(2000.09.08/東京・板橋)
登場人物
師匠:開き直って、都合の良い司会進行になろうかとちょっと悩むお年頃。
おかでん:これ以上この道を進むべきか否か、相当悩むお年頃。
師匠 「早いモンでこの連載も早4回目だ」
おかでん 「そうだっ」
師匠 「過去3回、賭け試合2回、あとは制限なしの食べ放題1回。全勝で切り抜けて、まずはいい結果で終わっているんだけど、そろそろ第三者にも認められるようなチャレンジをしなくてはいけないんじゃあなかろうか」
おかでん 「そうだっ」
師匠 「そこで、第四回目の今回は、食べ切れればお代はタダよ、のお店でチャレンジメニューに挑戦というのはどうだろうか」
おかでん 「そうだっ」
師匠 「行け、おかでん君、力のある限り!」
おかでん 「おうっ」
師匠 「だぁぁぁぁっ、ふざけろ!何じゃあ、このオープニングトークは。やってられるかぁっ!」
おかでん 「あっ、師匠、ダメですってば我に返っちゃ!司会進行ってのはそういうもんなんですから」
師匠 「待て待て待てっ、誰が司会進行だ。僕はただ君に『新コーナーは対談形式でやるんで、聞き役になってください』といわれただけだぞ。その場を仕切るなんて話は聞いちゃいないし、ましてやこんなオープニングトークをやれなんて言われてない」
おかでん 「でも、師匠が仕切ってくれなくては会話になりませんよ」
師匠 「そりゃそうかもしれないけど、何だい今回の出だしは。過去を振り返って、そして今回の目標を設定。どう見ても台本丸出しじゃないのさ」
おかでん 「へえ、そりゃもう台本用意しましたから」
師匠 「だったら最初から私なんか使わないで、一人芝居やってれば良いんじゃないのかい?」
おかでん 「それじゃやらせですがな。大丈夫です師匠、今こうやって師匠が・・・・・」
(この後、無意味な舞台裏トークが延々と続くが不毛なので省略)
(何事もなかったかのように復活。以降、師匠の時折見せる嫌味は都合により削除。表面的にはにこやかにトークしている)
おかでん 「ええとですね、今回行ったお店は『インドのとなり』というカレー専門店です。フランチャイズ展開されているのかな?あちこちにお店があるようですね。」
師匠 「カレーのチャレンジメニューといったら、CoCo壱番屋が有名だがね」
おかでん 「そうなんですけど、あちらさんは既に6年くらい前に、1300グラムカレーをやっつけた経緯があるんですよ。だからもうチャレンジできないんです。」
師匠 「おや、既に昔からそんなに大食いだったのかい。知らなかったな」
おかでん 「いや、今より昔の方がよく食べてましたよ。昔は体重を気にせず食べてましたからねぇ。今じゃ全盛期の8割程度の実力だと思います」
師匠 「ちなみにその時のタイムは?」
おかでん 「制限時間20分で、確か16分完食だったかな。おなかはいっぱいいっぱいだったと記憶してます。」
師匠 「で、今回のインドのとなりっちゅーお店の基準はどうなの?」
おかでん 「へへへ、師匠やっぱり仕切るのうまいですね。よくぞ聞いてくれました、今回のチャレンジメニューは、ご飯1.3キロ+ルー0.7キロのあわせて2キロのカレーライスを、20分以内で完食するってぇ事になります。食べ切れればお代はタダ、食べ切れなければ1500円のお支払い」
師匠 「まあ、食べきれなかった時の支払いがそれほど高額じゃないのは救いだなあ、これだったら気が楽だろう」
おかでん 「いや、そんなことはないですよ。お代の大小ってのは大した問題じゃないんです。チャレンジメニューに挑戦しておきながら、失敗するこの屈辱感!この屈辱感を前にすれば、1500円だろうが5000円だろうが大して関係ないです。もう恥ずかしくって、さっさとお店から逃げ出したくなります」
師匠 「ん・・・?ということは、過去に失敗した経験がある、って事だね、聞かせてもらおうじゃないの」
おかでん 「この連載開始前にチャレンジメニューに挑戦したのは2回だけなんです。そのうち1回がCoCo壱番屋の1300グラムカレー。あともう一回が居酒屋庄屋のジャンボカツカレー。通常の3人前あるカレーを時間制限なしで完食する事を求められるんですが、この1人前がでかいでかい。何しろ、一緒に食事をした同行人に届けられた「普通のカツカレー」をジャンボカレーと勘違いしてしまったくらいで」
師匠 「結局、それが失敗してしまったわけね」
おかでん 「失敗でした。お昼時で、周りのサラリーマンからも応援されたんですけど、3/4食べたところでリタイア。後で調べてみると、どうやら米とルーあわせて3キロ近くあったらしい。食べられないわけだ」
師匠 「はっはっは、そりゃ厳しいなあ。だから時間制限が無かったってわけか」
おかでん 「まあ、時間制限が無いといっても、一気呵成に食べてしまわないと満腹感が押し寄せてくるので、実質15分間が勝負なんですけどね。」
師匠 「で、君はここで耐え難き屈辱を味わった、というわけだ」
おかでん 「そうです!負けたんで、おとなしく1500円を支払おうとレジに行ったんですけど、そこの店員さんは僕が完食したかどうかを確認さえせずに、無表情で『ジャンボカツカレー1500円になります』って言うんですよ!」
師匠 「はははははっ、そりゃ屈辱だねえ、食べきれなくて当たり前ってか」
おかでん 「そのとき僕はココロに誓いましたね、いつの日か、この店員を慌てさせてやるって」
師匠 「で、今こうしてこのコーナーで牙を磨いているわけだな」
おかでん 「そうです!そうなのです!だからこそ、今日は絶対に落とせない試合なんですよ」
師匠 「これは?」
おかでん 「店頭に飾られているディスプレイです、これを食べればタダよ、と」
師匠 「しかしデカいなぁ、しゃれになってないぞ。2キロがこんなにデカいとは・・・」
おかでん 「正直言いまして、僕はこれを見た瞬間お店の前を通り過ぎてしまいました。とてもじゃないけどこりゃ無理だ、って思いましたから」
師匠 「はははっ、らしくないな。でも確かにこれは・・・(絶句)。」
おかでん 「お店の前を通り過ぎてからしばらくして立ち止まって考え込み、覚悟を決めて入店するまでおよそ4分。その間、いろいろ自分の人生を考えてしまったです」
師匠 「だろうねえ。ところで、このカレーの横に書かれている説明文みたいなのは?」
おかでん 「えーっとですね、こう書かれています。」
食い逃げご免コーナー
ライス1.3kg+カレー700g。計2kgを20分以内に召し上がられたお客様は当然代金はタダ。その栄誉をたたえ決して軽蔑の目で見ることなく当店ある限りお名前を大切に店内にかかげます。
師匠 「君にぴったりじゃないか。安心しろ、誰も軽蔑しないから」
おかでん 「そりゃ食べられれば、の話でしょ。失敗すれば軽蔑ですよ、やっぱり。でもまあ、やると決めたからには入店しましたけどね」
師匠 「うむ」
おかでん 「時計を目の前に見ることができるところに陣取って、小声で『食い逃げご免をお願いします』って注文したんだけど、店員が大声で『食い逃げご免入りましたぁ』って反復するもんだから恥ずかしくって恥ずかしくって」
師匠 「今更恥ずかしがるなよ」
おかでん 「ご飯にカレールーをかけるだけだからすぐに出てくると思ったたんですが、さすがに量があるからですかね、なかなか出てこないんですよ。で、ぼーっと待っていると、厨房の方からなにやらかんかん、かんかんという音が」
師匠 「何の音だ?」
おかでん 「どうやらご飯を一生懸命土手型に盛り上げている最中らしいんです、これが。で、しゃもじがお皿にあたった音がかんかんと響く。それが2分以上続くんですよ、はっきり言ってこの時点で恐怖を抱きました」
師匠 「それだけ時間をかけてご飯をこんもりと盛りつけているというわけだからなあ」
おかでん 「久々ですね、挑戦前に恐怖を抱いたのは。で、どきどきしながら待っているうちについにご本尊様が登場?」
師匠 「あれ?写真は?」
おかでん 「すいません、実物目の前にしたら、そっちに視線が釘付けになってしまい写真撮るのを忘れてました。まあ店頭ディスプレイの通りのものが出てきたんで、それを参照してください」
師匠 「うーん、よくわからんけどしょうがないか」
おかでん 「店員さんはルール説明と共にこんなアドバイスもくれましたよ、『土手を崩してしまうと、ルーがお皿から溢れてしまいますので注意して食べてください』って。なるほど、独特の形をしているカレーなので、食べ方も注意しないといけないのですよ」
師匠 「頭使うなあ、じゃあどうやって食べていけばいいのやら。土手崩しちゃいけないんだったら、先にカレールーばかり啜るのかい?」
おかでん 「いや、ご飯とルーをバランス良く食べるのが一番正しいと思います。ご飯食べすぎると堤防決壊になるし、かといってルー主体で食べると火傷する」
師匠 「やけど?そんなにルーが熱いのかい?」
おかでん 「しゃれになりませんがな。粘性の液体ルーがお皿の中心にたぷたぷになっているんだから、全然冷めないんですよ。おかげで、冷めるのが早いご飯をルーにまぶして、ルーの温度を下げる・・・といった事になります。」
師匠 「で、5分経過がこれか。おお、あらかた食べてしまってるねえ」
おかでん 「小汚く食べているように見えるかもしれないけど、これは先ほど述べた理由でしょうがないんです。構造上こういう途中経過にならざるを得ない」
師匠 「手前の土手が残っているけど、高さはそれほど無いしあともう少しだな。おなかの塩梅はどうだい?」
おかでん 「いや、この時点では快調そのもの。ストレスなく食べています。しかし、やっぱり恐れたとおり口の中は火傷しちゃいましたけど」
師匠 「大食いと火傷というのは切っても切り離せないのかねえ」
おかでん 「そんなことはないと思いますよ。僕のようにニセ大食漢は、できるだけ早く胃袋に食べ物を押し込まないと、すぐに血糖値が上がって脳の視床下部が『満腹だよ?』と指令を出してしまうんです。だから、食べ物が消化されて血糖値が上がるまでの15分間が勝負って事で自然と早食いになるわけです」
師匠 「なんか医学的なんだな、大食いってのも」
おかでん 「突き詰めていくと、オリンピック選手のように肉体改造をしていかないとダメなんでしょうねこの世界も。高地トレーニングとか」
師匠 「おっと、話がそれた。話を元に戻すと、結局どうなったの?」
おかでん 「写真の通りです」
師匠 「おお、米粒一つ残ってないな」
おかでん 「7分22秒、完食でした」
師匠 「また早いね、君は・・・ってことは、胃袋はまだまだ余裕だったのかい?」
おかでん 「終盤、やや口の中に入れたものを飲み下すのにもたつきがありましたけど、特に問題はなかったですね。余裕の部類でしょう。無理をすればあと500gは入ったかな?」
師匠 「はははっ、お店の人は参ったねこりゃ」
おかでん 「お店の人、開口一番『早いですねぇ』だって。そりゃそうです、これだけの量を食べなくちゃいけないからこそ、早いんです」
師匠 「結局、お代はタダだったワケだね」
おかでん 「もちろん。ポラロイド写真で顔写真を撮ってもらって、伝票は卓上に転がしたままお店を意気揚々と出ていきましたよ。」
師匠 「軽蔑されることもなく」
おかでん 「いえーす、軽蔑されることもなく。写真撮る時にいろいろ店員さんに聞いてみたんだけど、成功率は大体3割程度で、普通の人は15分くらいかけて食べているそうな」
師匠 「それじゃ、ますます自信になったんじゃないの?今回の成功が」
おかでん 「あっ、師匠、さては僕に『ジャンボカツカレーに再チャレンジだ!』って言うつもりでは・・・」
師匠 「わかるぅ?その通り」
おかでん 「それはまだまだ先の話で、もうちょっと待ってくださいよ」
師匠 「さていつの日になることやら・・・。で、君はしばらくこういったチャレンジメニューをやっていくのかい?」
おかでん 「うーん?いやね、ぶっちゃけた話こういうコーナーをやること自体僕はネガティブなんですよ。結果的にチャレンジしちゃってるんで、まあネタにはなるんでコーナーにしてますけど。ってなわけで、今後積極的にこのコーナー用のネタ仕込みをするつもりはないです」
師匠 「そうか。まあ妥当な判断だろうねえ。で?どうするんだい、今後は」
おかでん 「何かの弾みでまたチャレンジする事があれば、そのときはまた師匠にご登場願ってこのコーナーは存続、と。まあ、それが明日になるのか半年後になるのか、って案配で」
師匠 「まあ、むちゃはせんことだな。体が資本だからな」
おかでん 「このコーナーが一段落すると分かった瞬間、急に大人な態度になってません?」
師匠 「ふふふっ、そういうもんなのだよ人間という生き物は」
おかでん 「うーん、オチがつかない。とりあえずこの辺でやめとくけど、何かオチつけたかったなあ」
師匠 「何簡単だ、君がどえらいチャレンジメニューに挑戦して大失敗ぶっこけば、それだけで十分なオチになるから」
おかでん 「うぐぅ。それはいやだよ・・・」
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