高尾山ビアマウント

京王高尾山口駅

高尾山の山中に「ビアガーデン」があるといううわさは以前から聞いていた。何でも、ケーブルカーに乗って山に登った先にビアガーデンが広がっているという。なんともワイルドなお店だ。以前から、登山をしている最中に「あー、この絶景を眺めながら楽しめるビアガーデンがあればいいのに」という、自然破壊を推奨するかのような妄想をしていたものだが、それが現実に存在するという。これは非常に興味深い。しかも、「ビアガーデン」ならぬ、「ビアマウント」という名称なのもイカす。そうだよな、庭じゃなくて山だもんな。

このビアマウント、当然といえば当然だが夏だけしか営業していない。高尾山ハイキングが楽しい春や秋といった行楽シーズンにはクローズドだ。よし、ここは一丁ビール飲むためだけに高尾山に遠征してみますかね。

BBSで参加者を募ったところ、賛同者が現れたのでオフ会扱いとして「ビアマウントでビールをぐいぐい」企画を決行することになった。

高尾山は東京都の西方、中央線の高尾駅から京王線で高尾山口駅まで一駅のところにある。東京都、ということで近い印象があるが、そうはいっても山の中だ、想定外な時間とお金を必要とする。ビアマウントで飲食するのに3,150円するわけだが、その金額に近いくらい交通費がかかってしまう。なにしろ、ケーブルカーで山の上に登るのだ。現地に着くまでが馬鹿にならない。

「わざわざビールだけのためにうん千円もかけるのは馬鹿馬鹿しい」と思ったし、「ビアマウントに敬意を表明しなくちゃいかんだろ」ということで、この日はお昼から現地入りし、一人で高尾山ハイキングとしゃれこむつもりだった。しかし、よりによって決行日は雨。ハイキングどころじゃなくなった。

いや、それ以前にビアマウント自体が営業しているのか、と不安になるが、ビアマウントは雨天でも営業するという。なんでも、雨の日は雨の日で風情があるんだとか。でも、びしょぬれじゃん、と思うが、もともとこのビアマウントは展望台として使われている建物をビアガーデン仕立てにしたものらしく、屋内席があるというわけだ。

シーズン中は非常に混むらしく、日没前には満席になってしまうという。待ち行列には、無料で生ビールが振る舞われるというのでそれはそれで魅力なのだが、ビアガーデンに並んで待つ、というのはいまいちさえない光景だ。できるだけ早く到着して、待たずに座りたいところだ。ま、今日は小雨が降っている状況なので空いているとは思うが。

高尾山鳥瞰図

駅前にある高尾山の地図。

これから向かっていく方面だ。地図は一面の山。こんな先に、これからビールを飲みに行くのだ。何だかわくわくしてくるじゃないか。ちょっとした探検気分、といえば大げさか。

幸い、今回オフ会に参加した3名とも、高尾山は初めてだった。「一体この先に何があるんだろう?」というわくわく感を共有しながら、道を進んだ。

ケーブルカーの駅

高尾山ケーブルカー。高尾山の代名詞ともいえる。全長1,000mちょっとの短いケーブルカーだが、最大傾斜角は31度18分で日本最高だという。おっ、ケーブルカー駅に泡があふれ出ているビールジョッキの絵が掲げられているぞ。

高尾山は山をあげて、ビアマウントをもり立てているというわけか。

ちなみに、ケーブルカーの隣には併走するかたちでリフトがある。どちらに乗っても、往復900円。

もちろん、登山道だってある。現地に着くまで喉をカラカラにさせたい、という願望がある人はこちらをどうぞ。だいたい60分程度を要するという。ま、ほとんどの人は公共交通機関(!)を使うだろうな。

なるほど、ビアマウントが繁盛すればケーブルカー会社も儲かる仕組みか。しかも、夕方からお客さんがやってくるわけで、通常だったら「儲からない時間帯」に集客できるわけだ、これは力が入るのも頷ける。

ケーブルカーに乗ってビール飲みに行くなんて初めてだ

チケットを購入して、ケーブルカー乗り場に向かう。夕方だというのに、それなりの人が乗車していた。こんな時間に山に登る酔狂な人はいないので、全員ビアマウントに向かうのだろう。

ビアガーデン、といえば会社帰りのサラリーマンが「わはははは」と笑いながらビールを飲む場所というイメージがあるが、この乗客をみると家族連れが多い。子供が、「わあ!すごい!」と見慣れないケーブルカーにはしゃいでいる。

ふっ、子供達は純粋だな。おまえら、今はケーブルカーにはしゃいでいるかもしれないがな、オニーサンくらいの歳になったらこれから訪れるビアマウントにはしゃぐんだよ。はしゃぐポイントがちょっとずれてるな。

昇りと下りのケーブルカーがすれ違う。さすがに斜度がきつい

とはいっても、ケーブルカーに乗って現地に向かうというスペシャル感はなかなか楽しい。

ケーブルでぐいぐいと牽引されるケーブルカー。一気に高度を稼いでいく。何しろ、目指すは標高500mの山の中。うわさに違わぬ結構な急勾配だ。

ケーブルカーは高度を上げる。僕たちはこれから訪れるお店とジョッキビールに思いを馳せてテンションがあがる。とても良い構図だ。

ここで提案なんですが、ケーブルカー乗車中に、ビール会社のスポンサーをつけて音声CMを流したらいいと思うんですけどね。CM効果ばっちりだと思うし、ビアマウントに向かう人にとってはますます期待感が高まる。

・・・あ、それは良し悪しか。あんまりお客さんの「やる気」が高くなりすぎちゃたら、飲み放題のビールをしこたま飲まれてビアマウントは経営悪化。

外は雨が降っているのが非常に残念ではあるが、逆に今日は混雑しないだろう。雨の山の中でビール、というのも風情があるじゃないか。おっと、中間点で山の上から降りてきたケーブルカーとすれ違い。思わず、通り過ぎる際にあちら側の乗客に手を振ってしまう。

「どうです、ビアマウントで満喫したー、って言う顔してました?」

「さあ?」

すれ違ったのは一瞬なので、そこまでは判断がつかない。

高尾山駅では提灯がお出迎え。ビアガーデンムード満点

高尾山駅に到着。「標高472m」と書かれている。いやぁ、登ったなあ。100m登ると気温は0.6度ずつ下がる。ということは、ここは下界と比べると3度くらいは低いことになる。

さすがは標高500mだ。下界の猛暑と比べたら天然のクーラーで・・・

と言いたかったのだが、雨が降っていて下界はもともと涼しかった。特に気温の点ではスペシャル感なし。

それにしても、どうだいこの光景。ケーブルカーを降りるやいなや、ちょうちんがお出迎えだぞ。おい、そこまで僕らを盛り上げようとしやがりますか。

「すごいすごい提灯だ提灯だ!」

と一人はしゃいで、写真を撮る。この段階で興奮しているのは僕一人だった。落ち着け!明らかに浮いてるぞ。

気になる点として、この提灯はキリンとアサヒの両方が並んでいた。呉越同舟だけど一体どうしたのだろう。この理由は、後ほど判明することになる。

提灯はそのままビアマウントへと人々を誘うのであった

ケーブルカー駅の斜め正面に、石垣が組まれた一角がある。その入り口には、「ビアマウント会場」という敢闘門が用意されている。

※敢闘門:競輪用語。競輪選手がバンクに入場する門のこと。

駅から敢闘門までは、暗くても道に迷わないように・・・というか、お前らこのまままっすぐすすめ、とでも言わんばかりに提灯が一直線につり下げられていた。

「高尾山ビアマウント 天上はビールの楽園 9月19日まで 飲んで、食べて2時間制バイキング」

とも書かれている。て、天上はビールの楽園っすか。ぜひ僕もその楽園に加えてください。

そうかぁ。今まで、極楽浄土っていうのはなにやら雲がかかっていて、天女様や神様が楽器を演奏して楽しそうにしているような光景を想像していたんだけど、実際は生ビールをジョッキでぐいぐい飲む場所のことだったんだね住職!

ハイシーズンになると、早く座席を取ろうとする人たちが駅からダッシュするらしい。確かに、同じケーブルカーに乗る人は全員順番待ちのライバルだ。走って場所取りをするというのは見苦しい光景だとは思うが、そのファイティングスピリットたるや、大いに良し。

われわれも、敢闘門をくぐり、「よーしよーし」と気合いを入れつつ中に入る。

小雨と霧に煙る駅舎

と、その前に、振り返って、ケーブルカー高尾山口の駅舎を撮影。

外はもうこんな霧と小雨のありさま。

眼下に見下ろす夜景が・・・なんて言ってられない。景色を楽しむのは断念し、今日は飲み食いと仲間達との楽しい語らいに専念しよう。

自信満々なスタッフ紹介立て看板が素敵

早くお店の中に入って、料理やお酒の解説をしやがれ、と思うでしょう。

でもそうしないのがアワレみクオリティ。まだお店には入りませんよ。もう少し、周辺系の解説をやらせてください。

・・・わかるでしょ?これだけ入店前の写真が多いということは、いかにおかでんが興奮し期待に胸躍らせているか、ということだ。

入り口のところに、こんな看板を発見した。「高尾山ビアマウント われら千客万来屋!!-調理スタッフ紹介-」だそうで。料理人をわざわざ紹介するとは、気合いが入りまくっている。このビアマウント、立地条件もさることながら、こういう部分まで「劇場型演出」を心がけているのが楽しい。

あまりに愉快なので、以下に書き写してみた。お名前だけは割愛。

中華
本場台北で調理師免許をとったその腕を今年もブンブン言わせます。コワモテですが前線に出たときの優しい笑顔が売りものです。

イタリアン
メンバー最年少のチーフです。独り言でリズムを取って次々にパスタをゆで上げていきます。吉祥寺を一人でぶらぶらしています。見かけた人はいませんか?

和食・中華
から揚げ、焼き魚など庶民的な料理はお任せください!大好きな釣りを控えて、その分ビアマウントでパワーを発揮。

フレンチ
繊細かつエレガントな料理をお出しします。いつもシャープに動き、忙しい時もニコニコの肥後もっこす!

面白いねぇ。この人たちがどういう経歴や実力をお持ちなのかは不明だが、なにやら親近感が沸くし、「ああこんな人に調理してもらってるのね」と、ありがたみが沸いてくる。ぼんやりと、だけど。

入場料金支払い窓口

敢闘門から、石垣脇のところを登っていくと関所があった。

ここで料金を支払うことになる。

男性3,150円、女性2,850円。ビアガーデンとしては標準的か、やや安いくらいの値段設定といえるだろう。ここのお店の面白い点は、延長料金の設定があることだった。30分延長ごとに500円の追加費用がかかる。普通、飲み食べ放題のビアガーデンは所定の時間が経過したら強制退去となるものだが、ここは「お金で解決してくれる」わけだ。

なるほど、これだとお店が混雑するわけだ。飲み助にとって、2時間は長いようで短い。結局、みんな延長しまくって、いつまで経っても座席が解放されないということになるに決まってる。さて、僕らの場合はどうなるかな。

まるで美術館に行ったかのようなチケットが渡される

入場券が手渡されるあたりが、普通のビアガーデンとは違うところだ。

なにやら、チケットの右側に「お皿引換券」「ジョッキ引換券」「お帰りチェック欄」という枠が用意されている。これは何だろう。

ビアマウントは、大きく分けて3つのゾーンに分類されていた。

関所から入ってすぐのところにある「ガーデン」。まあ、要するに展望台前のちょっとした広場部分だ。ここに机と椅子が並べられている。周りは木々に囲まれているので、展望は全くなし。

展望台中層階「テラス」。円形の展望台の中はガラス張りになっていて、麓の方向の展望が良い。

展望台最上層「スラブ」。ここは、囲いがなく吹き抜けになっている。「テラス」の景色+開放感が味わえる上に、もっとも高い場所に位置するので、眺めも最高。もちろん、このスラブが一番人気の場所。

これだけガスってしまうと景色もへったくれもあったもんじゃない。とはいっても、せっかくだから人気ポイントの「スラブ」を選択してみた。さすがにこの天気だと、人気のスラブもまだ空席有り。スラブの「手すり」部分に隣接した座席を確保。いくらスラブに場所を確保できたからといって、建物の中心に近い座席だったら景色が見えず残念なことだ。

店員さんから、バイキング用のお皿をもらう。その際に、先ほどの入場券で「お皿引換券」と書かれているところをぱちん、とハサミを入れられた。ほー、昔の駅改札みたいだなあ。同様に、ジョッキを貰うときも入場券にぱちん。

ビールは5種類から選べるから嬉しい

さあ準備は整った。さっそくビール獲得に出撃だ。今年に入ってビアガーデンは既に何度か行ったが、「ピッチャーが出てきて、卓上セルフサービス」だとか「自分で注げ」とか「ジョッキじゃなくてプラコップ」というトホホな状況が続いていた。今回は、ちゃんと店員さんが注いでくれるタイプのお店。やっぱ、ビールをジョッキに注いで貰うのをじっと眺めながら待つっていうこの間がいいんだよねぇ。

おや・・・。今気が付いた。ここって、キリンとアサヒ両方取り扱っているんだな。驚きだ。普通、こういうお店はビールメーカーは一社独占だ。独占にしてあげる代わりに、お店はメーカーからジョッキや冷蔵庫といった様々な便宜を供与してもらう。ここみたいに、二社のビールメーカーが併存しているのって、見たことが無い。

そのおかげで、ビールだけでも5種類から選択が可能となっていた。ドライ、ハーフ&ハーフ、黒生がアサヒ陣営のラインナップ。キリン陣営は一番搾りとハイネケン。ハイネケンはキリンがOEMだか輸入代理店だかをやってたはずだ。

料理はオーソドックスながら品数はまあまあ豊富

料理はこんな感じで、屋台に処狭しと並べられていた。もともと展望台なので、それほど広い場所を確保できない。だから、できるだけ人口密度・・・ならぬ、料理密度の高い状態で陳列しなければならないのだろう。客席が混雑しているときは、料理を取るために人がすずなりになるのだろうな。料理を確保するだけでも相当大変そうだ。

お皿が小さいので、何度も取りに行かなくても良いようについ沢山盛ってしまう

いろいろ料理を取ってきました、の図。

お皿は汚れたら交換自由なんだけど、一人一皿限定。しかもそれほど大きくはないお皿なので、一回の「食材確保遠征」で何を取ってくるかは慎重に吟味しなければならない。

料理は、確かに和洋中いろいろあった。料理の種類は比較的豊富で、全種類食べようと思っても無理なんじゃないか、というくらいの数が用意されていた。「フライドポテト」や「唐揚げ」といったビアガーデン定番の料理は当然あったが、全体的には平均的なビアガーデンよりも良心的な料理構成だったと思う。味も悪くない。

さすがに、入り口に料理人の名前と意気込みを書くだけのことはある・・・?

スラブの景色。雨が吹き込まないように透明のビニールシートがカーテンになっていた

スラブはこんな感じ。

円形のテラス部分に沿って座席がもうけられているし、スラブ中心分にも机がたくさん配置されている。

これで晴れていれば最高なんですけど・・・ごらんの通り、外は霧。

しかし、これも案外捨てたモノじゃなかった。景色が見えないのは残念だったけど、途中スラブ内にすーっっと真っ白なガスが立ちこめてきて、なにやら神秘的であったよ。まあ、神秘的、といってもこっちは既にビール飲んでいい気分になっちゃってるわけで、大げさに物事をとらえているだけなんだけど。

おかでんは、7月だというのに長袖着用。念のために持ってきたのだが、あながち間違ってはいなかった。

左にいるのは、オフ会参加者の三分一本勝負さん。

うーん、晴れていれば東京の夜景が見られたはずなのに、残念。

小雨が降っているので、吹きっさらしにしておくわけにはいかなかったのだろう。スラブのテラスには、しっかりと半透明のビニールシートがかぶせられていた。おかげで、ただでさえ視界50mくらいのところが、実質20mくらいに落ちていた。やはり雨が降ると、あまり開放感は無い。でも、かといって展望台中層階の屋内会場「テラス」でビールを飲むよりかは、はるかに楽しい。景色が見えなくっても、屋外でビールを飲んでいるというのがイイのだ。

参加者のakeさんと。akeさんは、オフ会「麦酒飲み人種行動観察会」にフル参加の強者だ。今や、おかでんと「サイト運営者と読者」の関係ではなく、「単なる飲み友達」になりつつある状態。

3人とも3時間滞在。外はもう真っ暗、雨脚も強くなってきた

結局、3人とも1時間延長(1,000円)した。飲み足りない、食べ足りないというわけではないのだが、2時間でお終いにしたところで「生煮え」状態なのだった。飲み直すといっても、こんな山の中じゃ他に店が無いし、高尾まで行ったってどんなお店があるかもわからない。飲み直さないにしても、「締めに何か軽く食べる」というお店だって存在しない。・・・だったら、延長しちゃえ、と。

延長時間はもっぱらおしゃべりに費やしていたような気がするが、それはそれで十分に楽しいひとときだった。やはり、山の空気を吸いながらというのは最高だ。

お店を後にする際、料金を払った関所にて入場券のチェックがあった。入場券には入場時間がスタンプされていて、それを店員さんが確認の上料金を請求する仕組み。最後、入場券の「お帰りチェック欄」のところにぱちん、とハサミを入れられて終了。

ロープウェーの駅からビアマウントを振り返ってみたら、雨脚が少し強くなった空にぼんやりとその姿を見ることができた。このあと、またロープウェーの急傾斜を下りながら、高尾山を後にした。

このビアマウントを楽しむだけのために、往復の交通費を入れると7,000円近くかかった計算になる。単純に考えると馬鹿馬鹿しい極みだが、でも、これぞ夏!という感じがしてとてもいい体験だった。行ったことが無い人は、一度くらいは訪れてもバチがあたらない場所だと思う。いやー楽しかった。

(2005.09.03)

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