この三連休、ちょうど真ん中の日に会社関係で人手が必要となったために、ノコノコと三軒茶屋まで出かけてきた。この動員のために三連休に遠出ができなかったわけであり、なんだかとっても損をした気分だ。
しかし、探せば他にも同様の境地の人はいるモンで、朝からお仕事に精を出している人がいた。当然、この人も三連休は台無しだ。おお、同士よ!せっかくだから、「何で三連休にこんなことやってるんでしょうね僕らってば痛飲痛食の会」でも開催しようや、と水を向けてみた。そうしたら、当日朝になって「もし、仕事が早く終わったら連絡します」とのメールが入った。そうそう、愚痴は同じ境遇の人間に語るに限るのだよ。わかってるねぇキミぃ。
で、こちらは三軒茶屋の用事が思ったより早く済んだのだけど、相手を誘った手前自宅でマッタリとするわけにもいかない。適当な用事をこしらえて、一度自宅に戻った上で新宿に逆戻りした。
その用事も済み、やることもなくぼんやりとしながら、連絡が入るかな、どうかなと新宿で待機すること1時間以上。うーん、20時になったけど、連絡が入らないぞ?きっと、仕事が忙しいに違いない。なら、邪魔しちゃわるいし、今日は中止って事にしようか・・・と、相手の携帯にメールを入れる。
「忙しそうだけど、今日の件は延期って事にしようか?」
すると、しばらくしてメールが帰ってきた。
「すいません。実はもう家に帰っています」
どわぁ。
あまりに強烈な死角からの攻撃に、まんがのようにその場に崩れ落ちてしまった。膝から崩れ落ちたので、地面にニードロップを落とした格好になってしまった。痛ぇ!これで、選手生命が1年縮んだ。・・・って、何の選手生命だよ。
そりゃあさぁ、誘った時には「気が向いたら、でいいから」とメールに書いたんで、この会が実行されるかどうかは相手のむらっ気任せな部分があったのは事実。でも、今朝のメールだと「早く終われば連絡します」と返事してきたので、仕事という要素さえクリアすれば開催間違いないな、と解釈していたわけだ。
「実はもう家に帰っています」
気 が 向 か な か っ た 、 と い う こ と か 。
あいたー。こうやって新宿まで出てきて、連絡をじっと待っていた俺って、実はとってもイタタタタな奴ではないか。なんだか自分の境遇がすごくみじめで情けなくなってきてしまい、しばらくその場から身動きできないくらいの精神的ダメージを負ってしまった。
三連休が潰れた事に対する鬱憤を晴らせなくなってしまったことも相まって、負け犬として家路につく。
こうなったらしゃーないので、翌日に二日酔いするくらいまでお酒を飲むことにした。ビール2本と、ワイン1本を帰宅途中に購入だ。食べるものは・・・ええと、食べるものは・・・あ、何だ、これは。

でっかく「男」と書かれたパッケージが一種異様だ。
その名も、「男前豆腐」。
すげぇタイトルだ。毛筆書体のフォント、潔く黒一色しか使っていないシンプルさがいかにも男前だ。しかも、「男」の字の横には
「その心意気が男前」
と書いてあるばかりか、
「水もしたたるいいトーフ」
とまで書いてあるではないか。「水もしたたる・・・」という安易なキャッチコピーは男前度ダウンな表現がしないでもないが、いずれにせよとても頼もしい。兄貴!アンタなら僕のこの心の空しさを分かってくれるはずだよ、兄貴!今日は僕につきあってもらえませんかね?
何か、すがるような気分でその男前兄貴にお願いしてみたら。彼は白い歯をキラリと輝かせ、「まかせときな、ブラザー」といった。「ブラザー」という言い方をするのは男前兄貴としてはどうかと思ったが、まあこの際見逃すことにしよう。
「さあいいからさっさと俺を買いやがれコノヤロー、話はそれからだ」
男前兄貴がおかでんをせかす。
・・・ん?
よく見ると、「レジにて30%OFF」のシールが・・・あらら、兄貴、今日が賞味期限じゃないですか。
「うるさい、黙れ」
ちょっとこのシールを張られているあたり、男前兄貴としてはどうかと思ったが、まあこの際見逃すことにしよう。今日の酒飲み愚痴の相手はこの兄貴にお願いすることにした。
今の時代だったら「イケメン豆腐」の方が通りがいいのかね、とかそういえばカッコイイ男は「男前」というけど、可愛い女は「女前」って言うのか?とかあれこれ考えながら家に向かった。さて、早速今日一日の鬱憤を晴らしましょうかね。兄貴、出てきてください、兄貴!

下駄を履いているような形状それにしても、不思議な作りをしている。デカさもさることながら、何やら容器が二層構造になっている。下駄を履いているようだ。
下の層には水がたまっていることから、どうやらこの男前豆腐は容器の中で水切りがされているらしい。なるほど、これはナイスなアイディアだ。水っぽさが無くなる分、豆腐のうま味がよく分かるようになるはずだ。
・・・あ。
ってことは、「水もしたたるいいトーフ」というキャッチフレーズって、単に安直なパクリではなく、本当に意味があったのか。
「なんだ?冗談かと思ったのか?」
わっ、すいません、決して馬鹿にしていたわけじゃないんですけど。あの、ところで、せっかくなので2ちゃんねる風のキャッチフレーズってのもどうですか?
「何だその2ちゃんねる風ってのは。言ってごらん」
うほッ、いいトーフ ・・・
「帰っていいぞ、お前」
うひゃあ、すいませんすいません。

ふたをはがして、いざ豆腐を食べようと箸を突き立ててみたら、全然びくともしない。さすが男前!一筋縄ではいかんわい、と感心していたら、何のことはない、木綿にくるまれていたのだった。
イヤちょっと待て、「何のことはない」ことはないだろう。市販の豆腐で、このような扱いを受けているのは初めて見た。さすが兄貴!やっぱり普通の豆腐とは全然違うや!
木綿を丁寧に剥いて、ようやく兄貴とご対面。形を整えようと言う余計な見てくれは一切考慮されておらず、武骨なまでのお姿だ。なんとなく四角くまとまっています、という感じだ。
「何となく、とは何だ。何となく、とは」
ああ、いや、お気になさらずに・・・。
早速、食べてみる。まずは何もつけずに、素の豆腐の味を試してみよう。うむ、やはり普通の豆腐よりも堅めだ。沖縄の豆腐に近いような印象を受ける。もぐもぐ。豆腐料理屋に出てくるような、豆の香りと味が強烈な豆腐とまではいかないけど、その片鱗を感じさせてくれる味わいだ。やはり、水っけが少ないから、味が濃縮されるのだろう。これは、なかなかおいしいぞ。
その堅さから、ついつい「ゴーヤチャンプルの豆腐に使えるな」と思ってしまうが、この味わいはそのまま冷や奴で食べるのにも向いていると思った。
「おい、何を評論家ぶった事を言ってるんだ?えらそうに」
でも、味がしっかりしている分、味付けは醤油だけにとらわれなくて、いろいろ試してみても面白いかもしれない。
「おい、人の話を聞け。何を言ってるんだ?」
ということで、ある程度食べたところでムラムラと味付けをしたくなってきた。冷蔵庫を調べてみて、二つほど適当な調味料をピックアップしてみた。
「待て、おい、何を考えているんだ、こら、あっ、待てったら!」
【Round1 焼き肉のたれ「にんにくや」】

いつからこの回は「恐るべしますゐソース」ネタになってしまったんだ?と思いつつも、取り出したのは焼き肉のたれ。
普通のお豆腐だと、とてもじゃないけどこんな組み合わせはあり得ないと思う。しかし、これだけ男前兄貴がしっかりとした食感と味わいがあるなら、案外成功するのではないかという気がした。こっちとしては大まじめだ。
どばー。
そもそも、「恐るべしますゐソース」の回でも実証されているのだが、豆腐という食べ物は「塩辛い」味付けには良く馴染むが、「甘辛い」ものにはあまり向いていない
・・・と今タイプしていて、「味噌田楽は甘辛いんじゃネーノ」ということに気が付いた。すまぬ、この発言取り消し。
ええと、まあ、いずれにせよ焼き肉のたれはあわないはずだし、豆腐とニンニクが仲良く手を繋いでいる姿はちょっと記憶に薄い。
・・・と今タイプしてみて、不安になったのでGoogleで検索してみたら、「豆腐のにんにく味噌詰め」という料理が存在するらしい。すまぬ、この発言もとり消し。ってか、話が全然進まないんですけどこの調子だと。
食べてみた。
あれっ、おいしいぞ。
「何だよ、『あれっ』って。まずいと思っていたのか?失敬な奴だ」
いや、意外や意外でおいしいんですよ。もちろん、焼き肉のたれがくどい味つけなので、たくさんは食べたくはないものの、すんなりと食べられるんですね。にんにくの風味が、堅めの豆腐の食感とマッチしてこれがもう。
【Round2 ケチャップ】

調子に乗ったわけではないが、ケチャップでも試してみることにした。これも、普通はあり得ない組み合わせだ。
でも、これも食べられるんだなあ、普通に。
堅めの豆腐って結構万能選手じゃないのか?何となく、チーズを載せるクラッカーの位置づけみたいな感じだ。上に載せる食材を引き立たせるための土台。
この調子だと、ウスターソースやお好みソースをかけてもそこそこ食べられるはずだし、シチューやポトフの具にしたりグラタンの中に入れてもそれっぽく仕上がってしまうかもしれない。男前兄貴、すごいぜ!
他の人たちを引き立てながら、自分は決して他に染まることなく、共存共栄していく。何て力強いんだ、兄貴!
最後、定番の醤油で食べてみたのだが、これもおいしかったのは言うまでもない。ただ、普通の豆腐っぽくなってしまい、面白みはない。やはり、男前兄貴を満喫するからには、醤油以外のいろいろなソースを使ってその味わいを楽しむ事だろう。
・・・ますゐソースをかけたらどうなるのだろう?
遠い将来、いつか闘わせてみたいものだ・・・。
感動すら覚えつつ、その日の夜は兄貴と熱い議論をかわした。結局、買ってきたビール700mlとワイン1本はカラにしてしまい、そのまま寝てしまった。おかげで、この日のモヤモヤ感は解消された気がした。
翌朝、結構飲んだ割には二日酔いにはならず、至って快適な目覚めだった。
兄貴は、引き際もきれいだった。ありがとう、兄貴。またいつか逢おう、そして語らいあおう。
PS.この製品を作っている会社のサイトに言ってみたら、姉妹品で「厚揚げ番長」という商品もあることが判明。今度は番長にお世話にならなくては・・・。
(2003.11.04)
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