西伊豆・雲見温泉の浅間神社へのエグい石段

西伊豆の雲見温泉に旅行した際の出来事。

入り江の奥にある雲見の温泉街の傍らに小さな山があり、その山腹と山頂に浅間神社という名前の神社がある。

その名前から、火山信仰であることがわかる。火山として知られる富士山や浅間山にある神社の名前だからだ。

海のすぐ近くにある神社といえば、海難事故防止を祈願する綿津見神社が全国にあるものだが、雲見には浅間神社があるというのが面白い。それもそのはず、目の前の海には駿河湾を挟んでちょうど富士山が見えるからだ。富士山を遥拝するには最適の場所なので、自然と富士山信仰が生まれたのだろう。

さてこの雲見の浅間神社だが、僕は一度も参拝したことがない。雲見温泉には2度宿泊したことがあるし、横を通過したことは何度もあるのに、だ。

というのも、この神社にたどり着くまでがエグい石段があるからだ。

登山を趣味とする僕なら、この坂道はご馳走だ。むしろ喜んで歩く。しかし、同行者に申し訳ないので、歩いて神社まで行ったことはないし、同行者に提案したことすらない。

今回、旅行のコーディネーターであるいしが「せっかくだから神社に登ってみよう」というので、一家揃って登ってみることになった。とはいっても、メンバーの中には70歳近い義母がいたり、未就学児の子どもが3人もいる。大丈夫か?おい。

いしは「烏帽子山」という名前がついていることにもっと注意を払ったほうがいい。なぜこういう名前なのかというと、昔の貴族が被っていた帽子である「烏帽子」のように筒状の形状をした山だからだ。つまり、とても傾斜がきつい山ということを名前が物語っている。

石段は、僕らが想像している以上にすごかった。登山経験がある僕でさえ、「これはかなり急だ」と驚いたくらいだ。大人の足だとかかとがはみ出すくらい、石段の幅が狭い。登りはまだいいけど、下りはほんとうに慎重にならないと足を踏み外す。すると、石段とはいえ、まるで滑り台を滑るようにゴロゴロと坂の下まで転がり落ちるだろう。

そんなそそり立つ坂を見て、弊息子タケは俄然やる気を出したようだ。いつも「公園は走り回るけど、公園までの道は親に抱っこをせがむ」という省エネを心がけている性格なのに、この坂は一人でなんとか登りきろうと頑張っている。この彼の謎のやる気は初めて見た。彼にとっては、急坂がアスレチックのように見えたのかもしれない。

そんなわけでゆっくりと烏帽子山を登っていたら、山頂にたどり着く直前で日没時間が来てしまった。真っ暗の中急な坂を下るのは危険なので、下山できる人から順に下山する、ということにした。いしは義母をかばいながら下山し、義妹は甥と姪をフォローしながら下山。僕はタケを抱っこして、一歩一歩ゆっくりと着実に降りていく。

とにかく、抱っこをしながらの下山は大変だ。重心が上半身にあるし、抱いている関係で左右差がある。そして、そもそも12キロ以上の重さがあるものが自分の体の前にある。この状態で下山すると、そのまま前転して大怪我をしてしまいそうだ。

そもそも、1歳児に「じっとしていてくれ」と言っても守ってくれる保証がない。何か急に彼が動いたら、その瞬間にバランスが崩れて転倒だ。

幸い、彼とは一心同体で、ふたりとも最後まで集中力が途切れることなく山を下ることができた。

翌朝、海岸線から烏帽子山を見て、僕ら一同は笑ってしまった。

ああ、これは傾斜がキツいわけだ、と思ったからだ。

こんな冗談のような山の斜面を一生懸命登っていたのだから、そりゃあ大変なわけだ。でも、良い思い出になった。たぶん10年経っても忘れないできごとだ。ただし、弊息子タケにとっては何一つ覚えていない出来事となるけれど。

(2023.02.13)

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください