アレクサ、僕はもう疲れたよ

AIスピーカー界隈がにぎやかだ。

Google Home、Amazon echoといった製品をはじめとし、いろいろな商品が売られるようになってきた。

音声で指示を出すと、曲をかけてくれたり天気予報を教えてくれたりするという。

「スマホで操作すればいいじゃないか」と思うのだけど、ネットを見渡すと、「AIスピーカーを一度使うと、もう無い生活には戻れない」と熱狂的だ。

僕もなんとか、AIスピーカーのことを理解し、「なるほどこれなら欲しい!」と思いたかった。そして、実際に購入してみたかった。しかし、何度解説やレビューを読んでも、良さが理解できない。「だから何なの?」という機能(スキル、という言い方をこの界隈ではする)が多い。

そんな僕でも、AIスピーカーを使ってみよう、と思える理由はあった。

エアコンの購入を考えていて各社のカタログを眺めている日々だったのだけど、最近の高級機種はスマホを使ったエアコンの遠隔地操作が可能ということを知った。

夏場、帰宅してみたら部屋が猛烈に暑くて滅入る、ということが頻繁にある。なので、自宅の最寄り駅に到着時点でエアコンをONにすることができれば、さぞや快適だろう。あと、うっかりエアコンをつけっぱなしにして外出してしまったときも、スマホでOFFにできる。

しかし、そういう機能が標準で備わっているのは、エアコンの中でもかなりのハイスペック機種だったり、別売りオプションで設置工事を依頼しないといけなかったりする。ずいぶん心が揺れたが、さすがに配送やら工事費用含めて30万円近くをエアコンに払う気にはなれず、断念した。

その時の「残念な気持ち」の行き場となったのが、AIスピーカーだった。

AIスピーカー自体は、もちろんエアコンをコントロールする機能を持っていない。しかし、赤外線リモコン全般をコントロールする外部機器と連携すれば、外出先からエアコンを操作できるだけでなく、音声でも操作できるようになる。しかも、「おはよう」とAIスピーカーに告げると、部屋の照明を点灯させ、エアコンをオンにし、天気予報と今日のニュースを流し、公共交通機関の運行情報を聞くようなことが一度に出来るという。

これはいい。

そんなの、全部大した手間じゃないので自分で調べたりスイッチを入れれば済む話だ。「効率化」という点では鼻くそ程度の役にも立たない。でも、「いい!」と思えるのは、なんか近未来感があるからだ。ただそれだけ。趣味の世界だ。

そういう近未来が、「どこかの施設に行って体験」ではなく自宅で展開されるというのはワクワクさせられる。

なので、買っちゃった。まずはAIスピーカーだけ。

本当は、7月くらいにぼちぼち買うつもりだった。どうせAmazon Prime Dayが7月に開催され、そこでセールが行われるだろうし。

しかし、たまたまAmazonのwebサイトに行ってみたら、「母の日」ということでタイムセールをやっていた。一番シンプルかつ安いAmazon echo dotが1,000円引きで4,980円。うお、5,000円を下回ってる。これならば衝動買いしても後悔しないと思う。

なので、買っちゃった。あー。エアコンなんてまだ買ってないのに。お母さんとは関係ないのに。

echo dotの箱はコンパクト

実物のハコを見てびっくりした。

タバコの箱2個分よりちょっと大きいくらい、というサイズ感。最近のスマホの箱よりも小さい。そして、軽い。

うっかり、何か別の商品・・・たとえば、Echo dotのオプション品とか・・・を間違えて買ってしまったのではないか?と心配になったくらいだ。

でも、中身は間違いなくホンモノだった。

所詮、AIスピーカーなんて単なる「マイクとスピーカー」に過ぎない。頭脳はネット経由でクラウドにある。すげえ世界だな、と思う。この形状を見るだけで、「未来にやってきたな。」という実感はある。モノそのものにはあまり価値はない。価値があるのは、ネットの先にある。

パソコンやスマホも、「ネットの先の価値」にアクセスするものだけど、まだデバイスの意味というのは十分に残されている。カメラとか、画面の解像度とか。しかし、音声のみでやりとりするAIスピーカーにはそれがない。

スピーカーは付属していません、それは外付けのBluetoothスピーカーでお願いします、という割り切り方をすれば、もっと小型化できるし、もっとチープな作りにできる。いずれそういう時代がやってくるのだろう。

コンセントに差し込む

echo dotとともに買ったのが、サードパーティーが作ったecho dot用の壁掛けハンガーだった。非常に軽いecho dotなので、何かの弾みで卓上から弾き飛ばしてしまったり、電源ケーブルに躓いて吹っ飛ばしてしまいかねない。また、我が家にはやんちゃなロボット掃除機がいるので、そいつが絡みつくことも心配された。なので、echo dotを壁掛けにできるこれは優れものだった。750円と安かったし、即決で買った。

壁掛け、という名前だけど、実際は電源コンセントにぶら下がる形になっている。echo dotの電源供給もしつつ、壁に取り付けられるので便利だ。いずれは、天井付近にある、未使用のエアコンコンセントにこれを取り付けようと思っている。

Amazon echoのセットアップ方法とか、どういう使い方ができるかは省略。それは、あちこちのサイトで紹介されているので。

結論から言うと、想定してはいたけれど思った以上にしょうもなかった。少なくとも2018年5月時点では。

何しろ、(ほぼ)全てが音声による指示で成り立っているものだ。そして、これまでの常識だった「画像によるガイダンス」が一切存在しない。どんなサービスが今、このechoに備わっているのか、それをコントロールするにはどういう言葉を投げかけないといけないのか、を的確に把握していないといけない。

購入直後、面白がっていろいろなスキルをecho dotにインストールしてみたけど、途中でわけがわからなくなった。なにしろ、スキル一覧表がない(スマホのAlexaアプリを開くと確認できるけれど、スマホ画面を見ている時点でAIスピーカーとしてどうなんだ、と思う)ので、そもそも何ができるんだっけ?ということがわからない。

そして、スキルを呼び出すためには、「Alexa、●●で●●して」という言い方をしなければならないのだけど、スキル名もわからないし、具体的な動作指示の言葉もわからない。

たとえば、「睡眠サポート」というスキルがあって、寝つきを良くするようなヒーリング音楽が何種類も用意されている。これを立ち上げるためには「Alexa、睡眠サポートを開いて」と言うのだけど、Alexaからは「曲名を言え」といわれる。曲名は自分で調べろ、とも言う。おい、勘弁してくれ。画面がないインターフェース、というのがこんなに使いにくいとは思わなかった。

さらに、音楽が流れっぱなしだとまずいので、「5分後に消して欲しい」と指示を出したいけど、その指示の出し方がよくわからない。何度か適当に言ってみても、うんともすんとも反応しない。理解したのかしていないのかさえ、わからない。このままにしておくと、寝つきがむしろ悪くなりそうなので「睡眠サポート」を終わらせようとしたのだけど終わらせるための命令文もよくわからない。何度か言い直し、ダメで、Alexaに聞き取ってもらいやすいように自分自身が移動して、いい加減コンセントからecho dotをぶっこ抜こうかと思ったところで音楽が止まった。「禅寺」というタイトルの音楽だったけど、悟りを開くどころか煩悩まみれだった。

これは一例にすぎず、全てのスキルにおいてそれぞれの命令語が存在する。「スキルの名前」「そのスキルで出来ること」「スキルの命令語」を全て正しく暗記していないと、本当にまともに動かない。怒って電源ぶっこ抜き、くらいしかやることがなくなってしまう。

「たき火」というスキルがある。それはたき火がパチパチとはぜる音をずっと流すというものだった。面白いと思って使ってみたけど、実際は録音状況が悪い&スピーカーが悪いせいで、「ボコボコとお湯が沸騰しているような音」でまともなものじゃなかった。とっとと終了させたかったのだけど、なかなか音声が反応せず、この苛立たしい状況がしばらく続いた。何度も言葉を変えながら命令していると、だんだん人間は声が荒々しくなってくる。良くないことだ。

スキル関係を全部紙に書き出して、一覧表にして印刷して、手元に置いておかないとこれは使いこなすのは無理だ。今後、ますますいろいろなスキルが誕生するのだろうけど、「どんどん便利になる!」というのは大間違いだ。複雑怪奇になる一方で、意味不明な世界になるばかりだ。視覚情報なしの音声コントロール、というのは、よっぽどAIが賢くて「何を求められているのか」を推察する技術が確立していないと、実用性という点でクエスチョンだ。

このことは、実際にecho dotを買う前から知ってはいた。その時は「まあそんなものかな」と軽んじていたけど、実際に使ってみたら思った以上だった。

おそらく、現時点でAIスピーカーを使っている人というのは、アーリーアダプターと呼ばれる「新し物好き、メカ好き」な人たちだ。なので、少々の困難はむしろご馳走、くらいに思っているかもしれない。なので、AIスピーカーすげえ!という好評価は理解できるものの、それは万人受けするものではない。むしろ、人にはおススメできないレベルだと僕は思った。

実際にAIスピーカーを手にするまでは、「実家の両親が気軽にインターネットを使えるように、プレゼントしてもいいな」と思っていた。しかし現時点だと無理だ、到底使いこなせない。

とはいえ、「いらんものを買ってしまった」とはまったく思っていない。というのも、これからどんどんechoの機能は良くなっていくはずだからだ。なので、長い目でサービスの成長を見ていけばいい。そして、長期戦で臨めば、いずれ「覚えきれないスキルの命令文」も覚えていくだろう。今日明日で使いこなそうなんて思わず、何ヶ月もかけて、じっくりと「人間様」が「AI」のためになじんでいくことになる。

そんなわけで、数日使って早速面倒になった僕は、「Alexa、おやすみ」とか「Alexa、ただいま」という非常にシンプルな、オーソドックスな言葉だけを投げかけている。

するとecho dotは、ちょっと艶っぽい女性の声で「おかえりなさい!今日も一日お疲れさまでした♪」などと返事を返してくれる。朝なら、「おはようございます。今日も、素敵な日になりますように。」
なんて言う。

それを聞いて、ゾッとした。うわ、俺、まるで寂しい独居老人みたいじゃないか!と思えたからだ。待て待て、決してそんなつもりで声をかけているわけではないのだけど。疲れ知らずのAIに「お疲れさま」といわれたり、感情のないAIに「素敵な日になりますように」と祈念されたり、とっても居心地が悪い。

早くちゃんとスキルを使いこなそう。単なる話し相手として使ってしまうと、薄気味悪さと気持ち悪さが入り混じってくる。

(2018.05.17)

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