物欲という精神のバグ。富士フイルムからソニーへ電撃引越しした話(その6)

時間になったので、あまり気乗りせずにマップカメラの買取フロアに戻る。査定結果を聞くためだ。

査定価格が付かないととても残念な気持ちになる。 しかし、「次のカメラを買うための原資はゼロだ、だったら今あるカメラを使い倒すしかない」という諦めがつく・・・のかもしれない。 それとも諦めがつかず、家計に大ダメージを与えつつ新しいカメラを買うことを模索するのかもしれない。どちらにせよ、あまりハッピーな未来ではない。

一方で査定価格が下手に付いちゃうと、それはそれでちょっと困る。 「新しいカメラを買う」可能性が見えてしまうからだ。たいした軍資金にならないというのに。

査定を依頼したとき、「下取り」ではなく「売却」ということでお店には伝えてある。 カメラ本体とズームレンズが共倒れし、撤退基準の10万円を超える見通しが立たなくなったからだ。
もし残ったレンズにいくばくかの値がついたとしても、それは「単焦点レンズはもう手放して、ズームレンズ一本でこじんまりやっていこう」というカメラ趣味の規模縮小を想定していた。 だから、次の機種を買うことを前提とした「下取り(買取価格10%上乗せ)」ではなく「売却」でお願いしていたわけだ。

お店のカウンターに行くと、待ち時間なくすぐに呼び出しを受けた。
ちょ、ちょっと待って。まだ心の準備が。

スタッフの方は、事務的にこう言った。

「ワンプライス買取の対象となりますので、お値段は23,600円になります」

あー。

その話を聞いて、むしろ僕は困惑した。
カメラ本体、ズームレンズと門前払いを受けていたので、残された単焦点レンズもひどい結果になると思っていたのに、まさかの満額回答が返ってきたからだ。

嬉しい、というより、困った、という気持ちの方が強かった。どうしよう。

その場で即答しなければならない。
このまま買取にするのか、それとも下取りに変更して買取価格アップを狙うのか。
でも、下取りにするということは、次のカメラを買うという一大決心とセットだ。

こういうとき、「えーと、えーと」と窓口で逡巡するのを僕の美学では許さない。
初めての飲食店に入るときは、店の周りをすくなくとも2周は回って、お店が食券制なのか前払いなのか後払いなのか、メニューはどこにあるのかを完全に調べてからでないと入店できない性分なのと一緒だ。 迷ったフリはしたくない。即答しなくちゃ。

「じゃあ、すいません、買取じゃなくて下取りに変更してください」

ああ、言っちゃった。言っちゃったよおい。 それって新しくカメラを買うってことじゃん。

「下取り、ということでしたら10%上乗せになります」
「3%の買取優待券、あります」

ああ、ずるずると話が進んでいくよ。

「そうなりますと、お値段が変わりまして26,668円となります。これでよろしいでしょうか?」
「はい、これでお願いします」

本当はよろしくないんだけどね。 妻のいしにどう説明しようかなあ、「新しいカメラ、買ってもいいよ」とは言われているんだけど、まさか下取りがこの結果で、瞬間的なキャッシュアウトがこんなにデカくなるとは夢にも思っていないだろう。

「次の機種は今日お買上げですか?どちらのメーカーですか?」
「ソニーです」
「では2階ですね」

そう言って、スタッフの方は買取の紙に「2F」と書き込んで、僕に渡してくれた。 この紙を持って2階のソニー製品売り場に行けば、買い物の際に26,668円分をそのまま割り引いてくれるという。

2F、という無機質な文字を見ながら、「ああ、もう後には引けなくなったな」という気持ちをより一層強くした。
後悔は今更しておらず、気持ちはすでに新しいカメラを買う方向に切り替わりつつある。
でも、「引き返せないところに来ちゃった」という途方に暮れる感はある。

2階に降りていって、今から買おうとしているα7Ciiのデモ機を触る。
触ったところで、もう僕にはこれしかないんだ、ということで他に選択肢はなさそうだった。

先ほどのステーキ屋で、念のためもう一度AIに「富士フイルム製品という選択肢はないのか?」と聞いてみたが、やっぱり「良いレンズを買うなら、他社製品を買うのと値段に大差はない。しかも、あなたがやりたい屋内での子どもの撮影と登山での利用、どちらも不利だからお勧めできません」とバッサリ言われている。
8年前の富士フイルムの機種を使っているなら、今のソニーのピント合わせのすごさにきっと驚くはずだ、さらにフルサイズセンサーで、なおかつレンズも本体も防塵防滴なのだから、α7Cii一択だ、と。

じゃあしょうがない、ということで意を決してカウンターの店員さんに商品の注文をした。 すると意外なことに、店員さんは「当社のオンラインショップで買ったほうがお得ですよ」と言う。 えっ、どういうこと?

店頭の対面販売で、「ここで買うのではなく、オンラインショップで買え」と促された経験なんて過去に一度もないので普通にびっくりする。意味がわからない。 その場で客が商品を持ち帰ったほうが、梱包や発送にまつわるお店の手間や負担が軽かろうに。

その場で説明を受けたのだが唐突すぎて、向こうが何を言っているのか最初のうちは理解できなかった。 しかし、オンラインショップで買ったほうが得なら、そうするに越したことはない。店員さんは、

「この下取りの分をポイントとしてアカウントにつけておきますので、オンラインショップで買っていただく際に使っていただければその分お値引きします」

という。 えっ、「下取り」前提で買取価格が13%上乗せになるだけでなく、そのままショップポイントに交換してネットで使えるのか。それは知らなかった。 (これは公式サイトにちゃんとわかりやすく書いてある。単に僕の理解力が追いついていなかっただけだ)

なんだ、「下取り」だったら今日この場で買い取ってもらって、今日中に次の機種の現物をレジに通さないとだめなのかと思っていた。 即答を求められないなら、その分いくらか気楽だ。 ・・・いやいや、だめだだめだ、今日中にカメラの決済を完了させないと、ソニーのキャッシュバックキャンペーンが受けられないんだった。

店員さんに「オンラインで買っても、今日の日付で領収書かレシートって発行されます?今日が期限のキャッシュバックキャンペーンがあるので」と食い気味に聞いたら、今日中の発注であれば今日付けでレシートが出ます、と言われた。それでひとまず安心した。

いったんこれで時間稼ぎができる!良かった!

と一瞬思ったが、実際はそんな甘い話ではない。 よく、オンラインショップの注意書きで、「当日15時までの注文なら当日発送」などという記載を見かける。価格ドットコムに掲載されているようなお店でよく見かけるやつだ。
つまり、運送会社に引き渡す時間で一旦受注を締めている可能性があって、15時以降の注文はシステム上「翌日扱い」のスタンプを押されるおそれがある。

そうなると、数万円のキャッシュバックという名の軍資金が泡となって消えてしまう。 マップカメラがそういう仕様なのかどうかはわからないが、今日の23時59分まで時間の猶予が残されているわけではなさそうだ。

僕は一刻の猶予もないと判断し、いったんお店を引き払い、近くの喫茶店に飛び込んでとっととオンライン発注をかけることにした。

先ほど店員さんが言っていた「オンラインの方がお得」という仕組みの正体は、「新品延長保証」だった。

https://www.mapcamera.com/html/anshin/extendedwarranty.html

本来のメーカー保証1年に対し、オンラインショップ経由で商品を買うと、メーカー保証相当の保証が1年自動で追加され、トータル2年の保証になりますよ、というものだった。

ほほう、良いではないか、と思うが、あくまでもその保証の対象は「自然故障」のみだった。 なので、僕のように腹をくくって5%の掛け金を追加で払い、「MAPあんしんサービス」に加入する人間にとってはまったく関係がないことだった。なにしろ、「MAPあんしんサービス」なら、自然故障だけでなく、うっかりの破損、全損も保証の範囲内だからだ。

とはいえ、一呼吸おいて、改めて静かな環境でオンライン発注ができたのは結果的に良かった。こういう物損保証にちゃんとチェックが入っているかどうか、PCの画面を指さし確認しながら、発注画面の最終確認ができたから。

そして、今日すぐに現物が手に入らなくて良かった、とも思った。なにしろ、これから売れ残ってしまった満身創痍のX-T20と、シリアルシールの剥がれたXF18-55mmをメルカリに出品するという、面倒極まりない手間が控えているからだ。

メルカリに商品を出品する経験自体があまりないし、今回はだいぶくたびれた商品を売りに出すわけで、どうすりゃいいんだ、一体。このカメラ売却のドタバタが終わった後に、新しいカメラが届いてくれればちょうどいいや。

(つづく)

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