ストレスが溜まっていたのだろう。何か散財してやりたい、という気分だった。
旅行に行くとか、高価な服飾類にお金を使うというのは刹那的だし、なんだか罪悪感が付きまとう。折角散在するなら、日常生活で使う、生活雑貨を買いたいと思っていた。実用性がある、「買ったことに言い訳ができる」お買い物。
そこで思いついたのが、ロボット掃除機だった。最近忙しくて家の掃除が手抜き気味なのだが、洗面所をはじめとして抜け毛などが気になっていたからだ。
ハゲかかってるって?ははは、ハゲちゃうわ!
この歳にしてますます男性ホルモンがお盛んで、どこの毛かわからない毛が結構抜けるのだった。中には長い毛も・・・おい、この毛は誰のだ。見栄を張って嘘つくな。
ロボット掃除機といえばルンバだけど、そのほかにも日立のminimaru、パナソニックのルーロなど各社が商品を出している。「でも、お値段が高いんでしょう?」・・・と思っていたが、最新の最高級機種が10万円越えであるものの安いモデルになると5万円前後で存在することがわかった。あれっ、案外安いんだな。
とはいえ、ルンバのフラッグシップモデルなんてのは高いかわりに男の子のワクワク感をくすぐってやまない装備を備えている。カメラが本体に搭載されていて、ルンバが周囲を見ながら部屋をマッピングし、効率よく隅々まで掃除をしてくれるのだという。すげー。昔のルンバが、ガッツンガッツンと周囲にぶつかりながら動き回っていたのを実家で見ていたので、この進化には驚かされるし、欲しくなる。しかも、タイマー機能で、指定された時間に起動して勝手にお掃除してくれるのがイカす。安いモデルにはこんな機能はついていない。ボタンを自分で押して、ヨーイドンさせないといけない。
えーいいっそのこと!と一瞬思ったが、ゼロコンマ数秒で却下された。さすがに「散財する」にしても10万円オーバーはありえん。そこまで広い家じゃないし、荷物が少ないサッパリした家だ。「自分で掃除機をかけろ」といわれたら返す言葉がない。胸を張って「ロボット掃除機を買ったぞー!」と雄たけびを上げるには、10万円はキツかった。
そこでいきなり登場したのが、謎のロボット掃除機。見たことも聞いたこともないシロモノだ。
ロボット掃除機といえば高度な機能と知能が求められ、iRobot社や国内大手電機メーカーでないと作れないものだと思っていた。しかし、実際には知名度が低い中華ロボットが世の中にはいっぱい存在することに気が付いた。
何これ?そんな世界、実は存在していたの?
Amazonで調べれば、出るわ出るわ。モノによっては1万円程度の激安ロボット掃除機さえ存在する。いったいこれまで家電量販店で見聞きしていたロボット掃除機はなんだったんだ、という値段の安さだ。
いやー、でもさすがに1万円はあんまりだ。掃除機じゃなくて、地面にファンを向けた扇風機に車輪がついているだけじゃないか?と疑わしい。「安物買いの銭失い」という雰囲気がプンプンする。
しかししかし、口コミを見てみると案外高評価なのだった。
おそらく性能はルンバなどのメジャーな製品と比べて大いに劣るのだろう。しかし、その残念さを補って余りある安さが、最終的に高評価となっているようだ。それどころか、「安くてもちゃんと動く」という口コミも多数。「隅々までぴかぴかに」といったリクエストでもない限り、結構そつなく掃除をしてくれるらしい。へええええ。びっくりした。
とはいえ、1万円ロボットを買う気にはなれなかった。もうちょっとお金を上乗せするので、中華なりに機能豊富なものがいい。・・・そうやって探していて、見つけたのがこれだった。
Proscenic社製、790T。
なにそれ。聞いたことがない会社だ。調べてみたら、台湾のメーカーだった。ルンバのそっくりさん、ブラーバのそっくりさんを主に造っているメーカーだ。
聞いたことがないのは当然で、日本語サイトはあるにはあるものの、まともな商品紹介が掲載されていない。日本語も、大変たどたどしく、理解度としては50%にも満たない程度だ。結局、台湾本国の公式サイトまで見に行ったくらいだ。繁体字の中国語のほうがよっぽど理解できるレベル。
そんな会社、信用していいのか?という疑問もあるが、値段が3.1万円程度と手ごろなのと、機能がしっかりしているっぽかったので買ってみることにした。当てが外れても笑い話にはなるだろう。それくらいの軽い気持ちだ。
ルンバを語る際、真っ先に言われるのが「デカい」ということ。
デカくないと高出力モーターを組み込めないし、バッテリの容量を確保できないし、吸引したゴミの収納場所も確保できない。ある程度、デカさは仕方がない話だ。
この790Tはルンバより若干小さい程度。実際に並べて比較したわけではないけど、「ロボット掃除機というのはでかいものだ」という諦めが先にあるので、この程度のサイズなら許せてしまう。そもそも、デカいロボット掃除機を置けるくらいの部屋の広さでないと、わざわざロボットに掃除をさせる意味がない。
メーカーのサイトを見ると、やたらとたくさんの姉妹機種が売られている。何がどう機能が違うのかほとんど理解できないのだが、Amazonではそのうち2種類だけが販売されていた。メーカー直販だ。
3万円超の790Tに対して、数千円安いのが「SUZUKA」という機種。機能の違いを理解するまで、1時間以上中国語を読んだり、たどたどしい日本語を読んだりして比較する羽目になった。安いに越したことはないが、機能を無駄に削りたくもない。
結論からいうと、今回買った790Tにブラーバのような雑巾がけ機能が付いているモデルだった。いらんいらん、掃除機をかけながら雑巾がけもできます!と聞くととってもお得で便利な気になるけど、「ラグの上にも乗り上げる必要がある」ロボット掃除機と、「ラグの上に乗り上げたらダメ」なロボット雑巾がけ機とでは、求められている性能が違う。濡れ雑巾のままラグの上に乗り上げるのはやめてほしい。
うちにはブラーバがあるということもあり、この「雑巾がけ機能」は一度も使っていない。乾いた雑巾だけでなく、濡れ雑巾も使えるというものだけど、家にラグのたぐいが全くない家でないと、使いづらいと思う。
これだけなら、安いSUZUKAのほうがいいのだが、それでも僕が790Tを買ってしまったのはレーダー機能を備えていたからだ。
バイオニック超音波レーダとかいう大げさな名前がついている。
SUZUKAにも「赤外線衝突防止センサー」が備わっているけど、790Tはそのセンサー数が多くなっているのに加えて「バイオニック超音波レーダ」で障害物を検知して避けてくれるらしい。ガッツンガッツンと壁にぶつかるロボット掃除機はごめんなので、この機能に期待してみることにした。
ちなみにおかでんの実家だが、和式の家なのでふすまや障子がある。それらにルンバがぶつかって傷をつけまくったため、今ではルンバは納戸掃除専用機に格下げされてしまったらしい。ルンバに納戸掃除だなんて贅沢な!と言ったら、母親は
「いいのよ、リビングなんて普段から掃除してるし。たまにしか掃除しようと思わない場所だからロボット掃除機がちょうどいいの」
だって。なるほど。
話を戻すと、この790Tの前面には、ずらっとセンサーが備わっているのがわかる。車のバンパーに衝突防止センサーがついているのと同じ外観だ。
実際このセンサーはいい出来だった。790Tが障害物をすいすい避けるとまではいかないけど、すすーっと掃除機が動いているときでも、障害物の手前までやってきたら自動で減速し、ぎりぎり手前のところでターンする、といった動作を頻繁にする。距離感を測っているらしい。
障害物にぶつかることも多いけど、減速しているのでバーンと派手に当たることはほとんどない。おかげで、軽くて小さなごみ箱をリビングに置いていても、この790Tが蹂躙してとっちらかす、ということは全くない。いいかんじに避けてくれている。
790Tの上蓋を開けたところ。
吸ったごみをためておくタンクがある。
取っ手を掴んで引っ張りあげれば、簡単に取り出せる。
ごみタンクの中。フィルターが二つついている。HEPAフィルター以外は水洗い可能なので、楽ちん。
どこに片付けようかと思ったけど、リビングのテレビ脇に格納した。
ちょうど、スチールラックの下にぴったり収まったのはラッキーだった。1ミリ程度しか隙間がないくらいのジャストサイズ。おかげで、存在を忘れてしまうくらいだった。
家を留守にしている間に掃除をしてもらっているので、在宅時には常に790Tはこのポジション。果たして本当に掃除してくれているのか、心配になるくらいだ。
面白いのが、スマホアプリで本体をコントロールできるということ。無線LANで動く。なので、家に無線LANルータがないとこの機能は使えない。ただし、本体にもともとコントローラーが付属しているので、無理にスマホを使う必要はない。
前、後ろ、右回転、左回転させることができる。
最初は面白がって790Tを前後に動かしていたが、今では全く使っていない。わざわざ「ここが汚れているので、よろしく!それ、前へ移動!」なんてリモコン操作で細かい掃除なんてやらせることはないからだ。そんな手間をかけるくらいなら、ほうきでもぞうきんでも使って掃除したほうが早い。
この機種を買った理由のひとつが、タイマー機能をちゃんと備えているということだ。
スマホで、一週間それぞれの日の起動時間を指定することができる。僕の場合は、毎日12時に自動起動させる設定にしてある。掃除が終わったら、自動的に充電器に戻ってくれる。
ロボット掃除機を導入した直後、誰しもが経験するのが「ロボット掃除機にいかにご機嫌よく掃除をしてもらうか?」ということだ。ロボットファーストになるように部屋の片付けをし、コード類を整理する必要がある。
幸い僕の家はモノが少ないので、ほとんど何もしなくて良かった。ただし、ラグだけはどうにもならなかった。どうしても、リビングのラグに乗り上げて790Tが止まってしまう。
真横からラグにアプローチする分には問題ないのだけど、どうしてもラグの角っこはラグ自体が若干浮き上がっている。そのためにラグを巻き上げつつ立ち往生するのだった。若干厚みのあるラグということもあり、これはもうしょうがないか。
思い切って、家の近くにあるホームセンターでぺらぺらのラグを買ってきた。1,380円だったかな。ここで失敗したら完全に無駄遣いなので、とにかく安く。
そのかわり、リビングでくつろいでテレビを見ようとして、このラグの上にあぐらをかくと若干ケツが痛い。ぺらぺら過ぎた。
これならラグを巻き上げないだろう!と勝利宣言をしたら・・・翌日、790Tはやっぱりラグを巻き上げて止まっていた。
100円ショップで売られている、メッシュの滑り止めマットは敷いてあったのだけど、それはあくまでも「滑り止め」にしかならないようだった。ロボット掃除機の突進に耐えられる粘り強さ、という点では劣っていた。
諦めて、ニトリに行ってカーペット用テープなるものを買ってきた。ネットでは定評のある商品だ。最初っからこれを買って置けばよかった。こいつ、600円くらいするので、見た目によらず安いものではない。とはいえ、ケチるもんじゃないな。790Tに馬車馬のように働いてもらうためにも、家の環境を整備するのは人間様の務め。
ニトリにはカーペット用のテープが何種類か売られている。
今回買ったのは、「吸着タイプ」というものだ。安いやつはいわゆる普通の「両面テープ」で、ラグにもフローリングにもべったりと張り付いてしまう。しかしこいつは、「吸着」の名のとおり、ふいっと吸い付く感じだ。床からはがそうと思えば、糊の跡を残さずにきれいに取り除ける。
これをラグの四隅に貼り付けたら、ようやく790Tはご機嫌に動作してくれるようになった。
リビングのラグに使っていた「滑り止めマット」はキッチンマットの下にお引っ越しいただいたのだが、ここでも790Tはたぎる魂を押さえきれず、乗り上げてしまった。キッチンマットは汚れやすいので、テープで床に固定したくはなかったのだけど、これはもう仕方がない。キッチンマットも床に貼り付けておいた。おかげで今では全く問題なく、790Tは家を走り回っている。週末しかその雄姿を見る機会はないけど。
よくできたもので、扉を開け放しておいたら洗面所にもトイレにも入っていく。抜け毛が多いエリアも掃除してくれることが僕の願いだったので、これは全く期待通りだった。そして、階段から転がり落ちて蒲田行進曲を演じるようなこともなく、段差を検知したらすすすっと引き返してくる賢いやつだ。
ただ、部屋の形を覚えてどんどん賢くなる、というわけではないようで、掃除の動きにはムラがある。日によって動きが違うし、掃除途中なのに「終わったー」と充電器に戻っていったり、部屋の真ん中で大往生を遂げていたりする。
しかし、こういうのはひょっとしたらファームウェアのアップデートで今後賢くなるかもしれない。それがネットにつながる家電製品の魅力だ。今でも十分賢いと思うが、これからにも期待したい。
とてもこの買い物には満足している。オプションパーツも売られているし、壊れるまでは使い続けたい品だ。面白い体験だったので、こうやって記録として残しておく。
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