茨城県に出かけた帰り、夕食をどこかで食べることになった。時節柄、大洗であんこう鍋を食べたかったのだが、手元にあるドライブガイドにとても気になる写真を発見し、それどころじゃなくなってしまった。
それは、常磐自動車道友部SA(上り線)の名物料理だという。名前は、「栄光の丼」という。
ガイド本に掲載されている小さな写真を見ると、具だくさんの丼が3つ、並んでいた。記事には「茨城を食べ尽くそう」というキャッチコピーが付けられている。
「これ、本当だろうか?丼3つも並んでいて、すっごく気になるんだけど」
「3つのうちのどれか一つ、じゃないですか?さすがに3つとは思えないです」
連れが写真を一瞥して答える。確かに、お値段1,200円は高いといえば高いが、3種類の丼を提供するにしてはいささか安すぎる。丼は、「常陸牛の焼肉丼」「久慈浜のしらす丼」「奥久慈卵を使った小美玉のにら丼」の3種類だという。どれも名の通ったブランド品であり、これが3つも一度に供されるとはにわかに考えにくい。
「でもだぞ、『食べ尽くそう』って言ってるわけだし、やっぱり3種類一度に、じゃないか?」
ここで連れはあらためて子細にガイド本の写真を確認する。うーん、としばらく唸った後に、
「それにしては量が多すぎませんか?」
という。小さな写真なのでサイズ感がよくわからないのだが、にら丼の上に乗っている生卵がウズラのものでない限りは結構でかそうだ。
「これ、本当に食べられるのかな?実は、精巧に作られた食品サンプルなんじゃないか?ほら、ストラップとかに付けるようなヤツ。ガチャガチャの景品に入ってるような」
そもそも食べ物ですらないのかもしれない、と根底からひっくり返すような事を考えてしまうくらい、謎だった。そこで連れは、
「だったら実際に行って食べてみないといけませんね」
とにっこりとほほえんだ。本場大洗で旬のあんこう鍋を食べる気満々だったのに、この謎の丼3兄弟のせいでふいになってしまった。それくらい、気になる存在だった。
「立地条件が良いから殿様商売」というSAは昔の話だ。道路公団が民営化されて以降、どのSAもびっくりするくらい商売っ気を出し、来場者を驚かせ、喜ばせている。この友部SAもそうで、まだ新しい建物は夕食を求めて大勢の人が列をなしていた。
我々が探している「栄光の丼」は、その中で「どんぶり専科」というお店で提供しているらしい。店頭には、ガイド本に紹介されていた「栄光の丼」の看板が誇らしげに掲げられていた。この記事の冒頭の写真がそれ。ガイド本では「1,200円」だったのだが、1,240円にちょびっと値上げされていた。
「うーーーん」
お店の前にやってきて、大きな写真看板を見てもまだ首をひねってしまう。やっぱりこの「栄光の丼」、一度に三種類の丼を提供するらしい。となれば、一つ一つの丼がでかいわけがないのだが、この時点でもそのスケール感が掴みかねた。一体どんなサイズなんだ、これ?
ここまできて、これを頼まないという選択肢はあり得ない。もちろん、栄光の丼を注文した。
しばらくして出てきたものがこれ。NEXCO東日本どんぶり王座決定戦でグランプリ受賞、という肩書きをひっさげて。「栄光の丼」、1,240円なり。
ははああーっ。
なるほど、確かにミニチュアサイズだ。「丼」と言葉は、「どんぶり、という器」の言葉を指しているのではなく、ご飯と具がセットになった「どんぶり料理」を指すのだな、とあらためて実感。そう、ここで使われている器は、いずれも「ご飯茶碗」または「小鉢」サイズだった。
そりゃそうだ、刑事さんに差し入れしてもらうカツ丼みたいなのが3つ、どかんどかんと置いてあったら誰も食べ切れやしない。これくらいのサイズが、現実的かつ理想的だ。
常識的なサイズであったということにやや残念感を覚えたのもつかの間、あらためてこれらの丼を俯瞰するとやっぱりすばらしいコストパフォーマンスであることに気がつく。こんな手間がかかるのに、おなかいっぱい食べられて1,240円って安いだろ。いや、「宣材写真と比べると実物の方がしょぼく見える」とかいうのは言いっこ無しで。
3種類の丼を食べ比べできるだけでも楽しいのだが、名古屋名物「ひつまぶし」よろしく途中で味を変更できる楽しさも用意されているのが嬉しい。わさび、練り梅、ゆず、野沢菜、昆布の佃煮、奥久慈卵、だし汁が用意されていて、お好みで味を調整できる。
もともとの丼自体がさほど量がないので、そんな大げさに味変更をすることはできない。でも、そういう楽しみがある、というだけでもワクワクさせられるじゃないか。
僕としては、「小美玉にら丼」が特に美味しかった。ニラの青い風味としゃきしゃき感が食欲をかき立てた。おなかいっぱいになったし、この丼は是非おすすめしたい。いい料理に出会ったものだ。
(2015.01.12)
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