2020年立春。
あまのじゃくな僕は、「コンビニの商売っけには乗るものか」と恵方巻を買うことはしないのだが、自分で作ることはやってもいいと思っている。
季節感があまりなくなったこのご時世、人工的であっても何らかの「この時期ならでは」の食べ物や行事というのは日常生活に取り込みたい。
たとえば、1月には花びら餅を和菓子屋で買って食べる、みたいなことだ。花びら餅自体は1月じゃなければ収穫できない食材は何一つ使われていないけど、茶道の裏千家における初釜では必須となるお菓子だ。僕は別に茶道を習っているわけではないけれど、「なるほどそうなのか」と思えば、買って食べる。
ただ、「商売っ気には乗ってやるものか」という気持ちは相変わらずあるので、恵方巻の季節になれば自分でこしらえる。花びら餅を買ってくるのは、さすがにそれを自分で作るのは無理だし美味しく作れる自信がないからだ。
というわけで2020年も、恵方巻きを作ってみた。
昔、ダイニングテーブルいっぱいになるくらいのロング恵方巻きを作ったことがあるが、今回は普通に作ろうと思う。老いたな、僕も。
何しろ、最近新婚ということもあってどうにも生活が落ち着かない。恵方巻きを作る気はあっても、具をどうするかなんて当日までなんにも考えていなかった。ロングな巻きずしを作ろうとか、ドラム缶みたいに太いのを作ろうとか、そういうアイデアなんてこれっぽっちも浮かばなかった。
せいぜい、冷蔵庫にあったコンビーフで恵方巻きを作ったれ、と思った程度だ。
コンビーフ。これは「千駄木腰塚」という文京区にある精肉店のものだ。お値段はやや高いのだけど、その分ここのハムやらコンビーフは最高だ。
コンビーフを巻きずしにしよう、というのはオリジナルのアイデアではない。腰塚自身が、そういう恵方巻きを売っている。それを真似させてもらった。
ただ、腰塚が商売として試行錯誤のうえで具を吟味したはずなのに対し、僕んちは「かにかまと、卵焼きと、カイワレ」というすげえ安直な組み合わせで対応した。そもそも、コンビーフとかにかまを一緒にすること自体どうなのかと思うが、かにかまは恵方巻のボリューム感を出す上で大事な食材なので入れることにした。
コンビーフは身がほぐれる食べ物なので、巻きすでぎゅっぎゅっと力を入れるとぺしゃんこになりそうだ。
かんぴょう?いや、そんなもの準備している暇がなかった。冷蔵庫に常備してないもん。
ということで、100円ショップで買ってきたプラスチックの巻きすを使って、太巻きを作る。
あー。
理想は、同心円状に中心から具⇒酢飯⇒海苔、と展開しなくちゃいけないのに、なんだかものすごく偏ってしまった。
食べてみると、うん、「今、ご飯食べてますよ」「はい、ここからコンビーフの味に切り替わりましたよ」というのがくっきりわかる。
でも、むしろこういうバラバラな味のほうがいい。だって恵方巻って、無言で一気に食べるんでしょ?
とはいっても、そういう「おもしろ文化(風)」には便乗しないぜ。恵方もへったくれもないまま、夫婦で「おいしいね」「うん、やっぱり腰塚のコンビーフは入れてよかったね」と会話しつつ食べた。
コンビーフはしっかりとした塩味がきいているので、もはや醤油は必要ない。このままするっと食べられるので、外出先などで食べるにはちょうど良い塩梅だと思う。そして、和とも洋ともつかない絶妙な味わいで、これは子供でも大満足だと思う。かんぴょうやら桜でんぶを入れるよりは高くつくけれど、ああいうのがちょっと苦手、という人には向いているはずだ。
(2020.02.04)
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