ますゐ全メニュー制覇プロジェクト(その2)
サービストンカツますゐ全メニュー制覇の話に入る前に、ますゐにおいて最も重要なパーツである、通称「ますゐソース」について言及してみたい。
そのインパクトの強さは、前回PART1にてお伝えした通りだ。化学調味料入りのラーメンが無性に旨く感じる時があるように、このますゐソースはわれわれのハートを鷲掴みにしてやまない。
最初の写真は、ますゐソース基本形を示したものだ。即ち、カツ系にかかっているパターン。
これは、ますゐ名物のサービストンカツ(ライス付き)だ。せっかくかりっと揚げたはずのカツの衣が、びしょびしょになるまでソースがかかっている。
そう、ますゐソースはカツの衣と非常に相性がいい。
しかし、だ。
問題なのは、その他のメニューにも当たり前のようにソースがかけられていることだ。しかも、情け容赦なく。そう、ますゐで食事をする、ということはますゐソースを楽しみに行く(もしくは犠牲にあう)という事に他ならない。
普通のトンカツ屋みたいに、ソースはお好みで自分でかける・・・なんて事はこのお店では許してくれない。秘伝のますゐソースが始めっから、どばぁとかかっている。
この写真は、「上タンシチュー」だ。350円でトンカツライスが食べられるこのお店にしては高級メニューで、何と1,100円もする。(筆者後注:2003年時点では、値上がりして1,300円になっている)
だからだろうか、キャベツの温野菜のかわりに、ケチャップスパゲティが添えられている。おお、豪華!
・・・にも関わらず、ますゐソースがかかっている。ごくごく、当たり前の光景。
で、結局食べるわれわれは、「ますゐソース」を食べているにすぎず、中の食材ってのは「食感が違う」だけの差になってしまっているという事実。まあ、それは冗談としても、それくらいますゐソースが強烈なのだ。大体、なんでカツと牛タンが同じ味付けになっとるん。オカシいぞ、それ。
さすがに、ますゐソースに毒され過ぎてしまったので、「さすがにコレにはソースがかかっていないだろう?」と「鶏の水炊き」を頼んでみたのだが・・・
ああ、よかった。
さすがに、「水炊き」にますゐソースがかかっていたらどうしようと思った。水炊きは水炊きだった。付けて食べるタレも、ちゃんとしたポン酢であって、ますゐソースの濃厚な味わいがドドドと迫ってくるような事は無かった。
でも、真剣にそこまで心配しなければならないくらい、強烈だって事だ。おわかり頂けただろうか。
しかし、この水炊きを頼んだ奴は、「・・・何か物足りない。何でますゐに来て水炊きを食べてるんだ、俺は」と不満たらたらだった。そう、せっかくだからたまには違うモノでも食べるべぇ、と敢えてマイナーメニューに手を出してみたものの、やっぱりますゐジャンキーにとってはあのソースの味は禁断の味。忘れられなかったらしい。
この記事を書くにあたって、せっかくだからとますゐジャンキーの皆様に電話アンケートを実施してみることにしよう。
質問(1)「あなたにとってますゐソースとは一体なんですか?」
質問(2)「ますゐソースは、どんな料理と一番相性がいいと思いますか?」
さて、どういう回答が返ってきただろうか。
・・・
がーん。誰とも電話が繋がらなかった・・・。正直、ショックだ・・・。
わざわざこんな馬鹿話のために相手の携帯に電話をし、プライベートの邪魔をしちゃあ悪いと思って敢えて自宅の電話に連絡を取ってみたのだが。
まず、「電話番号が現在使われていません」という輩が数名。おう、いつの間に変わっていたんだ。携帯主流のご時世、携帯番号は周知しても自宅番号の周知ってしていないのね。
あと、まだ21時30分時点では帰宅していなかったのか、呼び出しっぱなしになっている奴数名。
さらに、変な音楽がバックに入って「ただいま留守のため電話に出られません」とほざいている留守番電話を聞く羽目になること1回。
話し中の奴2名。
だー。お前らぁ、ますゐジャンキーならばこっちの呼び出しに即座に反応せんかぁ!
しゃーないので、話題を変更。
実はこの強烈なソース、実は隣の精肉コーナーで頼めば売ってくれる。ということはどういうことか?そう、自宅でもあのますゐの味を再現できるのどうゎ!どうだどうだ、えへんえへん。
いや、僕が自慢してもしょうがないのだが、でもあの「秘伝の味」が我が家にやってくるとどうなるのか、考えただけでもゾクゾクしてくる。
って事で買ってみました、実物を。
精肉コーナーで注文するとき、一瞬言葉に詰まってしまった。何の気なしに「すいませーん、ますゐソースください」と言おうとしたのだが、よく考えてみると「ますゐソース」なんて名前はわれわれだけのローカルネームなんだっけ。
「すいませーん」と店員さんを呼んでおきながら、しばらく言葉に詰まってフガフガやること数秒。店員さんが怪訝そうな顔をしだした頃になって、ようやく
「え、えっと。あの、隣のお店で、カツにかかっているソースありますよね、あれが欲しいんですけど」
としどろもどろで言うことができた。
言った後も、店員さんから「フザケるな、秘伝のソースを誰が売るモノか。帰れ、帰れ!」ってどやしつけられるのではないかと恐れていたのだが、何のことはない、すっと購入できた。
しかし、もちろんお品書きにあるメニューではないので、何やら医薬品のシロップでも入っていそうな容器に入れられて手渡された。おお、容器はいかがわしいが、中に入っているのは紛れもない、あのますゐソースちゃん!
早速、その日の晩、「ますゐソースはどこまで普通の料理を圧倒するか」というテーマで実験をおこなってみることにした。
たまにしか帰省してこないどら息子に愚痴をいいつつも、喜んで料理をいろいろ作ってくれた母。
でもね、悪い!ますゐソースをかけさせてもらうよ。
・・・こういうのを、真の親不孝という。
でも、もう引き返せないところまできちまったんだよ、母さん!
<Round1 鶏ささみ肉の蒸し鶏>
さらしたタマネギと、アスパラガスと、トマトが添えられております。
さあ、ファイト。
・・・口に広がるますゐワールド
いやぁー。ますゐソース、圧勝。予想はしていたものの、ここまでますゐになってしまうとは思わなかった!ますゐに蒸し鶏なんて存在しない。でも、こうやってますゐソースがかかっていると、さもこういうメニューがあるんじゃないか、という気にさせられる。
っていうか、これ「ますゐ」の料理じゃん。
・・・この瞬間、子を思う母親の手料理は、ますゐ料理になってしまった。
母さん、御免よ!母さんが悪いんじゃないんだ!でもね、でもね、ますゐの味しかしないんだぁぁぁ。
あわてて、付け合わせもソースにからめてみたのだが。
ううむ、野菜でさえも、ますゐ味に変えてしまうパワーの強さ。ゆで野菜であるアスパラを食べても、生野菜であるタマネギを食べても、ますゐの味しかしないや。唯一、トマトはその酸味で拮抗しようとしたのだが、「単にマズイ」という一言で却下。不戦敗。
<Round2 冷や奴>
さすがにこれをやるのは気が引けた。食材を冒涜しているような気がしたからだ。蒸し鶏にソースをかけるのと、全く訳が違う。
でも、冷や奴にしょうゆをかけるのが「冒涜ではない」と判断され、ますゐソースをかけるのが「冒涜だ」と判断するというのは偏見だ。ひょっとしたら美味かもしれないじゃないか。
味の探求をして何が悪い、別にお百姓さんを馬鹿にするためにこんな事をしてるんじゃネーゾと開き直り、でもやっぱりちょっと深呼吸してからソースをどばー。
あああああ。
味噌田楽みたいになってしまったけど、さて。
ん?あれれ?
味が拮抗している。大豆のうまみと、ますゐソースの濃厚なまったり感が・・・口の中で混じり合わず、お互いがお互いの主張をしている感じ。
旨いか?と言われると、そりゃあ旨くありませんや、と声を大にしていいたい。味が合うわけがねーだろ、とも言いたい。(ところで、誰に言いたいんだ?自業自得だろうに)
しかし、ますゐソースの圧倒的パワーをくい止め、飲み込まれ無かったのだから立派としかいいようがない。「牧場の肉」はますゐソースとよく馴染み、旨い。しかし、「畑の肉」で作った豆腐は、ソースと馴染まず、かつソースと同等の主張を口の中でする。
そんなに大豆の味がしっかりとした豆腐じゃなかったはずなんだけどなあ。ますゐソースという異文化が流入してきたものだから、急にやる気を出したのだろうか。いつも以上に豆腐が頼もしく味わえたのは事実だ。やればできるじゃん、豆腐!
味という点では問答無用でマイナスポイント贈呈なのだが、ますゐソースと対等に戦えたということで、豆腐の勝ち、としたい。
<Round3 ご飯>
ご飯といっても、この日は赤米だった。
やっぱ、食事のシメはおいしいご飯でビシっとしめたいじゃあないですか。特に、お酒を飲んだ後なんて。
お茶漬け。いいですねぇ。
おみそ汁とご飯。これもまたいいですねぇ。
では、ご飯の上にますゐソースをかけてみると?
・・・
やる前から結果はわかっとったわい、ますゐソースがこれ以上ないほど大暴れ!もう、ダントツでますゐソースの勝ちなんである。そのまったり感は、ご飯を全て覆い尽くしまったり底なし沼に引きずり落とそうとする化け物の手、といった感じだ。ご飯が進むのは確かだけど、シチューにご飯を混ぜて食べる料理以上にくどい。最初はいいのだが、お茶碗1杯食べ終わる頃には「うう、もういいや・・・」という事態になることは確実。
よって、ますゐソースの完勝。
一体何をやってるんでしょ、僕は。
母親は呆れて遠くからこっちを眺めていた。母さん、そんな目で僕を見ないでくれよ、母さん!
このソースをいろいろな料理に投下してみて、そこで華々しく展開されるであろう創作料理をネタにしようと腹算用していた。
しかし、肝心のソースを実家の冷蔵庫に入れたまま放置してしまい、帰京の際に持って帰るのを忘れてしまったのであった。母親は「宅急便で送ろうか?」と親切に言ってくれたのだが、まさかこのソースのために送料をいくらかかけて(しかもクール宅急便で、だ)、ってのもバカバカしかったのでお断りした。
・・・数カ月後、母親と電話でやりとりしていたとき、ふと思い出したかのように母親がこう言った。
「あのますゐのソースね、冷蔵庫にずっとしまってあったんだけど、もう腐っているかもしれなかったので捨てちゃったよ?」
ああ、無情。
(つづく)
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