丸かじりは敗者の味

普段足を運んだことのないデパート地下食品売場をぶらぶらと歩いてみた。卑屈なまでに大衆迎合的な商品を取り扱っているご近所のスーパーとは、似て非なる商品ラインナップに「へぇー」「ほぉー」とついつい感嘆の声をあげてしまう。

そんな中、鮮魚店で刺身用の真鯛がさくで売られていた。スーパーだと大抵切り身になって売られているので、「さく」状態の鯛はちょっと見慣れない。値段がこなれていたので、ならばこれで晩酌でもすっぺえ、とさくを買ってみることにした。

しかし、家に帰ってみて問題勃発。たまたまこのときはキャンプ直後で、包丁やまな板といった調理器具は全てキャンプ用品の奥また奥に格納されていたのだ。これを引っぱり出すだけでエネルギーゲージが0になりそうで、いやんな感じだ。えい、面倒だ、せっかく買ってきた鯛だけど、切り身にしないで丸かぶりしてしまえ。

高級魚としてその名をとどろかせる鯛をさくごとかぶりつく。何たるぜいたく。人生勝ち負けで言ったら勝ち、とはこのことだろう。横からかじるなんて猫みたいな事をしちゃいかん、やるからには縦でかぶりつかねば。それっ。

・・・おいしくない。何かぶよぶよしたものを食べているという感じで、はっきりいって気色悪い。鯛のうまみ以前に、食感が悪すぎてとてもじゃないがおいしいと言えないのだ。刺身というのがいかに食感に左右される食べ物か、今更にして痛感。そういえば、確かに刺身のおいしさを形容するときに「こりこりして・・・」とか「歯ごたえがあって」とか、味そのものよりも食感の形容が多いな。うーん、そういうことだったのか。さらに考えるに、肉はカネにモノを言わせて「厚手の肉でステーキを焼きました」ってのはあるけど、お刺身に関しては「いやあさすがは社長はん、こんな分厚いお刺身食えるなんて金持ちはちがいまんなあ」ってのは聞いたことがない。これは、「分厚い刺身はまずいから」だったのだな。

刺身なのに「あごに力を入れ」「首をやや横に振って食いちぎり」という動作をやっているうちに、非常にむなしい気分に満たされてきた。そうだ、これが敗者の味って奴なんだな、と悟りを開いた瞬間だった。

(2000.08.03)

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