物欲という精神のバグ。富士フイルムからソニーへ電撃引越しした話(その3)

深夜のリビングで、AIから「新品を買って3年保証をつけろ」と詰められた僕は、困惑していた。

富士フイルムの新鋭機を諦め、ソニーのα7Ciiに「宗門改め」をするにしても、本体とフルサイズ用のレンズを一発いいのに買い替えるとなると、初期投資の額は優に40万円を超えてくる。
いくら生後4ヶ月の我が子の美肌をバキバキの解像度で残したいからといってテレワークの合間に息子の送迎しかしていないような会社員が、そう簡単にぽんと出せる金額ではない。

どうにかして、この経済的な致命傷を和らげる方法はないものか。
悶々としながら、僕はキタムラやマップカメラといった、中古カメラを取り扱っているお店のサイトを徘徊し始めた。

これまでの僕にとって、中古のカメラ屋という存在は、いわゆる「一部のディープなマニアが通う、敷居の高い空間」という認識だった。
カメラは壊れるまで使い倒すのが常だった僕にとって、中古でカメラを売買するだなんて、はなから選択肢に入っていなかったのだ。
ところが、ここで僕はカメラのマーケットが、僕のまったく知らなかった「リセールバリューの論理」で回っているという事実に直面し、大いに驚くことになる。

そのきっかけが、マップカメラが提唱する「ワンプライス買取」という概念を知ったことだった。

指定された対象機種であれば、外観の傷や多少の塗装剥がれ、レンズ内の微細なホコリ程度であれば、一律で「あらかじめ提示された上限価格」のまま買い取ってくれるという、極めてドライで合理的な仕組みだ。

もちろん、査定が甘いぶんだけ、メルカリで手間暇かけて売却したり、他社の最高値買取と比べれば、手元に残る金額は多少安くなるという。

しかし、僕の場合はそんなことは全然構わなかった。
なにせ、いま僕の手元にあるX-T20やレンズは、長年の使用であちこちがボロボロになっている、ずいぶくたびれたシステムだ。

そんなお疲れ気味の機材であっても、最初から「この金額で引き取ります」と明示してくれるなら、何物にも代えがたかった。
買取価格があらかじめ確定しているからこそ、次に買うカメラの予算が逆算できる。
出たとこ勝負の不確定要素が少しは排除されそうだ、とわかったので、僕の脳内では高速で「じゃあ、どうする?売るか?」ということを考え始めた。

実際、手持ちのX-T20とレンズ2本をマップカメラのワンプライス価格で売った場合いくらになるのかを試算してみたところ、11万6600円くらいになる、ということがわかった。

12万円弱!? まじかよ。
もしそれが本当なら、あの高いフルサイズカメラを買うにしても、持ち出しの額はずいぶん安くなる。

さらに調べていくと、マップカメラは下取りで次のカメラを買うなら、10%割増で買い取るという。
さらにさらに、以前マップカメラでカメラを買った事がある人は、買取価格3%UPのシールが貰えるという。このシールをメルカリなどで手に入れることができれば、合わせて13%の上乗せだ。これはデカい。

これだけでも頭のなかの電卓が喜びの音を立てているというのに、追い打ちをかけるような情報が別にあった。
時期的に、ちょうどソニーが新しくカメラ本体やレンズを買った人に向けて、キャッシュバックキャンペーンを展開していたのだ。
もしα7Ciiとレンズをセットで買えば、合計3万円のキャッシュバックがあるという。

しかも、そのキャンペーンの締め切り期限はもう目前に迫っていた。
やるなら今しかない。一瞬の余裕もない、という状態だった。

こういう「お得な話」を立て続けに聞いてしまうと、人間の判断というのは実によく歪む。
浮き足立つ、という精神面もさることながら、損得の基準がどんどんややこしくなってくるからだ。
メーカーやお店側も、わざとこういう複雑な条件を重ねることで、こちらの頭をボンヤリとさせ、決断の引き金を引かせることを目的としている節は絶対にあると思う。

さらに、個人的な事情を言うと、弊息子タケの運動会が来週に迫っていた。
年長組さんのタケにとって、これは保育園最後の運動会となる。親も子も、それなりに感慨深いイベントだ。
だからこそ、この晴れ舞台を少しでも良いカメラで撮影したいものだ、という強い思いがあった。

この家庭内のデッドラインが呼び水となり、「早く決断しよう」、つまるところ「えーい、買っちゃえ買っちゃえ」という思考に向かっていった。

キャッシュバックの期限が目の前に迫り、来週には最後の運動会がやってくる。
もはや、悩んでいる時間など一分一秒たりとも残されてはいなかった。

まずは、早く3%割増シールを入手しなくちゃ。

(つづく)

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