食材ドラフト・鍋の具争奪戦

新宿歌舞伎町に「一品鍋」というお店があることを最近知った。薬膳が食べられる店を探している時に偶然発見した、「上海風火鍋」を銘打ったお店。しかしその特徴はなんといっても「小さな一人用鍋で食する」というスタイルにある。台灣では「日式鍋」となぜか呼ばれているスタイルだ。おお、これだったらお一人様でも鍋を食べることができる、とこのお店を知った時に感動した。

スープを選び、具を選んでいく。いろいろな組合せができて楽しそうだ。お一人様でなくても、大人数で行って「えっ、お前そんな注文にするの?マジでー」なんてわいわいやるのも愉快。

そう思いを馳せているうちに、ふと「じゃあ、鍋の食材を争奪戦にしてはどうなるか?」と気になった。他人が既に確保した食材は、自分は取れない。すなわち、鍋の具をドラフト制にしようというわけだ。場合によっては、スープと食材が全然釣り合わない鍋だとか、野菜だらけの鍋になってしまうかもしれない。そういうワクワク感が外食であっても良さそうだ。理不尽な食の選択。飽食の時代だからこそ、本意じゃない料理を掴まされるがっかり感を味わいたい。相手に味合わせたい。

そんな訳で、「食材ドラフトオフ」の第一回として、「鍋ドラフト」を開催することにした。第一回、としたのは、一発目がうまくいったらこのオフをシリーズ化しようと考えたからだ。

BBS上において参加者募集をかける際、レギュレーションも規定した。以下の通りだ。

一品鍋ドラフト会議公式ルール

・本オフ会は、鍋のスープ、具材を早い者勝ちで確保していくドラフト会議である。
・参加者各位は、事前に一品鍋のサイトで希望する食材を見繕い、一位指名から順番に任意のランク付けをして当日に備える。
・当日会場にて、ドラフト一位から順に食材の指名をしていく。
・他人に確保された食材を重複して選択することはできない。
・ドラフト同順位にて複数人が同じ食材を指名した場合、ジャンケンにて優先権が決定される。ジャンケンに負けた者は、負けた順で食材を選択できる。
・飲み物はドラフトの対象外とする。一品料理はドラフト対象とする。
・一品料理のみの注文は禁止。最低でも「鍋スープ+具材一品」は選ぶこと。
・ドラフト一位指名が一巡したら、同様の手法にて二位以下の食材も確定させていく。
・ドラフト指名する食材の数は、各自の自由とする。
・たれは、選択が必須となるため、5種類の中から選び、ドラフト表の中に組み込む事。ただし、そのたれをどの順位で指名するかは作戦次第とする。
・宴席中、ドリンク以外の追加注文(ドラフト選考漏れの食材に限る)をする場合は、食事開始1時間以降とする。余裕をもってドラフト会議上で食材を選択しておく事。
・具材のシェア及びトレードは禁止。自己完結することを前提に注文すること。
・お会計は、各自飲み食いした分を正しく精算すること。電卓等必要なら持参する事。
・頭脳戦なので、事前に本スレにて参加者の腹の探り合いをする事推奨。

参加表明者はおかでんを含めて4名。参加者が出そろったところで、BBS上で心理戦が始まった。

まず激戦が予想されたのが、鍋のベースとなるスープだった。4名参加で、スープは6種類。当然バッティングが予想された。しかも、参加者の中には「スパイシーナイツ」オフ常連が2名含まれており、「四川麻辣スープ鍋」の争奪戦がある予感。また、「菌茸スープ鍋」を頼むと、鍋の中にキノコ類が含まれているため、食材選択が一つ減るメリットもありそうだ。ドラフトを考える上で、食材選択が一巡分省略できるのは戦略上大きい。

他にもパクチーを取るぞとかなんだとか、局地戦がBBSであったが、きりがないので省略。そんなわけで、当日を迎えた。

一品鍋は雑居ビルの5階

2009年05月08日。

20時前、参加者一同、歌舞伎町の「一品鍋」が入居しているビルの前に集合。旧コマ劇場前ということもあって、歌舞伎町としては一等地に相当する場所だ。しかし、雑居ビル5階ともなるとネオンの町歌舞伎町では完全に埋没だ。立て看板が道路に出ているものの、それを見て通りすがりの人が「おっ、ちょっと鍋食べていこう」とは思わないだろう。そうなると、ぐるなびってやっぱ凄いね、となる。ぐるなびによる集客力はもはや限界になっているなどという説もあるが、いやいや、漠然とした店探しをする上ではまだまだ非常に有効な手段だ。

ちなみに参加者4名中2名が道迷いにより新宿の町で遭難した。全員がそろうまでしばし待機。その間も、お互いの腹の探り合いは続く。「今日は何品くらい頼むつもりですか?」などと、相手と微妙に目を逸らしながらお伺いを立ててみる。

食べ放題の看板

ビルの前には、「火鍋・しゃぶしゃぶ食べ放題2,980円」の看板が。それを見て、一同複雑な表情を浮かべながら苦笑い。なぜなら、われわれが単品で注文していくと、3,000円オーバーになる可能性が高いからだ。はっきりいって、われわれのやろうとしていることはとても効率が悪い。

「しかも、食べたいものが食べられる保障が無いんだからな」

とぼやく。なんとも不思議なお食事会だ。マゾか、俺ら。

テーブルにセットされてあるもの

アルコールランプだった

店内に入り、予約してある旨を伝え、席に通してもらった。

そこには既に4名分のドラフト会議の準備がセットされてあったのだが、目を引いたのは「温泉旅館の食事?」というような、鍋の土台だった。このお店、固形燃料で調理するのだろうか?だとしたら、「火が消えたら食べ頃です」なのだろうか。途中で冷めるんじゃないのか、大丈夫か?

てっきりIHヒーターが机に組み込んであると思っていたので、予想外だった。さらに予想外だったのは、店員さんが燃料(?)のフタを外し、着火したときだった。青白い炎が立ち上った。あ、これ、アルコールランプみたいなものですか。珍しい、飲食店でこういうタイプは初めて見た。

IHヒーターを調達するより安くて便利だろうな、などと思ったが、いざこの後鍋を調理してみて大変な事に気がついた。こいつ、火力調整という概念が全くない。鍋を食べ続けている限りはずっと火が着きっぱなしだ。おかげで鍋大煮立ち。あっという間に煮詰まってしまい、結構頻繁にスープの補給をしてもらう事になった。本当に効率が良いのかどうか、ちょっと疑問な熱源であるよ。

店員さんから「早く注文してくれ」と言われないためにも、飲み物を先にオーダーして時間稼ぎをする。その間に、さっさとドラフト会議開始。

スープいろいろ

[ドラフト一巡目]
おかでん:野菜の盛りあわせ
やっさん:白湯鍋
こやま:豆乳スープ鍋
かのん☆:四川風麻辣鍋(1辛)

最初こそ激突が見られると思ったが、全くバッティングなしで無風状態の一巡目となった。おかでんだけ、スープを無視して具に走った。おかでんの作戦は「盛りあわせ系の具を先に押さえてしまえ」というものだった。そのために、「麻辣鍋は確実に取る」と事前にBBSで宣告し、競合他者が敬遠するのを狙っていたのだが・・・残念ながら、かのん☆さんが真っ向勝負を挑んでそのまま持っていってしまった。かのん☆さんいわく、おかでんの作戦は読めていたそうだ。

ラム肉と牛肉の盛りあわせ

[ドラフト二巡目]
おかでん:団子盛りあわせ
やっさん:雑炊ご飯
こやま:鶏肉団子→注文時に在庫切れと言われたので豚肉団子に変更
かのん☆:ラム肉と牛肉の盛りあわせ

二巡目、おかでんは盛りあわせ確保にひた走る。単品でバラバラ頼んでいると、ドラフト順位がどんどん遅くなる。まとめて一つの注文の方が、ドラフト順位を稼げると踏んだ。あと、スープを未選択なのはおかでんただ一人となったので、スープに関してはドラフト最下位で十分。

やっさんが二巡目で雑炊ご飯を押さえにかかった。参加者のうち唯一お酒が飲めないため、米は確実に確保したかったのだろう。とはいえ、他の酒飲みは米の優先順位が低いはずであり、二位指名は相当に慎重に来た。

白菜

[ドラフト三巡目]
おかでん:菌茸盛りあわせ
やっさん:国産豚カルビ
こやま:海鮮サラダ
かのん☆:白菜

三巡続けておかでんは「盛りあわせ」を選択。しかしメイン食材はこれで一応OK。麻辣鍋を取られたのは誤算だったが、代替として薬膳鍋を取る予定なので想定の範囲内。

こやまさんは海鮮サラダを選ぶなど、鍋とは違うサイドメニューに浮気をしはじめた。鍋で勝負する気はないのだろうか。

かのん☆さんはスープ、肉、野菜と手堅く鍋を構築中。この「白菜」は、やっさん、こやまさん両名ともドラフト候補に入れていたとのことで、結果的にかのん☆さんは残り三名の予定を一人で打ち崩したことになる。

帆立

[ドラフト四巡目]
おかでん:香草→注文時に在庫切れと言われたのでオーダー無し
やっさん:四川風麻辣たれ
こやま:帆立
かのん☆:上海風チヂミ

おかでん、鍋の薬味としてパクチーに手を出す。結果的にオーダー時に「品切れ」と言われて願いは叶わなかったが、注文しなくて良かった。これまでの盛りあわせの量が多すぎた。

やっさんはタレで麻辣たれを選択し、スパイシーナイツ常連としての面目躍如。

かのん☆さんは鍋から完全に離脱。チヂミに手を出し始めた。

えのき茸

[ドラフト五巡目]
おかでん:沙茶たれ
やっさん:えのき茸
こやま:舞茸
かのん☆:和風胡麻たれ

小籠包とチヂミ

[ドラフト六巡目]
おかでん:<記録漏れのため不明>
やっさん:海老団子
こやま:はまぐり→注文時に在庫切れと言われたのでオーダー無し
かのん☆:小籠包

かのん☆さん、四巡目のチヂミに続いて小籠包もオーダー。鍋はシンプルでいくつもりらしい。

春菊

[ドラフト七巡目]
おかでん:漢方スープ鍋
やっさん:春雨→注文時に在庫切れと言われたので春菊に変更
こやま:春巻
かのん☆:<指名終了>

そろそろ全員終了モード。おかでんは、最後に取り残されていたスープを選択。

こやまさんは春巻を頼んで鍋から脱線。

腐乳たれ

[ドラフト八巡目]
おかでん:<指名終了>
やっさん:<指名終了>
こやま:上海風腐乳たれ
かのん☆:<指名終了>

こやまさんのたれオーダーで、全てのドラフトは終了。

盛りあわせの量の多さに困惑

ドタバタした注文が終わったのち、届いた食材から三々五々お食事開始だ。「他人の料理は不可侵」というルールがあるので、黙々と自分の鍋をつつくだけが原則。

おかでんの手元には、各種盛りあわせの大皿がどかどかと運ばれてきて、困ってしまった。絶対量はそれほど多くはないのだが、一品鍋のサイズと比べると明らかにオーバースペックだ。しまった、盛り合わせを選んだのは失敗だったか。そもそも、もうテーブルがいっぱいで、食材を置くスペースが無いんですが。

隣のテーブルを見ると、数名で宴会をやっていたのだが彼らはもっとスマートな食べ方をしていた。四つの鍋を中央に寄せ、それぞれの鍋を均等に楽しんでいる。ああなるほど、そういう食べ方もあるな。

さらに別のテーブルでは、鍋は個人の手元にあるのだが、食材はテーブル中央に置かれており平等にシェアされていた。これは定番だねと。

で、われわれ。一人一つの鍋で、各自バラバラな個別注文。なんだか凄い光景だ。

女性の店員さんは日本語がカタコトだし、接客がチャイナクオリティなのでなんともグダグダ。「頼んだもの、アレとコレがまだ来てませんよ」なんて、こちらから一つ一つ指摘しないといけない。しかも、頼んだ覚えがない食材が来て「これは何?」と聞いても、しどろもどろになった挙げ句に中国語でしゃべり出す。それをなんとかおかでんが聞き取る、なんてありさま。ここはどこの国だ。

しかも、明らかにオーダーミスしていると思われるのに、「二つの食材を一つの皿に盛ったので、これがソレだ」と言い張ったりする。もうどうでもいいや、ってなって途中で店員さんとやりあうのはやめた。

みんなで仲良く食材をシェア、という鍋大会なら、食材の細かい説明など不要だが、今回は「自分が頼んだ食材は自分で食べる」ルール。この辺りは厳密にならざるをえない。

鍋大煮立ち

そうこうしているうちに鍋は大煮立ち。ほれ、早く食べないと。

盛りあわせ皿を3つも抱え込んでいるおかでんは、鍋がカオス状態に。期待していた「薬膳」鍋だが、どこがどう薬膳なのかよく分からなかった。他の人と比べて200円高い、一番高価なスープだったのに。となりのやっさんの白湯スープ鍋と、浮いているもの(クコの実など)の種類と量が似通って見えるのがなんとも悔しい。

たくさんの食材に取り囲まれて四苦八苦し、なおかつスープが高い割には普通、ということで「おかでんはルーザー」と参加者各位から言われた。

大きなサラダ

こやまさんが頼んだ海鮮サラダは結構なボリューム。「これ、みんなでシェアしても良いんじゃない?」という提案がなされ、結局コミッショナーおかでんもこの提案を承諾した。あまり他人と料理がバッティングしなかったし、何だかグダグダな雰囲気だし、もう妥協しちゃってもいいや、という気分だったからだ。本当だったら、最後までストイックに「ダメです。自分で頼んだ物は最後まで自分で。」と言い張るつもりだったのだが。

そんなわけで、各自の食材がシェアされたり、鍋の味見があったりしたわけだが、やっぱり我が薬膳鍋は一番インパクトに欠ける味だった。麻辣鍋、豆乳鍋が美味だった。

ますますこれで「おかでん=ルーザー」という盤石の体制に。

最後、各自が注文したものをめいめい計算し、自分の分だけ精算となった。完全自腹制。ただ、とんでもないことにこのお店、webに掲載しているメニューの値段とお店のメニューでは値段が違う。全部、お店の方が高い。そのため、しばらく計算は混乱を伴った。

しかも、お会計の時にぐるなびクーポンを提示したのだが、店員さんは日本語が読めないらしく、「どれだけ割り引きすれば良いですか?」とこっちに聞いてくるありさま。実際は5%なのだが、ここでうそついて「10%です」と言えば、本当に10%引いてくれそうな勢いだった。おい、大丈夫か。

最後の最後までグダグダだった。

退店後、こやまさんは言う。あんまり今回はドラフト順について考えていなかった、と。メニューの数と人数を考えたら、そんなに悩む必要はないと思ったそうだ。

なるほど、実際おかでんもこのドラフトを体験してみて納得だ。ホンモノのプロ野球ドラフトともなると、チームの一員として、そして多額の契約金などで戦力を獲得するわけだから選ぶ方は必死だ。しかし、われわれはこのドラフトで少々躓いても、別の機会に食べ直せば良いのだった。白菜が他人に取られたって、別に冬瓜でもいいわ、となる。TVのバラエティ番組に出てくるような、超高級料理が食べられるか否か、という究極の状態ではない。だから至って反応は淡泊だ。

当初計画としては、第二回食材ドラフトは焼肉を想定していた。しかし、「カルビを取られた」といっても、「ハラミでいいじゃん」となるし、「ロースも捨てたもんじゃないよ」となる。多分今回同様、生ぬるいドラフトになりそうだ。

企画としては結構面白いものなので、もっとストイックさを追求した内容にバージョンアップして第二回をやりたいところだ。一歩間違えると食べるものがなくて指をくわえているだけ、くらいでないと、燃えないだろう。

いつの日かやるかもしれない第二回食材ドラフト、期待せずにお待ちください。

(2009.05.08)

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