広島焼きではない。これがお好み焼きだ。(その2)
お好み焼きはしばらく放置。ここからは野菜の蒸らし作業に入る。
キャベツともやしから出る水分で、自らを蒸し焼きにする。そうすることで、甘みが出るという算段だ。だから、広島のお好み焼きにおいて「生地」という存在は「蒸し焼きをするためのフタ」という意味合いが強い。
ただ、広島のお好み焼き業界の中ではここで流派が二つに分かれる。「蒸らすに任せよ」という放任主義・甘さ重視派と、「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」とばかりにぎゅうぎゅう野菜を押さえつける派だ。最近は前者の方が主流派を形成しているようだが、昔ながらの店はお好み焼きターン後、力いっぱい生地を押さえつける。ヘラで押さえるだけじゃ飽きたらず、鈍器として凶器になりうるくらいの重しで押さえつける店もある。この方法のメリットは、焼き上がりが早いということと、野菜の水分がよく放出され、ベタついた仕上がりを回避できるということだ。「押さえない派」の作り方だと、えてしてべちゃついた仕上がりになるので、どちらの流派も甲乙つけがたいところだ。
カッチョエエ店だと、ここで「野菜が焦げる寸前までゆっくり蒸らしまくる。限界まで蒸らす。俺じらされまくり」な寸止め一本の技術を持っている。野菜が焦げると急にまずくなるので、焦がしちゃいけん。店によっては15分くらい蒸らしてるんじゃなかろうか?というところもあり、一体鉄板の温度はどうなっとるん、と気になって仕方がない。
しかし我が目の前のホットプレートはというと、既にキャベツに焦げ色がつき始めとる。やべえ、もう限界か。やたらと時間が早かったなあ。160度に設定していたのだが、肉を焼く際に220度まで上げたので、そこから温度が冷めるまでタイムラグがあったようだ。あっけなく野菜が焦げ始めた。
慌てて焼きそばの準備にかかる。今回は、スーパーでこれしか売ってませんでした、という蒸し麺を一人1玉。さすがにそばダブルは食べられんし、作れん。そんな技術はまだない。
お好み焼きに使う麺には3種類ある。「ゆで」「蒸し」「生」の3種類だ。
「生麺」は、ラーメン同様、お店の寸胴で生のものをゆで、ゆで上がったものを鉄板に投入する。麺としては一番うまいし、カリッ、もちっとした仕上がりになる。最近はやりの「パリパリした麺のお好み焼き」を作るなら、これ。ただし、麺は値段が高いし、厨房設備としては麺ゆで用のコンロや寸胴などが必要となるので、「ある程度客単価を高く設定できる店でないと、採用は厳しい」そうだ。
「蒸し」は一般的におなじみの麺。マルチャンの3食入り焼きそばに使われている麺、といえば話は早い。安い、楽ちん、ということで使われるが、味は落ちる。
「ゆで」・・・?知らない。見たことがない。オタフクの研修で初めて聞いた。オタフクの師匠いわく、一番よく使われている麺なんだそうだ。広島以外じゃあまり見かけないと思うが、広島じゃメジャーなんだそうだ。何だかさっぱりわからんので、今んところコメント自重。(後述します)
とりあえず今回は「蒸し麺」。
お好み焼きに使う麺はラーメンみたいに麺のコシが必要なわけではないので、かん水の使用は控えめ。だから、お好み焼き用のオリジナル麺を使うのが望ましいらしい。知らなかった。今回はこれしかスーパーで売られていなかったので、普通の焼きそば用蒸し麺。
こいつを鉄板に広げ炒める。
生麺のようにぱりっと仕上がらないが、蒸し麺ならではのほんわか感が得られる。
ある程度火を通したところで、お好み焼きのサイズにあわせて形を整える。
こういう手間がかかるので、ホットプレートで一度に作ることができるお好み焼きは1枚となってしまう。よっぽど手際が良いか、キッチンのフライパンを併用すれば同時2枚もできるとは思うが、素人レベルでそこまでうまくいくとはおもえん。大人しく1枚ずつ、焼くのがよろし。
よって、家族4人で今晩はお好み焼き!なんていうのはちと難しい。「パパおなか空いたよ!」って子供が泣き叫びはじめるに決まってる。
シャキーン。
お好み焼きとそばがドッキング。
合体は男のロマンだが、お好み焼きはまさにそうだ。合体・変身ロボのアニメがめっきり減った昨今、ぜひ「オコノミーマン」という合体アニメをやって欲しい。で、超合金のオコノミーマンをおもちゃ屋で売って欲しい。
バラエティも豊富だぞ。イカ天アタック、とか必殺技を作るのが容易だし、オコノミーマンは敵に応じて「肉玉そば」から「肉玉うどん」になったり、強敵の時には「肉玉そばダブルねぎかけ餅トッピング」なんていう重装備で出陣とか。
妄想たくましくしながら、生地の上からへらで押さえつける。ある程度ここで押さえておかないと、そば部分と野菜部分とで分離してしまう。一体感を出すためには、少々押さえておきたい。
お好み焼きの階層構造で最上階に位置するのが、玉子。
生玉子を鉄板の上におとし、黄身を割りつつへらを使いながらお好み焼きサイズにのばす。ここで手際よくしないと、単なる玉子の生地がお好み焼きに載っているだけ、になってしまう。半熟のままお好み焼きとドッキングさせ、融合させないといかん。
・・・のだが、あれ、黄身が割れない。プラスチックのへらを使っていたのだが、そのせいで新鮮な卵の黄身が割れないのだった。もたもたしているうちにどんどん白身が固まってきてしまった。うへー。
しかも、玉子を丸く、大きく20センチ近いサイズまで広げようと思っても、鉄板には既に場所が残っていない。ホットプレート一枚という広大な土地を与えて貰ったにもかかわらず、場所不足になるとは・・・。参った。
もたもたした結果、いびつな玉子になったが仕方がない。
その玉子の上にお好み焼きを移動させ、ワンテンポ置いてターン。コレで広島のお好み焼きは完成となる。
店によっては、玉子が半熟のまま、黄身がこぼれ落ちるくらいの状態で提供するところがある。また、黄身を潰さず、そのままお好み焼きをドッキングさせる店もある。この辺りは店それぞれ。
さて、「お好み焼き おかちゃん」のお好み焼きはというと・・・うわちゃー。なんじゃこりゃ。玉子が広がらなかったため、お好み焼きを覆い尽くせず、内臓剥きだし状態。恥ずかしい、こっち見ないで。
これは失敗作と言わざるを得ない。オタフクのお師匠さん、ごめんなさい。
おっかしいなあ、研修施設ではきっちり作ったんだが、環境が変わると全くド素人な仕上がりでやんの。
言い訳すると、この鉄板ダメ。あと、厚みのあるプラスチックのヘラもダメ。しかもヘラの一つは、魚をひっくり返すための幅20cmくらいあるやつだったし。・・・と、「弘法筆を選ばす」とは真逆の事をくどくどと語り続けるおかでん。
オタフクお好みソースをかけ、青のり、白ごまも振りかけて完成。
まあ、こうすると一応お好み焼きっぽくなった。
オタフクのお師匠さんいわく、「ソースは40度くらいの温度が一番味が引き立つ」んだそうだ。なるほど、お好み焼き店に行くと、鉄板の上にソースが入ったピッチャーが置かれているが、あれはそういう意味があったのか(もちろん、暖めると粘度が下がり、生地に塗りやすくなるというオペレーション上の理由もあるけど)。
オタフクは甘すぎる、と県外の人からの意見がありますよね、と水を向けてみたら、お師匠さんは「甘く作っているのではなく、他の辛味や酸味を抑えているのでそう感じるのですよ」という事だった。へーへーへー。なるほどー。
さー、ここで最後のびっくりどっきりメカ。
広島でお好み焼きを食べるといえば、箸でもいいけどやっぱりコテで食べたい。
コテとは、関西でも広島でも使われる方言で、標準語で言うところの「ヘラ」、英語で言うところの「ターナー」だ。
広島のお好み焼きは、「鉄板焼用のヘラ以下、もんじゃ焼き用のヘラ以上」の小振りなコテを使って食べる事がある。もっぱら、鉄板の上からそのまま食べる際に使われるアイテムだ。お好み焼きを切り刻み、その勢いを駆ってお好み焼きをすくい上げてそのまま食べる事ができる便利グッズだ。
ただ、こういう食べ方は他地方ではあまりないらしく(広島人には全く自覚がない。おかでんも同じく)、観光客は大抵このコテで唇を火傷する。「処刑の時間だ!」と書いて「ジャッジメント・タイムです」と読む。
このコテが優れているのは、重ね焼きのお好み焼きを層ごとまるごと口に運び込む事ができる事だ。おかげでお好み焼きを大層おいしく召し上がることができる。まさにボーナスステージ。しかし、普通に箸で食べると、大抵お好み焼きがほぐれてしまう。その結果、「広島のお好み焼きって焼きそばじゃん」とか、がっかりな印象を持ってしまう可能性も出てくる。郷に入っては郷に従え。広島でお好み焼きを食べる機会があったら、是非コテを使ってみてほしい。
一枚目を母親にだし、すぐに自分が食べる二枚目を焼く。
二枚目も結果的に同じようなでき。ほら、写真を見ると、「堅焼きそば?」というできになっている。うーん、うーん。どうしたものか。
鳴り物入りで購入したコテだが、よく考えてみると、お皿に盛ってしまうとコテってほとんど使いようがなかった。お皿がぺったんこならまだしも、外枠が持ち上がっている「ヤマザキ春のパン祭り」のお皿。底が立体構造だとヘラが皿底まで届かず、全く通用しない。しまった、作戦失敗。
かといって、ホットプレートは既に「余った生地と野菜を使い切るため」に次の調理が始まっており、えーと、このコテ、買っただけ無駄だったんでしょうかどうなんでしょうか。
結果的に、400数十円、日本の景気回復に貢献したってことで。
味。肝心の味だが・・・
うわあ、やたらと野菜がべちゃついている。うーん、お好み焼きの体裁は整っているんだけど、野菜ゾーンが水っぽくて、そのせいでお好み焼きがバラバラ。そばが「俺はこいつらと連立は組めない」と与党から離脱したがっている。待て、待ってくれ。
おっかしいなあ、研修で焼いた時はこんなのは全然気にならなかったのに。「野菜を蒸らす」ということは、それ即ち水っぽくなって当然なのだが、水気が抜けるところまで熱を入れないといかんかったんかなあ。
あと、そばがあんまりおいしくない・・・。まだまだ検討の余地が多すぎる。
でも、どことは言わんが、これとほぼ同等の味な店を知っているぞ。お好み焼きのお店は玉石混淆なので、その中の「いまいちな店」レベルなお好み焼きはできたってことだ。・・・あんまり自慢にならないが。
首をひねっている間に、母親が残り物整理開始。
生地を適当にひき、野菜と肉の残りをのっけはじめた。
一応生地のひきかたはアドバイスしたが、それでもできたのは写真左のとおり。非常にもったりした厚さになった。これだと広島のお好み焼きとしては分厚すぎ、食感が悪くなる。
初心者が生地をひくと、大体こんな感じ。何十枚と焼いたおかでんで、ようやく「それっぽい生地」が焼けるようになる。お客さんからお金が貰える生地とまでなると、100枚は焼いていないとお話にならないだろう。
ただ、この生地もっさりお好み焼き、残り野菜と豚肉を載せ、ターンしてからカリカリに焼いたらいいおつまみになった。これを先に、酒肴として振る舞ってりゃ、格好の時間稼ぎになったな。
食後、室内の換気をしたのだが、2時間くらいはずっとソース臭さが抜けなかった。
思った以上にお好み焼きは臭いがきつい。
今まで仕事の関係で広島を訪れた際、昼飯でお好み焼きを食べたことがあったけど、スーツに臭いがついてたかもしれん。取引先にばれてたかな。
でも、取引先も同じようにお好み焼きの臭いがしみついていたかもしれないので、お互い気付かれなかったりして。
オコミックスを買った業務用スーパーでは、オタフク印で「牛すじコンニャク煮」のレトルトが売られていた。
ついつい買ってしまったですわ。広島のお好み焼き店では「すじコン」という名前で、時々取り扱っている(酒を出すようなお店に限る)。美味いので、「今日はお好み焼きで飲むぜ」というガッツがあるときはこいつが先頭バッターでツーベースヒット確実だな。
500g入り。ううむ、業務用サイズだ。七味をかけるとたまらんおいしさなのだが、実家の両親はこういうの、嫌いだろうなあ・・・。広島で食べるのはやめにして、東京に戻る際のマイセルフお土産にすることにしよう。
でき上がりの残念さをあまりに悔しがっていたら、あまり間隔をあけず、別の日に再度チャレンジする機会を得た。なにせ、大量のオコミックスがあるから、消費しないといけないし。よし、今度こそ。
母親に「食材はそろっているのか?」とその日の朝聞いたら、「そろっている」という。安心していたら、夕方になって「そばっているんだったっけ?」なんて言いだし、何十年広島に住んでいるんですかアナタは、と呆れた。まさか母親のふりをした別人ではあるまいか、俺は騙されているのではないかと思ったくらいだ。
子供として親のしつけに失敗した、と自分の人生を大げさに嘆きつつそばの調達に慌ててでかける。すると、普段使わない大型スーパーだったこともあり、そばの種類が豊富。これはうれしい誤算。ありがとうママン、豚肉やキャベツは正直何を選ばれてもいいけど、そばは自分で選びたかったんだ。今更のように母の深い愛情を覚えた。・・・さっきから喜怒哀楽が激しいな。リーマスでも飲んでろ。
いろいろ売られている中、やはり蒸し麺は安い。1玉30円程度で売られている。しかし、目を引いたのはなんといってもゆで麺。生まれて初めて見た。外観は蒸し麺のように袋詰めされているのだが、良く見ると水っぽくつややかだ。おお、確かにゆで麺だな、とそのまんまな感想を抱く。
一般的に売られている焼きそば用麺と比べて、やたらと色白で細麺であることに気がつくだろうか?これが広島の麺の特徴。広島のお好み焼きも、中華そばも、激辛つけ麺も、細いストレート麺が使われることが多い。ありがたい、これだと良いお好み焼きが焼けそうだ。
袋には、「広島のお好み焼き屋で使用している評判の焼きそば用に造りました。ご家庭でもプロの味をお楽しみください。」と書かれている。大げさな。その割には、袋の左下には「プロ用・業務店向け」とかかれている。ご家庭用なんだか店用なんだか、どっちなんだ。鳩山首相の発言並にブレまくり。
袋の裏には、「長年にわたり広島のプロの猛者たちと研究開発を重ね最終的に行き着いた味うんぬん」と書かれていた。これが最終形らしい。行き着いちゃいましたか。大げさだが、頼もしいぞアンタ。
ただしお値段も相当に頼もしい。一袋75円くらいした。うわあ。プロの店でこのそばは使えないだろ。原価跳ね上がるぜ。
さすがにホットプレートお好み焼き二度目になると、手際もお好み焼きの形もよくなった。おかでんはやればできる子。裏を返せばやらなければできない子だけど。
ホットプレートお好み焼きのメリットは、お好み焼きをターンした後にどうしても崩れる形を補正しやすい、ということだ。四隅の角にお好み焼きをおしつけて、形を整えたりはみ出したキャベツを潜り込ませたりすると、大層塩梅がよろしい。おかげで写真を見よ、まるでホットケーキかのごとき奇麗なお好み焼きになった。
ただここに至るまでもう一つ波乱があり、そばをスーパーから買って来て帰宅したら、食卓には「お好み焼き用食材」として太もやしが置いてあったのだった。
母親いわく「えー、これでいいんじゃないのぉ?」。
まずそこに座れ。そうだ、正座だ。なんならホットプレートの上に正座だ。太いもやしじゃ残念すぎるので、拒否権発動。
そばを買ってきた直後だったが、再度スーパーまで出陣。今度は細もやし購入のために。話を戻すと、ゆで麺だが、これ結構良いです。袋から出した後、だし汁を使ってほぐしたりなんぞするのが良いようだが、手元にだしがないので水でほぐした。その後、水気が飛ぶように鉄板に広げる。ちなみに蒸し麺の場合はサラダ油でほぐすのが一般的。
玉子も比較的コツがわかってきた。一部破れてしまったが、結構奇麗にでき上がったのではないかと自画自賛。
二度目のホットプレートお好み焼き、完成。
後で「しまった!」と思ったのだが、ガーリックパウダーを隠し味に使っておけばよかった。ガーリックパウダーは禁断の味。やみつき度がぐんとUPする。
さすがゆで麺、蒸し麺よりも値段が高いかわりにおいしい。
生麺ほどではないけど、麺がかりっと、ふわっと仕上がるのが良い。蒸し麺は安いかわりに、もさもさした味という印象。ただ、店によっては蒸し麺でもめっさ美味い場合があるがあるからお好み焼きは侮れない。
今回、オタフクソースで研修を受け、また2回ホットプレートで焼いてみて、お好み焼きの奥深さと難しさ、楽しさ、そしておいしさを大変によくわかった。また、この一連の体験を通じて、お好み焼きの食べ歩きを随分とした。広島が誇るべきソウルフード、お好み焼きが今後も維持・発展することを願ってやまない。
・・・という中途半端なまとめで、今回は終わり。いやね、あらためて、さっきから首ひねりっぱなしなんすわ。うーんどうしたら上手く焼けるんだろう、って。それが気になって気になって。なんなら毎日でも家でお好み焼きを焼きたいくらいだが、東京でどうやって食材を調達するかが悩ましい。それ以前にホットプレートを買っちゃうかどうか。
(2010.01.09)
コメント