「あれっ、こんなところに」と町中で突然発見することがあるのが、中国人が営む、中国食材のお店だ。大抵お店は小さく、地味な作りになっていて、見落としがちだ。で、ある日ハッとその存在に気づき、驚くという。
驚くからといって、「じゃあ中に入ってみよう」とはなりづらい。お店の雰囲気が日本人向けではなく、僕のような生粋の日本人が店内に足を踏み入れて良いのかどうかさえ不安にさせられるからだ。中国人の、中国人による、中国人向けのお店。こういうのが、東京近辺にはあちこちにある。
意を決して中に入ってみると、そこまで閉鎖的な空間ではなく、日本人でも全く問題なくお買い物ができる。店主の愛想とか商品の包装や陳列方法とか、そういうのを気にしなければ大丈夫。カタコトの日本語くらいなら、問題なく通じるし。
そんな中国食材店は、日本のスーパーでは見かけない商品のオンパレード。(日本人の感性からいったら)大してうまくないものが多数並ぶ地雷原だが、珍しい商品が多く、「これは一体なんだろう?」とワクワクさせられるワンダーランドだ。
今回手にしたのは、これ。
「四川火鍋底料」。
ほう、こんなものがあるのか。つまり、四川火鍋の素となるタレらしい。
いろんなブランドのものが何種類も売られていて、そのお店では「火鍋コーナー」を形成していた。火鍋って、一部の好き者が食べるだけの食べ物だと思っていたけど、かなりメジャーな存在らしい。
中には、日本でも火鍋屋をチェーン展開している「小肥羊(シャオフェイヤン)」のものもある。いいね、小肥羊の火鍋はまた食べたいと思ってたんだ。でもお店で食べると結構高くつくので、家で再現できるのは嬉しい。
小肥羊ブランドの火鍋の素はちょっと値段が高い。初めての試みなので、まずは安いものを試してみることにする。それで買ったのが、この写真の火鍋の素。350円。
後で調べてみたら、楽天やらAmazonでも買うことができるようだ。
「火鍋」をお店で頼む際、よく見かけるのが「鍋に仕切りがついていて、二種類のスープで食べるタイプ」のものだ。片方に麻辣味のスープ、もう片方に清湯または白湯のスープが入っている。さすがに自宅で鍋を作る際、二種類のスープで鍋を作るのは無理だ。なので、今回は麻辣味だけで勝負。
材料はなんだろう?
パーム油、唐辛子、豆板醤、食塩、水、生姜、豆チ、ニンニク、料理酒、砂糖、酵母エキス、香辛料、調味料(アミノ酸等)、香料、酸化防止剤(二酸化硫黄)、(原材料の一部に大豆を含む)
と書いてある。油が真っ先に記述されているのか。鍋の材料にしてはアグレッシブ、というか不健康そうな予感。そして二番目が唐辛子、三番目が豆板醤。辛さを追求してます!感が半端ない。いいぞもっとやれ。
この鍋の素、当たり前だけどお湯で溶いたら出来上がりなんだろう。
そう思っていた自分が、仰天させられた記述。
何やら作り方がゴチャゴチャ書いてあるな、と思って一応読んでみたら、とんでもない事が書いてあった。
どうやら、
- 食用油を100-120グラム熱し
- そこにこの調味料を200g入れて旨味を引き出して
- ダシ汁を1.2リットル注いで煮立てて
- 3-5分でおいしく食べられます
ということらしい。えっ、油を100グラム?嘘だろ、おい。
すでにパーム油が主成分になっているというのに、さらに油を足せ、と?なんだよこれ、天ぷらを作るんじゃないんだぞ?
中国語だから、読解不足で勘違いかもしれない。何度も読み直す。
・・・いくら読み直しても、そもそも中国語を理解していないので、どうにもならないのだけど。でも、どうやら油を使わないといけないのは間違いないっぽい。えー、まじでー?
パッケージの中に、調味油が入っているのではないか?と思ったが、出てきたのは麻婆豆腐の素みたいなタレだけだった。あ、やっぱり油は自分で用意しないといけないのね。
ひょっとしたら、カップラーメンに時々ついている「香味油。食べる直前に入れてね」的な小袋が入っているのかなあ、と思ったのだけど。そんなことはなかった。
疑心暗鬼になりながら、グリルなべに油を注ぐ。
おい、冗談じゃないぞ。これはどう見ても天ぷらを作るときの絵面だ。これから美味しい鍋を作ろう!という絵面ではない。
もし作り方が間違っていたら間抜けだし、合っていたとしても相当きっつい食べ物になりそうな予感。
油が熱せられたところで、恐る恐る鍋の素を入れる。
ジュワーッ!と激しい音を立てて、泡を吹く油。
やめろ!やめろ!しまった、リビングで調理するんじゃなかった。油が飛び散ってるぞオイ!
テレビの液晶やら周囲の床やら、細かく飛び散った油が。
鍋でこんなことになるとは思わなかった。そりゃそうだ、油だもの。
しばらく唖然としながら、鍋の様子を見る。
まだ地獄の業火で煮えたぎっている。
・・・これ、鍋だよな?念のため確認するけど。
数分経ったので、水を1リットルほど足す。
パッケージに書かれたレシピによると、「骨頭湯」または「鶏湯」を使うらしいが、目の前のシチュエーションにビックリしてしまったので単なる水で済ませてしまった。鶏ガラスープの素でも入れておいた方が良かったかも。
水を足したら、グリルなべはいっぱいいっぱいになってしまった。
これ以上具が入らないぞ?どうするんだよ、おい。
スープが溢れないよう、おそるおそる具を入れていく。
僕の性格上、「スープをいったん別の鍋に逃がせばいいじゃないか」という発想にはならないのだった。「なんとか、現状をうまいこと乗り切ろう」ということしか思いつかない。
で、ひとまず体積が小さいキャベツなんぞを。
様子を見ながら、豆腐やら豆苗やらもソロリソロリと投入。
とにかく、体に悪そうなスープだ。せめて食材は体に良さそうなものを食べないと、健康被害を真剣に気にしないといけない。
出来上がり。
スープはもちろん飲まないぞ?具をすくうために、穴あきのお玉を用意して、入念にスープを振り払ってからお椀に移す。この日の具は
豚肉、きくらげ、キャベツ、豆苗、もやし、豆腐
だったと思う。
味は上出来。うん、うまい。辛さもあって、刺激的な食卓となったので大満足だ。
しかし、火鍋のなんと恐ろしいことよ。僕は火鍋を食べた後、翌日くらいまでおなかの調子が悪くなる傾向があるのだが、それはてっきり「辛いものをたくさん食べているから」だと思っていた。それはその通りなのだけど、実は「油の摂りすぎ」の方が体調に与える影響が大きそうだ。
火鍋は好きなのだけど、怖くてそう簡単には食べられないな・・・と思った。体に良いとされる薬膳がたくさん入っていたとしても、これはちょっとヤバい。デトックスどころか、体に脂肪を溜め込んでしまいそうだ。
とはいえ、たまには火鍋は楽しい。こういう刺激的な鍋は、年に一度か二度は食べたいものだ。・・・と、恐る恐る言ってみる。
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