる気の無い状態だとすると、今度はやややる気を出したっていう感じ。だとしても、完全に道を塞いでいないというのはどういう事だろう。どこまでこの看板を信じていいのかどうか、わからないのが不安だ。
しかし、しばらく先に進んだところでいったん車を止め、様子を見ることにした。ちょうど後ろから工事用と思われる地元の軽トラックがやってきていたので、やり過ごしておきたいという理由もあった。後ろからあおられて、焦ってそのまま崖にダイビング!ってなったらさてどっちが悪いんでしょう。あおったほうでしょうか、煽られたほうでしょうか。・・・当然だな、焦ったアンタが悪い。
しばらくして軽トラックが通り過ぎていったが、乗っていた作業員が全員こっちを「何だコイツ」という顔で見ていた。うわぁ、やっぱり通行止めのところに侵入したということなのか?ごめんなさいごめんなさい。って、あれれ、通り過ぎていった。普通だったら、「おい兄ちゃん、ここ通行止めのところだぞ?これ以上先に行っても無駄だから帰った方がええぞ」とか話しかけてくるような気がするのだけど。
ますます困惑。
このまま進むべきか、帰るべきか。
やっぱり解答はさっき通り過ぎた通行止めの看板にあるような気がしてきた。看板のところまで、ひとまず退却することにしよう・・・って、あれれ?
道 路 、 塞 が れ て ま し た 。
どうやら、先ほどの軽トラの人たちが塞いでいったらしい。
って事はアレですか、やっぱりここは通行止め・・・。
帰ろう。家に帰ろう。皇海山?もう、どうでもいいや。山には登らなかったけど、「へべれけ紀行」のネタにでもなればもうけもんだ、これ以上神経すり減らすのはイヤだ。っていうか、そもそもこの先は通行止めなんだから、無理したって無駄なだけだし。
あらためて、カーナビの地図を確認してみる。林道の終点までまだ10kmある。これは歩くの、無理だぁ。
皇海はん、あんた鬼やぁ!
また1時間かけて林道を戻り、途中で山菜取り?をやっていたオッチャン達から「ああ、やっぱり戻ってきたきた」と笑われるのを横目に見つつ、ようやく舗装道路に復帰。車を降りて確認してみたら、哀れさっきまでぴかぴかしていた新車は埃まみれ、きずだらけ。ああー、コンパウンドをかけないと駄目だこりゃあ。
この後、引くに引けなくなった僕は、近くにある赤城山に登ろうと車を転進させた。しかし、登山口に到着した時間が既に午前10時近く、何となくたるんだ空気になってしまっていたのが何ともやる気を失わせた。さらに、登山口に向かう、オッチャンオバチャンの群れ、群れ、群れ。せっかく人がいない山に行こうとしていたのに、この人の多さは何だ。激しく幻滅。しかも、何でかみんなザックに熊よけの鈴をつけて、ちりんちりんならしながら歩いている。うるさいよ、全く!
結局、赤城山にも登る気が無くなってしまい、「いや、今日は赤城レッドサンズとして峠を攻めに来ただけだ」などと適当な理由をつけ、「頭文字D」気取りでオートマチック車なりのヘボいダウンヒルを敢行し、そのまま東京にずらかったのであった。何しに行ったんだろう、朝早くから。まあ、いっか。
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