第5回製作:だし汁の威力

広島焼きではない。これがお好み焼きだ。(その5)

カープソース
カープソースも広島では定番

所用で広島に滞在していることを良いことに、お好み焼きを食べ歩き、その結果を実家ホットプレートにフィードバックしている日々。職業:「実家警備員」に格上げされるならまだしも、実家にいられる時間は限りがある。なにせ、本来の勤務先は東京だもの。だから、お好み焼きを焼けるときに焼いておかないと。東京の自宅にホットプレートを買う計画は、今のところ全くない。そんなことやったら、毎日のようにホットプレート一人宴会をやって、リビング中が油まみれになる。

さて今回だが、カープお好みソースを入手してみた。

広島のお好み焼きといえば「オタフク」のイメージが強いし、実際その通りなのだが、他にも「カープ」「ミツワ」など複数のメーカーが存在し、それぞれ個性を出している。多くは、酢を作っていたメーカーが発展したものだから面白い。

カープソースは、オタフクソースと比べて値段が高い。一般的なサイズのボトルだと、売価が100円近く違っている事があるので、その差は結構大きい。全国展開しているオタフクと、生産規模の違いが価格に出ているのかもしれない。

「いろいろな料理にぴったりの万能ソース」と宣言しているところが面白い。オタフクは、実はびっくりするくらいソースの種類があり、「お好みソース」と言われるものだけでも、数種類を出している。その他にも、焼きそば用、たこ焼き用・・・とそりゃもう大変だ。

お好みソース呉越同舟

今回も、軽くソースを湯煎しておく。

まだオタフクのお好みソースが残っていたので、呉越同舟で一緒にお湯につかって貰おう。いやん、混浴。

実際のところ、どう味が違うのかおかでん自身よく差がわからなかったので、この際だから舐め比べをしてみた。

そもそも粘度が違う。オタフクのほうが粘るのに対して、カープは若干緩い粘り気。

そして、舐めると、カープの方が酸味が立っている。そのせいで、しゃっきりした印象を受ける。「辛口」ではないのだが、オタフクと比較すると辛口に感じてしまうくらいだ。一方オタフクは、まったりまったり。特に飛び抜けた何かがあるわけではない味。その結果、「甘み」の印象が強い。TPOと趣味嗜好に応じて使い分けるとよろしいかと。

いかの姿フライ

広島のお好み焼きの特徴でもある、通称「イカフライ」。

写真の通り、イカスナックだ。

ねぎやもち、チーズなどと並んで、お好み焼きのトッピングとして存在するが、トッピング番付の中でも大関クラスには位置する実力者。好きな人は、本当にこれを毎度毎度トッピングする。

そもそも、お好み焼きに入れる天かすが「小さなイカ天」であり、広島では「イカ天」がどれだけ愛されているかが分かる。イカ天が入ると、味に深みと重みが増す。また、焼いている途中につまみ食いするのも乙なもんだ。

写真のイカ天は、駄菓子コーナーで売られている小分けのやつだが、実際スーパーの「お好み焼き」コーナーにいけば、にイカ型に整形されていない、「お好み焼きに入れる事を前提にした」イカ天が売られている。板状のもの、すでに食べやすいサイズに割れているもの、小さなもの、いろいろある。お好みに応じてどうぞ。

なお、広島人が息を吸うように当たり前に馴染んでいるこの「イカ天」だが、県外の人には認知されていないようだ。だから、オタフクでは開業支援をする際、県外に出店する人に「イカ天とはイカのスナックのことですよ、と注意をするように促している」んだって。そうでないと、お客が怒る。

「おい、俺のお好み焼き、頼んでいたイカ天が入っていないぞ」
「いえ、入っております。こちらがイカ天です」
「馬鹿いえ、これは駄菓子じゃねぇか。イカ天っていったら、イカの天ぷらだろ」
「いえ、イカ天はこれです。やだなあお客さん、イカの天ぷらだったらゲソ天とかなんとか書きますって」
「お前ふざけてんのか。表へ出ろこの野郎」

となってしまう。

こんぶだし

今回はこんぶだしの素をスタンバイ。

つい数日前、「かっちゃん」というお好み焼き屋にお邪魔した際、非常にだしの味が効いた独特のお好み焼きに衝撃を受けたからだ。

その店では、麺をほぐす際にヤカンから茶色い謎のだし汁をどぼどぼと注ぎ、麺を高温の鉄板でほぐしていた。

おばちゃんにいろいろ話を聞きたかったのだが、2時間も滞在しておばちゃんと延々四方山話していたのは、「群馬における小麦粉文化」の話とか「ホルモン煮込みの作り方」などお好み焼き以外の話ばっか。しまったぁ、お好み焼きの正体がわからんかった。

お好み焼き屋を訪問すればするほど、頭が混乱してくる。シンプルな食材で構成されている料理のくせに、やたらと各店でオリジナリティある流儀があって、しかもそれぞれの美味さがある。おかでんのメインフィールドである蕎麦って、ある程度「王道」な世界があるわけだが、お好み焼きに限って言うとそれがあまり無いような気がする。

ダシ汁

なんかよくわからんが、一応こんぶだしの素でだし汁を作ってみた。

おばちゃんは削り節に関してはいりこを使っていると言っていたが、だし汁については不明。ならばあれこれこねくり回すのはやめよう。

やかんにだし汁を作った。鉄板に注ぐ際に便利だからだが、事情を知らなかった母親がこのやかんにお湯をつぎ足し、お茶を飲んだりするのに使うポットに入れてしまった。おかげで、この日食後に飲んだお茶は昆布茶の味がした。塩分が含まれているので、お茶を飲んでも喉が渇く不思議。

素敵なお好み焼き

一応一週間に一度ペースくらいで焼いているので、少しは上達した。

・・・とはいっても、ターン失敗して散らかった野菜を生地の下に潜り込ませ、誤魔化しているだけだけど。

今回は生地にみりんをほとんど入れなかったので、良い焼き色にあんった。今までみりんが多すぎたんだな。

手際がどんどんよくなってる
食材一式

テーブル周りも随分すっきりした。これも経験がなせる技。

鉄板を取り囲むように食材を並べると、ラグビーでスクラム組んでいるようなありさまになる。ここは、テーブル脇に椅子を一脚置き、そこに食材の一部を待避させておくのが吉(写真右)。

今回のそばはひまわりフーズの1玉38円のやっすい蒸し麺を採用。

多分これと同じ物を、前述の「かっちゃん」でも使っていた。今まで、「蒸し麺=味が落ちる」と思いこんでいたが、どうしてどうして、蒸し麺も美味いぜ。「生麺をゆでて、パリパリに炒めた麺サイコー」という価値観だったのが、最近少し変わってきた。

チーズ巻きを作る
チーズ巻きは生地に火を通しすぎないのがコツ

今回は、父母両方に食べてもらうため、自分のを含めて3枚焼かないといけない。

焼き上がるまでに時間がかかるので、待ち時間に「チーズ巻き」を食べてもらうことにした。前々回習得した料理だ。

ただ、お好み焼きを焼きつつ別の料理を同じプレート上で作るのは至難の業。必要とされている鉄板温度が違うので、あっちを立てればこっちが立たず、苦労した。既に野菜蒸らし作業に入っているお好み焼き用の鉄板温度では、これから焼こうとしているチーズ巻きには熱不足。結果的に、なんだかへにゃへにゃしたものができ上がってしまった。

相変わらず見栄えが悪いできになったが、このあとホットプレートの角にうりうりと押しつけ整形し、ちょっと放置して焼き色を付けたら、いい感じにはなった。で、味はまずくなりようがないので、その点は安心。見栄えさえ良ければこの料理は成功といって良い。

だし汁でそばをほぐす

チーズ巻きをお皿に移して、すぐにそばにご登場願う。

油少々と、だし汁を「かっちゃん」同様どばーっとかけてほぐす。

・・・しまった。鉄板の温度低すぎ。お店同様、「じゅーっ」と音を立てて蒸発するかと思ったが、じわーっと横にだしが広がる温度。あぶない、お好み焼きにかかりそうだ。

慌てて鉄板温度をMAXにする。

このままだと、今度はお好み焼きの野菜が焦げ始めるので、麺のだしがある程度落ち着いたところで早速合体。

「かっちゃん」では、ここからずっと長時間の蒸らしに入る。このお店の場合、鉄板上での蒸らし時間は非常に短く、専らそばの上で蒸らすという独特のスタイルをとっている。そのかわり、その間にだし汁でべちゃべちゃになったそばはほどよくぱりっと仕上がっているという算段。

ただし・・・うわあ、チーズ巻きを食べていた父親は既にこの時点でお皿の上が空になっとる。急がないと。蒸らしている時間なんて、ないぞ。

とりあえず、場つなぎでイカ天を提供。これ食べて麦酒でも飲んで待っててください、と。せっかちな父親をつなぎ止めるのに必死。もうこうなると、調理にとてもじゃないが集中できない。

やっぱりM玉子だと小さい

焦ったので、今回テーマとしている「かっちゃん風の調理スタイル」を崩し、生地をぐいぐいと押さえつけ、時間を短縮。

なんとかそれっぽいものを作った。なお、最後の卵については、八昌系の作り方をまね、黄身を割らないでそのままトッピングし、半熟状態でご提供。

見た目は一応、悪くないモノができたと思う。麺に焼き色がついたし。

・・・ただ、本来お好み焼きの中層に入っているはずのイカ天がお好み焼きの外にこぼれているあたり、実は相当いい加減に作った事が忍ばれる。おいたわしゅうございまする。

最後にカープソース、青のり、ガーリックパウダー、観音ねぎのトッピングで完成。

そのあとすぐに今度は母親用のお好み焼き及びチーズ焼きの製作にとりかかったのだが、240度になっている鉄板で生地をひいたら生地を伸ばしている最中に固まってしまい、びりびりに破れてしまった。いったんまた鉄板の温度が下がるまで待機、その上でやり直し。ああ面倒くせえ、やりにくいったらありゃしねえ。

この辺りでおかでんはすっかり冷静さを失い、使いにくいプラスチックのへらに毒づいたり、イライラしっぱなしだった。同じオーダーを、同時に2枚焼くくらいならちょっと練習すればできる。しかし、同時複数別オーダー、しかもサイドメニューも混入となったら経験が必要。

一度に7人だか8人だかの話を聞き分ける事ができたと言われる聖徳太子だが、そんな事が可能な脳みそならば、さぞやよいお好み焼き屋になれたと思う。ただし、当時の人なので、「豚肉?そんな汚れたものを食べるとは!」と怒られそうだが。

母親分を焼き上げ、今度自分の番・・・の時も、また同じように鉄板温度のコントロールをミスり、生地を伸ばしている最中にもかかわらず、ぺろーんとめくれてしまった。ああもう、ええ加減にせえよ。

さて、一応見栄えはそこそこに仕上がった今回のお好み焼きだったが、味はというと大層残念な仕上がりだったことを素直に白状する。うーん、だし汁、恐るべし。旨みがプラスされるのでまずくなりようがないと楽観視していたのだが、もんのすごくあっさりした味になってしまったのだった。加えて、麺の火入れ時間が短かったため、麺がふっくらふんわりしてしまった。おかげで、なんともピンぼけしまくり。壊れかけのデジカメの写真みたい。

そういえば、オタフクの研修に行った時、お師匠さんが「だしを入れるとあっさりして物足りないという人がいます。三原や尾道の方はしっかりした味つけが好まれるので、だしは入れない方が・・・」という講義を受けたっけ。当時は「だし?なんだそれ?麺をほぐすのはサラダ油じゃないのか?」と首をひねっていたのだが、今頃になってようやく気がついた。ああ俺、だし汁入れてるのぅ、で、ホンマに味があっさりしとるのぅ、と。

母親からは、だめ押しに「黄身が半熟なのはいいけど、黄身のおいしさが勝ってしまっている」とまで言われてしまった。「過去の中で一番ダメ」とまで。うわあああ。つまり、だし汁効果でまったりしてしまったお好み焼きの上に、半熟卵はバランスが悪かったということだ。

難しいねぇー。いろいろなお店の流儀をあちこち混ぜたら良い物ができる、っていう訳じゃないってことだ。むしろダメなものができる。絵の具をいろいろ混ぜたら、汚い色にしかならないのと一緒。

さてこのだし汁だが、まるで「今回の諸悪の根源」みたいに書いているが、実際お店で食べたときはめっちゃ美味かったのは事実。だしの中身をもっと吟味し、あっさりさせない、パンチのある「何か」を混ぜるなどの研究をしないとダメってこった。自宅製作お好み焼きには向かないと思う。

かっちゃん@井口の看板

おまけ。

今回、おかでんを良い意味で惑わせたお好み焼き屋、「かっちゃん」の看板。

なんだかもの凄いことになってる。

イロモノ系のお店のようだが、お店は至って普通。話し好きのおばちゃんに声をかけたら、半生記から料理研究からお好み焼きから、いろいろ面白い話を聞かせてくれる。

お店の飲み物は生ビールの他、麦焼酎と芋焼酎しかない。だから、ビールはそろそろやめにして別のモノを、なんて思うと、酔っぱらい一直線なので注意。おかでんはこの店で昼間っから相当酔っ払ってしまった。週末だから良かったけど。

(2010.02.07)

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