500円居酒屋ランチの実力

釧路外観

御徒町の裏道を歩いていたら、「居酒屋釧路」というお店を発見した。

昼間だというのに、赤ちょうちんの明かりが灯っている。おや、どうやら営業しているらしい。

「らしい」としか言いようがないのは、店頭はパズルのように料理の写真がびっしりと貼られており、中をうかがうことができないからだ。「この中で一つだけ、ロシア料理が混じっています。さてどれでしょう?」みたいなクイズだったらちょっとだけ面白いけど、写真は和洋中いろいろ。脈略はない。敷いて言えば、「居酒屋料理。」ということだ。

入口は昼なのにぽっかりと薄暗く、洞窟のようだ。24時間営業、という呪いの言葉が道行く人を惑わし、洞窟へと誘っている。ああ、「昼から飲みてぇなぁ」という人にはちょうど良さそうだ。酒を飲まない人からすると「魔窟」にしか見えない入口も、酒飲みにとってはむしろ心地良い母胎への道だ。

店頭メニュー

そんなことを思いながらお店の前を素通りしようとしたら、ランチ定食が500円だよ、という看板が目に付いた。おやっ、昼間ならこの魔窟も下戸を受け入れてくれるのか。

それにしても500円って安い。丼ものならいざ知らず、「定食」スタイルで500円とは。

「いや、でもそんなこと言っても、すごくチープな料理しか出てこないんでしょ?」

もちろん、いくらチープであろうとも、東京のど真ん中で、駅に近くて、定食を500円で出すなんて英断だ。企業努力だとか食品のクオリティを落とすとかやったって、そう簡単に「500円」は無理だ。

一体どんな料理があるんだ?にわかには信じられない。

そういえば今日はまだお昼ご飯を食べていなかった。興味津々だし、お値段安いし、このお誘いに乗じることにした。「ご飯御代わり無料」というのも惹かれたし。

店内メニュー

はー。いろいろあるものだな。店内にあったメニューを見て感心する。

激安の居酒屋ランチといえば、「さくら水産」が有名だ。こちらも500円でランチ定食を提供していて、しかもご飯、お味噌汁、生卵、漬け物、海苔がおかわり自由だ。おかずそっちのけで、玉子かけご飯で丼飯三杯!くらいなら余裕。昔はよく通ったものだ。

しかしさすがに500円で出すだけあって、おかずの魚が痩せていてお世辞にも褒められたものではなかった。やはり、安く提供するためにはそれなりの妥協がある、ということだ。500円定食ともなれば、その「妥協」が客の目に付くレベルになってしまう。

一方、このお店の場合はどうか?

カキフライ、白身魚フライ、えびフライ、豚ロースカツ、生姜焼肉、豚キムチ炒め、鶏の竜田揚げ、鶏唐揚げの甘酢、もつ鍋、さば味噌、カレイの煮付け、サンマの塩焼き。

これらが全部500円、税込み540円だった。さすがに小鉢が一品付きます、といったことはないけど、メニューそのものは立派。おエビ様とか牡蠣なんて、決して安いものではあるまいに。

では見せておらおうじゃないか、このお店の実力とやらを。

もつ

モツ鍋セット(540円)。

「ご飯と味噌汁とおかず」という構成ではないよ、ということで「定食」は名乗っていない。「セット」だ。こういうネーミングセンスから、お店の良心が伺えて微笑ましい。

モツ鍋には大きな絹ごし豆腐がデロンと乗っているのが目を惹く。豆腐を細かく切ると、煮崩れてしまうからだろう。それだったらデカいままでいいや!という豪快さがしびれる。

ご飯茶碗は大ぶり。こんな茶碗で一日三食ご飯をたべていたら、確実に太る。「ほどほど食べる」つもりでも、ついご飯を盛りすぎてしまうからだ。で、大量のご飯を食べるために大量のおかずを消費するようになる。

豚生姜焼き

こちらは豚キムチ炒め定食。やっぱり540円。

安いから量は少ない、とは言わせないぞ!という意気込みが伝わってくる、必要十分な迫力ある量。しかも豚肉はペラッペラの細切れではなく、ちょっとした分厚さがある。噛み応えがあり、うまい。これはなかなか満足度が高い豚キムチだった。

ご飯のおかわりはセルフで。ついついご飯がはかどってしまい、おかわりをしてしまった。元からそれなりにご飯がよそってあったのに。居酒屋の食事って、塩分強めでガツンと食べ応えあるんだよな。健康にはよくないかもしれないけど、満足度って他に類をみないものがある。

恐るべきは500円ランチよ。もちろん絶品と褒めるつもりはないけど、「500円ならまぁこの程度だろうな」と上から目線で語るレベルではない。「これで500円とは凄い!」と下から目線でベタ褒めせざるをえない。

でも、これを1人前売ったって、せいぜい粗利は300円程度だろう。商売、成り立つのか?と心配になるレベル。でもここは24時間営業の居酒屋。客がいないよりはいてくれた方が助かるわけで、その結果こんなお得なメニューが存在する。

ランチメニューの右下に、「定食+生ビール1杯 800円(税込)」と書いてあった。これまた安い。呑んで、食べて800円なのだから。しかし店内の周囲を見渡すと、肝心のランチを食べているお客さんよりもガッツリと昼酒をたしなんでいらっしゃるプロの方だらけだった。さすがだ。

(2016.10.09)

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