どこかにビューーン!で行きたいと思ったことがない場所にふっ飛ぶ

JR東日本が銀行業務に参入した、というニュースが驚きをもって受け入れられたのが2024年春のこと。その名も「JRE BANK」という名前で開業した。

世の中は、いかに自社サービスに顧客を閉じ込めるか、という「経済圏」という概念が盛んだ。楽天経済圏が大成功した結果、一昔前の「業界またぎ・会社またぎ会員情報共有」のビジネスモデルは後退してしまった。

JR東日本もまた経済圏を目論んでいる一社で、Suica、VIEWカードを起点に、JR東日本が経営するホテルやレンタカー、ルミネやアトレといったお店を融合させようとしている。

JRE BANKはこれまでのJREポイントといった「会員情報とポイントで緩やかな経済圏を作る」というところから、いよいよ「会員の現金を預かる」というフェーズに入った。キャッシュイズキング。金が自分のところに集まってくれば、それを使っていろいろな投資や運用ができる。JR東にとっては悲願のサービスインだろう。

とはいえ、完全に自前で銀行業務を始めるのは無理がある。免許を金融庁から取得するだけでも大変だし、システム開発をするとなると一体どれほどのお金がかかることか。なので、JRE BANKは楽天銀行のシステムを丸ごと使っている。看板だけつけかえて、「JRE BANK」を名乗っているだけだ。

UIは楽天銀行とちょっと違うが、金利をはじめする銀行サービスは全く一緒だ。そもそも、振込をする際の支店名は「楽天銀行JREはやぶさ支店」などと、はっきりと「楽天銀行」という名前が表示される。

そんなJRE BANKにお金を預けると、いろいろな特典がある。

「客寄せパンダで一過性なんだろうなあ、ここまで大盤振る舞いを続けられるのも、果たして何年持つかどうか」

と特典一覧を見て思う。最近の金融機関やクレジットカード会社は本当に信用ならなくて、すぐに掌返しでサービスを改悪する。未来永劫このサービスが続きますよ、と思わせておいて手のひらクルー、というのが多いので、いっぺん消費者庁にスゲー怒られて欲しい、と思っているくらいだ。

でも、哀しいかな、「一過性の特典」であるかもしれないとわかっていても、目の前にオトクなサービスが提示されればそれに飛びついてしまう。JRE BANKもそう。特典欲しさに、家中のタンスの中や貯金箱をひっくり返し、お金をかき集めて貯金をした。

JRE BANKの特典の一つとして、「どこかにビューーン!2000ポイント割引」というものがある。

僕はJRE BANK発足のニュースを聞くまで、このサービスを知らなかったのだが、以前から存在するサービスらしい。

.https://dokokani-eki-net.com/

これはJR東日本版のミステリーツアー。

ミステリーツアーといえば、「当日空港等の集合場所に着いたところで、初めて行き先が明かされる」という企画旅行だ。要するに空席がある乗り物の有効活用策なのだが、「行き先はどこでもいい」と考える利用客がいて、そんな客に運送会社は安くチケットを売れるので双方がwin-winの仕組みとして成立している。

一般的なミステリーツアーが、「はい、ここに決まりましたー」と一方的に行き先が告げられるのに対し、「どこかにビューーン!」はあらかじめ新幹線の行き先候補が4つ提示される。

JR東日本管轄の新幹線なので、東北(新青森まで)、秋田、山形、上越、北陸(上越妙高まで)新幹線のどこかの駅が候補として表示される。

このサービスの面白いのは、提示された4つの駅に納得が行かなければ、リロードして再度4つの駅を表示しなおすことができることだ。そして、「これで良い」と思ったら決済を確定し、あとは結果が出るのを待つ。数日以内に行き先の連絡が来て、4択のうちどれか1つが選ばれる、という仕組みだ。

完全にどこに飛ばされるかわからない行き先ガチャではなく、4択が提示されるガチャという点では良心的なのか、それともJR東日本の思う壺なのか、よくわからない。

たとえば、4択で「那須塩原、安中榛名、上毛高原、新白河」なんて候補が出てきたら、「近場すぎる!やり直しだやり直し!」とリロードボタンを押せばいい。なにせこの「どこかにビューーン!」は無料旅行券なのではない。いくら特典で2,000ポイント割引とはいえ、4,000JREポイントを消費する。好き勝手にビューーンする行き先を決めてもらっては困る。

で、ひたすら何回も何回もリロードをしまくることになる。

「4つの選択肢のうち、3つまでは比較的いい駅が出たんだけど、残り1つが微妙」

なんていうのはザラだ。さてここで「4つとも、どれが当たっても嬉しい状態になるまでリロードしつづける」のが正解なのか、それとも適当なところで折り合いをつけるのか、見極めが難しい。

ちなみに途中下車は可能だ。なので、たとえば「新青森」を引き当てたら、究極的には東北新幹線のどの駅でも下りてしまうことができる。盛岡でも仙台でもいい。ただし往復ともに指定席なので、帰りの便も時間はしっかり決められている。

たとえば「軽井沢」を引き当てた場合、「うーん、軽井沢だったら1泊2日でいいかなあ」と思う。一方、「秋田」を引き当てたら、「せっかく時間をかけて秋田まで行くんだから、奮発して2泊3日にしようか?」という気になる。しかし、どの駅が当たるかわかる前から、往路と復路の日、しかも乗車する大まかな時間帯まで確定させなければならない。秋田に行く気まんまんで、「白石蔵王」が当たってしまったらどうしよう、とか悩みは尽きない。

行き先が決まらないので、当然宿も決められない。

あの温泉に行ってみたい、とかいくら夫婦で事前に夢を語り合ったところで、どういう結果になるのかさっぱりわからない。なので、「どこに行きたい?」という議論をしても、あんまり議論が深まらないのだった。出たとこ勝負で、行き先が決まってからあれこれガチャガチャと決めていくしかない。

ちなみにどこかにビューーン!の申込みができるのは、出発予定日の21日前からだ。行き先が決まったら、慌ただしく宿の手配や場合によってはレンタカーの手配をしなければならない。

JR東日本で新幹線が走っているエリアは、どこもたいてい冬は寒い。なので、本当は今から旅行のプラン、しかも僕らが行き先を決められない旅行というのはあんまり嬉しくない。しかし、特典には有効期限があるので、どんどん使っていかないと期限切れになってしまう。他にも「JR東日本の運賃4割引クーポン」とか「グリーン席券クーポン」とかいろいろあるし。

雪が本格的に降る前に一回使わなくちゃ、ということで、無理やり12月に休みをとって「どこかにビューーン!」してくることに決めた。

で、夫婦で相談しながら行き先ガチャを回し続け、「これならまあいいだろう」と決心したのが上の画面のとおり。

大曲(秋田)、長岡(新潟)、村山(山形)、八戸(青森)。

12月だと、どこも寒そうだ。

どの駅も、「ここで下りてからなにをしようか?」というのがとっさに思いつかない。特に12月ならなおさらだ。でも、途中下車しても良いので、そう思えばいろいろやりようはありそうだ。

我が家としては、3歳になる弊息子タケが「こまちに乗りたい」と言っているので、赤い新幹線・こまちが運行されている秋田新幹線大曲駅に行ければ嬉しい。途中下車して、乳頭温泉に行けるとなおよしだ。

あとは・・・どうしよう。村山の場合は山形で下りて、蔵王温泉に行くか?

1日もしないうちに、結果が出た。

行き先は、「八戸駅」だそうだ。そうきたかー。

嬉しい!という気持ちも、残念!という気持ちもない。「そうかー」という淡々とした感情だ。だって、ここから旅程を一から組み立てていくんだから。これが楽しい旅になるのか、そうならないのかさえ予想がつかない。

「八戸駅」が選ばれた結果、僕らには「盛岡で下車して、冷麺を食べる」とか「仙台で下車して牛タンを食べる」といった様々な選択肢が生まれてしまった。選択肢があることは良いことだが、考えることがいっぱいありすぎてむしろ面倒くさい。

もうこの際だから、これまでの人生で一度もぶらり旅をしたことがない「八戸」そのものにスポットを当て、八戸で一泊二日を過ごしてみようかと考えている。仮になにもなくて退屈だったとしても、それはそれで面白い。逆に、「一泊過ごす!」と腹をくくったことにより、地元の面白いものをいっぱい見つけれるのかもしれない。

ということで今回は「八戸の旅」が決まったわけだが、こんな調子で今後も「どこかにビューーン!割引優待券」がどんどん送られてくることになる。数えてみたら、この先1年の間に、最大9枚の優待券を持っている時期があることもわかった。

こんな「行き先がどこになるかわからない」優待券をじゃんじゃん使うほど僕らに精神的・時間的・そして金銭的な余裕があるわけじゃない。たぶん途中で飽きて、「もう優待はいらないよ」とJRE BANKの口座貯蓄額を減らすんじゃないかと今から予想している。

(2024.11.10)

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