Zoom飲み会を開く

同級生の「きた」が昨年死去していた、ということを聞いたのは最近のことだった。アワレみ隊の隊員ではなかったが、昔は時々会って酒を酌み交わしたものだ。この「アワレみ隊OnTheWeb」にも、登場したことがある。

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最近はすっかり疎遠になっていたので近況を知らなかったのだが、約1年遅れとはいえその事実を知り、残念に思う。

そこで、往時のきたを知る同級生たちで、彼を振り返る会を開くことにした。昔、一緒に酒を飲んでいた赤羽で。

・・・だけど、新型コロナウイルスの流行によって、赤羽で宴会なんて言ってる場合じゃなくなった。自分の身を守るためでもあるけれど、こんなご時世に飲み会をやりました、それで罹患しました、となったら同情の余地がない。

こりゃあ中止だね、という話を仲間内でしていたのだけど、そういえば最近はZoomがあるんだった。Zoomを使った飲み会をやってみよう、ということを思いついた。

ちょうど最近、公私ともにZoomを使うようになってきている。実験的に我が家に設置しているタブレットを「窓」と称してずっとZoomに繋ぎっぱなしにしてあるくらいだ。家を不在にしているときの「見守りカメラ」として利用しているからだ。

お互いが家を留守にしている間に、家の様子を見ることができるし、もちろん会話だってできる。テレビ会議と決定的に違うのは、テレビ会議は「相手を呼び出す」「相手が応答する」というお互いの了解があって初めて通信・通話ができるけれど、Zoomのミーティングは設定次第で、「いつでも相手側の映像を見る」ことができる(一歩間違えるとセキュリティ上まずいので、パスワードをかけるなど対策が必要)。

「窓」と僕が呼んでいるのはそういう「呼び出しと応答」を省略した常時接続状態が実現できているからだ。今後、夫婦のうちどちらかがそれなりの期間家を不在にすることが予想されるため、その際に本格運用したいと思っている。そう、まるで「窓」がそこにあるように。

相手側も繋がっていれば、「おーい」と声をかければ「なにー?」と呼応できる。そして、会話がない時は、画面を無視して本を読んでいたりテレビを見ていたっていい。

テレビ電話だと、「今日何やってたの?」と無理やりでも話題を作らないといけない。なにせ1対1の通話だから。目線を逸らさずに、じっとカメラを見続けるのが望ましい。しかし、「窓」として繋ぎっぱなしにしてある状態だと、そんなかしこまった態度をとらずに、実に雑な対応でいい。むしろその方が気軽だ。

なんなら、家を留守にしていて「窓」には無人の家が映り続けている、それだけでもいい。「ああ、不在にしているんだな」ということを雄弁に物語っていて、十分に意味があるからだ。

この手の動画コミュニケーションツールはSkypeやLINEの動画チャットをはじめ多種多様に存在する。しかし、「電話的な、呼び出しと応答」が必要なものばかりであり、悪い言い方をすると「勝手に相手の家のカメラを覗き見する」という使い方ができるものは少ない。僕らは常時接続環境にお互いがずっといるわけではないので、一日に何度か接続し直すことになる。そのたびに相手を呼び出すというのは面倒だ。そんな時、Zoomの特定のミーティングIDを打ち込めば、勝手に自宅が映るというこの仕組は気に入っている。ただし何度も繰り返すが、セキュリティ対策はとても大事だけれど。

あと、Skypeと比べて1/10とまではいかないけれど、通信量がかなり少なくて済むというのもZoomの特徴だ。だいたい1時間あたり300MB程度の通信量になるそうだが、これならば混雑したWi-Fiポイントでもなんとかなりそうだし、自分の回線契約の範囲内で4G通信するのも長時間でなければ良さそうだ。「ギガを食う」動画コミュニケーションサービスが多い中、Zoomの通信量の少なさはとてもありがたい。

話がずれた。

そんなわけで、きた氏追悼の飲み会を各自の家で行うことにした。当初は、東京にいる同期のメンバーだけでやる予定だったけど、そういえばZoomなんだし、どこに住んでいる人でも参加できるんだった。せっかくだから、全国に散らばるアワレみ隊のメンバーにも声をかけてみた。

「赤羽で集まれなかったのだから、かわりにZoomで飲み会をやろう」という発想は比較的簡単に出てきたんだけど、そこから「じゃあ、東京じゃない人だって呼べるじゃないか」と思いつくまで、しばらくのタイムラグがあった。まだ頭では、「遠い人と同時中継で飲み会ができる」ということの実感が乏しく、そういう常識が自分の中でなかったからだ。

「そうか、愛知でも大阪でも広島でも、参加できるじゃないか」

それに気がついたとき、時代が一歩前に進んだ気がした。家の外はコロナ禍がうごめいている世界的危機状況だけど、こういうときこそイノベーションというのは生まれるのだと思う。いや、すでにイノベーションはあるんだけれど、それが人の意識に定着し、文化として形成されていくのは何らかの外圧があってこそのことだ。

飲み会会場設営

Zoomを使った飲み会は初めての体験だ。そもそも、僕はともかく他の人達でZoomは初めて触る、という人だっている。どれほど抵抗感なくこの飲み会を受け入れて環境に馴染んでくれるか、全くの未知数だった。

困るのが、おっさんばかり集まるので間が持たなくなるということだ。

女性みたいにグイグイと話が広がっていく生き物ではない。何かのはずみで、しーんとしちゃって、場がしらける可能性がある。それは避けたい。

もちろん、途中入場・途中退場ありの飲み会だ。気楽に参加してもらえればいい。でも、「盛り上がらなくてつまらないので、早々に切り上げた」というのは残念すぎるので、ちょっと場繋ぎ的なものを用意したい。

そんなわけで、主催者おかでんとしてはあれこれ仕込んでみた。

まず、なにか躍動感があるものを目の前で見せたほうが良いだろう、ということで揚げ物を作ることにした。電気フライヤーを卓上にセットし、ここで唐揚げを揚げまくる予定。

そして、餃子のタネを仕込んでおいて、カメラの前で餃子の皮にくるんで、ホットプレートで焼く。ジューという音がマイクで拾われるだろうし、湯気だって立つ。そして食べている光景を見せると、ビジュアル的に飽きが来ないだろう。

そこまで僕なりに心配はしていた。

棚の上にタブレットを置き、それをカメラマイクスピーカー兼画像を見る端末にしてみた。しかしこれは後ほど、パソコンに置き換えられた。なぜか同時に5名までしか映らず、この日参加した6名だと1名の映像だけが次画面になっていたからだ。

あと、手元にスマホを置いて、こちらからもZoomにログインしておいて、2カメ構成でやってみたけどこれは失敗。なぜか音をミュートにすることができず、どうしても小さく音が出てしまう。それがタブレットの音と0コンマ数秒のタイムラグがあって、とても気持ち悪かったからだ。聞き取りにくいし、喋りづらい。結局、PC1台だけ、ということで落ち着いた。

Zoom飲み会

とはいえ、PCスピーカーだと音が脆弱だ。なので、Bluetoothでテレビのスピーカーに飛ばし、そっちで声を再生させた。これで随分まともになった。

最初は、みんなちょっと接続関連でゴソゴソやっていたけど、すぐに慣れてくれた。40代後半の世代だと、まだこの程度のITリテラシはある。あと15歳くらい上になると、もう「よくわからないから、俺はできん」などという人が出てくると思う。

ただ、耳と頭がこういう「同時多数の会話」に慣れていない。そしてスピーカーから聞こえてくる音を言語として判別するのにも慣れていない。声をしっかり聞き取り、それを頭の中で翻訳し、自分なりに理解する。これはこの手の飲み会を重ねていけばどんどん馴染んでいくだろう。今回も、後半になればなるほど、みんなの会話はスムーズになっていった。

これまでだって、テレビ会議の経験は仕事上何度となくある。しかしそういうのは、資料説明をする人がだーっと喋って、その後質疑応答があって、という比較的シンプルなやりとりだ。一方「オンライン飲み会」の場合、同時に誰かが喋りだしたり、次に誰が話を引き継ぐのかが全くわからない。そういう混沌とした状況でも瞬時にストレスなく言語として理解できるようになるのは、ほんの少しだけ習熟が必要だと思った。

しゃべる方だって、「あ、別の人が喋り始めたな」と思ったら一旦自分の言葉を飲み込んで黙る、といったお作法がある。そういうのを、時間とともにみんなが体得していく様は、「なにか新時代が始まった感」があって少なくとも僕はワクワクした。

ちなみに、唐揚げも餃子も、面白い演出ではあったけど僕はほとんど味を覚えていない。画面をずっと凝視し、会話に耳を澄ませていたので、味わっているどころじゃなかったからだ。この会のファシリテーターとして、だらっとしていられなかった。

それでも会は予想以上に盛り上がり、当初の「もしイマイチだったら30分くらいで終わりにしてもいいな」という想定を裏切り、3時間半も続けられた。おっさんが、自宅で、PCやスマホ画面相手に3時間半だぞ。どれだけこの会が楽しかったのかが、この時間を見るだけでもよくわかるだろう。

娘や息子が画面に乱入してくる家があるし、自宅ベランダから屋外の様子を中継してくる奴もいるし、「今飲んでいる酒」を紹介してくれる人もいる。そして、途中から「中学校時代の記念写真」をアワレみ隊の蛋白質が持ち出して、その写真をネタにかなり盛り上がった。こうやって家にある素材をみんなで見せあったりできるのもZoomの魅力だ。飲み会の場に持ち込むのはちょっと、というものでも、家飲みならできる。

アワレみ隊からは、僕の他に東京のジーニアス、愛知のしぶちょお、大阪の蛋白質が参加した。なかなか一同に集まる機会がないメンバーだけに、オンラインであっても集まって丁々発止のやりとりができたというのは本当に良かった。

「またやろう」とお互いがめいめい口にしながら、ミーティングルームを退室していった。社交辞令でなく、本当にまたやろう。なにせ、お店の予約とか必要ないんだし。

僕の予測だが、コロナをきっかけに「宅飲み関連ビジネス」っていうのはこれから伸びると思う。家族での宴会用としてのテイクアウトメニューは各飲食店、力をいれていくと良いと思うし、Zoomのようなサービスを使った遠距離宴会が今後増えるのは間違いないので、飲食品だけでなく「映える料理とか演出」のニーズも高まるはずだ。外食産業は苦しい時期で大変だと思うけど、テイクアウトを充実させ、ピンチを未来のチャンスにしていってほしい。そう思いながら、僕はZoomのミーティングを閉じた。

(2020.04.04)

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