寿司屋ハシゴは理性との戦い

この建物に「すし横丁」がある

新横浜の「ラーメン博物館」を皮切りに、今全国ではフードテーマパーク流行だ。二匹目のドジョウを狙ったラーメン集合体が比較的多いが、「カレー」「餃子」「スイーツ」といった風変わりなテーマでお店を集めているところも出てきている。

そんな中、静岡県は静岡市、清水港の近くに「清水すし横丁」という寿司屋が軒を連ねるテーマパークがあるという。清水港といえば日本を代表する漁港として名高い。その威信をかけて作ったというから、非常にそそられるではないか。

早速、訪問してみることにした。

・・・とはいっても、鈍行列車を乗り継いで片道4時間。久々の電車の旅だった。車だと高くつくし、お酒飲めないので敬遠した結果だ。おかげで、読みかけの本や雑誌を一掃することができた。たまにはこういうゆるゆるな旅もいいもんだ。

清水駅から徒歩20分、無料送迎バスも出ているのでそっちに乗ってもいい。目指す場所は「エスパルスドリームプラザ」という商業施設だ。海に面した巨大ビルで、まるで保税倉庫のようだ。ここには、すし横丁をはじめとし、海産物屋が並ぶ一角や映画館、ゲームセンターなどが入居している。複合レジャー施設といえる。

すし横丁入口

おっと、あったあった。「すしミュージアム清水すし横丁」発見。

入り口が非常に狭いなあ・・・これだとわかりにくいなあ・・・と思っていたら、中はその他施設と繋がっていた。専用の入り口からでないと入場できないという訳ではない。

すし横丁パンフレット+おためし通行手形

パンフレットを入手。

パンフレット内面。10店舗あるので目移りする

パンフレットによると、すし横丁には10店舗のお店が常時出店しているという。そのうち1店は、期間限定で全国各地の名店を招く枠となっていて、この日は「おたる政寿司」が入居していた。そのほかに、「登竜門」枠というのも2つあって、お店を独自に持っていない職人でも腕次第ですし横丁内に出店できるようになっていた。これはこれで、寿司界のニューフェースが顔を出しそうで、面白い試みだ。そういえばラーメン博物館でも似たシステムがあったな。

1階に9店舗の寿司屋、2階に1店舗の寿司屋とすしミュージアムがある。すしミュージアムとは、寿司に関する博物館だそうで、有料。腹ごなしに後で寄ってみるか。

今回の目的、おためし通行手形

今回のお目当てが、「おためし通行手形」という夏期限定の手形だった。これは、各店舗で通行手形を見せれば、500円で「自慢メニュー」を食べることができるというものだ。

たとえば、「中トロ・ネギトロ・ビントロ軍艦」を出すお店もあるし、「日替わり地魚2カン」を出すお店もある。いずれにせよ、ちょっとお得感がある料金設定になっている。

えーと、1店舗500円か。9店舗、回ったとして4,500円。うん、この金額だったら許容範囲だな。・・・そういう打算が働いて、本日のお目当ては「9店舗全部でお寿司を食べる」ということだった。せっかく遠くはるばる清水まで来たのだ、それくらいの事をしないともったいない。

すし横丁の内装

すし横丁の中はこんな感じ。ラーメン博物館のように過度なわざとらしい演出はなく、かえって好印象だ。入場料を取らないというのも良い。

確かに、「すし横丁」を名乗るだけあって寿司屋がずらりと並んでいる。うーん、どのお店から先に入ればいいのか、さっぱりわからないぞ。

うろうろしながら全体の様子を見てみたが、14時をすぎているというのにどのお店もほぼ満席だった。結構繁盛しているらしい。中でも、回転寿司屋2軒は行列ができるほどの繁盛っぷりだ。・・・ここまで来て回転寿司かよ。

でも、確かに回転寿司に流れたくなる気持ちもよくわかる。家族連れの来店が多いので、普通の寿司屋に入るとお会計が恐ろしい。一体いくらになることやら。

どの店頭でもサンプルやメニューが置いてあり、お客を引きつけている。それを見ると、うはー、ちょっとこちらの「想定」とは違う価格帯だ。こういうテーマパークだから、お安く、お手頃な価格で食べ歩きができるようになっているのかと勝手に思いこんでいた。しかし、実際は一番安いセットを頼んで1,500円から、といった価格設定のお店ばっかり。まあ、これでも本格的な寿司としては安い部類なのだが、それでもちょっと躊躇する値段ではある。通常、この手のフードテーマパークは店をハシゴして食べ歩くことを前提にしているものだ。しかし、このすし横丁の場合、金額がそれを許さない。

なるほど、だから回転寿司か。あらためて、回転寿司屋の行列に目をやる。なるほど。

何故か寿司屋に行かず魚河岸丸天でお食事をする

どのお店もほどなく混んでいたので、先に「美貌の盛り」用企画として同じ敷地内に入っていた「魚河岸丸天」でかき揚げ丼を食べた。その前に駿河湾でとれた桜海老を肴にヱビスビールをいっぱい。うむ、おいし。

ハシゴ開始。まず一軒目は「和」というお店

ビールを飲んで勢いがついたところで、さあ9店舗ハシゴ開始だ。

まずは、一番端にあった「和」というお店に行くぞ。えーと、通行手形で「桜海老・あぶり〆鯖・日替わり地魚」が食べられるんだな。あの、すいません。通行手形のお寿司を頂きたいんですが。

「あー、通行手形は平日しかやってないんですよぉ」

なんと。それは本当か。うっかりしていた・・・。全然気が付かなかった。あわてて通行手形を見てみると、確かに片隅に「土日祝お盆期間除く」と書いてあるではないか。ちっ。心の中で軽く舌打ちをする。

とはいっても、ここで「あ、そうなんですか。じゃあいいです」と帰るのは格好悪いと思ったので、何事もなかったかのように平然として、「なるほど。では何か今旬のものを握ってもらいましょうか」とオーダー。こういうところでは、めっぽう「外見」を気にするおかでんであった。ふぅ、我ながらうまい切り返しだったわい、何事も無かったかのように5カンほど食べてお店を後にした。

どの店も魅力的だが単価が高いのが悩みどころ

うーむ、困ったなあ。

500円x9店舗のつもりだったんだけど、全くあてが外れてしまった。こんな調子で9店舗回ると、数万円じゃきかないお金がかかるぞ。まさか、1カンとか2カンだけ食べてお店を後にするわけにはいくまい、体裁としては最低4-5カンは食べてお店を後にしなくちゃ。・・・無理だ。そりゃーアンタ無理だわ。「通行手形」というサービスがあるからこそ、少量ずつ全店舗食べ歩きが可能だったわけで、このサービスが無いとなるとどうしようもない。胃袋のキャパもそうだし、お財布のキャパもそうだ。

途方に暮れる。

途方に暮れる以前に、先ほど食べたお寿司と、その前に食べたジャンボかき揚げが胃袋でぬくぬくと膨らんでおなかがいっぱいになってしまった。

うーん。

おなかはいっぱいだし、次の寿司屋に入ったらまたもや結構なお金がかかりそうだし。かといって、あきらめて今日はもう帰ります、というのはあんまりだし。まだ、清水に来て1時間しか経ってないんですけど。

動物園の檻に入れられた熊のように、すし横丁をうろうろする。どうしたもんか。でも、あんまりうろうろしていたら、客引きをやっている店員さんに顔を覚えられてしまい、不審がられるのでたいがいにしておかないと。

回転寿司はリーズナブルなので大人気。納得。

回転寿司屋は相変わらずの行列。

うーん、回転寿司でお茶を濁してもいいかなあ、ここだったら1皿2皿食べてお会計しても違和感ないしなあ、とも思う。しかし、清水まで来て回転する寿司っていうのも色気がないな、と思って断念。

そうだ、腹ごなしに2階にあるすしミュージアムに行ってみよう。

江戸時代の寿司は1カンがでかい

すしミュージアムは、失礼ながら全然大したことがない施設だった。見るモノがほとんど無い。お金を払って見るほどのものではないと思った。

興味深かったのは、この江戸時代のにぎり寿司を再現したサンプル。1カンあたりがでかいことでかいこと。まるで握り飯だ。

江戸前にぎりずしの解説文

●江戸時代の「にぎりずし」(展示品)と現代の違い
・すし飯が大きい。(現代の2.5倍、45g程度)
・すし飯にのりなどの具を混ぜ込むことがあった。
・すし種はそのまま握るのではなく、酢に浸けたり、醤油で煮るなどの「下処理(仕事)」がされていた。

保存の問題上、東京湾でとれた魚が中心でした。
また、現代では定番のマグロやタコは魚としての評価が低かったため、用いられませんでした。つけ醤油はなく、合わせ酢の割合は現代のすし飯と比べると酢は約半分、塩は約3倍でした。味も現代のにぎりずしとはだいぶ異なっていたようです。

全国寿司マップ

全国寿司マップ。日本列島状に、各地の寿司がパネルで表示されていた。

何がどこにあったか、忘れた。

一つ一つ、サンプルを展示して解説してくれれば非常に興味深いんだけどねえ・・・。これだけ一度にぐちゃーっと表示されたら、全然印象に残らない。興味深いテーマだけに、惜しい。

20カンで990円というスペシャルランチに目が釘付け

また一階に戻ってきた。まだ胃袋はいっぱいだ。

相変わらず態度を決めかねて、横丁の中をうろうろしていたらこんな看板をみつけた。

「スペシャルランチ 納得の20カン・自慢のみそ汁/お吸物付990円」

えー、うそー。安ぅ。ありえないくらい安いではないか。写真を見ると、つけ台がわりの下駄(正式名称は知らん)の上にみっちり、握りがひしめいている。まるで今治名物の10円寿司のようだ。

どうやら、これは店内で食べるのではなく、横丁内のベンチで食べる用のものらしい。屋台風の作りのお店の前にこの看板が出ているので、おそらくそうだろう。お店で食べないから、値段を格安にしているのだろうか?

どきどき。量は多いけど、これだったらぜひ食べたいところだ。でも、これを食べちゃったら、他の本格的なお寿司屋さんにはもう入れないなあ・・・

またもや、優柔不断のおかでんはここで10分近く悩む。

悩みに悩んでいるうちに、ふとあることに気が付いた。

「あれっ、このメニュー、『平日限定』って書いてあるじゃん!」

はぁー、アホくさ。今日は土曜日、全然平日ではなかった。悩むだけ無駄だったか・・・。

小樽の名店、政寿司が期間限定出店していた

暑苦しいまでの怒濤の20カンを食べ損ねたことによって、急に胃袋にキャパができたような気がしてきた。お金がかかることを覚悟の上、えいやっと二軒目のお店に突入だ。今度は、期間限定出店の「おたる政寿司」がターゲット。

お酒は清水エスパルスのロゴ入りというのがなんとも地元風

開き直ったからには、お酒を頼みますとも。ええ、頼むとも。

出てきたのは、清水エスパルスのロゴが入ったラベルのお酒だった。「がんばれ!清水エスパルス」なんて書いてある。うーん、別に頑張ってもらなくて結構なんだけど、むしろ頑張れ俺、って感じ。銘柄は「静ごころ」というお酒らしい。

ご主人に「何か酒の肴になるもの、ないの?」と聞いてみたら、ちょっと思案した後にカニの内子を出してくれた。うむ、なかなかの珍味で美味なり。

さすがにこういう観光客向けのお店だけあって、あまり酒肴類は想定していないようだった。メニューにも、酒肴は一切記述なし。基本的に、お客さんの行動パターンは「セットメニュー」を頼んで、せいぜいビールを飲む程度でお店を後にしていた。滞在時間はざっと15分といったところか。

お酒を飲んだら、一気にエンジンがかかってしまった。調子に乗ってぽんぽんと握りを注文し、ぱくぱくと食べてしまった。お会計は3,000円を軽く突破。うーん、いいのかなあ、こんなことやってて。

メニューの値札を見てしまうと、次に入る店を選べなくなる

環境に優しいアルコールエンジンなワタクシは、調子にのってもう一軒お邪魔することにした。とはいっても、どこにしようかねえ。

いくらお酒1本飲んでご機嫌になったとはいえ、相手は寿司屋だ。吉野家で酔い覚ましにいっぱい豚丼を食べるのとは訳が違う。支払う金額の桁が違う。こればっかりは理性のたがを外すわけにはいかない。

ファミレスのようなサンプル陳列

でも、値札の桁は一つ多いいやー、それにしてもサンプルが全部4桁の金額なんだもんなー。ファミリーレストランみたいなサンプル陳列なんだけど、値段が違いますわ、やっぱ。

まぐろづくしの「まぐろスペシャル」を提供する店もある

Theまぐろや、というストレートな名前のお店があったが、そこでは「まぐろスペシャル」なるメニューを発見。

清水に来たらこのセット「まぐろスペシャル」
大トロがぜいたくに二貫入ります
黒鮪の大トロ二貫、中トロ二貫、赤身二貫、ビントロ二貫、づけまぐろ二貫 全十貫

だ、そうで。「清水に来たらこのセット」と、明らかにワタクシを挑発しておるわけですが、さすがにお値段「3,675円」を目の当たりにして手が出なかった。僕の場合、必ずこのお値段にプラスしてお酒かビールの料金がアドオンされるわけだから、ますます高くついてしまう。

登竜門枠で頑張っている人を応援する意味も込めて、お店を選んだ

結局、選んだお店は登竜門枠で出店中のお店「和田正稔」にした。「あぶりづくし」という、握りのネタを全部あぶっちゃいましたというセット2,100円がとても気になったが、結局単品で頼みつつまたもやお酒を。

ご主人と話をしているうちに、ついついあれこれ頼んでしまった。うん、でも美味かったから許す。

隣では、家族連れがお寿司を注文していた。お父さんが小さい息子兄弟に「何を頼んでもいいぞー」と言っていたが、すげー太っ腹だ。案の定、親の心子知らずで「中トロ!」なんぞ偉そうに注文していたが、勝手知ったるご主人、「中トロは大人にならないと注文できません」なんて切り返してた。うまいもんだ。

で、子供は「じゃあおっちゃん、おいしいモノなんかちょうだい!」と言う。するとご主人、「当店ではおいしいモノはないからねー。とてもおいしいモノ、しかないから」なんて茶化す。いやー、やっぱり寿司屋ってのはこうやってお客とかけあいができてこそ商売が成り立つのだな、と感心。

結局このお店でも4,000円近くを支払って退却。うーん、お金を使いすぎだ。

すし横丁、ちょっと気を抜くとすぐにお金が飛んでいくブラックホールのような一角だ。食べ歩きを前提としたフードテーマパークをイメージして、遠路はるばる出かけると想定外な散財をする事になるだろう。理性のたがをはずさないように、しっかりと横丁を闊歩するよう、心がけるべし。

(2005.09.25)

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