つみたてNISA Meetup in 東京@金融庁

金融庁は森長官のもと、「フィデューシャリー・デューティー」の掛け声とともにここ数年、積極的に改革を進めている。政治家が言う名前だけの「改革」ではなく、本気の改革だ。

「貯蓄から投資へ」という言葉ははるか前から言われてきたけど、日本人はバブル以降の経済停滞状況が続いたこともあり、投資における成功体験が少ない。そのため、「投資=いかがわしいもの、損をするもの、銭ゲバな奴がやるもの」というネガティブなイメージが根強くある。

この状況を変えようというのが「フィデューシャリー・デューティー」という言葉だ。「顧客本位の業務運営」と訳されたりもする。

これまでも、金融機関というのは、見た目上は「顧客本位」を謳って営業をやってきた。でも実際はどうだったか?金融機関に対して、「怪しい商品をよくわからないままに売りつけられた」という人は多いだろう。

生命保険や年金保険、学資保険なんてその典型例で、よく考えたら無駄なお金を長期に渡って投入させられていたりする。(個人年金なんて、今から入ろうと思っている人はやめておいたほうがいい。たいていの場合、無駄だ)

投資が少しはわかっているような人だって、金融機関に踊らされてきた。オイルマネーが熱いですよ、と言われて中東に投資するファンドにお金を注ぎ込み、その次にはリオ五輪でブラジルがアツいです、ってことでブラジル投資。他にも、再生可能エネルギー投資、最近だとAIに対する投資だとかなんとか。

この手の「テーマ型」と言われる投資は、往々にして使い捨てにされる。旬が過ぎたら、儲からなくなる。なので、金融機関はすぐに次の「今度はこれがアツいです」というテーマを持ってきて、そちらへの鞍替えを勧めてくる。

一見、時流に乗った投資のようだけど、長期に渡って、老後資産を形成していくという観点から見ると褒められたものではない。ハズレくじのテーマを引く可能性が高いし(たいてい、テーマ型ファンドが設定された時点で、そのテーマの旬は過ぎている)、何よりも信託報酬手数料をはじめとするコストが高い。

金融機関は、こういう高コストなファンドをどんどん投資家に売ることで、手数料稼ぎを狙っている。投資家が損をしたって、知ったこっちゃない。

もちろん、かたち上は「投資家が儲かってくれれば、そのお金を次の投資にまわしてもらえるので金融機関もハッピーです」ということにはなっている。しかし、現実問題としては、金融機関の営業マンは日々のノルマを抱えているわけで、そんな長期の見通しなんかよりも、「今」どれだけ契約を、手数料を取ってこられるかのほうが大事になる。

そういうのに異を唱えているのが、泣く子も黙る金融庁だ。言うまでもなく金融機関の監督官庁で、ここのご機嫌を損ねてしまうと、金融機関は商売すらままならなくなってしまう。 そんな「お上」が、「顧客本位」を強力に訴えかけている状況が、ここ最近のできごとだ。個人投資家からすると、とても刺激的な状況になっていて、おもしろくて目が離せない。

2018年1月からスタートする「つみたてNISA」は、まさにこの「フィデューシャリー・デューティー」の賜物で、金融庁がお墨付きを与えた、「低コストで、長期に安定して収益が見込める投資信託等」に限って20年の非課税制度となる仕組みだ。

つみたてNISA制度で購入できるインデックスファンドの場合、金融機関は販売手数料を取ってはダメだし、毎年の信託報酬手数料は0.5%以下、という条件が課せられている。他にもいろいろ条件があるのだが、端的に言うと「金融機関がほとんど儲からない」ものばかりが選ばれている。

ファンドが将来的に儲かるかどうかは、経済状況や天変地異などによって変わってくる。神のみぞ知る世界だ。しかし、ファンドの手数料は毎年必ずかかってくるものなので、これは投資家にとって確実な出費となる。だから、手数料が安いファンドほど、一般的には利益が出やすい。

しかし、そういうファンドはこれまで金融機関は積極的に売ってこなかった。だって、金融機関にとって儲からないんだから。

で、つみたてNISAが来年登場するにあたって、ここ数ヶ月で金融機関はドタバタしているわけだ。金融庁が始める新制度なので、儲からないけれど参加しないわけにはいかない。「しぶしぶ」というのが金融機関の偽らざる気持ちだろうが、システム改修をして準備の真っ最中だろう。

制度上、手数料収益が少ないファンドしか扱えない上にシステム投資が必要だし、年間40万円が非課税上限なので金額が少ない。そして最長20年、そのお金が寝かされる。金融機関としては、「金融庁クソッタレ」と思っているだろうが、個人投資家側からすると、拍手喝采だ。

そんなわけで、「霞が関の官僚」で我々庶民には無関係、と思われていた金融庁が、今は個人投資家、特に投資ブロガーや経済評論家から熱視線を集めている。そんな空気感をよくわかっている金融庁は、ブロガーを集めて直接説明会や対話会を今年に入ってから何度も開催している。ブロガーに情報を渡して、そこからどんどん広めていってほしい、ということだろう。

先日「つみたてNISAフェスティバル」という、なんとも楽しげな名前のイベントを開催した金融庁は、今度は「つみたてNISA Meetup」というイベントを開催した。これもまた、金融庁のつみたてNISA制度を実際に計画し、推進している部署と直接の対話会だ。名前からして、砕けた雰囲気を出そうという金融庁の意欲がうかがえる。「公聴会」とか「説明会」といった漢字は敢えて使われていない。

40名限定のこのイベントに僕ごときが参加するのは申し訳ないな、とは思ったけど、せっかくの機会なので参加させてもらった。

この話を兄貴に教えたら、兄貴は「何か景品でももらえるのか?金融庁オススメの投資先とか教えてくれるのか?」と聞いてきた。「何をバカな事を言ってるんだ?今の金融行政の最先端中の最先端を実際に見聞きできるんだぞ?」と答えたが、興味がない人にとってはこの程度の認識なのだろう。

今回は、来年1月から金融庁が先行導入する「職場つみたてNISA」の制度説明と、それに対する質疑応答が行われた。 会社によりけりだけど、職域における資産形成手段としては、「財形(一般、住宅、年金)」「持株会」「確定拠出年金」「共済」といったものが既にある。そこに「つみたてNISA」の制度をメニューとして加えるというものだ。はっきりいって、全然ピンとこない。参加者の多くも、「?」という感じだったと思う。

実際、既に現行NISA制度を使った「職場積立NISA」(この場合、積立は漢字で書く)を導入している企業は6,000社を越える。しかし、1社平均月額3万円程度しかNISAへの資産流入がなく、ほとんど使われていない制度になっている。 給与天引きならばまだこの制度の意味があるけれど、事務処理の繁忙を嫌って「NISAの金融機関を紹介しますよ、契約は自分でやってね、毎月のお金はアナタが指定した金融機関から自動引き落としですよ」というやり方をとっている会社が多い。これじゃ、なんのために職場でNISAをやるのか、さっぱりわからない。

説明によると、企業に負担をかけない形で導入できるNISA制度で、社員は「会社がお墨付きを与えている財産形成の仕組みならば」と利用しやすい・・・んだそうだけど、うーん、全然よくわからない。

僕の勤め先の会社も、職場積立NISAは存在する。しかし、多分使っている人は殆どいない。存在すら知らない人も多いはずだ。他の資産形成手段に対しては奨励金が出たり、会社でないと利用できない制度なのに対して、「NISA」は別に会社に頼らなくてもいいし、会社から奨励金も何も出ないからだ。会社によっては奨励金を出しているところもあるそうだが、それはレアケースだと思う。

今回のミーティングに参加するような人は、全員がNISA口座を既に開設しているはずだ。なので、今更「職場経由で新たにNISAを」という制度を聞いても、少なくとも「我が事」ではない。NISA口座を別金融機関に移すというのは、かなり面倒だし制約があるからだ。

投資経験がない(主に若い)人に対して、投資機会を与えるという点で職場つみたてNISAは悪くない制度だと思う。つみたてNISAという新制度自体が、「地雷」と呼べる高コストな投資先がほとんど除去されているからだ。 ただし、会社側としては積極的に職場つみたてNISAを社内広報するメリットはあまりないし、やるとしてもせいぜい「金融機関へのリンクを貼っておくので、ここから自分で勝手に調べて申し込め」ということしかやらない。普及させる気があまりないであろう、というのが実情だ。

職域における資産形成のための手段、というのがたくさんあってゴチャゴチャしている。なので、ちゃんと体系化し、メニュー化し、それぞれのメリットデメリットをちゃんと伝えるワンペーパーがあったほうがいい。

しかし、企業によってそのメニューはまちまちで、金融庁がひな形を作るのは難しいだろう。そして、企業任せにした場合、企業が中立公正な立場でワンペーパーを作れるか?というとそれは難しいと思う。というのも、取引先金融機関などの顔色を伺ってしまい、ズバリとメリットデメリットを書けないだろうから。

うーん、と始終首を捻っていたミーティングだったけど、こういう「これから始める予定です。どうなるのかは今後の展開次第」というレベルのものを、国の施策で、実際目の当たりにすることができたというのはすごく有意義だったし刺激的なひとときだった。 また機会があれば、末席に加えさせてほしい。

なおこの日は、「ハロウィンが近いので、仮装での参加歓迎」ということになっていた。自宅のクローゼットを覗いてみると、陸上自衛隊の迷彩服しかなかった。さすがに迷彩服を着て霞が関をうろつくのはまずいので、断念した。

(2017.10.20)

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