一人鍋だって怖くない

その迷走っぷりがネットで嘲笑の対象になって久しい吉野家。吉野家とマクドナルドはネットにおける2大ネタ提供飲食店として認定されている。

つい先日だって、吉野家がピザ屋を始めるよ!500円でピザが食べられるよ!と新業態の開始を宣言したところ、「冷凍ピザ以下」などとネットで失笑を買うありさまだったっけ。そんな吉野家が次に手を打ったのが、「一人鍋」の店だった。鍋といえば、大抵どのお店だって「2名様以上より承ります」などとメニューに小さく書いてある料理。お一人様で食べたいと思ってもなかなか難しい、近くて遠いメニューのひとつだ。それが、一人用の鍋の店ができるというのだから、うれしい人はうれしかろう。

数年前、上野に「一人焼肉」の店ができたことがあった。壁際のカウンター席で、両側にはついたてがあって隣の席とは一応分かれているという、なんだか漫画喫茶の個室みたいな感じの客席は見るものに衝撃を与えた。で、こんなのが流行るわけがない、と揶揄され、結局その通りとなってあえなく撤退したという過去がある。

では、一人鍋の店はどうか。

これが案外、ネットでは好評だった。吉野屋のやることなすことけなすのがネット住人のお約束なのかと思っていたが、「これはいい」という声がいくつも上がっていた。大成功するとは思えない業態だけど、そこそこは客が入るかもしれない。そう予感させる雰囲気だった。

おっと自己紹介が遅れました、私おかでんと申します。一人鍋一人焼肉上等。一人鍋は、養老乃瀧で毎年冬の風物詩になってます。その模様はこちらで紹介されている。一人焼肉だって、余裕だ。僕が断酒する前夜は、一人焼肉で送別会を行ったものだ。

そんなわけで、「一人鍋のお店」なんて何を今更、感がある。しかしよくよく考えてみると、昼間からでも鍋が食べられるわけだし、夏だって食べられるという使い勝手の良さはこれまでにない魅力であることに気がついた。これは一度、早いうちに様子を見に行かないといかんな、と思い立ち、開店からまだ1カ月も経っていないうちにお店を訪れることにした。

週末にもなると、ほら車が全くいない

お店の住所は神田小川町。

地下鉄神保町駅と小川町駅の中間くらいにある。JRの駅からは遠く、正直不便な場所だ。この地に降り立ったのは土曜日の夕方だったのだが、広い道路には車一台も走っていなかった。オフィス街ということもあり、週末はがらんとしてしまうらしい。

ご近所のゆで太郎も休業中

今回訪れるお店・・・「いちなべ屋」という・・・の近くにある蕎麦屋、「ゆで太郎」はお店が閉まっていた。土曜日は半ドン、日曜日は定休日という営業形態だった。それだけ、週末はこの界隈に人がいないってことだ。到底儲かるとは思えなかったらしい。こんなところで365日営業する「いちなべ屋」、大丈夫か?

いちなべ屋外観

いちなべ屋 駿河台下店。

暖簾が下がっているのが特徴的な外観。吉野家の要素は一切表に出していない。

この店においては、「つゆだく」とかは通用しない。なぜなら、つゆはもともとたっぷり入っているからさ!なんせ、鍋だからな!

鍋は何種類か用意されている

自動食券機で食券を買うことから、一人鍋の旅は始まる。

本家吉野家では、「風情がない」ということで導入されていない食券機が、ここでは平然と導入されている。一人で訪れる殺伐感をより強調しようということだろうか。

鍋の種類は7種類。

ちゃんこ鍋、豚しゃぶ鍋、牛すき鍋、坦々餃子鍋、きのこと鶏だんご鍋、キムチチゲ、豆乳鍋。

値段は780円、830円の2プライス。

注意が必要なのは、鍋にはご飯はついていないので別途注文しなければならない。でも、シメの麺はデフォルトで付いているので、ご飯はいらない、という人はご飯をつける必要はないだろう。ちなみにご飯は50円ととても安い。白米と黒米から選べる。

お酒も取り扱いがあり、梅酒やグラスワインなんかもある。酒を飲みながら鍋をつつく、というのはお一人様の食事スタイルとしては楽しいだろう。

IHヒーターが組み込まれたカウンター席

開業前に一般公開された店内の様子を写した写真は、「壁に面したカウンター席」だった。それを見て、「ああやっぱり壁を見ながら食事をしなけりゃならんのか」と思った人は多かった。しかし実際には、そういう席もあるにはあるが、厨房に向いたごく普通のカウンター席だってあった。基本的にお客さんはそちらに優先して案内されていた。決して罰ゲーム的に壁と対面して食事しなくちゃいけないわけじゃない。

カウンターには、IHヒーターが埋め込んである。調理は自分でやるのがこのお店のスタイル。

鍋の場合、必然的にお皿がいくつも並ぶことになる。そのため、席と席の間は比較的ゆったりめに作られている。牛丼屋やラーメン屋とは明らかに違う間隔なので、これなら女性でも利用しやすいと思う。肩がぶつかりそうになりながら鍋を食べるのって、やっぱりイヤだもんな。

お通しとしてポテサラがやってくるのだ

注文が通ったら、真っ先にやってくるのがこれ。

ポテトサラダ。

お通しとして、全メニューについてくるそうだ。鍋ができ上がるまでしばらく時間がかかるので、これでも食べて落ち着いてくれ、という配慮なんだろう。微妙にうれしい心配り。

きのこと鶏だんご鍋の食材一式

きのこと鶏だんご鍋(830円)のお皿がそろった状態。

今回は黒米(50円)をつけたので、合計880円の食事となった。

野菜は生のままでお客に提供するので、厨房内で火気を使った調理はない。その点店舗運営は楽といえば楽なのだが、いくつもの野菜を仕入れ、刻まないといけないので面倒ではある。野菜は値段の季節変動が激しいので、仕入れは悩ましいだろう。他店舗展開にめどがつけば、野菜のカットはセントラルキッチンで行う、なんてことができるんだろうが、現行1店舗だけだったら、店舗内で対応しなくちゃいけないだろう。

鍋に入れるお野菜

野菜のお皿。

豆腐、にんじん、しいたけ、しめじ、えのき、白菜、水菜、中華麺。

これに、鶏だんご用の肉がついている。

カウンター上の調味料

テーブル上の調味料を確認してみた。

唐辛子、山椒、ラー油。

これらをどのように使えばいいのか、いろいろ可能性はありそうだ。ラー油、鍋に入れるのか。餃子鍋用かな?

一人鍋の完成

鍋を煮込んだところ。

一人分として、過不足ない量の鍋ができ上がった。これはなかなかいいぞ。

おかでん、殺伐と食事中

一人鍋の店にふさわしく、一人で黙々と食事をとる。

もちろん言葉なんて一言も発しないし、スマホを見ながら食事なんてことは、しない。鍋と真正面から対峙し、食べる。ひたすら食べる。

最後は麺でシメる幸せ

鍋といえども、一人で食べるので食事時間はあっという間だ。

最後、具をきれいにさらって、シメの中華麺を投入だ。このプロセスがあるから、なんだか満ち足りた気分になる。ちょっとしたぜいたくをしたような、そんな感じ。

結論としては、満足度の高いお店であったよ。美味いか?と問われたら、「普通」といわざるを得ないが、家で鍋やると食材が余るんで面倒、とかもろもろの事情がある人にとってはありがたい店。

今後も機会があれば利用したい・・・と締めくくりたいが、こんな場所、「機会」なんてねーよ。多店舗展開されるまでは、ここのお店とはしばらく縁がないだろうな、と思う。

(2013.10.12)

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