まんてん

『ジャンボカレー全のせ』
(東京都千代田区神田神保町)

神保町に「まんてん」というカレー屋があるのは一部の間では有名な話だ。神保町界隈はもともとカレー激戦区であり、カレー屋がひしめいている。インドカレーの店が多いようだが、スマトラカレーや欧風カレー(えらく広い範囲を指し示してるな)、洋食屋風のカレーといろいろしのぎを削っている。

そんななか、唯我独尊なカレー屋として一目置かれているのが、「まんてん」だ。

味については大して美味くはないようだ。美味いという話は聞いたことがない。ただし、店が持つ独特のB級感と、「大したこと無い味」が持つ中毒性でリピーターが後を絶たないという。確かに、カレーというある意味国民食である料理は、「本場インドカレーでござい」と気合いの入ったものよりも何の変哲もない家庭の味っぽい方が親近感を覚えて、また食べたくなるものだ。

このお店が熱い支持を得ているのは、その盛りの良さにもある。普通<大盛り<ジャンボという三段階の盛りがあるのだが、ジャンボになると急に盛りが良くなるらしい。しかも、このお店にはトッピングがあり、基本はカツ乗せなのだが、全てのトッピングを盛りつける「全のせ」がトッピングヒエラルキーの最上層に位置しているという。ちなみに、トッピングはカツのほかに、ウィンナー、コロッケ、揚げシューマイがある。これを全てトッピングしちゃおうというのだから、一体誰が始めた事やら。別に全のせにしたらお得だとか、そういう事は全くないのだが、「かろうじてカレーの上に乗っかるくらいの量と種類」なトッピングだったものだから、まんてんを語る上で外せないオーダーの仕方になったのだろう。

webで調査し、事前に「ジャンボカレー全のせ」の写真を確認してみた。盛りは、美しくない。いや、はっきり言って汚い。お客に対して出す料理としては一線を越えてしまっている外観だ。私の頭の中では、この盛りを形容するのにある比喩表現が浮かんでいるのだが、あえてここに書き示すのはやめておく。それくらいの喩えが直感的に閃いてしまったくらいだ。

このコーナーは、あくまでも「美貌の盛り」を追求し、紹介していく趣旨で設立された。どう考えてもこのまんてんのカレーは対象外だ。しかし、あまりに強烈な外観はある意味ロック魂というか、反骨精神というか、既存の世界に対してNoを突きつける何かを感じさせられた。これもまた、見方に依っては美貌・・・?なわけはないと思うが、ネタとしておいしそうだからまあいいじゃん、という安直な判断でお店に向かう事にした。

まんてん外観。

行列ができる繁盛店今回は会社の後輩を従えての神保町入りだったのだが、後輩には事前にまんてんの情報は与えておいた。状況を理解できず、とんでもない盛りのオーダーをしてしまわないようにするためだ。

「量、多そうですね」

と回答が返ってきたので、とりあえずはこれから行くお店について理解はできたようだ。

まんてんは、細い道を入ったところにあった。定食屋とライスカレーの店とが半分に別れていて、ライスカレーの方は13時を回っているというのに行列ができていた。

しかし、カレー屋の行列ゆえ、すぐに店内に入ることができた。お客の回転はものすごく早い。

店内は、吉野家のようにコの字型になったカウンター席のみ。カウンターの中に、おひつとカレー鍋とフライヤーがあった。フライヤーでは、何か常に揚げ物があがっていた。揚げ物天国だ。そういえば、トッピング類は全て揚げ物だな。真っ赤なウィンナーまでもが、油で素揚げされていた。

店頭のカレーサンプル

店に入る前に確認した、店頭のサンプル。

右下が「並カレー400円」。安い。左下が「大盛りカレー450円」、そして中段左が「ジャンボカレー500円」。トッピングしなければ、非常に廉価にカレーを食べることができる。

いや、トッピングしても安い。たとえば、上段左のカツカレーは550円だ。先ほどから話題になっている「ジャンボカレー全のせ」という最上級の盛りにしたとしても、総額で950円にしかならない。

それにしても、正直ジャンボカレーのサンプルを見て「何だこんなものか」と思ったのは事実だ。当初、まんてんの盛り具合が分からなかったので、「今回は様子見でジャンボカツカレーで留めておこう」と思っていたのだが、サンプルを見る限り恐れをなす量ではなさそうだ。全乗せしても、問題なく完食できそうだ。

店員さんに、「ジャンボカレー全のせ」をオーダー。隣にいた3人組のお客さんから、「本当に食えるのかね」と陰口をたたかれる。ほっとけ。

一緒にお店にやってきた連れは、私のオーダーを聞いて動揺してしまい、「あ、私も全のせで」と口走ってしまっていた。馬鹿め、お前の胃袋じゃ無理だ。天龍の餃子だって、1人前食えなかった男なのに。

しばらくして、事の重大さに気づいたらしく、連れは「あ、すいませんご飯は少な目で」とお願いし直していた。違うだろ、そっちじゃなくてトッピングを全のせにした方を是正しないと駄目なんじゃないのか。

ジャンボカレー全部のせ

やってきたジャンボカレー全のせ。
隣の3人組が「うわ、あんなの絶対食えねえ」とかなんとか言ってる。店のおばちゃんから笑顔でカレーを受け取り、格の違いを見せつける。

なるほど、それにしてもすごい画だ。

またしてもここであれこれ形容表現が浮かぶのだが、その全てが食べ物を形容するには失礼な言葉ばかりで、激しく割愛。

まあ、敢えて一例を挙げると・・・「土石流」。

溢れる!溢れそうだ!

横からみたらこんな感じ。

このお店独特のご飯の盛りつけ方をする事に気がついた。お皿の縁からご飯が盛り上がるようにはせず、縁からやや内側のところから急に盛りの傾斜をきつくする。

何でそんなことをするのかと思ったら、トッピングの具が盛りつけやすいように、ということなのだった。縁ぎりぎりまでご飯の傾斜がついていると、トッピングの具が転がり落ちる。

カレーの表面を覆い尽くすようなトッピング。圧巻だ。転落しないように、できるだけトッピング同士が重なり合わないように雑魚寝している。ご飯に押し込まれて、ようやく万有引力と釣り合っている状態だ。カレールーの粘力も手助けをしているようだ。

ジャンボカレー全乗せを上から見た図

上からみた図。最後、トッピングの上からだめ押しでルーをかけているのが、ますます見てくれの強烈さを際だたせている。

ちなみに、トッピングの数を数えてみたら、カツ1枚、揚げシュウマイ3個、コロッケ2個、ウィンナー3本だった。このトッピングだけで、ビール中生3杯は飲めそうだ。カレーの上に載るにはアンバランスな量。

食べてみる。ルーが尋常ではないねっとり加減。小麦粉大量投入なのだろうか。ルーの中に具らしきものはほとんど見えない。ひき肉と玉ねぎが使われているくらいなのだろう。

揚げ物は、思った以上においしい。特にカツは「あれっ、やるじゃん」という感じ。しかし、しかしだ。食べているうちにこの油モノ尽くしにいい加減尻込みしてくるのは事実だ。カレールーは、油っぽさを加速させる気がする。量は大げさなものではなかったが、油尽くしでギブする人が多くても何ら不思議ではない。

まだお客さんの待ち行列ができていたので、食べ終わり次第速やかに店を退却。すると、離れた席に座っていた後輩がすがるような目をして店から飛び出してきた。

「全然食べられませんでした。半分近く残しちゃって、申し訳なさでいっぱいだったので店から逃げ出してきました」

だ、そうで。やっぱりなあ。

「親から、ご飯はともかくおかずだけは残さず食べるように、っていう教育を受けてきたんですよ。だから、トッピングだけは食べきろうとしたんですけど・・・あの揚げ物はちょっと・・・」

ご愁傷様です。

この後、神保町で打ち合わせをこなし、職場に戻ったのだが恐るべき満腹感が全身を覆い尽くしたままだった。体がだるくなる、満腹感。途中、耐えられない眠気に襲われ、自分の仕事机に向かったまま船をこいでしまった。こんな経験はなかなか無い。

結局、食べ終わってから9時間後くらい経過して、ようやく胃袋がこなれてきた。表面的なダメージはほぼ皆無だったが、内臓に与えた負担はものすごいものがあったかもしれない。

(2005.03.16)

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