世界最強をポケットに詰めて

無類の辛い物好きだ。

辛さ、というのは食べ慣れてくるともっともっと強い刺激が欲しくなってくる。先日までは「これくらいが丁度良いな」と思っていた辛さが、今ではもう物足りないという事もよくあることだ。

涙と汗と鼻水でドロドロになってまで辛い物を食べたい、というわけではない。それは辛い物好きの僕であっても、拷問だ。ただ、人様よりも辛さに免疫ができているので、ノーマル人(びと)からすると「それ、入れすぎだろ!?」と言われるくらいの量でも平気で入れる。

寝不足の時、体がなまっている時などは特に辛い物を食べたい。また、お昼ご飯の豚汁なんぞに、七味をどっさりと入れると体が活性化する。食後しばらくの倦怠感と眠気が緩和され、「よし、午後も頑張ろう」という気持ちになってくる。

辛さというのに対して、人間は案外すぐに耐性が作られるようだ。辛いものを食べ慣れていると、どんどん「さらなる辛さ」を追求したくなってくる。だから、最初は「七味一振り」で良かったものが二振り、三振り・・・と増えていく。はっきり言って、際限なく、増えていく。

ただ、「七味をどっさり入れる」ということは世の中一般的には反社会的行為、と映るらしい。豚汁の色が変わるくらいに入れた七味は、周囲の同僚たちを思いっきり引かせてしまった。社員食堂のおばちゃんにも「七味を、フタを取り除いてばさーっとかけて大量消費するヤツ」とマークされるし、非常に肩身が狭い。他人からすると、味覚障害者兼盗人、といった扱いになってしまった。

確かに、七味を入れすぎると、料理の味が大幅に変わってしまうのは事実だ。単純に辛さだけが欲しい当方にとって、陳皮だの山椒といった余計な「雑味」は不要。ああ、もっと辛いものは無いものか・・・。僕は辛さの求道者となった。

日本を代表する辛い唐辛子、といえば善光寺七味と一般的に呼称されている八幡屋礒五郎(やはたやいそごろう)の七味。長野土産として有名だし、大抵のスーパーでもブリキ缶入りのこの七味が売られている。

辛さは、どこにでもあるS&Bの七味唐辛子の数倍ある。「七味を一振り」の概念が変わる辛さだ。値段は17gで360円ととんでもない高さであるが、辛い物好きならばついつい手を伸ばしてしまう逸品といえる。

面白いことに、この八幡屋礒五郎の七味は、「小辛」「中辛」と二種類あるということ。普通スーパーに売られているのは「中辛」。じゃあ「大辛」もあるのか?というと、これが存在する。スーパーでは見たことがないが、一味唐辛子で「大辛」というのがある。これが、さすがに七味に増して辛い。なかなかに満足度が高い。

しかし、17g460円では、お値段で満足度が低すぎた。「香辛料をばさっと投入する」癖がついてしまっている身としては、いくら良い辛さだとはいえ、17gはあっと言う間だ。朝飯前だ。・・・実際は朝飯前、じゃないけど。これはさすがに物足りない。

そんなわけで、もっと辛いものはないか、と思っていた時、出会ったのが「カイエンペッパー」だ。「カイエンヌペッパー」「チリペッパー」と呼ばれることもある、唐辛子のパウダーだ。メキシコ料理である「チリ・コン・カン(ポークチリビーンズ)」を作る時に初めて我が家にやってきて以来、しばらくは自分にとってよき相棒であり、相談相手であり、恋愛対象になった。

このカイエンペッパー、辛さでいったら七味や一味の比ではない。明らかに辛い。調子に乗って入れすぎると、相当に汗だくになる辛さになる。まさに、ポークチリビーンズのようなトマトベースの料理には向いた。

しかし、例えば豚汁に入れてみたり、鍋に入れてみたらどうか。確かに辛いのだが、細かい粒子状ということもあって辛さのピントがややぼけるのが気になった。みじん切りの七味だと、口に含んだときに舌の上でダイレクトに辛さを感じることができ、いやでもピントがしゃっきりした辛さになった。しかし、パウダー状だと、汁全体がふわーんと辛くなって、何だか曖昧な印象を受けた。日本の汁物にはあわないようだ。ポークチリビーンズみたいに、具とスープが渾然一体となったような料理こそ、パウダー状の唐辛子は向いている模様。

これも値段が高めということもあって、しばらくしたら疎遠になっていった。

「やっぱり唐辛子は質より量だ。」

という大量物量作戦が是であるという見解にたった僕は、一時韓国唐辛子をよく買うようになった。普通のスーパーでは売られていないが、Queen’s Isetanみたいにちょっと品そろえが違うお店に行くと、500gの韓国唐辛子袋が売られていた。500g!素晴らしい。なんという重量感だ。これでお値段が・・・400円しないくらいだったかな?・・・だったので、愛用していた。

韓国唐辛子は、思ったより辛くはなかった。辛さの中に甘みを感じさせる、そんな唐辛子だった。だから、結構ばさっと料理に投入してもとんでもない事態にはならなかった。その結果、消費量が多く、500gもありながら一人暮らしの分際で使い切るまで1カ月もかからなかった。1日10g以上使っていた計算になる。おい、よくご家庭にある「一味唐辛子」の瓶を1日1本消費していたのとほぼ同じだぞ。

なかなかに満足感はあったのだが、近所で調達できないという最大のネックが災いし、しばらくしたらこの韓国唐辛子もあまり使われなくなった。

結局、いつもの七味に戻る。

社員食堂で昼食を食べる際は、一緒に食べる同僚に変態扱いされないよう、こっそりと七味をかけたりもした。汁の表面に七味がたっぷりとかかっていたら異様なので、目に付かないところで七味をかけて、箸でその七味を汁の奥に押し込んでから同僚が待つ席に向かったりした。涙ぐましい努力だが、単なるアホだ。

ある日、ふと家の唐辛子ストックが切れて久しいことを思い出し、近所のスーパーの香辛料売り場に足を向けてみた。すると、今までとは様子が全然違っていることに気が付いた。一言で言うと、更新料コーナーがS&Bにほぼ乗っ取られている状態なのであった。ずらっと並ぶS&Bの香辛料。同一ブランドで同一容器の香辛料が並んでいるので、売り場はすごくすっきりして見える。それにしても、他のブランドはどこへ行った?・・・ああ、あったあった。隅っこの方に、申し訳程度に他メーカーの定番の品が配置されていた。

恐らく、これは米ウォルマートがやっているようなマーチャンダイジング施策を模倣したのだろう。ウォルマートの場合、そのカテゴリーにおいてトップシェアを持っているメーカーに対して、「売り場の構成」を決める権利を丸ごと与えてしまう。このあたりの話は始めるとすごく長くなるので、興味がある人はいろいろ調べてみてください。

とにかく、売り場面積を確保しまくったS&Bは猛攻を仕掛けていた。「何じゃ、このスパイスは?」という、見たことも聞いたことも無いようなものまで堂々と並べているのだ。デパートとか、高級食料品店でもない、どちらかといえば新興住宅地にあるスーパーなのに、この品そろえは多いに謎だ。フェネグリーク?タラゴン?サボリー??そんなスパイスを使うようなレシピ本を自宅に持っている人が、この界隈にどれだけ居るんだろう。

しかも、ご苦労なことに、同じ種類のスパイスであっても「フリーズドライなもの」「普通なもの」の違いがあったり、「あらびき」「パウダー」の違いがあったり。このお店のバイヤー、随分と思い切った商品構成をしたな。恐れ入った。

そんな中、我らが唐辛子もちゃんと品そろえバッチリなんであった。この品そろえはぜいたくすぎる!

チリーペッパー(あらびき)、チリーペッパー(パウダー)、ハラペーニョペッパー(パウダー)、韓国産唐辛子(あらびき)、韓国産唐辛子(パウダー)。

通常よくある「一味」「七味」以外にもこんなに品そろえがあるなんて。つい先日までは、チリペッパー(カイエンペッパー)を仕入れるのでさえ、デパートに行かなくちゃいけなかったのに。ありがたいことです。

どの唐辛子も惹かれるのだが、「スパイシーモスバーガー」などでおなじみのハラペーニョがパウダーであるというのには大いに惹かれた。これはぜひ購入せねば。

いや、ちょっと待て。

ハラペーニョペッパーの横に、もう一つあるぞ。

・・・「ハバネロペッパー(パウダー)」・・・

素晴らしい!世界で一番辛いとされる赤唐辛子、ハバネロ。それがパウダーで常に手の届くところに置けるなんて!

大げさでも何でもなく、ちょっと感動した。そして、「いつか出る、出るとは思っていたが、本当に出たか」と感無量になった。

東鳩のスナック「暴君ハバネロ」で有名になったハバネロであるが、激辛と言う割には「暴君」じゃねーじゃん、と辛さに耐性がある僕は思っていた。あと、伊藤ハムが出しているハバネロ入りウィンナー「赤と黒」はビールのおつまみに最適ではあるが、「び、ビール!辛い!」と悲鳴を上げるほどではなかった。いずれも「ピリ辛」の域を超えていない。

しかし、今、ついに、「自分の好みの辛さをコントロールできる、パウダーハバネロ」が入手できるのだ。こんなに喜ばしい事はない。世界最強を、ついにゲットだぁぁぁ。

ハラペーニョペッパーと並んで、ハバネロペッパーも買い物籠の中に収まった。レジの人は、「何を買ってるんだろうこの人は。何の料理を作る気だ?」と不思議に思ったかもしれない。いーえー、何も作るつもりはないですよー。でき合いのものでもなんでも、パラパラと。それで十分なんですよぉー。

レシートを見てびっくり。あれっ、この香辛料って12g入り155円なんだ。や、やすぅ。信じられないくらい安い。これはぜひ買い占めしておかなくては。こんなマニアな商品、じきに売り場から消えるに決まってる。そうなったら悲しいので、買い占め推奨だな。

瓶には、このような解説が書かれていた。

「世界で最も辛い唐辛子の一つ。キムチ、麻婆豆腐、カレー、チリソースなどに。(辛みが強く、皮膚に刺激がありますので、取り扱いには十分ご注意ください)」

皮膚に刺激という言葉に僕の心は刺激されまくりなのですが。

早速翌日、豚汁に一振り、振りかけてみた。

では早速。ずずずっ。

・・・あっ。

辛い!これは凄い!お椀いっぱいに入っている豚汁だというのに、ハバネロペッパーを一回、二回程度振りかけただけなのにこの辛さ。いや、辛い・・・というより、熱い。あっ、熱いぞ熱いぞ。あははははは。俄然テンションが高くなってきてしまった。

これは素晴らしい。ごくり、と汁を飲み込むと、汁の温度とは違った熱さが喉を伝わり、胃に収まるのがわかる。辛いといえば辛いのだが、パウダーであることもあり舌にビリビリくる辛さではない。口腔全体が熱くなり、ひりひりする感じの辛さ。確かにこりゃあ「皮膚に刺激がある」のがよく分かる。こりゃー、分量には気を付けないと内臓系にガンができそうだ。刺激が強すぎる。「熱く感じる」ということは、それだけ皮膚が過剰反応しているということだ。

生命の危機すら感じさせる辛さ。ついに探していたものに出会った感じがする。

この辛さは、例えるならばきついアルコールをくいっとストレートで飲んだような感じだ。体がキックされるような、そういう衝撃を受ける。それがまたたまらない。一口、ハバネロペッパー入りの汁を飲んだだけで、すぐにどっと汗が顔面ににじみ出る。カプサイシンが尋常じゃなさそうだ。そして、胃袋の中に収まっても、数時間はおなかがぽかぽかしていた。そんなに大した量を投入したわけじゃないのに!

うれしくてたまらなくなり、それからというものはいつもズボンのポケットの中に忍ばせ、携行するようになった。

恐ろしいもので、ハバネロペッパーとはいえ使っているうちに自分の体に辛さ耐性ができてくる。最初は「辛い、熱い」しか認識できなかったのだが、慣れてくるとハバネロ独特の甘みというか、風味を感じられるようになってきた。いつものパターンで、だんだんハバネロ投入量が増えていったのだが、そうするとハバネロ味も濃くなってしまい、料理そのものの味を妨害することに気が付いた。しかも、ハバネロ量が増えると、純粋に辛さを楽しむというよりも「刺激に耐える」要素が強くなってしまう。結局、投下量は適当なところで沈静化していった。

気を付けなければならないのは、このハバネロペッパー、粉末であるが故に振りかける際に指につくおそれがあるということだ。その粉末に気づかず、鼻や目をこすったら・・・そりゃあもう、阿鼻叫喚っすよ。20分くらいは、ジンジンしっぱなし。これは凶悪だ。ねぇ東鳩さん、これこそが「暴君」ですぜ。

いろいろな料理に試してみたが、固形物の上に振りかけるといった食べ方だと辛さは少し緩和されるようだ。だからあまり楽しくはない。ハバネロペッパーの凶悪っぷりがもっとも発揮されるのは、何と言っても汁物。まんべんなく、辛さと熱さを己の体に食い込ませてくれることだろう。

組み合わせとして最も満足感が高かったのは、けんちん汁だった。醤油けんちん。野菜の甘みが十分にしみ出たけんちん汁に、ハバネロを組み合わせるととても心地よいバランスになった。あまり醤油っ辛くしないで、薄めの味付けであっても十分に満足できると思う。減塩効果有りだ。

辛さは、日本で一般的な鷹の爪系の唐辛子と違い、後をあまり引かない。一過性の辛さだ。いつまで経っても辛さが口の中に残り、いやな思いをしなくて済むというのも魅力的な唐辛子といえる。独特の香り高さがあるので、料理によってはあわないものが出てくるだろう。僕好みとしては、香りをもう少し控えて辛さはそのまま、という唐辛子だったら最高。

なんでも唐辛子は交配が非常にしやすい品種らしく、その結果現在では3,000種類もの唐辛子がこの地球上に存在するらしい。S&Bにおいても、自社開発の「恐らくハバネロを超える、最強の唐辛子」を品種改良で作ったらしい。名前をカプマックスという。

今後、どんな唐辛子が出てくるのか、とても楽しみだ。また、その唐辛子を加工した新たな食品が出てくることも楽しみにしている。「激辛入り化学調味料」とか「激辛豆腐」なんてのが出てくるかもしれない。

【おまけ】

このハバネロペッパーを、アワレみ隊メンバー中僕に並んで辛いモノが好きなしぶちょおに使ってもらった。その時の様子を写真にて。

ハバネロとの邂逅1

ハバネロとの邂逅2

辛さにうちふるえている様がよくわかる。彼も深くこの辛さには満足した模様。

【さらにおまけ】

唐辛子の辛さを表す単位として「スコヴィル」というものがあるのをご存じか。要するに「唐辛子エキスを何倍の砂糖水で希釈したら、辛さを感じなくなるか」というその倍率のことだ。ものすごい測定法があったもんだ、いくら複数人でチェックをするとはいえ、こんなもの被験者の辛さ耐性度合いによって結果が大きくブレる。そもそも「砂糖水で薄める」という発想自体がなんともアバウトで素晴らしい。

そんなスコヴィルだが、カプサイシンを含んでいないピーマンを0スコヴィルと定義し、さてその他の唐辛子はどうなってるかな、といいますと・・・。

詳しくは、Wikipedeiaの「スコヴィル値」の欄をご覧ください。

あー。

2,500-5,000 タバスコ・ソース
2,500-8,000 ハラペーニョ
30,000-50,000 カイエンペッパー
100,000-350,000 ハバネロペッパー

ハバネロの凶悪さが際だっている。桁が違ってる。

普段われわれが食しているテーブルにおなじみの「七味唐辛子」とか「一味唐辛子」っていうのは、恐らくスコヴィル値が3桁程度だろうから、ハバネロが段違いに辛いということを表している。それにしても、10万倍以上の砂糖水で希釈しなくちゃいけないってアンタ。1mlのハバネロエキスがあったら、10万ml=100リットルの砂糖水がないと中和できないってことだ。糖尿病になるな、そんなのを飲んだら。

ハバネロペッパーと同時に購入したハラペーニョペッパーは辛さが全然もの足りず、激しく失望していた。しかしこのスコヴィル値を見てなるほどと納得。格が違いすぎる。お子さまレベルだ、これだと。ただ、今では気を取り直し、ハラペーニョならではの青っぽい風味を生かし、ミートソースやピザといったトマトベースの料理にはよく使っている。これはこれで穏やかな辛さで、風味をプラスしてくれるので良し。(ハラペーニョで「穏やかな辛さ」と言っている段階でちょっと変なのだが)

それにしてもこのアバウトな数値は一体なんだ。そりゃそうだよな、いくら複数人で味覚検査するとはいえ、人には辛さの耐性が全然違うんだから。僕みたいな辛党が運悪くずらりと並んだら、「ハラペーニョ?いや、100スコヴィル程度で良い」なんて平然と言ってのけそうだ。あと、自国の庶民料理がそもそも辛いインドやタイの人だったら、全然感じ方が違うだろうし。そんなこともあって、最近は単位あたりのカプサイシン含有量を測定して辛さの単位にする、という動きもあるようだ。ま、そりゃそうだ。こんな曖昧な単位が現存していること自体が不思議だ。でも、「辛いもの」を評価する指標として、なんともほほえましいというか、辛さの本質を突いているというか、面白い。

メールで「快食.com」を主宰するシャオヘイさんから情報を貰った。日本で一番辛い唐辛子、というのは京都にある「黄金一味」というらしい。一般的な「鷹の爪」の10倍、辛み成分が含まれているらしい。ハバネロという世界王者を手にしてしまった以上、日本チャンピオンにはあまり興味が沸かないのだが、そうはいってもぜひ試してみたいものだ。今度購入してみることに決めた。

この「黄金一味」、楽天のネット通販で購入可能。そのサイトの宣伝文句を眺めていたら・・・

「ギフト/お中元/お歳暮/父の日/母の日/敬老の日などにどうぞ。」

だって。

母の日や敬老の日に唐辛子送られたら、びっくりするぞ。どんなギフトだ、そりゃあ。

(2006.04.30)

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