ラーメン二郎 めじろ台法政大学前店

『豚入りダブル大ラーメン・野菜にんにく増し』
(東京都八王子市寺田町)

ラーメン二郎の盛りの良さについては、アワレみ隊OnTheWeb上で何度か取り上げたことがあるのでご存じの方も多いだろう。麺が既にドンブリのすり切りまである段階でその美貌っぷりをいかんなく発揮しているのだが、それに加えて具としてキャベツとモヤシがうずたかく積み上げられているのだから、見た目のインパクトは絶大だ。ただ、このヤサイの盛りがいまいち手加減されていたら、なんだかしょぼく見え、何とも美しくないラーメンに仕上がってしまう。このラーメンは、豪快であればあるほど、美しい。

ラーメン二郎めじろ台法政大学前店外観

その美しさを追求している店が存在する。ラーメン二郎と名乗る店は東京都を中心に20店舗以上存在するが(本文執筆当時)、その中で最も西に存在するお店、「めじろ台法政大学前店」である。めじろ台、といっても東京都民でさえぴんと来ないと思うが、場所としては八王子よりさらに奥に入ったところ、高尾山の手前にある。その、団地の中にぽつんとお店が存在している。「法政大学前」と名乗ってはいるが、肝心の法政大学からは数キロの距離が空いている。それでも「前」と名乗ってしまうあたり、店主はスケールがデカイ人なのか、それとも法政の学生たちに愛着を持って貰いたかったから敢えてそういう名前にしたのか、不明だ。

この地は、東京よりも2度くらい気温が低い。それくらい田舎なわけで、はっきりいって人気ラーメン店としては成立が難しい場所といえる。しかし、連日の長蛇ができるのは、ひとえにこのお店の美貌な盛りに人々が引き寄せられるからだ。

数多くのラーメン二郎があるなかで、盛りの美しさはこの店の右に出るものがいない。それは、単に量が多いというだけでなく、芸術品をつくるがごとき、ヤサイの盛りつけ方にある。私は、初めてその盛りつけを見たときは、「ガウディの教会を何百年もかけて造っていく」様を連想した。
順を追って説明しよう。このお店の場合、もともと全てにおいて量が多い。地価が安い場所に出店している事、かつ恐らく自宅の一部を店舗にしているということからコストが低く抑えられているのだろう。その原価抑制効果を、もうけにしないでモロに盛りにぶつけました、という風情だ。まず、この心意気が美しい。何しろ、「ブタダブル」のラーメンを注文したら、厚さ1cm近くあるブタの切り身が10切れ以上、ドンブリに盛られてくる。もともとデカイドンブリだが、それでも半周くらいはこのブタどもに占拠されてしまう。いくら大食らいの人であっても、後半飽きるくらいだ。

普通、チャーシューメンというものは「どうだ、ブタがこれだけ!」と見せびらかすトッピングをするものだ。喜多方ラーメンで有名な坂内食堂などは、「お前らチャーシューたくさん食べたいよな?ああん?」とこっちの足元を見透かしたような、ブタでスープを覆い隠すほどのブタを並べてくる。

野菜増しでこうなる

しかし、この店は違う。そのもの凄いブタを誇示することなく、上にヤサイを盛りつける。二郎特有のルールで、「無料トッピング」でヤサイ増しにすることができるのだが、そのトッピングコールをしなくても、デフォルトでヤサイの量が多い。店の人がトッピングコールをするまえに、既にわしっとひとつかみ分、山盛りヤサイが盛りつけられる。そして、お客さんが「ヤサイ増し」をオーダーしたら、我が意を得たり、とばかりにさらにひとつかみ、二つかみ。場合によっては、そこで「んー?」と盛りの状態を確認して、まだ盛れそうだったら追加でもう一回。結果、雪崩が起きそうなもの凄い「ヤサイの山」ができ上がる。

まさに、ジャパニーズフジヤマだ。富嶽三十六景のように、ありとあらゆる方向とシチュエーションで、この盛りを描写したい。そんな気にさせる、ラーメン二郎めじろ台法政大学前店のできあがりだ。先ほどまで感心の対象だったブタダブルは、既にヤサイの山に埋もれてしまい、その様子を窺うことはできなくなっている。

今はバイト君が盛るようになったが、昔は店主の奥さんがこのヤサイ盛りつけを担当していた。この方は、どこか良いところのお嬢様出身なのか、動きが非常に優雅だった。悪く言えば飲食店にあるまじき緩慢な動き、となるわけだが、それでもその優雅さに客はみな見とれていたものだ。動きの全てに、カクカクした動作が存在しておらず、全てなめらかに動く。円運動に近い動きだ。その人が、ヤサイを盛る段になると、これがまた動作と同じく非常に美しい盛りをしてくれた。ほほえみを浮かべながら、トングで盛りつける。ドカ盛りのヤサイといえば、えてして粗暴な印象を与えてしまうが、この奥さんの動作を見て、そしてそれに見合った美しい盛りをみると、とても心が和んだものだ。

凄い盛りのドンブリがお客さんの手元に届けられ、お客さん本人及び周囲のお客が「おおお」と思わずどよめいている様を、奥さんはうっすらと笑顔を浮かべて眺めている。そして奥で麺をゆでている店主も振り返り、遠巻きからその光景を楽しんでいる。「量が多けりゃいいんだろ、貧乏人ども」という感じが微塵もしない雰囲気が、とても心地よい。

これだけの盛りを実現しようとすると、市販のモヤシだけでも2-3袋は必要になるだろう。キャベツ比率が他の二郎と比べて比較的高いということもあり、キャベツの消費量だって馬鹿にならない。なんだか、ラーメン食べにきているんだか、ヤサイを食べに来ているんだかわからないような構成だが、それでもトータルとしておいしいから遠路はるばる、通ってしまう。

もちろん、これだけヤサイがトッピングされてしまうと、肝心の麺にありつくまでにヤサイ三昧な食生活を送るハメになる。ヤサイの山を制覇しないと、麺にありつけない。そして、そのヤサイは、タレがかかっているわけはないので、味が無い。卓上にあるタレを自分でかけながら、もしくは苦労してドンブリの奥に潜むスープをすくいあげてからめながら、食べなければならない。ヤサイのせいでスープはぬるくなるし、味は薄くなる。はっきり言ってこの盛りはバランスが良い盛り方とは言えない。

でも、そこにはただひたすら、凛とした美しさがある。盛りが素晴らしいからといって、やけくそな感じであったり、足元を見ているようなけだるい空気は微塵も無い。

八王子の奥に、富士がある。ヤサイ増しという名の、豪快かつ繊細な、富士が。

(2003.10.04)

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