いしが「スコップケーキ」を作ってくれた

仕事が忙しく、自分の誕生日が来ても何も準備ができていなかった。自分の誕生日の準備を自分がするというのはちょっと変な話だけれど、四季折々のイベントごとに対して家のの中の飾り付けをしたり食事を用意するのは主に僕のタスクだ。

僕よりも年齢が一回り下で、女性であるいしの方がもっとこういうサプライズでワクワクすることに前向きなのだと思っていた。付き合い始めの当初は特に。しかし、僕が思っていたのとは違い、むしろ僕の方がそういう飾りつけが好きだということに、じきに気が付かされた。

僕は相手を驚かせたいから「ハッピーバースデー」と書かれた飾りをリビングの壁に飾り付けたり、ダイニングの天井からヒラヒラした飾りをぶら下げたりするわけではない。どちらかというと、自分自身に対してだ。こういう事をやらないと、日々の刺激に飢えてしまうからだ。

だから、「めんどうだなあ」「本当は僕はやりたくないんだけどなあ」とぼやきながら、それでも自分の誕生日に向けて、前日の深夜に部屋の飾り付けをする。

そんな僕を見かねて、いしが「スコップケーキを作る」と言ってくれた。このままだと、僕が自分のために自分でケーキを焼き始めそうだったからだ。しかも仕事と家事が終わったあとの、深夜、自分の誕生日が終わってしまった時間帯に。

「スコップケーキ」という言葉を僕は聞いたことがなかった。いしが言うには、「簡単につくれるものだ」という。よくわからないが、お願いしてみることにした。

この日、彼女がものの15分程度で作ってくれたのがこれ。

もともとキムチが入っていたんじゃないかと思われる、大ぶりな樹脂製の容器にケーキが入っていた。

彼女に聞くと、「食べるとき、お皿に盛ったときの形を気にせずに大きなスプーンで取り分けるんです。だからスコップケーキ、って言うんです」と言う。なるほどそういうことか。

実際に取り分けてみると、中はスポンジケーキ・・・じゃないな、カステラが入っていて、カステラとホイップクリームを交互に地層のように積み重ねてあった。表面の部分にスーパーで買ってきたカットフルーツとイチゴを散りばめたものだった。

面白いアイディアだと思った。なるほど、ケーキってこうやってズボッと器に入れてしまうと、一気に難易度が下がるんだな。物理的難易度も、心理的難易度も。

特に、この表面をびっしりと覆い尽くしたフルーツがきれいだ。ここまで盛りだくさんのフルーツをどさっと盛り付けられるのは、器に入ったままであるスコップケーキならではだ。

彼女も忙しい中、このケーキを作ってくれた。そのアイディアと愛情に感謝しつつ、おいしくいただいた。

(2023.02.04)

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