天龍

『餃子ライス大』
(東京都中央区銀座)

銀座といえば、日本におけるハイソサエティかつ文化的な街の代表格だ。一昔前は、「銀ブラ族」などといって銀座をそぞろ歩きする事がちょっと誇らしげな事だったと聞く。

しかし、今はずいぶんと世俗化し、気がついたら吉野家があったり、アジアンキッチンがあったりする街となった。街を歩く人も、とりたてておしゃれな格好をしているわけでもない。

今の日本は、昔の一億総中流時代から、確実に階層化に向かいつつある。富めるものと、貧しいもの。その流れの中で、この銀座の街はどちらに向かっていくのだろうか。今以上に、二つの対極的な階層が入り乱れ、平均化された街となるのか、それとももう一度ハイソな街としての立場を復活させるのか。

ただ、銀座といっても案外広く、銀座一丁目から八丁目までを歩くとなると結構な散歩となる。新橋駅近くの銀座八丁目側は、建物の中にひしめくスナックやバーといったネオン街。逆に、八重洲側の銀座一丁目はもう少しのんびりとした雰囲気が漂い、立ち飲み屋があったり居酒屋があったりする。

銀座天龍外観

そんな中、銀座二丁目に美貌の盛り・・・ではなく、美貌のでかさを誇る餃子があるという。でかい餃子。ファーストインプレッションはあまり美味な印象はしない。むしろ、まずい印象しかない。

ジャンボ餃子で思い出されるのは、飯田橋駅近くにある某中華料理屋だ。ここは、チャレンジメニューとして、餃子100人前相当の「バカデカ餃子」1個を平らげたら無料というサービスをやっている。餃子100個を食べようとするその挑戦者のガッツも凄いが、100人前のあんをくるんでしまおうという生地も凄い。食べた人の話によると、非常に生地が分厚く、食べていて気持ち悪かったという。物事には何事も限度がある。

とはいうものの、この銀座にあるお店を紹介してくれた人は、「そんなにでかくはない」と苦笑いしながら教えてくれた。「私でも食べられるんだから」という。その人は子持ちの奥さんだが、B級グルメが大好きだ。通常の女性よりかははるかに食べるが、それでもしょせんは一般の女性だ。そんなむちゃな量ではあるまい。

その女性に連れて行ってもらった会社の同僚は、お昼休み明けにぐったりして職場に戻ってきてこう言った。「バナナかと思った」。

なんだ、それは。

とりあえず取調室に連行して、綿密なる事情聴取を行ってみた。すると、そのバナナ大の餃子が1皿で8個、どかんどかんと盛りつけられているらしい。なるほど、バナナ大が8個。それは確かにすてきだ。

「それはジャンボ餃子、とかそういう名前がついているのか?」と問うてみたら、

「いや、メニュー名は単なる『餃子』です。油断していたらえらい目に遭いました。言われてみれば、単なる餃子にしては値段が高いんですが」

ジャンボと名乗らず、実質的にはジャンボ。それはとても良い心がけだ。美しい。ぜひ、体験してみなければならないだろう。

意を決し、ある日のお昼休みに乗り込んでみた。

強烈なインパクトを誇る店のポスター

店にはこんなポスターが張ってあった。

なんだか怪獣映画のポスターだ。東京タワー、銀座時計台、そしてあっはっはっはーと高笑いしながらへらで餃子を焼き上げる料理人。これは餃子による地球制服をねらう天龍星からきた宇宙人の侵略か。

なかなかインパクトがあって良い。思わず固唾を飲んで見守っていたら、俄然おなかがすいてきた。そうだ、ボクらのミッションは、天龍星人が放つ餃子をすべて食べ尽くして、地球の平和を守ることだ。きっとそうだ。

決意を新たにしたところまでは良かったが、どうもこのポスターはあまりに多くの志願兵を招いてしまったようだ。店内にはぎっちりと、順番待ちの行列ができてしまっていた。あーあ。二階の階段まで行列は続いていて、その数20名弱。待ち時間、30分程度。さすがに平日お昼時は混む。

サラリーマンのみなさまも、宇宙人迎撃に必死だ。

今時珍しい硬券

このお店の場合、ランチタイムは食券を使用していた。しかも、ぺらぺらの紙ではなく、硬券だ。今時珍しい。
見ていると、ほとんどの人・・・というより、ほぼ全員が餃子ライスを注文していた。餃子専門店といっても間違いないんじゃないか、というくらいだ。餃子ライスで950円。

一緒にお店を訪れたほかの3名も、同じく餃子ライスだった。私は、同じメニューを食べるのが悔しかったので餃子とライス(大)にした。

天龍の二階席

二階席の様子。

ざっくばらんとした中華料理屋、という風情だ。しかし、店は広い。客席がいっぱいだ。広い客席、ほぼ全員が餃子を食らっているか、餃子待ちの状況というのはなかなか興味深い光景だ。

餃子といえばビールを飲みたくなるが、このお店では昼間っからビールをかっ食らっている人は見あたらなかった。みんな仕事があるからだろう。「夜勤明けなんで、今日はもう昼から飲んじゃう」という人や、「まだ会社あるけど、こっそりお酒飲んじゃえ」という人は場所柄居ないようだ。

「バナナの大きさ」と言われた天龍の餃子

餃子だけあって、焼き上がるまで時間がかかる。ただでさえ時間がかかる料理なのに、そのサイズがでかく、そして極めつけでお客の数が多い。

こうなると、昼休みが1時間しかないわれわれとしては焦るしかない。とてもじゃないが、全部食べているような時間が無かった。結局、各自半分(4個)だけ食べて、残り半分はお持ち帰りにさせて貰うことにした。

待つことしばし・・・じゃなくて、待ちすぎるくらい待って、ようやく餃子が出てきた。

なるほど、これがバナナと形容された餃子か。確かに、でかい。バナナは言い過ぎだが、1個あたり、ええと、ええと。手頃に例えるものがない。

餃子+ライス大盛り

まあ、暴力的に大きいという訳でもなく、お皿に盛りつけられた実物を見ても「ほぅ」という程度のものだった。しかし、その他の食器類と対比してみると、確かにでかい。グラスとかと比べると、通常の餃子と比べれば2倍程度大きいことがわかる。

もちろん、だからといってたいしたことはないのだが、じゃあこれを8個食べましょうね、それが1人前ですから、と言われるとちょっと風向きが変わる。なるほど、8個食べるとなるとこれは結構なボリュームだ。

ふつう、餃子というのは何か中華メインディッシュのサイドディッシュとして登場する。ラーメン餃子とか。チャーハン餃子とか。しかし、このお店では餃子が主役だ。それは、餃子だけで十分すぎる存在感とボリューム感があるからに他ならない。

箸の太さと比較して欲しい

餃子をたれに漬けるところ。判るかな、微妙にでかいことが。

食べてみると、これが非常においしかった。できたての餃子は大抵旨いのだが、ここの餃子はデカさからくる火加減にむらがなく、生地はかりっ、中はちゃんと火が通っていてジューシー、という仕上がりだった。

ただし、1個を食べただけで相当ずっしりとくる。何しろ、皮でくるんだハンバーグを食べているようなものだ。たかが餃子一個、と甘くみていたら、正直な胃袋が「いや、それは大いなる勘違いである」と指摘してくれる。

口にした時に広がるジューシーな肉汁。しかし、裏を返せばそれは肉の脂なわけであり、2個、3個と食べすすむにつれて結構おなかにこたえてくる。4個食べ終わった時点で結構満足感があった。4個で1人前といっても問題はないくらいだ。

お土産に包んで貰ったら、折り詰めにぎっしり。

残りの餃子は、厳重に梱包の上職場にお持ち帰りとなった。ただ、にんにくは使われていないようで、においが漏れるということは無かった。

夕方、おやつの時間に残された餃子を食べる事にした。持ち帰り用の容器を開封する前に、どんな事態になるかはなんとなく判っていた。あれだけ大きな餃子だ、密封されたところにしばらく放置されていたら、猛烈に水滴がつくに決まっている。そして、脂が回って相当ずっしりとした味わいになっているだろう。

・・・全くその通りだった。

威力倍増。お昼食べて、まだおなかがいっぱいな状態で追い打ちをかけられた状態。結局、その後の夕食はほとんど食べることができなかった。

天龍の餃子。その美貌な大きさは、ぜひお店で体験すべきだ。その気楽さゆえにお持ち帰りにしてしまうと、旨いんだけど罰ゲームに近い濃い料理に化ける。

(2005.02.02)

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