迫り来るタイムリミットの狭間で
(2001.10.22/東京ドーム:スポーツグリル”ビッキーズ”)
登場人物
師匠:大食いは見てる方が楽しいときっぱりと言い切る男。
おかでん:大食いの果てに何があるんだろうと遠い目をする日々。
師匠 「満腹日本シリーズ、行って来たんだろ?第一発目の結果を聞かせてもらおうじゃないの」
おかでん 「はあ」
師匠 「なんだ、そのやる気のない声は?食べ疲れか?」
おかでん 「食べ疲れ。なるほど、確かにそうです。でも、なんでしょうねこのけだるさ」
師匠 「ははーん、さては失敗したな?普通だったら得意げな顔をしているはずなのに」
おかでん 「・・・。まずは、経緯を聞いてくださいよ」
師匠 「もちろん。それを聞くために君んとこ来たんだから」
おかでん 「さすがに久々の大食いチャレンジなので、緊張しましたね。最後の挑戦が例の「インドのとなり:2kgカレー」で、もう既に1年も前の話ですから」
師匠 「あったなあ、そんなことも」
おかでん 「緊張したら胃袋がキューッと縮んで食べられないに違いない、って思って一生懸命『人』って字を手に書いて・・・」
師匠 「ははは、ウソばっかり」
おかでん 「で、その人って書いた字を一生懸命飲み込んでいたら、挑戦する前におなかいっぱいになっちゃって」
師匠 「もうええわ」
おかでん 「どうもありがとうございましたー!」
師匠 「バカなことやっとらんと早く報告せんかい」

おかでん 「水道橋駅から本日の戦いの舞台に歩を進めていると、『満腹日本シリーズ』の大きなポスターが貼ってありました。これです」
師匠 「おー。けっこうハデに宣伝してるんだな」
おかでん 「これでまた緊張しちゃって。胃袋は人並み以上の大きさなんですが、肝っ玉は人並み以下なんです、今まで内緒にしてましたが」
師匠 「内緒?バレバレだったぞ。大体、君がこうやってガッツポーズをして写真に写るって事は、緊張していることの裏返しなんだから」
おかでん 「ぐは。さすが師匠お見通しで・・・」
師匠 「つきあい、長いからな。しかし、事前にwebで情報収集してたのに、何でこんなポスターごときでビビる?」
おかでん 「今日挑戦するつもりのキャッチャーミットハンバーグが、ポスターに写真掲載されていたんですが・・・こいつ、僕の想像をはるかに超えてデカかったんです」
師匠 「何をいまさら」
おかでん 「webの写真は比較対象となるものが写っていなかったんですよ。でも、この写真には硬球がお皿の横にディスプレイされていたんです。それを見て、ビビリまくってしまったわけで」
師匠 「どれどれ?・・・おおお、これはデカい!確かにデカい!ここまでデカいとは思わなかったなあ」
おかでん 「でしょ?これは案外手強い、さすがは食い逃げOKなチャレンジメニューだけあるなと今頃になって恐怖したわけです」
師匠 「これはしゃーないよ、webの写真じゃそんなに多そうに見えないもんなあ・・・」

師匠 「おっ、店の前に到着だな」
おかでん 「はい。スポーツグリルビッキーズ、後楽園青いビルの1階にあります。おかげで、後楽園ホールのプロレスチケットをさばくダフ屋さんに『チケットあるよあるよ』ってつきまとわれて弱った弱った」
師匠 「入口に料理のサンプルが飾られているのかい?じゃ、これからチャレンジする1kgのハンバーグも陳列されてたんじゃないの?」
おかでん 「置いてなかったですね。通常メニューだけ。でも、180グラムステーキのサンプルを見て、『たった180グラムでこんなにデカいのか!1キロって一体どれだけデカいんだ!』って余計ビビってしまって、また胃袋がキューッと」
師匠 「縮みすぎだよ、君の胃袋は」
おかでん 「入口には満腹日本シリーズをクリアした人のポラロイド写真が貼ってありました。10月22日19時時点で、クリアしたのはたった11名です」
師匠 「あれれ、案外少ないんだな。PR不足でチャレンジャーが少ないのか、それとも本当にキビシいのか」
おかでん 「前者であって欲しいですね、一番楽そうなメニューということでハンバーグを選んだつもりなのに、それでシャレにならんキビシさだったら後が思いやられる」
師匠 「ここでまた胃袋が・・・」
おかでん 「キュキュキューッと縮みました。もう、どこまでが食道でどこからが十二指腸なのかわからんくらい縮んでしまいました」
師匠 「あ、そういえばおかでん君、聞き忘れてた。当然昼飯は抜いたんだよね?」
おかでん 「食べちゃいました」
師匠 「あ、食べちゃったんだ。それにしてもえらい余裕だな」
おかでん 「おなかすいちゃったんで。本当はおにぎり程度で済ませるつもりだったんですが、気がついたら鯖の味噌煮定食なんて食べちゃってました」

師匠 「・・・まあ、いいわ。で、お店に入ったと」
おかでん 「入りましたよ。客席数は154席あるんで、できるだけ人目に付かないところでひっそりとやりたかったんです。他人の好奇の目で見られる中やるのは苦手なんで。でも、通された席のすぐ近くで10名近い若者たちがわいわいとダベってるんです。ああうっとおしいなあ、と思いながら彼らの卓上をみると、えらくデカい皿が4つある」
師匠 「さてはチャレンジメニューか?」
おかでん 「どうやらそのようです。ますますうっとおしいなあ、と思いながらもやってきた店員に、小さな声で『満腹日本シリーズ、お願いします』と告げました」
師匠 「なんで小声なんだよ」
おかでん 「だって、横のワカモノ達に『ほー、この人も挑戦するのね、ガンバってねぇ』なんて目で見られたり、ヒソヒソ話されても不愉快なんで」
師匠 「相変わらずスケールの小さい男め」
おかでん 「そんなことはどうでもいいんです、で、この僕の決死の一言に対して店員はこう言ったんです」
店員 「すいません、今日はもう終わっちゃったんです」
がーん。
師匠 「バカめ!チャレンジ時間間違えやがったな!初歩的なミスやっちゃったか!」
おかでん 「待ってください、確かにチャレンジ時間は20時までとなっていて、現在時刻は19時10分なんですよ!?そんなバカな事はない、って猛烈抗議ですよ」
師匠 「そりゃそうだ、おかでん君に恐れをなして急きょ開催中止なんてやってんじゃねーゾ、って言ってやれ」
店員 「品切れなんですよー。ほら、あちらのお客さん(といって、10名近い若者達を振り返り)、いますよね。あちらで4名が挑戦されたんですよ。これでもう品切れになってしまいまして」
おかでん 「ありゃ・・・。ちなみに、大体いつぐらいに品切れになるんですか?」
店員 「そうですねえ、今日でしたら6時過ぎにあちらの方々がいらっしゃって注文されています」
おかでん 「ろ、6時過ぎ・・・。がっくり」
おかでん
「そんな事より師匠よ、ちょいと聞いてくれよ。大食いとあんま関係ないけどさ。
このあいだ、近所のビッキーズ行ったんです。ビッキーズ。
そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで大食いチャレンジできないんです。
で、店員に聞いてみたらあちらのお客様が注文してしまって、品切れだっていうんです。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
お前らな、食べきれればお代はタダ如きで普段来てないビッキーズに来てんじゃねーよ、ボケが。
肉1kgだよ、肉1kg。
なんか女連れとかもいるし。サークル仲間とビッキーズか。おめでてーな。
もう食べられないよー、とか言ってるの。もう見てらんない。
お前らな、肉骨粉1kgやるから食いきれないもの注文すんなと。
大食いチャレンジってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
サンプルより実物の方が量多いじゃねーかっていつ喧嘩が始まってもおかしくない、
刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。女子供は、すっこんでろ。」
師匠 「2ちゃんねる流行りのコピペをパクったな。デキはイマイチ」
おかでん 「でも、本当にその時はそう思いましたよ。仲間内の食事会での盛り上げツールとして利用されて、結局食べきれてないんですから。『大食い研究会』とかいうサークルの例会だったら、一度に4人がチャレンジしたっていいですよ。でも、どうせそんなワケないでしょ?こんな理由で、僕のチャレンジが邪魔されたっていう事実が、悔しくって」

おかでん 「結局、何も食べずに店を出ました。急いで次の店にいかなければいかんからです」
師匠 「もう19時過ぎだもんな、チャレンジを受け付けている店は、えっと・・・あれ、無いぞ」
おかでん 「そうなんです、店を飛び出てハタと気づいたんです。19時台もチャレンジを受ける店は、10店舗中ビッキーズだけだったんです」
師匠 「じゃ、もう今日はゲームオーバーじゃないの」
おかでん 「呆然としてしまいましたね。こんなはずじゃなかったと」
師匠 「ギリギリのスケジュールを組んでいるからなあ、1日無駄にしただけでも、致命傷だろ」
おかでん 「致命傷なんてもんじゃないですよ、即死ですよ。1日たりとも余裕が無かったんですから」
師匠 「じゃ、チャレンジを1回もせずに企画終了って事か。それはそれで面白いけどな」
おかでん「まあ、アワレみ隊OnTheWebであれだけ大風呂敷広げちゃいましたからね。翌日のHEADLINEで『不戦敗のまま企画終了!』ってやったら、アワレみ隊史上最大の裏切り行為って事で読者のヒートを買ってそれはそれで収拾がつかなくなりそうです」
師匠 「じゃ、まだ未練はあるわけだ」

おかでん 「そりゃ、ありありですよ。どうにかならんものかって。とりあえず、ダメもとで19時でチャレンジ受付終了のお店に行ってみる事にしました。まずは蕎麦屋」
師匠 「あの、3分33秒でもりそば9枚食えっていう奴だな?そば処葵だったっけ。」
おかでん 「そうです。で、店の中をのぞき込んでみると、そこではTV撮影が行われていました。よく目を凝らしてみると、やたらとデカい人がいる。あっ、ジャイアント白田だ!」
※ジャイアント白田:「TVチャンピオン・大食い選手権」「フードバトルクラブII」で優勝した、大食い界最強の男。21歳、大学生(2001年当時)。

師匠 「おお、大食いの取材か。なんだ、ちゃんと『満腹日本シリーズ』はPRされてるじゃないか」
おかでん 「ですねえ。でも、さすがにジャイアント白田氏の隣で、しかもカメラがあるところで大食いチャレンジさせろ、と言う勇気もなく、すごすごと退散」
師匠 「それで正解だよ、無謀すぎる」
おかでん 「じゃ他にどこがある?って事で、すぐ近くにあったハンプティーズに行ってみました」

師匠 「なんだ、この写真は。頭抱えているじゃないか」
おかでん 「クリアした人が一人しかいないんですよ、このお店。姉妹店の『ハンプティーズガーデン』でも同じ挑戦を受け付けているので、分散したのかもしれませんが・・・」
師匠 「それでまたビビったわけだ」
おかでん 「ええ、もう悪びれもなく言いますけど、ビビりました。ああビビったとも、何とでも言えコノヤロー。」
師匠 「落ち着けってば」
おかでん 「ハンバーガー1個のサイズが予想以上にデカかったのもビビった一因ですが、クリアした唯一の人が岸義行氏だったという事実にビビったんです」
※岸義行:この人も日本を代表する大食い戦士。「大食いオールスター大阪食い倒れ決戦」優勝者。
師匠 「ああ・・・そのレベルの人じゃないとクリアできないのか、という絶望感ってワケね」
おかでん 「これで、今日無理にこのお店に頼み込んでチャレンジさせてもらう気力はうせました。もっと胃袋を広げてからチャレンジしよう、と」
師匠 「結局、大食いチャレンジはできず、って事か今日は」

おかでん 「無念。無念じゃあああ。どうすりゃいいんだ、俺!ってことで頭を抱えて水道橋駅前の陸橋で雨にぬれてました・・・ってのがこの写真」
師匠 「なるほど、そういうシチュエーションなのか。・・・って待てよオイ。傘、わざわざ折り畳んで足元に置いてあるじゃないか。またヤラセ写真撮ったな!」
おかでん 「あっ、しまった」
師匠 「しまった、じゃないよ。緊迫感全然ないみたいだけど、結局どうすんのよ、今後は」
おかでん 「さあ、そこが問題なんですよ。21日時点では、こういうスケジュールで食べ歩こうと思っていました」
[10月22日(月曜)] ピッキーズ:キャッチャーミットハンバーグステーキ
[10月23日(火曜)] そば処葵:せいろそば9杯
[10月24日(水曜)] フェスタカフェ:オニオンマヨネーズドッグ9本
[10月25日(木曜)] ミスターパオ:必勝ラーメン3杯
[10月26日(金曜)] ハンプティーズガーデン:ベストナインプレーヤーズセット
[10月27日(土曜)] ウィナーズ:パスタ+ピザ各3皿
[10月28日(日曜)] ホットドッグイン:ホットドッグ9本& 和風レストラン花道:特大ジャンボあんみつ
[10月29日(月曜)] 仕事上の都合で活動できず
[10月30日(火曜)] ベースボールカフェ:メジャーリーグセット
[10月31日(水曜)] 仕事上の都合で活動できず
師匠 「ああ、全て予定通りに事が進んだとしても、どっちにせよ日曜日はダブルヘッダーだったわけね。後半2日が活動できないってのは痛いなあ」
おかでん 「そういうことです。さらに今日10月22日、まんまと1日無駄に過ごしてしまった」
師匠 「って事は?・・・ダブルヘッダーを2回しないといけないワケだな」
おかでん 「そういう事になります」
師匠 「本気?」
おかでん 「さあ・・・・・・・・」
師匠 「おーい、黙ってしまったな。バッテリー切れか?」
おかでん 「いや、大丈夫です。ちょっと考えていたんです。むちゃを承知で突撃すべきか、それともノンダメージでこの企画から撤退するか」
師匠 「まあ、じっくり考えることだな。個人的希望を言わせてもらえば、玉砕覚悟で突撃して、タイムリミットギリギリのところでかろうじてクリア・・・って方が面白いんだけど」
おかでん 「本当に悩んでます。もう少し考えさせてください・・・今日はもう眠いです、精神的にも肉体的にも疲れ果てました」
師匠 「肉体的にも?そういえば、君さっき『食べ疲れ』って言ってたな。大食いチャレンジできなかったのに何をやってたんだ?」

おかでん 「これです」
師匠 「あっ、この男は!結局酒に逃げやがったな」
おかでん 「ビールは結果論ですってば。回転寿司を食べただけです」
師匠 「・・・まあ、確かに、普段はビールを目の前にすると目を輝かせているおかでん君が、この写真だと苦笑いしてるもんなあ。なんか10歳くらい老けて見えるぞ、いつもより」
おかでん 「そりゃそうですよ、こんなはずじゃなかったのにって。水道橋界隈でメシ食って帰ろう、って同行の友人と雨の中彷徨ってたんですが、そういう一挙一動一つとっても『つい1時間前まではこんなところを歩いているなんてこれっっっぽっちも予想しちゃいなかった』ワケで。思わず友人に『おい、こうやって水道橋でメシ屋を探している、っていうシチュエーションを想像していなかった僕って想像力が貧困なのか?ダメなのか?』なんてイタタタな質問していたくらいで」

師匠 「で、せっかくだからと回転寿司をしこたま食いまくった、ってワケか。それはそれで自棄でいいよな」
おかでん 「いやー、自棄ってのはですネ師匠、『刺身7点盛り870円』だとか『鶏の唐揚げ』なんてメニューを個別に注文しながらビールと冷酒をぐいぐい飲むって事ですってば。お寿司に全く手をつけていないのに、お勘定用の皿がうずたかく積まれる快感といったら!」
師匠 「あー、それは自暴自棄だな、回転寿司屋で居酒屋気分か」
おかでん 「でも、今晩は『ハンバーグを食べる』つもりで体調を整えてきたわけだし、『完食してタダ飯とする』つもりだったわけで、それほど暴飲暴食はできなかったですね、気分的に」
師匠 「もし明日以降、続けていく気力があるんだったらどういう作戦で行くつもりだい?」
おかでん 「・・・まだ何も考えていませんが、とりあえず早い段階でダブルヘッダーをやっておきたいですね。平日でも、タイミングさえ合えば。そこで遅れを取り戻していきたいです、ただそれだけです」
師匠 「あ、そう。相撲取りのインタビューみたいに『頑張るだけッス』って言うかと期待してたのに。つまらん。」
おかでん 「頑張ってどうにかなってりゃ、とうの昔にやってますって!時間がねぇんだよ、時間が!」
【後日談】
撤退を本気に考えていたのは事実。一晩寝ないと結論がでそうになかったので、前回はああいった中途半端な書き方になったわけです。じゃ、こうしてこの文章が掲載されているって事は・・・?そう、続行ですよ、続行。タイムリミットになるまで食べ続ける決意を固めました。
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