鮎三昧温泉三昧

季節は巡り巡る。

「この季節になったらこれは食べておきたいねえ」というものが、各シーズン毎に設定されていて、日本の食生活は楽しい。とはいっても、スーパーで廉価で大量に物が買える時代であり、冷凍技術や栽培・養殖技術の進歩により年中食材の供給は可能となった現在において、季節の移ろいを待ちわびるということは心情的に難しくなった。

もっとも、「地物である」だとか「ご当地に行ってこそ」「収穫期」というのは今も昔も変わらぬ美味の条件なんだろうが、こちとらそこまでグルメではない。ぶっちゃけ、違いが分かる気もするが、しないような気もする。

だが、「これだけは夏の間に食べておきたい」と今年思っていたものがあった。鮎だ。晩秋の大きくなった鮎も良いが、まだ涼しくなる前に鮎を食べておきたい。なんとなく、それが「風情」だと思った。

一年魚(要するに寿命=1年)の鮎は、春先はまだ小振りで、時期が経つにつれて体を大きくしていく。ではデカくなる秋の方が良いではないか、と思いがちだが、実際はそうでもない。「香魚」とも呼ばれる鮎は、その香りの元となる苔を食べて成長する。苔の青臭さが、鮎の風味を高めていることになる。この臭いには好き嫌いがあり、子供は嫌がる事が多い。でも、一度虜になるとはまる香りだ。で、その苔だが、やはり青々としているのは新緑の季節であり、初夏ということになる。だから、初夏の鮎はうまい。

今年は鮎を食べよう、と思っていたまま時間が経過してしまい、8月の終わり、8月31日にようやく鮎を食べに出かける機会を得た。気分の問題だが、「8月に鮎を食らう」というのと「9月に鮎を食らう」というのでは全然違う。なんとなくギリギリセーフ、という感じ。ほんとに気分の問題だが。

鮎を提供する飲食店などたくさんあるのだが、せっかくだから鮎づくしの料理を出すお店が良かった。あと、都心の和食店なんぞで食べるのではなく、転地効果の高い山間のお店で食べたかった。そうなると、以前アワレみ隊で行った事がある伊豆の「鮎の茶屋」が該当した。ちょっと遠いのだが、鮎の茶屋まで遠征することにした。

鮎の茶屋入口

都心から鮎の茶屋へ行こうとすると、東名高速沼津ICまで行くことになる。途中、ETC通勤割引を適用させるため、東京ICからぎりぎり100km手前である裾野ICでいったん降りる。こうすることで通行料金が50%引きだ。そして、料金所を通過したところで、おもむろにUターンしてまた料金所に入り直す。目指すは沼津だ、裾野だと一つICが手前だ。

しかしこれが作戦失敗。裾野ICは「料金所が一カ所で、通過後上り線と下り線に分岐する」形になっていなかった。料金所は二カ所だった。しかも、「下り線出口と上り線入口の料金所」と「下り線入口と上り線出口の料金所」という組合せになっているのが困ったちゃんだ。前述の通り、「料金所を出た直後にUターンしてまた高速に入り直す」事をすると、なんと東京方面に逆戻りしてしまった。これには絶句した。

結局、御殿場ICまで戻り、そこでもう一度方向を入れ替えなおし。今度も間違えないようにしないといけない、御殿場ICも料金所は二カ所ある。

そんな時間のロスをしながら、沼津ICから下道に出る。いったん三島まで行き、修善寺方面へひたすら南下。延々と南下したのち、西伊豆まで西に向かったあと、今度は海岸沿いに延々南下。遠い。非常に遠い。伊豆高原や稲取といった東伊豆は関東からの来客が多く週末は大渋滞するのに対し、西伊豆はそれほど混まない。温泉街もそれほど大きくなく、素朴だ。なるほどそりゃそうだ、首都圏から見たら立地条件が不利だ。

遠いねえ、と愚痴りながらようやく大沢温泉に着く。大沢温泉は比較的大きな道からひょこっと脇道に逸れたところにあるので、看板が無いと見過ごしてしまうくらいだ。大沢温泉は川沿いにあるこじんまりした温泉地。静かな時間を温泉と共に過ごしたいのであれば良い場所だと思う。

鮎の茶屋は、さらにその大沢温泉からひょこっと脇道に逸れたところにある。看板があるから見失うことはないが、ちょっとわかりにくい場所だ。

お品書きの一部

お品書きを吟味する。

コース料理にするつもりだったが、その他の一品料理もとても気になる。さすが「鮎の茶屋」を標榜するだけあって、あまり見かけない鮎料理があった。鮎だけでも、「鮎ごはん」「うるか」「鮎の甘露煮」「鮎一本」「鮎のひらき」「鮎活き作り」「鮎から揚げ」「鮎フライ」「鮎こく(鮎のおみそ汁)」など。目移りする。

結局、「松コース(2,100円)」に鮎ご飯、単品で「鮎フライ」と「鮎活き作り」をつけた。ちなみにおかでん一人でこれだけ食べるのではない、もう一人連れがいる。さすがに一人で西伊豆まで大遠征して鮎を食べる気力はない。

鮎の甘露煮

まずは鮎の甘露煮が卓上に届けられた。

木を輪切りにしたものを皿にしているのが面白い。

鮎が非常につややかに、かつウマそうに横たわっている。これは清酒かご飯かどっちかが欲しいところだ。でも車を運転しているので今日はお酒は無し。ご飯はこの後鮎ご飯がくるので、それまで辛抱してなさい。

甘露煮を頂く。うん、うまいです。骨まで柔らかく煮込まれていて、味がしっかりと染みこんでいる。店によってはやたらと甘辛い甘露煮を引き当ててしまう事があるが、このお店の味付けは自分にちょうど良く馴染んだ。

人の味覚の好みによって味付けが大幅にかわり、気をつけなければならん料理というのは世の中にいくつかある。その最たる例として挙げるならば、甘辛い味付けの煮付け、煮物。「甘」と「辛」のバランスは千差万別なので、他人が美味いといってるものでも自分にはあわないことが多々ある。それと、もう一つ挙げればポテトサラダやマカロニサラダ。これも案外差がでる。やたらと甘い味付けを好む人(店)があるので要注意だ。

そんなわけでおいしく甘露煮を頂いたが、別にこれは鮎でなくても別の魚でも良かったのではないか、という気もした。いやまあ、そんなこと言い出したら「お前なんて甘辛く煮てりゃなんでもいいんだろ、おでんのこんにゃくでも食べてろ」と言われそうだけど。

炭火スタンバイ

テーブルには囲炉裏が切ってあり、そこに火がおこっている炭が運びこまれ、網がセットされた。さあこれからバーベキューの時間です。パパ、スペアリブ焼いちゃうぞー。

でも実際、このお店には「スペアリブ」という料理が存在する。猪肉だけど。さすがに厳冬期も「鮎の茶屋」で通すわけにはいかんので、冬の味覚・猪もこのお店では取り扱っている。あまり知られていないが、猪は伊豆の名物だ。猪料理専門店もあるし、修善寺の近くには「猪コロッケ」を出す店があってこれがうまい。

鮎一本登場

鮎が登場。串打ちされた鮎が一人二匹ずつ、計四匹。

「プレゼンは最初ガツンといわせてこそナンボ」と思っているのか、激しくぴくぴくしている。まだ凶行に及ばれてから間もない証拠だ。本当ならのたうち回りたいのだろうが、串で体を完全に貫き通されているため、そうもいかぬ。無念そうに体を震わせていた。

注文した「松」コースは、本来「鮎とイワナ、又は猪」という組合せだ。しかし、この日イワナの仕入れが無かったとのことだったので、自動的に一人あたり鮎二匹という事になった。こちらとしては本望だ、なぜなら、鮎を食べにここまできたのだから。

鮎を焼く

早速鮎を焼く。鮎はもっとじたばたするかと思ったが、呆気なく沈黙。まあ、残酷じゃなくて良かった。

2名様での来店なので、炭があまり供給されなかった。だから、できるだけ炭の真上に鮎がくるように、網の上での国盗り合戦の開始。

鮎を自分で焼く、というのはエンタテイメント性がありとても楽しいものだ。しかし、「生焼けだった」とか「焼けすぎてぱさぱさになった」というリスクも自分で背負い込まないといけないので、必ず美味い鮎にありつける保証がない。細心の注意を払わないといかん。

魚を炙る際は、あまり頻繁にひっくり返すと良くないとされる。しかし、今回の場合時折ひっくり返さないと、どんどん鮎がのけぞっていく。のけぞり始めたら急速なので、慌ててひっくり返して反りを防ぐ。それでもダメなら上から箸で押さえつける。強引だ。

野菜

野菜も届けられた。

なす、ピーマン、かぼちゃ、玉ねぎ、さつまいも。

そのまんまバーベキューの具じゃないか、と思ったが、一緒に用意されていたタレもそのまんま焼肉のたれだった。これはちょっと不釣り合いだと思った。

ちなみに、炭の量が限定的であるが故に、鮎さんが網の上に乗っかっている間は野菜を焼く余地が無かった。鮎が撤収するまでしばらくお待ちを。

鮎活き作り

鮎活き作り、740円。

これは珍しい。鮎といえば塩焼きしか食べたことがない人が多いであろう中、刺身でも食べられる事を知っている人は少ないのではないか。

もともと鮎は小さな魚なので、一匹から採れる切り身の量は知れている。そんなはかない活き作りを頂く。

うーむ、なんと形容してよいのやら。お上品な味ですね、と。泥臭さとか苔臭さは全く感じられず、ひたすら淡泊。淡水魚の生ものといえば、鯉の洗いくらいしか食べたことがないが、あちらさんは水で締めているので身が固い。でもこちらさんは柔らかく、すっと喉の奥に通っていく感じ。

珍味なり。美味か、と言われると必ずしもそうとは思わないが、食べたことがない方はぜひ、という一品だ。

ちなみに連れは、「淡水魚の生魚はイヤだ」といって絶対に箸をつけようとしなかった。

鮎のフライ

鮎のフライ、740円。

フライ、というからにはパン粉で揚げたエビフライのような奴が出てくるのかと思ったが、写真の通り。

これが非常においしかった。鮎の風味が閉じこめられた感じで、今鮎を食べてるぅぅぅ、という気持ちになる。塩焼きよりもこちらの方がおいしく感じた。

鮎の塩焼き

焼き上がりました、鮎の塩焼き。

若干焼きムラができた気配だけど、まあ良しとしよう。

早速、まずは鮎の骨をするっと抜く妙技を・・・失敗。今まで一度も成功したことがない。

塩焼きは、これぞ鮎料理の王様、といった貫禄。やや小振りのサイズだが、二匹あるので十分に堪能できた。ただ、やっぱり素人による焼き方なので、もう少し火加減を調節できればもっと上手く焼けたかもしれない。

鮎ご飯

鮎ご飯が炊きあがった。2人前で1,580円。

鮎がまるまる入っていて、それをしゃもじでほぐすと骨ごとほろほろと崩れ、ご飯と混ざった。

言うまでもなく美味。ビバ鮎ご飯。ああおいしいなあ、としみじみしてしまう味であったよ。

でも、鮎の甘露煮や塩焼きを食べるんだったら、白米という選択肢もスゲー美味いだろうなあ、とも思う。悩ましいところだ。美味なるものには白米がよくあう。

鮎ご飯とお味噌汁

鮎ご飯とおみそ汁をいただく。

この時点で、まだ網の上では焼けていない野菜がごろごろと並べられている状態。ちょっと料理の手順が悪くなってしまったのが惜しい。お店のせいではないのだが。

連れはこの時点で既に鮎に食傷気味であり、あまり鮎ご飯を食べようとしなかった。必然的におかでんの量が増えるわけで、結構大量に食べた。

「あれだけ最初は鮎を食べたい、と言っていたのになぜ?」

「一度にたくさんはいらないよ・・・。もう一年分以上食べた気分」

なんだそうで。おかでんの価値観としては、「鮎づくしであるからこそ、食べる意味がある」と思っていたのだが、見解にズレがあったということだ。ううむ。

山の家

食後、大沢温泉の奥まったところにある「露天風呂 山の家」に行く。

この山の家は、人一人が通過できる幅の橋が目印。川を渡った対岸にある建物だ。

温泉施設には見えず、一般民家だ。でも、昼間は露天風呂、夜は素泊まり宿泊も受け付けているれっきとした施設だ。

山の家の男湯

山の家露天風呂の男湯。

露天風呂しかない。狭い脱衣所から出たら露天風呂あるのみ。カランもない。シャワーは一個ある。

湯船の底は石がごろごろしている。結構深く、そして温度はやや熱め。のぼせたら風呂からあがって体を冷やすのだが、腰掛けられる程度の高さしかない石垣によって仕切られているだけなので、道路からは丸見えだ。

女湯との仕切り

男湯側からみた、女湯との仕切り。

この露天風呂は、一つの大きな湯船を衝立で仕切って構成されている。

その衝立が立っているところがちょうど湧出口であり、衝立の下から猛烈にボコボコとお湯がわき上がっていた。こんな何の変哲もないところから、結構な勢いで自然湧出しているんだから温泉って不思議。

さてこの衝立だが、以前この地を訪れた時(2002年)は2/3しかなかった。つまり、奥の方は仕切りがなく、女湯と自由に行き来することができたのだった。半混浴、とでも言おうか。また、衝立と湯面との間には隙間があいていて、水面すれすれまで頭を沈めることができれば、女湯をのぞくことができた。実際そんなことやっていたら露骨過ぎて気持ち悪いが。

時代は流れ、それじゃあイカンということになったのだろう。今ではがっちりと山際までついたては延長され、湯面とついたてとの隙間もふさがれた。まあ、仕方がないか。

西伊豆を楽しむ

大沢温泉を後にし、引き上げる。西伊豆の海岸線が気持ちよい。運と立地条件がよければ、「夕暮れを見ながら、富士山も見ながら、温泉。」ということも可能だろう。

夏休み最後の休日だし、日曜日午後だし、修善寺界隈の混雑が非常に気になったからだ。以前、これでえらい目にあったことがある。しかし、鮎の茶屋のおかみさんいわく、「大丈夫じゃないですかね」とのこと。実際、後ほど修善寺を通ったが、全然渋滞していなかった。観光客が減ったのだろうか?

沢田公園露天風呂に続く道

そのまま真っ直ぐ帰京する予定だったのだが、道中「←沢田公園露天風呂」という表示を発見し、あわててハンドルを切った。

ああ、そんな露天風呂があったねえ。思い出したよ。

もう10年以上前になるが、伊豆半島を1泊2日で一周する旅行を会社の同期と行った事がある。その時に立ち寄ったのがこの「沢田公園露天風呂」。あまりに昔すぎて、名前すら覚えていなかったくらいだ。

ただ、「慌ててハンドルを切った」くらい、インパクトのある温泉だった。崖の上に湯船があり、海の眺めが素晴らしかったからだ。しかも、遊覧船が海上を航行しており、そこから丸見え状態というのも特徴的だった。

これは久々に行ってみないといかんだろう。さっき「山の家」に行ったばかりだが、もう一度お風呂に入ることに決めた。

沢田公園露天風呂は、漁船が並ぶ漁港の脇をすり抜けて行く。本当にこの道で良いのか、そもそもここは道なのか、と心配になるようなありさまだ。そんな先に駐車場があり、車を停める。おっと駐車場の入口に料金所がある。入湯料500円か。うっかりすると無銭入湯しそうだ。500円払うと、タオルが貰える。

お金を払ったら、駐車場正面の崖を登っていく。ちなみに写真右上にある掘っ立て小屋が目指す露天風呂の脱衣所。

崖からの眺め

崖から海を見下ろす。

小さな島がいくつもあり、風光明媚なところだ。奇岩も多いようで、そういったものを海上から見るための遊覧船がこの近くから頻繁に出港していた。

沢田公園露天風呂

沢田公園露天風呂、男子浴場。

壁の作りが甘いため、崖の下からでも見えてしまう。女子浴場は奥の隣にあり、こちらは崖の下からは見えない。でも、海からは完全無防備な点において全く一緒。

とはいっても、海から見られるのは遊覧船や漁船・釣り船がやってくる時だけだ。その機会を外して脱衣場への出入りや体のクールダウンをさせればよいので、この程度で十分だとおもう。

女性はどうしても「開放感ある露天風呂」とは縁遠い。見られちゃイカンということで塀が高かったり、立地条件が悪かったり。その点ここは開放感満点だ。心ゆくまで満喫しちゃってください。

ちなみに源泉は「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉」でPH8.8。

ゆう出地は「西伊豆町副配湯所」となっているので、この崖の上から湧いているという摩訶不思議な自然現象ではなく、引き湯なのだろう。

恋人岬

道中、「恋人岬」なる場所があったので立ち寄ってみた。

駐車場脇には、ハート型の絵馬がたくさんつり下げられていた。お前ら勝手にいちゃついてろ、という内容ばかりで、あてられまくりですよモウ。

さて肝心の「岬」だが、駐車場から結構歩く。結構、というかかなり歩く。アップダウンもそれなりにある。誰しもが「油断していた!」「やられた!」という顔をし、「引き返そうか?」とお互い顔を見合わせているカップル多数。

われわれも引き返そうか真剣に悩んだが、それはそれでまた上り道がって面倒なので最後まで行くことにした。

行ったら、何の変哲もないところに鐘があるだけ。特に景色が良いわけでもない。天気と時間が良ければ、夕焼けと富士山を見ることができるんだろうが・・・。まださっきの沢田公園の方が見ていて楽しい景色だった。

「うわ、オチなしかい」と愚痴りながら今きた道を戻る。

海老名SAがオレを挑発する

すっかり日が暮れてしまい、夕食は東名高速海老名SAで食べることにした。ここは非常に大きなSAだが、思ったよりもフードコートが狭い。食べる場所がなくてトレイを持ったままうろうろする座席難民が多数いた。

何を食べようかと思案したが、そんな自分の心を見透かしたかのように挑発してきたのがこれ。「海老名SA情熱の嵐 チキンカツカレー男盛セット(ドリンク付き) 1,000円」

ううむ、別に今更大盛り系には未練がないのだが、こうもPRされると弱いなあ。

チキンカツカレー男盛り

結局頼んでしまいました、チキンカツカレー男盛りセット。注文にカツが追いつかないらしく、しばらく待つことになった。

カツカレー、久しぶりに食べた。完全にお昼の鮎の余韻を吹っ飛ばしてしまったな。やりすぎた。カロリーも明らかにやりすぎで、1,412kcal。今日は何をしに出かけたんだっけ?温泉だったっけ?鮎だったっけ?カレーだったっけ?えーと。

(2008.10.10)




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