会場の片隅では、ホイルにくるんだたけのこを炭火で炙っていた。ええのぅ、醤油をちろりと垂らして食べると相当おいしそうだ。
ひっきりなしに来場者がやってきては、「これ、食べられるの?」「いくら払えばいいの?」なんて聞いていた。しかし、それらに対する答えは「すいませんねぇ、今日はもう全部売り切れちゃってるんですよ」。
「いやだって目の前にあるじゃないの」「これは既に御予約済みでして」
なんていう会話が頻繁に発生する。紛らわしいから、「食券をお持ちの方はこちらへ」とか、「今日はもう売り切れです」なんて張り紙、すりゃいいのに。
片や、厨房では食券を既にゲットしている勝ち組の隙間を縫うように、食券を持っていない人がひっきりなしにやってきては「何?もう売ってないの?何で?」というゲリラ戦を展開していた。あちこちで食券にあぶれた人たちのゲリラな昼時。
写真上が、計量時におまけしてくれたたけのこ。プロの手によって掘られたものだ。
さすがプロが掘ったものだけあって、たけのこを覆う皮の色が薄い。頭のてっぺんの緑の毛もまだ本格的に生えていない。恐らく、地上に出る寸止め一本のやつを捕獲してきたのだろう。
ただ、大きくお辞儀をして湾曲しているので、商品として市場に出荷するには向かなかったのかもしれない。だから、来場者のおまけに回したのかな?こういう利活用はありがたい。
写真下は、頂戴した1本を含めた6本のたけのこオールスターズ。中には相当小さなものや、相当皮がどす黒いものがある。一番小さいやつに至っては、皮を剥いたら中身は何も残らないんじゃないか?鉛筆みたいな細さになりそうな気がするが、大丈夫だろうか。
でも、このチビは同行者が積極的に選んで持って帰った。なぜ、と聞くと、「家にある鍋が小さいから大きいのは茹でられない」という。なるほど、それはそうか。でっかいたけのこ獲ったどー、と喜ぶのはいいけど、ゆでる事まで考えないといけないんだな。
幸いおかでんにはキャンプ用の大鍋があるのでその点問題はない。
※たけのこを天日にさらすと、アクが出てえぐみが強くなるので基本的にやっちゃダメよダメよなのです。よい子のみんなは真似しないように。
たけのこ定食に未練を感じながら、平沢たけのこ村を後にする。まあ、こういう事もあろうかと、二重三重に食事候補のバックアップはとってある。別の店に行こう。
駐車場に行くと、あれほど混んでいたはずの車がすっかり減っていた。まだ時刻、12時半だぜ。都市部近郊の週末レジャーとしては、今この時間が一番楽しい時で混む時間じゃないか。なのに、もうみんないない。たけのこ狩りというレジャーならではだ。
でも、既に帰った人たちはどこへ行ったんだろう。即座に家に帰って、たけのこをゆでているのだろうか。そうしないと、今晩のおかずにならないもんな。
「大多喜町」で「たけのこ料理」が食べられるところをネット検索してみると案外見つからない。産地だからいろいろあるだろうと思っていたのだが、旬のものだし、そもそも周辺人口が多くない土地柄ゆえにお店としてはやりにくいのだろう。北海道の幌加内町で蕎麦屋が少ないのと同じか。
おそらく、この時期だったらふらりと入ったお店でも一品料理でたけのこを出していそうだが、そんな「入ってみないとあるかないかわからん」のはいやだ。たけのこ料理ありませんでしたー、ということで、しぶしぶカツ丼を食べる、なんていうのはなんとも冴えない。せっかく気分はたけのこなのだから、確実にたけのこを食べさせてくれるところに行きたい。
平沢たけのこ村からそれほど遠くないところに、たけのこ料理の店が2軒あることは把握していた。ただし、3,000円前後はしてしまうので思案のしどころだ。ランチで3,000円はさすがに躊躇してしまう。アラブの富豪でもないと、そんな価格でランチは無理だ。
結局、その二軒の横をそれぞれ通過したのだが、行列ができていたこともあって入店はやめにした。凄いな、このあたりは大富豪だらけだ。
その道中、道ばたをてくてくと歩く一匹の野良猫を見かけた。こんな民家もないところで何をしているのだろう。たけのこでも掘って生きているんだろうか。恐らく、先ほど見かけた一軒目のたけのこ料理店で残飯か何かを探して、次のところに移動している最中のようだ。縄張り、広すぎだぞ。たけのこパワーか。そういえばたけのこにはドーパミンやアドレナリンの材料となるアミノ酸、チロシンが含まれているんだったな。場所柄テンションが高い猫なのかもしれない。
たけのこ料理のお店を諦めて、そのまま道の駅に行ってみた。ここにも食堂はあり、たけのこのメニューがあるからだ。しかし・・・行ってみると、自動食券機には「売り切れ」のランプが。あちゃあ、どこもかしこも売り切れだな。狙っていた「当駅人気No.1」という「竹炭そばと華寿司のセット(筍・たらの芽天ぷら付きます!)」が・・・。
「たけんこカレー(たけのこが入ったカレーライス)でもいいよ」
と同行者が言うが、待て待て待て、そりゃ確かにたけのこが入っている料理だが、カレーは魔法の料理だ。何を入れてもなんとなくおいしくなっちゃう。せっかくの大多喜産たけのこが、「そこそこおいしい」食材になってしまうのはあまりに惜しい。
やけくそになって「スタミナ満点!大多喜いのしし丼650円」を食べようかとも思ったが、さすがにやめた。春の息吹を感じるたけのこ狩りの直後に、冬の味覚であるいのししを食べるというのは自虐的すぎる。
農産物直売コーナーに行ってみた。
こちらでは地元の方が握ったおにぎりが売られていた(らしい)のだが、すっからかんになったトレイが残されているだけ。完売御礼だ。なんだなんだ、イナゴの大群でも襲来したのか?俺様の行く先々、全て売り切れじゃないか。
あぜんとしながらその他の売り物を見る。おなか空いてるんですけどー。
箱詰めされたたけのこが売られていたので、見てみる。たけのこって、山積みになって「一本○○円」で売られているもんだと思ったが、ちゃんと段ボール詰めされ、ビニールで梱包されとる。さすが大多喜産、さすが高級品。「地方発送承ります」なんて書いてあるくらいだから、食べておいしい、贈って喜ばれる大多喜のたけのこ、ということなんだろう。今まで知らなかった。
気になるお値段はというと、2本で2,400円。えっと、1本あたり1,200円ってことか。さすがいい値段、するねえ。スーパーで売られている奴と比べて桁が一つ多い。
道の駅で食にあぶれてしまったわれわれは、「しょうがない、混雑覚悟でさっき見かけたたけのこ料理店に行こう」という事を決めた。時刻はもう13時過ぎ、さっきは店の外まで行列ができていたけどそろそろ潮が引いた頃だろう。
・・・と思って行ってみたら、うわあ、まだたくさんいるではないか。やっぱり、この時期の大多喜に来たからにはたけのこ、と燃えている人が多かったらしい、少々の行列程度では全然諦めずに、みんな神妙な顔をして並んでいる。
東京に住んでいたら、ラーメン店の行列はよく見かける。ディズニーランドのアトラクション待ち行列も見る。しかし、たけのこ料理店の行列ってのは初めてだ。
「えーいやだなー」
などと愚痴を垂れつつも、他に選択肢が無くなってしまったのでこのお店にお世話になることにする。店の名前はそのものずばり、「たけのこ」という。
ウェイティングリストに「おかでん参上夜露死苦」と書いておいて、店内を見渡す。
入口あたりはやや雑然としていて、ジャム類が売られている。そして、床には今朝採ってきたと思われるたけのこがどっさり。これも売り物だろうか。
なんでもこの店、自前の竹林を持っていて、そこからたけのこを刈り取ってくるそうだ。
「あれ・・・?」
店頭のベンチに座って順番を待っていたら、前方から一匹の猫がてこてこと歩いてきた。さっき、道を歩いているのを目撃したやつだ。ここまでずっと歩いてきたんか。1キロや2キロじゃきかない距離はあったと思うのだが。
見ると、相当貧相な身なりだ。毛はつやが無く、顔つきも貧乏がにじみ出ている。
われわれの前でちょこんと座る。何だこいつ。数キロ歩いてきて、何がしたかったんだ。野良の割には人慣れしている。見ると、首輪がついているので飼い猫らしいのだが・・・でも、この様子を見る限り、飼われていたけど捨てられた、というのが正解か。
さっきからしきりに物欲しそうな顔をする。おなかが空いているようだ。どうやら、まず1軒目のたけのこ料理店に行き、めぼしいエサが無かったのでてくてく歩いてこの2軒目までやってきたようだ。
「食べ物あげちゃっていいかな?おなか空いているみたいだし」
と同行者がいう。
「いや・・・野良猫だろ?餌やって、繁殖なんかしたら社会的に迷惑だからそれは・・・」
と止めたが、とはいえこんな山里で繁殖もなにもあったもんじゃない。まあ、いいか。
何をあげるのかと様子を見ていたら、鞄から台湾土産のパイナップルケーキを取り出したのには呆れた。
「いやちょっと待て、パイナップルケーキみたいなくどい食べ物は、さすがの空腹の猫でも食べないだろう」
しかし、実際に与えてみると、これがガツガツと食べるのだった。餌を貰うときはちゃんとお座りして、お行儀良く受け取るあたり、飼い猫の片鱗がある。
「美味いのかねえ・・・。猫の味覚ってのはよく分からん」
首をひねってしまうが、生きるか死ぬかの瀬戸際な猫にとっては、食べられりゃどうでも良いのだろう。
「少量でやめとけよ?猫にパイナップルケーキなんて、一種の動物虐待だ。こんなの与えたら早死にする」
と同行者をたしなめておいたが、でもこの野良猫、先は長くないだろうからなあ。絞首刑になる直前の受刑者にタバコを吸わせてやる、みたいな親心か。それにしてもこの猫、遠い異国の台湾銘菓を口にすることができるとは思いもしなかっただろう。しばらく食べたところで、猫は食べるのをやめてしまった。
「ほらみてみぃ、口に合わなかったんだ」
「おなかがいっぱいになったんだよ、きっと」
そんなものなのか。確かにこの猫、食事は中断したが、パイナップルケーキの周囲1m以上は離れようとしない。
この後、店員さんに名前を呼ばれたので、われわれは店内に入ることになった。
「ああ、地面にある食べ残しのパイナップルケーキ、片付けておいてよ。お店の迷惑になるから」
とおかでんが言い、同行者がパイナップルケーキを取り除こうと手を伸ばしたら・・・さっきまで日なたで日光浴をしていた猫が、猛烈な勢いで駆け寄ってきて「フーッ」と威嚇してきた。持っていかないで!これは私のだ!と主張している。
「ありゃ、本当だ。この後まだ食べる気だったんだ」
「とりあえず今回は見逃すが、われわれの食事が終わってお店を出た時点で、残っているパイナップルケーキは強制撤去」
と約束して店の中に入る。
後ほど、小一時間後に店から出てみると、既にパイナップルケーキは全部食べられており、猫もいなくなっていた。満腹になり食後の散歩に出かけたらしい。
「家がペット禁止じゃなかったら、連れて帰りたかったなあ、あの猫」
と同行者は言う。あんなかわいくない猫でも飼いたいのか。なんという包容力。マザーテレサと呼びたい。でも、頼むから勘弁してくれ。「家に連れて帰る」過程において、おかでんの車に乗せないといけないんだから。シートの上でおしっこでもされたら、僕は確実にこいつを海ほたるから東京湾に投げ込むだろう。
このお店、「たけのこ」という店名を名乗るとおり、看板メニューは「たけのこ御膳」となる。たけのこをあれこれ調理法を変えた料理がずらりと並ぶコースで、お値段3,000円。
他には、2,000円という価格帯で、「山菜天麩羅御膳」「たけのこ丼御膳」「たけのこカツ御膳」「たけのこから揚げ御膳」「山菜おこわ御膳」「いのししシチュー御膳」というのがある。
どの料理にも惹かれるが、あえて選ぶとなれば、単独勝負を挑むこれら2,000円の定食よりも、高くてもあれこれたけのこ料理が楽しめる「たけのこ御膳」を選ぶしかあるまい。
われわれ2名は空席の関係でカウンター席となったのだが、着席するやいなや、店員さんから「たけのこ御膳でいいですね?」と聞かれた。「良くないです、ボクはいのししシチューを」なんて言ったら「我儘言っちゃダメ。はい、たけのこ御膳二つご注文入りましたー」と一方的に話が決まりそうな勢い。とはいえ、こちらもたけのこ御膳に異議はないので、「ええ、それで」とお願いした。
このお店、愛想とかサービスっていう点ではあまり期待してはいけない。価格はそれなりにする店だが。
ただ、仕方がないといえば仕方がない。たけのこシーズン、しかも週末になると客が殺到だもの。そりゃお店の人も、てきぱきバキバキで仕事しなくちゃいかん。愛想なんて振りまいているくらいだったら、店頭に並んでいる大量の待ち行列を少しでも解消させる方が優先だ。
たけのこ御膳の注文が厨房に通ってしばらく待つと、テーブルにいろいろな料理が運ばれてきた。一つのお盆の上に乗って供されるものだと思っていたがとんでもない。次から次へと重厚かつ濃厚に料理を出すぜ、と相手さんは宣戦布告してきた。要するに、お盆程度には乗りきらない量を出す、というわけだ。心してかかれ、この店は弾幕が相当厚いぞ。
そんなわけで、「冷めていても大丈夫」な料理がこうして「スターターキット」としてまずは配膳されたわけだ。
既にこの段階で五皿あるわけだが、一体どれだけ皿数出す気だ?「たけのこ御膳」の中身を紹介したメニューや張り紙が店内にはないので、全く状況がわからない。
ええと、写真上は懐石料理の八寸に相当するものかな。本来なら、これをアテにお酒でも・・・いやぁたけのこ狩りお疲れっしたー、となるのだが、車を運転している以上そういうわけにはいかん。
そういえば、回りのお客さん、全員お酒は飲んでいなかった。場所が場所だけに仕方がない。来客全てが車で来ているはずだ。酒のつまみになる料理はテーブルの上にぎっしり、なんだけど、惜しいな。しかし、お酒なんて飲み始めたら、客回転が悪くなる。店がますます混むのであまり推奨はできない。
写真下の小鉢はれんこんとふき。蓮根、どうやったらこんなに白くなるのだろう。ヒアルロン酸で美白したのかな。
おっと、「スターターキット」の中にもたけのこ料理はあったぞ。これは・・・「煮物」と表されている奴だな。里芋、蒟蒻、人参、牛蒡。
土佐煮風になっていて、鰹節がたけのこにまとわりついている。食べるとこれがうまい。今まで食べてきたたけのこの土佐煮って、カツオ圧勝で、たけのこって風味が全然無かった。鰹節をおいしく頂くための「食感」を提供しているだけ、って感じだった。それがこれはどうだ、たけのこがしっかり味を主張している。さすが朝採れたけのこ(前日のものかもしれんが)、さすが大多喜。カツオざまぁ、あんたはいつも華やかな香りと味で料理を彩るが、たまには脇役になって下積みを経験するがよい。
写真下・・・おっと、これはお漬物だ。これ、今食べたら最後締まらないので手を出してはいかん。スターターキットだからといって油断禁物だ。
スターターキットの中には甘味も混じっていた。これもうっかり、新手のたけのこ料理と勘違いして手を出してしまいそうになるので注意。
難しいところで、じゃあバイトさんなり従業員を雇ったとしても、たけのこシーズンが終わると解雇しないといけなくなっちゃう。小数メンバーでこのシーズンをなんとか凌がないといけない台所事情。季節物を扱う店って難しいな。
スターターキットがきて、これだけでも結構なボリュームだなと連れと話をしていたら、次に大きな白い陶器の皿がやってきた。一体何が始まるんです?
そのわざとらしく大きなお皿の上には、ででーんと巨大なたけのこの輪切りを1/2にしたものが。ええと、これ、何ですか。
何しろ手元にはお品書きがないので、コレがナニなのかさっぱり。実際に食べてみたり、前後の料理から推定して、ようやくこれが「たけのこの刺身」である事を同定した。
ふぇー、これが刺身なのか。「刺身」と聞いて普通思い出す、切り身とは全く違うデカさ。このデカさこそが自家竹林を所有する強みだ!くらえ!たけのこフリスビー!という趣旨なのかもしれんが、いくらなんでもデカすぎだぞ。もう少しバランスってもんを考えても良いと思う。しかもこれ、ナイフもフォークもないので(刺身だから当然だ)、箸でつかんでかぶりつくしか食べようがない。オレ様のような女性には何とも食べづらい調理法だ。すんませんうそつきました、オレ様は男ですけど。
たけのこのお刺身といえば、普通はわさび醤油で頂くものだが、ここでは甘味噌を使っているのが面白い。わさび醤油でのたけのこ刺身はだんだん飽きてくるのだが、この甘味噌だと案外これだけの量をぺろりと食べることができた。たけのこが旨い、というのもあるのだろうが、これは良いなあ。
写真下は山菜天麩羅。冷めていたのが残念だったが、食感よろし。
右側にきつね色をしたものがさりげなく添えてあったので、何だろうと思って箸を伸ばしてみたら、これがたけのこの唐揚げだった。おっとこんなところにもたけのこ料理が。ウォーリーを探せ状態だ。たけのこって唐揚げにしても美味いのは新発見だ。これ、スーパーのお惣菜売り場で売られていてもよいとおもう。
また白い大きな陶器の皿で何かが運ばれてきた。
お皿は蕎麦の実の形をしていて、無駄にデカい。この頃になるとテーブル上は既にお皿でいっぱいであり、次の料理が届けられる都度、客は食べるのを中止して「お皿整理」をしなければならなくなる。はっきりいって、食事に集中できん。
・・・いや、あんまり食事に集中しすぎるのも考え物なのだが。なぜなら、出てくる料理はたけのこ尽くしであり、悪く言えば「たけのこばっかり」だ。料理に集中しすぎると、食材に飽きる。たまに、「お皿の置き場所変更」とか「食べ終わったお皿を積み上げて整理」といったイベントが入ると、ちょうどよい「箸休め」になる。
で、料理はこれまたデカいたけのこ。根元の部分を輪切りにした半分がデデンと横たわっている。またお刺身?といぶかしんだが、どうやらこれは「たけのこステーキ」らしい。
ドミグラスソースがかけられていたのが面白い。あと、添え物もたけのこなのだが、切り方の関係できしめんみたいな麺状になっていたのが面白かった。
このお店、アイディアは良いんだよなあ・・・でも、センスは決して良い方ではない。
このステーキも、刺身同様箸でつかんで丸かじりしちゃってください、と。たけのこ掘りやってきたんだろアンタら?ワイルドにいこうぜ、というお店からのメッセージと捉えよう。
隣では、連れが一生懸命「箸でたけのこを割ろう」としていたが、当然のことながら無理だった。箸が折れそうなのでやめさせた。
とはいえ、「たけのこステーキ」を名乗る以上は、ある程度のサイズがないと意味不明になる。「たけのこサイコロステーキ」なんて作っても、絶対お客は「ステーキ」とは見なしてくれないと思う。これくらいのサイズで提供して正解。食べにくいけど。「お箸でも切れるたけのこステーキ」・・・というのは絶対無理だろうな、食材が食材だけに。
お次にやってきたのは茶碗蒸し。さすがにこの料理で器が無駄にデカいというのはあり得ないだろう。だって、「茶碗」蒸しだもの。小さい器でほっとする。お皿移動は最小限で済んだ。
中を見ると、ここでもたけのこ大暴れ。茶碗蒸しの具の概念を根底から覆すサイズで、お茶碗の中で楽しそうに陣取っております。あのですね、もう少し薄く、とか小さく、という発想は無かったのでしょうか。
花びら型の白い器が来たぞ、と思ったらたけのこご飯だった。
この皿がまた無駄にデカい。花びらがぶわーっと広がっている器なので、周囲を圧迫する。ここでまた、テーブル上でお皿のデフラグ開始。今日で何度目だよ。
ここでもたけのこを大きく切って提供する「これでも食らえ」スピリットは健在。ブランドたけのこを「無駄にでかく」切り、調理できるというのはなんとも凄い話だが、それによって「無駄に美味く」なるかというとそうではないのが難しい。たけのこ、デカすぎて口の中でご飯と全く馴染まないんですけどー。ご飯食べて、たけのこ食べて、の交互。これはもはやたけのこご飯ではない、「たけのこ+ご飯」だ。
おお、何だかだんだん口調が偉そうになってきたぞ、おかでん。お前は単なる一お客に過ぎぬ。まあみそ汁飲んで落ち着け。
たけのこのお味噌汁がご飯と一緒に出てきたので、いただく。たけのこって案外汁物にしたら強い味がでるんだな、と今更ながらちょっとだけ感動。逆に、今まで食べてきたたけのこってなんてヘロヘロだったんだと呆れる。いやあ、力強い味だわ。
ただ、願わくは切り身をもう少しですね、小さく切ってくださるとですね、ありがたいんですが。これ、どの料理についても同じことが言えるんですが。お客が口に含んだ時の味と、食感のトータルバランスを完全に無視しているところが素敵すぎる。ここまでくると確信犯だな。お年寄りはたけのこを喉に詰まらせないように注意。よく咀嚼しましょう。
ホイル包みのお皿がやってきて、またお皿の移動(以下略)。
中を開けてみたら、かぐや姫が姿焼きに・・・いや、そんなスプラッターな事は当然なく、石焼き芋が入っていた。・・・でもなく、石焼きたけのこだった。ホイルにくるんだ時点で、石焼きだろうがオーブンだろうが炭火だろうがあまり関係ない気がするんだが、どうなんだろう?
味噌で頂くのだが、今まで食べてきたたけのこ料理の中で一番シンプルかつ美味かった気がする。美味さ凝縮、って感じ。凝縮、というか、調理過程で美味さを逃がしませんでした、というのが正解か。しっとり、ほくほく、という食感も良いし、味も申し分ない。濃厚な味と香りがうれしい。木の芽なんぞをちょっと散らすとなお良しだと思う。
ただ問題なのは、これが出てきたのがご飯やらお味噌汁などが出てきた後、ということだ。その結果、「もう満腹なんですけど・・・。空腹の時に食べたら、また違った感動もあっただろうに」と嘆くわれわれ。お客さんによっては、箸すらつけられず、丸ごと残している人もいた。
とにかくこのお店、写真を見ても分かるとおり、料理の数と量が多い。しかもたけのこという食材をひたすら使うので、いくら調理をかえようとも、味に飽きやすい。食べている方はリアル「食い地獄」なのだった。
お店から料理の説明がないので、料理が出そろったのか否か、客側にはわからない。しばらく待っても厨房から新手の刺客が来ないとわかり、ようやく「どうやらこれで全部らしいな」と分かる。状況判断しかない。
全部の料理が出そろったところでのカウンター席の写真。テーブル上のアジシオの容器が隣の人との境界線。どれだけ皿数が多く、場所をとっているかが分かると思う。もちろんこれは、新手のお皿が登場する都度デフラグを行った結果のもの。こういう形でなんとか収まるまでにはいろいろ苦労した。
感心なのは、これだけの皿数を大勢のお客に、段階的に提供しているにも関わらず、お店の人は配膳ミスが無かったということだ。うっかり一皿提供しそびれた、なんて事がボロボロ起きそうなものだが、ちゃんとできていたのは素直に凄いと思う。
ただ、店内数十席の100%が「たけのこ御膳」を食べているという、何だか学校給食状態ではあったが。これが、「オレは別の料理」なんてバラバラに頼み始めたら、とたんに厨房と接客担当は大混乱すると思う。お客とお店が二人三脚で、この混雑状況をなんとか処理しているといえる。
おかでんは全部のお皿を空にしたが、同行者は写真のようなありさま。「もうこれ以上は食べられない」とギブアップした。
たけのこ掘りにおいては、おかでんよりも体力を発揮し鍬を振り回していた奴だったが、それでもこれだけ残すという現実。
「ダメだよ若いのに残しちゃ」
とは言ったものの、これだけの砲撃を受けたら、そりゃ矢折れ刀尽きて食べきれないわな。事実、周囲のお客さんの大半・・・ほとんどかな?・・・は食べ残していた。「食べられないよ、こんなに」なんて苦笑いして引き上げていくお客さんが大半。
このお店が良心的なのは、食べきれなかった時の為のお持ち帰り用パックを用意してくれているということだ。あれだけ大量に料理を出しておいて、「保健所からの指導がありますので持ち帰りはダメ」って言ったら稀代のヒールキャラクターになれたんだが、お持ち帰りOKだった。
で、同行者はそのパックいっぱいに料理を詰め込んでいた。
おい、パセリとかの彩りのものは入れなくていいだろ?」
「いや、こういうのを入れた方が奇麗だろうなと思って」
確かに、彩りがないと、あまりにパックの中はタケノコだらけでなんだか怪しい風体だった。あらためて、なんてタケノコだらけなんだ、と呆れた。さすが「たけのこ御膳」という言葉に偽りはなかった。むしろ、「ドキッ!たけのこだらけの食事大会」というメニュー名にしてもよかったくらいだ。
そんなわけでお店を後にしたわけだが、なかなか微妙なお店と料理ではあった。もう少し量を減らして、2,000円で提供してくれれば最高、というのがお客の立場。とはいえ、短いたけのこシーズンでそれなりの収益をあげないと、年間通じてのお店の経営は大変だろう。だから、3,000円という客単価もやむを得ないのだろう。ここで、「量は少ないけど3,000円」だったらぼったくりだが、「量が多くて、3,000円」なら良心的だ。お客としては文句のつけようがない。
大多喜に、もっと気軽に、あれこれたけのこ料理を食べることができるスペースがあれば良いのだが。もったいない。SAの軽食コーナーみたいにしてもよいし、野外イベントで見かける屋台形式でもよいと思う。
そもそも、大多喜町が「たけのこ祭り」といったイベントをやっていないのが不思議だ。前後にさくら祭りとレンゲ祭りがあって、タケノコが割って入る余地がないのかもしれない。
たけのこ狩りは面白い。ただし、帰宅してからもたけのこ狩りは終わりじゃないぞー、ということを忘れてはいかん。刈り取ったたけのこ、ちゃんとゆでて処理しないと。
そのためには大鍋が必要。ぬかと米のとぎ汁、唐辛子を入れてゆで、一晩そのまま冷ます。大多喜のたけのこはえぐみが少ないということなので安心。
しかし、案の定えぐみバッチリ。ぬかが足りなかったのと、刈り取ってからゆでるまで半日以上時間が空いたのがいけなかった。えぐみは時間の経過と共に増える。「鍋に湯を沸かしてからたけのこ狩りを始めろ」という言葉があるくらいだから、ゆでるのが遅かったようだ。
結局、再度ゆで直すハメになった。
味はさすがに自宅においても大変によろしゅうございましたが、なにせ持って帰ったのが大小あわせて3本だ。これ、一人暮らしの身としてはどうすんのよ。それから数日は、ひたすらタケノコ尽くしの毎日となった。お店で「たけのこ御膳」を食べ、「しばらくはタケノコはもういいや」と思った直後にこうなるとは。
でも来年もまた、タケノコ狩りには行きたい。次は収穫して1時間以内にゆでる事を目標に。
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