パソコンが修理に出てからというものの、おかでんの日常は灰色となった。
調子に乗ってパソコンに全てを依存しすぎていた。TVを廃棄し、TVを見るのはパソコン。CDプレーヤーもパソコンが代替。新聞購読を休止し、パソコン上で得られる情報をニュースソースとした。趣味はネットサーフィン、特技はwebサイト運営。これらが一気にストップしたのだった。
予想はできていたものの、いざ「全てが無に帰す」と慌てる。よりによって、この時期たまたま仕事が一人隔離状態でしこしこ単純作業をやる内容のものだったため、平日昼間も灰色だ。同僚との会話もほとんどない。
あまりに苦痛だったので親に電話で愚痴ったら、おやじが以前から「読め、読め」としつこく勧誘していた愛読書「ローマ人の物語」(塩野七生・著)全15巻が実家から送られてきた。リンゴを入れる段ボール箱いっぱいのボリューム。多すぎだっつーの。おかでんの性格は「身近な目標設定があればやる気を出すが、遠大な目標設定だと途端にやる気を無くす」という「オール・オア・ナッシング」なため、このボリューム感に早くも戦意喪失。とりあえず読んでみたけど、塩野さんの文章って固くて咀嚼しづらいんだわ、これが。音も快楽もない「無」が支配する自宅にて、一人むせび泣いた。
そんなわけで、世の中の動向にはとんと疎かったわけであり、日経平均株価が暴落を繰り返し、おかでんが持っている株も同じく目も当てられない暴落であったことを知らずに済んだ日々を、送っていたわけだ。
しかし、さすがに引きこもり生活を送っていたわけではないので、中国製餃子に問題が出たことくらいは知っていた。「(メーカー名)の冷凍餃子」、と言わないで「中国製餃子」と製造国を言っちゃうあたり、「犯人はお前だ」と宣言しちゃってるようですてきだ。どの段階で混入したかは不明、現在調査中・・・流通経路か?店頭の可能性は?なんて言いながら「中国製餃子」って言ってるんだもん。製造工程に問題ありって言っちゃってるのと同意語ですぜ、マスコミさん。
そういえば自分ちの冷蔵庫にも冷凍餃子があったな・・・とそのニュースに触れたとき、ふと思った。昨年の11月だったか12月だったか覚えていないが、近所のスーパーで「冷凍食品・表示価格の4割引」に惹かれてあれこれまとめ買いしたんだっけ。酒肴として、ほとんどのものは電子レンジ調理で食べてしまったのだが、餃子だけは「フライパンで焼かないといけない」手間が嫌気され、放置プレイになっていたのだった。
TVが無い状態では自宅の餃子がシロなのかクロなのか詳細情報が分からないし、それよりも日々の余暇の過ごし方をどうすればいいの、という途方に暮れ感が強くて興味も無かった。
待つこと約2週間、ようやくPCが戻ってきた。メーカー保証範囲内ということで無償修理だったのは良かったが、工場出荷時の状態に戻されており、アプリケーションやデータが全て消去されていたのには全米興業ランキング1位達成だった。たかが内臓DVDプレーヤーの不調を直して貰うだけのはずだったのに。
バックアップデータの修復、アプリのインストールと設定などで2日近くを要し、ようやくTVが見られる状態になった。その頃になると、餃子の事なんてすっかり忘れていた。とにかくようやくこれで「無」の余暇から脱出できるといううれしさが際だっていた。
「じゃじゃーん」と自ら効果音を口ずさみながら、TVを再生してみる。すると、ちょうどNHKでニュースをやっていた。大阪府でまたもやメタミドホスが検出された餃子発見、というものだった。そうかぁ、メタミドホスか。どうしても覚えられなかったんだよな。「メソポタミア」みたいな名前の農薬、といううすら覚えしかできていなかったけど、映像と文字テロップをセットで見ると覚えやすいな。よしもう覚えたぞ、メタミドホス。
あ、そうだ、とここで思い出した。自分ちの冷凍庫を確認しなくちゃ。ええと、ニュースによると回収が進められているのはJTフーズ社製の餃子だな。早速確認してみよう。
冷凍庫を開けてみる。
扉のこんな目立つところに置いてあるというのに、食べられなかった不遇な冷凍食品、それが餃子だ。よっぽど悪質な放置プレイをされてきたということだ。
冷凍庫から引っ張り出してみる。この餃子からすれば、2、3カ月ぶりくらいに日の目を見たことになる。おめでとう、ひとくち餃子。
・・・ん?ひとくち餃子?しかもこのラベル、テレビで見たやつと酷似しているんですが。
あ!JTのロゴが入っている!
ということは、これはアレですか、メソポタミア・・・じゃなかった、まだ覚えていないなお前。ええと、メタミドホス餃子って事ですか本当ですか事実なのですかどうなのですか。
そんなおいしい餃子・・・ならぬネタが我が冷蔵庫に転がっていたなんて信じられない。面白いねえ、ニュースって常に他人事だと思っていたら、我が身に降りかかってくるなんて。
製造年月日を確認しようとした。確か問題が起きたのは2007年11月頃に製造されたもののはずだ。
しかし、パッケージには賞味期限しかかかれていなかった。
2008年12月2日、と記されているということは、製造は2007年12月3日なのだろうか?一体冷凍食品の賞味期間というのはどれくらいのものなのかわからないので、これだけでは推測のしようがない。
ただ、いずれにせよ大変に胡散臭い雰囲気はする。ビンゴだったらどうしよう。・・・いや、食べなければ良いだけなんだけど。
たまたま電話でやりとりがあったしぶちょおにこの話をすると、「検査するとき、ビニール袋に入れてスーハースーハーして臭いを嗅いでいるのをTVで見たぞ」という情報が得られた。
早速ビニール袋にひとくち餃子を未開封のまま入れ、臭ってみる。メタミドホスは袋の外にも付着していた例があるということなので、もしビンゴなら臭いがするはずだ。
くんかくんか
・・・臭う。怪しい化学薬品の臭いがする。
あ、これビニールの臭いか。ビニール袋自体が臭うので、判別不能。
そもそも、冷凍されている状態で臭うってどんな状態だよ。常温もしくは加熱しないと臭いなんてわからないと思う。作戦失敗。
ホントにこれだろうか、と思いJTフーズのサイトを見に行くと、やぁ大騒ぎになっているな。2年前、ナショナルの石油ファンヒーターで死者が出る騒動が起きて、サイトやTVCMを使って回収を呼びかけていたのと同じ雰囲気が醸し出されている。
回収商品一覧、餃子だけじゃないのね。一画面に収まりきらず、スクロールして二画面分もある。JTフーズ、たまらんな。対応に追われて業務が麻痺してるだろう。
そんな回収商品一覧の最前線、先頭に我らが「中華deごちそう ひとくち餃子」発見。嗚呼、やっぱり例の「中国産餃子」ってのはこのことだったんだ。やべぇ、冗談半分でくんかくんかと臭ってしまったよ。案外しゃれにならんのかもしれない。
どうやらメーカーとしては着払い・料金返金するから回収したいという意向があるようだが、そこは思案のしどころ。「ネタ発見!」とこの我が手元にある餃子を触ったり調理したり切ってみたりちょっとだけ食べてみたりするのが吉ではないのか。餃子を成仏させるためにはそれが一番良い方法ではないのか。
いや、違うと思う。
でも、そのまま返品したってつまらん。発送の手間がかかるだけ面倒だ。それよりも、このサイトでネタにした方がナンボか草葉の陰にいるメタミドホスのために・・・いや、やっぱり違うと思う。でも、ワクワクしているこの自分の気持ち、どうも抑えきれないんよ。
しかし、JTフーズのサイトを読み進めていくうちに、冷や水を浴びせられた気分になった。
「中華deごちそう ひとくち餃子」の取扱いについて(お願い)、という特設ページが設けられており、そこで注意喚起がされていたからだ。他の回収商品にはそのようなページは存在していないので、やはりこの餃子はやばい、という事に他ならないだろう。恐らく他の回収商品は「問題は無いけど、念のために回収」という道連れ型回収と思われる。
該当ページに直接リンクを張っても良いのだが、いずれ消されるページだろうから一部抜粋してここに転記しておく。
このたびは、弊社冷凍食品の一部から有機リン系殺虫剤が検出された問題につきまして、お客様ならびにお取引様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを、心よりお詫び申し上げます。
現在、混入原因の究明に全力を挙げるとともに、安全確保に万全を期すため、当該商品と同一の工場で製造された全商品について、自主回収を進めさせていただいております。さて、回収対象である「中華deごちそうひとくち餃子」につきましては、商品の袋の外側にも有機リン系殺虫剤が付着しているものが発見されております。
つきましては、当該商品がご家庭の冷凍庫にございました際のお取扱いにあたりましては、以下の点にご注意いただきますよう当局より指導がありましたので、お伝え申し上げます。【ご注意】
丁寧に手を洗えばご心配ありませんが、念のため商品を冷凍庫から取り出す際には、かならず手袋などをご着用の上、ポリ袋などに入れてください。
商品の賞味期限が「2009.1.1」であった場合や、商品の袋にべたつきなどがあった場合には、冷凍庫内を清掃してください。
使用した手袋は、手を汚さないように外して、ポリ袋に入れてお捨てください。
万一、直接商品に触れてしまった場合は、手をよく洗ってください。袋にべたつきなどがあった場合には、まず手を水でよく洗い流し、その後石鹸で洗ってください。
商品が衣類についた場合は、他の衣類とは別に、洗剤を用いてよく洗ってください。
吐き気を催されたり、気持ち悪いとお感じになった場合には、医師の診断をお受けください。
小さなお子様が誤って触ったりすることのないよう、くれぐれもご注意ください。
結構シャレになっていない。「かならず手袋などを着用して冷凍庫から取り出せ」と言われても、既に時遅しなんですが。まあ、袋がべたついていなかったので恐らく大丈夫だということにしておこう。あ、でも念のため手は洗っておかなくちゃ。
メーカーサイドとしては、これ以上の被害を出さないためにも、過剰なまでに「気をつけて!」と警告メッセージを出すしかないのだろう。だから、これを見てビビるのは当然。ただ、ここまで本当にヤバいのかどうかというのは別次元の話だ。
実際にビビった人→おかでん
ネタのために開封・調理し吟味しつくそうと画策していたが、やめた。こんなので万が一体調を崩したらアホ丸出しだ。周囲の笑いものにしかならない。また、それ以上に、未開封のままメーカー送りにして調査して貰った方が原因解明の一助になるんじゃないかという正義感の方が強かった。ネタとして開封してそのままゴミ箱行きにするより、メーカー送付の方が僅かながらでも世間様にメリットはあるだろう。それこそ、その方が餃子にとって成仏できるってぇもんだ。
結局、「君子危なきに近寄らず、だ」と言いつつ近所のコンビニから着払いでメーカー送りにした。でも、クール便は受け付けていなかったので、常温配送扱いになった(メーカーもそれを認めている)。そういえば今3連休のまっただ中だっけ。3連休明けでメーカーが受け取った時点で、冷凍餃子は解凍餃子になっているわけであり、時間も経過しているわけであり、違った意味で中身が大変な状態になっている恐れあり。それがちょっとだけ心配。
(2008.02.10)
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