オカルトたこ焼き

パワーブレンド外観

南千住の街角にあるたこ焼き屋、「パワーブレンドTANAKA」。

何の変哲もないたこ焼き屋さんのようだが、実は非常に怪しい店だ。「超能力でたこ焼きの味を変化させる」ことを堂々と謳っているからだ。

最初に提供されるのはノーマルの味だが、途中でご主人の超能力を加えてもらえば、荒不思議たちどころに味が変わるのだという。

こういうのを、「そんな馬鹿なことがあるわけがない!」と顔を真っ赤にして反論するのは大人気ないというものだ。「ほほう」とこぼれ出る笑みを忍びつつ、神妙な顔でその妙味を堪能するのが粋だ。

もっとも、「すげえ!超能力だ!これが世に広まらないのは政府の陰謀だ!フリーメーソン!」とかなんとか言い出すようだと、それはもっと大人気ない。こういう「すこしふしぎ」な世界を楽しむには、それなりのリテラシーが必要だ。

味変メニューは豊富

ご主人は客がびっくりしてしまうくらい無愛想だ。超常現象的なものに興味がある人というのは多弁でおせっかい焼きみたいな印象を持ってしまうが、それは違ったようだ。

壁にはびっちり、怪しいことが書いてあるのだが、その中には「試してみたい人説明を聞きたい人はそっちから声をかけてね。こういうのが嫌いな人がいるから、こっちから勧めることはしないよ」といったことが大きく書いてあった。

超能力の講釈を垂れるたこ焼き屋、というのは利用したくないけど、こうやって「興味のある人だけどうぞ。興味ない人は普通のたこ焼き屋としてご利用ください」というスタンスは素敵だ。

とはいっても、店内の壁は怪しいったらありゃしないのだけど。

「現代の魔法」と銘打った、「パワーブレンドによる味の色々」紙。つまり、ノーマルたこ焼きをこれだけの味に変えることができるのだということだ。

0番「元味」から始まって、2016年3月時点では54番まである。

ノーマルのたこ焼きから、超能力一閃で「あっさり」「こってり」に味が変わるというだけでもかなりな衝撃だし現代科学がひっくり返る偉大なる出来事だが、とにかくご主人があやつる超能力は微細な味のコントロールまで可能らしい。「すっきり」と「さわやか」がどう味が違うのかさっぱりわからないし、「あっさり」と「マイルド」の違いもわからない。しまいには「あっさりマイルド」という併せ技もあるし。

こういうのはネーミング付けたもの勝ちだ。「木村拓哉」「ゾマホン」「ナイナイ岡村」といった味もあるし、「坂本龍馬」のような歴史上の偉人まである。既に死んだ人の味なんてどうやって再現するというのか。・・・イヤ待て、生きていようが死んでいようが、どっちにせよ何味だよこれ。

とまあ、こういうのにいちいち突っ込みを入れるのは、我ながらすごくイタく感じる。「格好のネタ発見!うひょひょ」とほくそ笑んでる感が丸出しだからだ。名前と味の関連性とか味の違いとか、あれこれ妄想したってあんまり意味がなさそうだから、このあたりの考察はそこそこで十分だろう。

ノーマルたこ焼き

これで料理のお値段が非常に高かったら困ったものだが、安すぎて逆に困ってしまうお値段だからびっくりだ。たこ焼き6個入りで300円。うひゃー。

お店で食べることにしたので、焼きたてが供された。

おでんとたこ焼き

おでんもメニューにある。たこ焼きが焼きあがるまでの間、おでんを食べて待っていなさい、ということなんだろう・・・と思って2つ頼んでみた。1個60円なので2個で120円。たこ焼きとあわせて420円。やっすぅ。

でもおでんが出てきたのは、たこ焼きが焼きあがった後だった。「前菜的」に提供しているものではないようだ。

さてこのたこ焼き、もちろん「元味」だ。

焼きあがる前に油を結構鉄板に注ぐやり方で、「銀だこ」的だ。表面がかりっとして、中がとろとろ。正真正銘の焼きたてなので、とてもおいしい。

あっついので、むしろちょっとずつ食べるのが難しい。元味を堪能する間もなくあっという間に食べてしまった。あぶない、途中でパワーブレンドをしてもらわないといけないんだった。

味が変わった後のたこ焼き

半分食べたところで、パワーブレンドの神秘を体験してみることにした。

人名が冠された味に変えてもらう、というのはいかにもおちゃらけていてイヤだし、そもそも「なるほど、いかにも○○の味だ」なんて言えっこない。もう少し、ありきたりであってもこちらがイメージしやすい味にしたいところだ。

「50年ワープ」「スーパードライ」なんて選ぶのも悪くなかったが、まあ・・・やめとこう。

僕がやるべきことは、「なんだ!全然変化ないじゃないか!この嘘つき!」と揚げ足をとることではない。味が変化した(とされる)たこ焼きの中から、「あー、なるほどこれはひょっとすると味が変わったのかもしれんねぇ」というエッセンスを、限りなく抽出することだ。明らかに無理ゲーなメニューを選ぶのは、意地悪でしかない。

というわけで、頼んだのは「あっさりこくまろ」。

「あっさりこくまろをお願いします」

とたこ焼きをカウンターに持っていったら、ご主人は他の作業をしながら「あっさりこくまろね」とぼそっと言ったのち、たこ焼きの上で指をパチンと一発鳴らした。以上おしまい。

念を込めたり、間を空けたりという大げさな演出は一切なし。ご主人はそのまま店頭にやってきていたお客さんの焼きそばを袋詰めする作業を続行し、こっちの方には一瞥もくれなかった。なんともあっさり。あっ、ひょっとしてこのプレイ自体が「あっさりこくまろ」なのか?

食べたたこ焼きは、なるほどあっさりこくまろだった。

「あっさりこくまろだね」
「あっさりこくまろですね」

もう、自分たちでそう言い聞かせて食べる。それでいいじゃないか。

ややこしい壁紙

壁いっぱいの「チャレンジ」と書かれた紙。

自分でもパワーブレンドができ、それによってたこ焼きに限らずいろいろなものの味を変化させることができるのだという。しまいには、「一口ごとに味が変化する」という、めまぐるしいことも出来るらしい。そりゃすごい。すごすぎて、絶対に味の違いがわからないと思う。こりゃ、味が変わる・変わらない以前に、己の味覚がすごくないと無理だ。判別不能だもの、これじゃ。

「パワーブレンドとは、あらゆる物質に内在する、物質頭脳に対しさまざまな情報を入力し、指示通りの仕事をさせることです。」と公式サイトには書いてある。この「情報を入力する」というのが、指パッチンというわけだ。力まなくても、瞑想しなくても、接客の片手間にできてしまうのだからこのご主人は只者ではない。しかも、「あっさりこくまろ」なんていう誰一人として意味がわからない謎の味覚を実現させてしまうのだから。

これで値段が安くて味が結構イケるのだから何一つ問題ない。パワーブレンドをお願いしたからといって追加料金がかかるわけでもない。これからもより一層超能力パワーで頑張って欲しい。

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