古都

『肉野菜炒め定食大盛』『天ぷら定食大盛』『とんかつ定食大盛』
(埼玉県入間市)

埼玉県入間市。西武池袋線だと、東京都心の池袋から約・・・えーと、45分くらいかな?・・・で着く、郊外のベッドタウンだ。そんな町中に、どんなメニューもさりげなく、しかし着実に美貌な盛りになっているお店があるという。その名前は、「古都」という。もともとはうどん屋だったらしいが、今は「大盛り屋」としてその名を馳せているお店だ。

待て、「もともとはうどん屋だった」って過去形にしちゃまずいだろ、今でもうどん屋だ。

私(わたくし、と読む)がこの「美貌の盛り」を編纂するにあたって、注意している古都がある。違った、事がある。それは、いかに高らかなる盛りっぷりであったとしても、ご飯だけが険峻な山岳ロマンを奏でているのでは美貌ではない、ということだ。今日び、ビジネス街の居酒屋ランチメニューで「ご飯おかわり自由」は珍しくない。単にご飯がうず高く積み上げられていても、それは見栄えの問題だけであって「おかわり自由」で二杯、三杯とおかわりするのと何ら変わりがない。すなわち、それはあまり美しくはないものだ。やはり、真に美しいのは、ご飯の盛りもさることながら、おかずがいかに盛られているかということだ。

今回紹介する「古都」は、ご飯、おかず、その他という3要素において美しい。なぜ入間にこんな店が、と思う。チキンカツやトンカツ定食を注文すると、通常サイズの2倍の厚みがあるカツが、2枚出てくる。これがデフォルトメニュー。お年寄りや子供が注文したって、その2枚がデフォルトである以上は、黙っててもどかんとおかずが出てくる。そして、ご飯を大盛りにすると、そのおかずに冗談のようなご飯がついてくる。

ただ、全てにおいてジャンボサイズであるが故に、あまり下品な印象は受けない。「ウケねらいで大盛りにしてみました」的な店側のいやらしさはみじんも感じられない。何しろ、周囲にいるお客さん全員が、通常の1.5倍以上はある料理を食べているのだから。

「当たり前のような、大盛り」。このお店に来ると、自分の胃袋は標準的なサイズだ、と思っていた人もちょっと認識が改まるだろう。実は自分の胃袋って、相当小さいんじゃないか・・・と、「普通盛り」で頼んだにもかかわらず出される大量の料理の前で、嘆息することだろう。でも、決してそういうわけではない。ただ単に、さりげなくこのお店の盛りが多いだけのことだ。

さりげなく大盛り。美貌の盛りにふさわしいキーワードだ。露骨に盛りつけるのは、美しくない。

古都外観。

別に民芸調な作りなわけではない。ある日このお店を訪問した際の模様を、順を追って紹介しよう。

まずこれは古都の外観。場所柄、多くの人が車で来訪することになる。しかし、駐車場は狭い上に斜めに停めるようになるので、ちょっと駐車までが面倒くさい。隣のアパートとのしきりフェンスが壊れかかっているところをみると、過去に何台もの車が駐車する際に激突したのだろう。要注意だ。

古都店内。

もんぺ姿の店員などはいない。普通の格好だ。店内の雰囲気。大盛りを頼むような人は、あまり居ない。普通盛りでも、普通の人からすると「量が多すぎる」部類に入る。

何故かお通しとしておでんが

このお店の面白い点は、注文を済ませるとまずおでんが届けられる古都だ。また間違った、事だ。漢字変換が難しいな。

「よろしかったらどうぞー」と言いながらおでん3品が盛られた小皿を卓上に置いてくれる。まるで居酒屋の突き出しだ。座席料取られるんじゃないかと心配することなかれ。これはサービスだ。

おでんと一緒に、水が入った瓶とグラスも届けられる。なぜちゃんとした水差しではなく、このような瓶を使うのか謎だ。

おでんを食べながら時間をつぶす。ここで、この後訪れる料理に対してのウォーミングアップを行うことになる。大盛りは、私の胃袋の場合「ニコヤカに食べることができる限界」の量だ。これ以上量が増えると、脂汗をしたたらせながら「胃袋に押し込む」事になる。体調が芳しくないと、残してしまう量なので注意が必要だ。

おそらく、普通の人は食べきれない量だと思うので、おもしろ半分に頼まないように。まず間違いなく残すと思う。

肉野菜炒め定食大盛

今回は肉野菜炒め定食大盛りを注文してみた。

ご飯大盛り、肉野菜炒め、おみそ汁、たぬきうどん、お漬け物の組み合わせとなっている。うどん屋であるという初心を忘るべからず、ということなのだろうか、たぬきうどんがついているのが珍しい。確かに、ご飯の量がこれだけ多いとなると、汁気が欲しくなる。だから、おみそ汁とは別にうどんがあるというのは案外ありがたいものだ。

横から見た肉野菜炒め定食大盛

横からみた写真。ご飯は、天丼などの丼ものを提供するのに使っている器だ。普通盛りの定食とは丼のサイズが違う。それに山盛りなので、おそらく3合から4合のお米が使われているのではないだろうか。普通盛りで、その半分くらいか。特に大盛りはご飯の盛りが凄いが、普通盛りでも相当な量だ。いったいこのお店には炊飯器がいくつあるんだ、と興味津々だ。

ご飯の盛りに気を取られて、うっかり見落としがちだが肉野菜炒めの盛りも美しい。まず、肉の多さだ。このお店の場合、「肉野菜炒め定食」とは別に「野菜炒め定食」が存在するのだが、その差を明確にするためか、肉をこれでもか、と投入している。肉だらけで、野菜がほとんど見えぬ。やりすぎだ。

肉野菜炒めのバランスというのを完全に無視しているが、それでもここまで肉を使ったという心意気には素直に拍手を送りたい。

表面を覆う肉の下には、キャベツを中心とした野菜炒めが控えているわけだが、これが結構なかさがある。炒めて縮んだ結果、この量ということは生の状態だと一体どれだけのかさがあったのやら。想像すらできない。

味付けは、にんにくが結構きいていて、パンチのある味付けになっていた。おかげでご飯が進む。しかし、野菜炒めというのは案外胃袋にたまる食べ物だ。胃袋の中でかさばるので、思ったよりも早く満腹感が押し寄せてくる。油ものであるチキンカツ定食の方が、まだ食べ進めやすいかもしれない。

完食。

世は満足じゃ食べている途中、「本当に最後まで食べられるかな?」と少々不安感を覚えつつ、そうはいってもきっちり食べきるのが美しい。美貌の盛りを供されたら、美貌なる完食にて対応するのが紳士淑女のマナーだ。

ごちそうさまでした。

食後にコーヒーが出てくるのも古都流

と、ここで終わらないのが古都流だ。最後、コーヒーのサービスがある。アイスかホットかを選ぶことができる。しかも、セルフサービスではなく、店員がちゃんと「ミルク入れますか?」なんて聞いてきて、ミルクを注いでくれる親切っぷりだ。

時によっては、この後にデザートとしてアイスキャンデーが出される事もあるらしい。そこまでやるか。

これでお会計、いくらだと思います?税込977円。安い。

埼玉県入間市。古都はいつでも美しい。この美しい都が、面白半分で大盛りメニューをチャレンジする若者たちに蹂躙され、美しさが失われない古都を切に望む。

(2005.03.17追記)

天ぷら定食大盛

先日、再度古都を訪れたので報告しておく。下道を使っていくのは面倒なので、ついつい外環+関越+圏央道を使ってしまうのだが、片道で2000円近くする。何をやってるんだか。ETCにプリペイドしてあると、ついつい金遣いが荒くなる。日本道路公団の思うつぼか?

さてこの日はカキフライ定食を注文したのだが、品切れということでお断りされてしまった。かわりに天ぷら定食大盛りをオーダーした。普通盛りでも1080円(だったと思う、記憶曖昧)ということで他の定食よりも値段が高いものだが・・・

出てきたのはこれ。お盆に入りきらなかった。そして、カメラアングルにも収まり切らなかった。

天ぷら定食大盛のご飯はすごい

ご飯は相変わらずの盛り。そして、普段はメインディッシュが置いてあるところに、天つゆ。天つゆが入っている器がこれまたでかい。

漬け物が入った小鉢が、何やらかさ上げされていると思ったら納豆が用意されていた。サービス品なのか、それとも天ぷら定食にはデフォルトでついているのかは不明。確かに、天ぷらだけでこのご飯を食べ尽くせ、というのはちょっとしんどい。納豆というのは細かい気配りだ。

・・・細かい気配りの背景には、冗談みたいな大盛りのご飯があるわけだが。

天ぷら山

私はこんな天ぷらを見たことがない。

普通、天ぷらというのはこういう盛り方をしない。からっと揚がった状態にするため、お互いが重ならないように盛りつけるものだ。こういう盛りをするのはスーパーのお総菜売り場で売られている天ぷらと相場が決まっているが、それにしてもこんなすごい盛りでパッケージされている天ぷらは存在しない。

数えてみたら20個、天ぷらがあった。そこまでやるか。

なす、かぼちゃ、たまねぎのかきあげ、ピーマン、えび、ええと、あと他に何があったっけ。覚えていない。

天ぷら定食大盛全体図

どうしても全体像を一枚の写真で収めようと思ったので、天ぷらを奥におしやってみた。そうすると遠近法の関係で、天ぷらが小さくなってしまった。しっぱい。

お味の方だが、家庭で揚げる天ぷらといった感じ。あまりおいしいものではなかった。

「冗談半分で大盛りを頼む輩」について前回執筆時に危惧していたわけだが、過去訪問時に「大盛り」を頼む人は誰も居なかった。普通盛りでも半端ではない量で、食べきるのが精いっぱいな状態のお店なので、大盛りを頼むまでもないということか。

みんな、もくもくと目の前にうずたかく積み上げられた白米と格闘している。老いも、若きも米の前では平等だ。

(2005年05月08日追加)

とんかつ定食大盛り
盛りが良くても肉厚です

とんかつ定食大盛(税込1,102円)を食べてきたので写真を掲載しておく。ご飯の盛りはどの定食でも共通だが、とんかつの枚数の多さは特筆に値する。ぱっと見カツが2枚に見えたが、よく見ると3枚だった。どうしてこんなにカツを3枚も客に出そうと思ったのか、ご主人にぜひ一度取材してみたいと腹の底から思った。しなかったけど。聞くだけ野暮ってもんだろう、このお店の場合。メニュー全部が量多いんだもん。

隣の一見さんの女性客もとんかつ定食を頼んでいたが、まずは先行して出されたご飯にただただ目を丸くしていて、その後遅れて運ばれてきたとんかつで大爆笑していた。笑うしかない、ということか。お店側も、女性だから遠慮すればいいものを全く手加減無しだ。若い兄ちゃんに出す量と寸分違わぬボリュームで勝負していた。

その隣のテーブルでは、大量の食べ残しを出しつつ、「本日のこの盛りについて」総括をしている先生と生徒がいた。嘆息しながら、ワカモノが「先生、もう食べられません」と年輩の女性にこぼしていた。店内を見渡すだけで、盛りの話題が溢れている。いや、盛りの話題しか店内では聞かれないのではないか、それくらいの錯覚を抱くくらい、お客はお店側の提供する盛りに翻弄されっぱなしだ。

(2005.02.20ほか)

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