音楽プラザライオン、というお店が銀座七丁目にある。銀座ライオン銀座七丁目店といえば、その重厚でクラシックな内装が有名なビアホールだ。この建物の5階にあるのが、音楽プラザライオンだ。
お店の特徴としては、音楽を楽しみながらビールが飲めるというスタイルを採っている事にある。われわれ日本人が「ドイツ」「ビール」という言葉で思い浮かぶ光景といえば、「デカいビールジョッキを持ったドイツ人達が、お互い肩を組んで、音楽に合わせて体を揺すって大笑いしている」というものだろう。ひょっとしたら、あんな事が東京の地でもできるお店なのかもしれない。だとすれば、ビール飲みの憧れの地、ではないか!(一人興奮)
ということで、10年近く前から気になっていたのだが、いまだに行ったことがなかった(気にしてないのに等しいぞ、10年も放置してれば)。
そんな中、このお店は9月になって、「ぐるなび」にこんな告知記事を掲載した。
Let’s Enjoy!BEER HALL♪オクトーバーフェスト!
10月は収穫の季節。ドイツではこの時期、収穫の恩恵に感謝して、オクトーバーフェスト(収穫祭)が始まります。
巨大なテントが出現し、ドイツ中、世界中から人が集まり、でき立ての生ビールをジョッキでぐいぐい傾けるその光景はまさに圧巻!フェストの中心地ミュンヘンでは莫大な量の生ビールが消費される、世界最大のビール祭りです。
そのドイツのビヤホールに倣って、音楽ビヤプラザでは10月4日(月)から10日(日)まで日本版オクトーバーフェストを開催!
期間限定の特大ジョッキが登場し、ぐいぐい生ビールを楽しめます!さらに、当店の演奏家によるドイツのビヤソングや、楽しいカンツォーネやアコーディオンの調べ、東欧の民族舞踊などが催され、テーブルの上にはこれも期間限定の生ビールにピッタリのドイツの伝統料理の数々が並び、気分はまさにミュンヘン・ビヤホール♪
芸術の秋・収穫の秋・食欲の秋を満喫できる1週間は必見です!
さー、ライオンファンのあなたも、初めてのあなたもみんなで飲んで、食べて、踊りましょ!
と、特大ジョッキで生ビールをぐいぐい?
これは行かなければなるまい!「特大ジョッキ」とは一体いかなるサイズなのか。大ジョッキ(通常800ml前後)よりもデカいとなると、バケツくらいの大きさになるのか?・・・いやまて、それはジョッキとは呼べない。では、1.5リットルペットボトルくらいのサイズなのか・・・重くて手がしびれてきそうだ。
ううむ、興味は尽きない。生ビール、ぐいぐいやりたいぜ。体中の血液を、生ビールと総取り替えしてもいいくらいだぜ。
職場の友人を誘って、満を持してお店に突撃だ。飲むぞぉ。踊るぞぉ。
一向にやまない雨の中、お店に到着した。お店の入り口には、確かに「オクトーバーフェスト」と書かれている。いいぞいいぞ。
ドイツ語読みだと、どうやら「オクトベルフェスト」と読むらしい。一つ勉強になった。
マスコットキャラクターの頭には、今にも泡が零れ出しそうなジョッキ型のハットが。おいおねーさん、手元のビール飲む前に頭から零れかかっているビールを何とかした方がいいんじゃないか。後でびしょぬれになるぞ。
「早くもノリノリだねぇ」
ポスター相手に、無意味にツッコミまくっているおかでんをたしなめる同僚たち。
店員さんに案内されて、席に向かう。座席予約をしていなかったが、今日は雨の日ということもあってかえらく店内は空いていた。
目の前には、楽団が今まさに演奏中だった。
そのありさまを見て、ちょっと緊張してしまったわれわれ。あまり見慣れないシチュエーションだ。
ますます緊張させられたのは、演奏をしている楽団のみなさんのすぐ脇の席が与えられたということだった。いや、生演奏があって音楽を楽しみつつビール、っていうシチュエーションは最初から折り込み済みだったんだけど、いざ面前にするとなぜか緊張してしまった。他の2名も同じ状態。緊張、というかあっけにとられているというか。
全員、メニューを見るのもとりあえず、演奏のほうに気が向かってしまった。
楽団員は、ソプラノ、アルト、テノールの歌手、ピアノ、アコーディオン、ジプシーバイオリンの合計6名だった。クラシックの曲をこ気味良く演奏していた。
店内の様子。
お店中央には、向かい合わせの席になる長机が3列。そして、店を取り囲むように円卓がある。なぜか、舞台の上にも席が用意されていた。特等席、ということになるのだろうか。
楽団のバンドマスターをやってるっぽいテノール歌手のおにーさんが、「普段は舞台でやってるんですけど、今日はオクトーバーフェストということで下に下りてきました」と言っていた。より身近に演奏を楽しんで貰おう、という事なのだろう、きっと。
普段は、「見せ物」としての演奏。オクトーバーフェスト中は「みんなで盛り上がろう!」という演奏、か?
幸い・・・といっちゃ何だが、ちょうどわれわれは生演奏ステージ1発目の最後の曲の時に入場した状態だった。1曲、演奏が終わったところで「次のステージは30分後でーす」といって楽団さんは引き下がっていった。
一同、ようやく「ふー」と大きな深呼吸をして、ようやくメニューに目が行ったありさま。
「凄い迫力だな」
「近いからな。大体、僕ら生演奏にあんまり慣れてないし」
「圧倒されちゃって、メニューみるどころじゃなかった。おい、さっさとメニュー決めようぜ。音楽聞きに来ただけじゃないんだし」
店員さんがメニューを持ってきたとき、「オクトーバーフェスト期間限定の大ジョッキがお勧めです」と言って、ドイツ国旗を模したラミネートメニューを手渡してくれた。
店員さんが席を去った後、3人でひそひそ話が始まる。
「おい、今『大ジョッキ』って言ったよな。特大・・・じゃないのか?」
「メニューにも、大ジョッキって書いてあるぞ」
「特大は?」
「さあ?」
謎なんである。しかし、期間限定大ジョッキ復活、とメニューに書いてある以上、これがうわさの特大ジョッキなのだろう。そういえば、通常このお店で使われているらしいお品書きには、ビールの欄に大ジョッキの記載はない。中ジョッキに相当するビールがあるだけだ。(中ジョッキ、とも記載されていない。比較するモノがないので、お品書きでは「生ビール」とだけ表記)
とりあえず、大ジョッキを全員注文してみた。
食べ物は、どうやらこの時期限定の料理が提供されるらしい。ならば、ということでメニューのあれこれを注文してみた。7品が、期間限定メニューの模様。
さあ、やってきましたぞ大ジョッキ。
特大じゃない事が判明したが、心なしか大きい気がする。気になって、店員さんに「どれくらいの量が入るんですか?」と聞いてみたところ、「900mlですね」との回答。普通の大ジョッキよりは大きい・・・か?
大ジョッキと人間との対比。
こうやって見ると、確かに相当デカい。まあ、これ以上デカいジョッキがあったとしても、見栄えは豪快でいいけど飲みにくいだろうな。現実的に、これくらいがちょうどいいかも。
「オクトーバーフェスト!」
と三人でかけ声をかけ、乾杯をする。カチン、とガラスがふれあう音・・・ではなくて、ドスン、と重い音がジョッキからする。こういう音も、今日はとても愛おしい。
「見ろ!この俺の親指を!ジョッキの重さを支えるために、必死になって親指が取っ手を支えているぞ!」
なんてヘンなところに目をつけ、感心し、そしてビールを煽る。うん、いいね。
ただ、まだ場に馴染みきっていない。ちょっとだけ、お尻の居心地が悪い。第二回目のステージが始まるまでに、飲んで食べて、リラックスしなくちゃ。
天井からは、ドイツ国旗をイメージした紙テープがつり下げられていた。
店内を見渡すと、非常に年齢層が高い。60歳を越えたようなおじさまが単独で、会社帰りっぽくはないけどスーツを着ておめかしをして、演奏とビールを楽しんでいるというパターンが多い。
あとは、中年世代の男女が誕生日パーティーを開いていたり。
さすがに、赤提灯に巣くう人たちとは人種が違っていた。そうか、落ち着かない雰囲気というのはこういう客層という理由もあるのだな。でも、上品な雰囲気で、すてきだ。
さすがに料理は、このビル全体でまとめて作っているようだ。各階ごとに厨房はない模様。ただし、お酒を供するカウンターは設置されていた。
洋酒が並ぶ中、焼酎や清酒の一升瓶が並んでいるのがなんともヘンな感じ。やはり、完全西欧風にしたくても、日本人のニーズには逆らえなかったか。
さあ、料理一品目の到着だ。料理名がズバリ「オクトーバープレート」だ。ドイツのビアホールのおつまみが一同に、ということらしい。
「・・・ええと、コレはなんだ?」
一同、首をひねる。メニューには、プレート上の各料理名が記載されているので、それとにらめっこだ。
アレだコレだという議論の内容は割愛して、料理名を記載。フランスパンから時計回りに、レバーペースト、ツンゲンヴルスト、スモークハム、ニシンの酢漬け、ドライチップサーモン。
どうしても、ツンゲンヴルストという名前が覚えられなかったので、途中から3名とも、「ほら、あの怖そうな名前の奴」という言い方をしていた。見た目は、サラミみたいな料理だが、食べてみるとコンビーフの味がした。
いずれも非常に美味。ビールが進むゥ。お値段、1,480円とやや高め。
そうこうしているうちに、30分が経過してしまった。生演奏の第二幕が開始だ。
ここで、「経過してしまった。」という表現をして、さも残念っぽい感じになっているが、決してそういうわけではない。ただ、こちらが危惧したとおり、生演奏が始まるとその問答無用の迫力に圧倒されてしまい、われわれは無口になってしまうのであった。「ほぇー」と、その演奏を見とれている状態。時々、思い出したようにビールを飲んで、目の前のおつまみを食べる程度。
「これじゃ、お店の商売あがったりじゃないか?」
と苦笑いしてしまった。われわれに限らず、他のお客さんも演奏中は箸もジョッキも動きが止まっていたからだ。ビアホールとして売上を伸ばすために生演奏楽団を導入したのはいいが、生演奏のおかげでビアホールの売上が伸び悩んでいたら、本末転倒だ。
ちなみに、このお店の場合ミュージックチャージが525円。安いもんだ。ミュージックチャージでもうけるつもりはさらさらないようだ。
子牛のカツレツがやってきた。現地の言葉で「ウィンナーシュニッエル」と言うらしい。1,200円。
店員さんが「チーズをかけますので、お好みのところでストップと言ってください」と言ってきた。
「そうか、そうきたか。僕ね、いつもこういう時はお約束の奴があるんだよ」
とニヤニヤしながら仲間に話しかけたら、店員さん
「あっ、すぐにストップ、というのはダメですからね」
と釘を指してきた。うわ、おかでん家代々に伝わる伝統のギャグが読まれている!
ならば、と逆に「ずっとチーズがかけられ続けて、そのうち誰かから『いつまでストップかけんのじゃい!』とツッコまれる」というネタに取り組んだのだが、誰もストップかけようとしないし、店員さんも平然とチーズをかけつづけるのでおかでん自らがギブアップ。「あっ、すいませんもういいです」
へたれー。
きたあかり炒め780円。
「きたあかり」とは一体なんだ?と出てくるまで全然わからない状態だったのだが、なるほどこれはジャーマンポテトですね。
きたかあり、というのはジャガイモの品種の一つだということが後で判明。
「おれ、てっきりほたるいかみたいなのが出てくるのかと思った」
「なぜにほたるいか?」
「いや、きたあかり、ほたるいか、なんだか似てるじゃん語呂がぁ」
「そうか?」
小玉ねぎ揚げ、680円。
玉ねぎの甘みがじんわりと滲み出た味で、非常においしい。玉ねぎ嫌いのお子さまに食べさせたい料理としてぜひ学校給食に推奨したい。
そうこうしているうちに演奏は佳境に入ってきた。手拍子なんかも客席から自然発生してきちゃって、こっちは料理を食べるどころかビールすら飲めなくなってきた。
ま、手拍子を止めればいいんだろうけど、何だか気分的に乗ってきちゃって、ついつい手が。
「乾杯の歌を歌います」といって、ジョッキを片手に歌うテノールのおにーさん。
店内のお客さん、既に1時間以上も前に乾杯を済ませたような人ばっかりだけど・・・ああ、飲みが甘い、お前らもっと飲めということか。
ではお言葉に甘えて。
店の策略かぐいーっとビールを煽る。
やっぱ、大ジョッキだと威勢が良くていいやねー。
この後、おにーさんは誕生日や記念日の方はいらっしゃいますかー、と客席に聞いて回り、誕生日記念だというグループを見つけてグラスワインを1杯ずつサービスしていた。おー、ええなあ。
ビールジョッキが空になったので、追加注文。
奥が大ジョッキのヱビス&ヱビス(ヱビスと黒ヱビスのハーフ&ハーフ)。手前がギネス1パイント。
当然のことながら、ギネスをぐいーっと煽ると、このように見事な泡のヒゲができます。
この幸せそうな顔を見よ!
単なる酔っぱらいだ。
いやもう、落ち着く暇が無いんである。30分のステージが終わって楽団引っ込んだな、となったところでわれわれは追加オーダーをしたり、テーブルに並べられたまんまになっている料理に箸を伸ばしたりする。そして、
「さっきの演奏、凄かったなあ」
「この料理、おいしいなあ」
などと、今まで見てきた事のプレイバックを話し合う状態。全てのプレイバックが終わりきる頃には、
「お待たせしましたー」
と次のステージが始まるくらいの時間だ。わっ、もう次の演奏か!
最初の頃は大人しく演奏していたはずなのに、段々演出が派手になってきた。ピアノソロがあったり、バイオリンやアコーディオンがメロディを担当する曲では客席中を歩き回ってみたり。
「うわ、俺の目の前で演奏しとるぞ」
テノールのおにーさんは、幕の最後でちょっとしたお店のPRをするのが恒例になっているが、前回のステージラストで「限定5組で、鶏肉のガーリック焼きが525円でありますが、如何ですか?」なんて客席を煽ってきた。
「うわ、巧い商売やってんなー」と思いつつも、「限定5組?それ、乗った!はい!こっちにもください!」なんて挙手してしまった。
・・・正確には、自分では挙手しないで、新入社員の若手に「おい!すぐに手を挙げろ!いいから、早く!」と押しつけたのだが。
出てきた料理がこちら。
「限定、である必然性ってあったんだろうか?」
「いや、無いと思う。希少価値感を煽ったな、さてはさっきのMC」
料理の追加注文があれば、必然的にドリンクも追加してしまうわけで。中ジョッキを注文。
これで、本日は大ジョッキ2杯、ギネス1パイント、中ジョッキという戦績。飲み過ぎだ。2.9リットルくらい飲んだ事になる。
でも、不思議とヘロヘロに酔っぱらわなかった。結構意識明瞭。音楽に気を取られていたからだろうか?
最後、トマトスパゲティ1050円なりを頂いて、退散。
われわれが店に入る前からすでに入店していた人のほとんどが、まだ店内に残っていた。相当な長っ尻だ。このお店、混雑するときに待ち行列覚悟で訪問しても、なかなか入店できなさそうだ。
3人で飲み食いして、合計17,000円弱。音楽を楽しめてこのお値段だたら、安いんじゃないだろうか。演奏中は、仲間内の会話がとぎれがちになるので、「久々の友人と会食」とか「初めてのデート」向けの場所ではないと思うが、音楽好きにはたまらん場所と言えるだろう。満喫しました。ごちそうさま。
なお、オクトーバーフェストをテーマにしたビアホールは、都内でも意外とあちこちであるらしい。今回訪問したお店は、比較的シンプルだったが、店によっては「特大ジョッキをみんなで回し飲みし、最後の一滴を飲んだ人に景品進呈」みたいな楽しいイベントもあるようだ。来年10月には、またオクトーバーフェスト!だな。
(2004.10.17)
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