「かっさ」初体験

月に数日、一日15時間ほど働くような日ができた2023年度の僕。時間外労働手当が多く支給されるようになって収入は増えたが、それに比例するようにマッサージや健康器具への出費が増えた。または、メシ代が高くつくようになってきた。

要するに、肉体と精神の負担を解消させるために金使いが荒くなった、ということだ。

僕は昔っからマッサージが好きだが、何も自分へのご褒美のために行くわけではない。身体がしんどいから行くのだ。なので、マッサージを受けるたびに常に「お金を溶かしているなぁ」と感じる。それはマッサージを受けている最中は気持ちがよくても、店を出たときには身体のしんどさがぶり返すからだ。

お金がいくらあっても、根本的な解決に全く近づいていないという実感がある。そもそも、「根本的な解決」が、「マイナスのものをプラマイゼロに持っていく」ということであり、メリット感を感じにくいものだ。

そんなわけで、今年に入って首や肩がかなり凝って困り果てた際、「駅前雑居ビルの上に入居している、安さが売りのマッサージ店」ではないお店に行こうと決心した。単に凝っている筋肉をモミモミするのではなく、もう少し効果が持続するような技術体系を持っている人に体を預けたかったからだ。

僕が行ったのは、「グアサー」とよばれる中国医学をベースにした技術体系を駆使する施術師さんのお店だ。グアサーというと聞き馴染みのない名前だが、和名の「かっさ」と聞くと、なんとなく知っている存在だ。でも、実際に体験したことはない。

かっさとは、石や動物の骨でできたすべすべしたプレートで、皮膚の表面をこする技法らしい。もっぱら顎回りに使い、たるんだ顔を引き締める効果があるとかないとか。

お顔のリフトアップは、僕に時間とお金が潤沢にあるならばお願いしたいことだが、現状は優先順位が低い。それでも僕がこのかっさの施術をお願いしたのは、YouTubeの動画で背中から首まで、かっさで擦って皮膚が真っ赤になっているものを見たからだ。そして、施術を受けている人は、「いたいいたい!」と言っている。

ぱっと見ずいぶんヤバそうだが、これくらいバキバキに体に刺激を入れるのって試してみたい!と僕は思った。テレワーク三昧の日々で、体が完全になまってしまったからだ。

オイルを塗って、まずは首筋からかっさプレートによる施術を開始。「えっ、もう始まっているんですか?」と驚くくらい、さりげなく始まる。

潤滑のためのオイルを使用しながらかっさプレートが上下に動く。圧はそこまで強くはない。だけど、まるで包丁を研いでいるかのような、「ジャッ、ジャッ」という音がするのが不思議だ。

僕にとっては、動画で見たように痛くて声が出てしまうことはなかった。でも、そうはいっても若干痛い。

「ああ、結構出てきましたね」と先生から言われて、「えっ、そうなんですか?」と驚いた。そして、写真に撮った自分の首筋を見てもっと驚いた。ああ、これだこれだ、これを見たくて遠路はるばる、この先生のところまでやってきたんだ。

毒々しいが、見た目と違って全然痛くはない。そしてヒリヒリもしない。先生曰く、特にスキンケアをする必要もないのだそうだ。

「体の悪い部分が赤くなるんですか?」

と聞くと、そうではなく、何度か通って健康になってきた人でも赤くなるのだそうだ。ただしどす黒い色がもっと明るい色になるという。

他の来院者さんの首肩真っ赤写真をいくつか見せてもらったが、人によって赤くなり方が全く違うからびっくりする。誰一人同じものがない。

首の反対側も。左の首と、右の首とでは赤みが出る場所が違うし、色も違う。

かっさで施術を受けている間、指圧のような「ああー、そこそこ!気持ちいいなあ」という感覚はない。なので、単に快楽を求めるならば違うお店に頼ったほうがいい。

背中もかっさプレートでこすってもらう。

面白いもので、左右非対称だ。

日本かっさ協会のwebページに、かっさの解説が書いてあった。

「刮(かつ)」はけずるという意味で、「痧(さ)」は動けなくなって滞っている血液のことをさします。


専用のかっさプレートを使って皮膚の経絡や反射区を擦って刺激することで、毛細血管に圧を加えて血液の毒を肌表面に押し出し、経絡の流れを良くするというもの。

「かっさ」を知る 日本かっさ協会


一方で、西洋医学の見地だと、この「かっさ」という行為は「肌を圧迫して皮膚近辺の毛細血管を内出血させているだけ」ということになるのだろう。身も蓋もないけれど。

いずれにせよ、僕にとって効果が出るならば東洋医学でも西洋医学でも構わない。でも不思議なのが、内出血現象がこの僕の背中のドス黒さなら、なぜ左右対象にならないのだろう?ということだ。版画を擦る時のように、骨で出っ張った部分が内出血し、骨がない部分は内出血しないというなら話がわかりやすいのだが、そうなっていない。

この不思議さが、東洋医学の奥深さなのだろう。「血液の毒を肌表面に押し出した」結果がこのどす黒い肌というわけだが、じゃあ毒はどういうところに溜まりやすいのかとか、興味はあれこれ尽きない。

いずれにせよ、自分の体をスキャンされ、可視化された感じでとても充実感がある。施術を受けてさっぱりしたし、首まわりなんてギシギシしていたのが嘘のようになめらかに動くようになった。でもそういう効果もさることながら、自分の首や背中をしげしげ眺めて、「うわあ・・・」と絶句することの方が満足感が高い。

先ほどの写真から1時間半経過した写真。かっさ施術を行った直後はボコボコと皮膚が出っ張っていたが、この短時間でややそれが落ち着いてきた。

いったんこの赤黒い皮膚状態になったら、もとに戻るまで3日~5日かかるそうだ。そしてこの状態があるときは体の可動域が広がっているので、どんどんストレッチなどを生活に取り入れてほしい、と言われた。

なので、プールとか入浴施設とかにこのあと行く予定がある人は、施術を受けないほうがいい。

下半身はかっさプレートをやらなかったので、腰から上をだーっと施術された中で一番痛かったのが腕だった。これは予想外。

腕は首肩に影響を与える場所だということで、結構念入りにこすられた。

施術直後は赤黒くならなかったのだけど、数時間経つと尺骨あたりが赤黒い斑点が出てきた。へえー。

右手も左手も、両方とも。首肩のように赤黒いのが広い範囲で出てくるのではなく、斑点で出てくるというのが人体の不思議。

これが内出血だろうが体の毒素だろうが、どっちにせよこういう現象が自分の体に起きること自体が興味深くて、ついつい鏡で観察してしまう。

施術から1日が経過したところ。

まだ赤黒さは残っているが、やや色が淡くなった。

このかっさを受けることを事前に家族には伝えていなかったのだけど、肌の状態を見てかなり驚かれた。2歳の子どもでさえ、「赤いねえ」と驚きのコメントを残したくらいだ。

実際の効果も、視覚的なインパクトも、お店を出てから数日持続する。施術料はそれなりに高いものの、満足感が持続するのでとてもありがたいお店だった。また次も訪れたいのだが、駅前雑居ビルマッサージ店と比べてお値段が一桁違うため、タイミングを見計らう必要がある。

(2024.01.25)

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