濃いボジョレー・ヌーボーという存在

文京区は千駄木に、「ケープルヴィル」という写真館がある。

https://www.capleville.jp/

1階がカフェで、2階が古民家の風合いを活かした写真スタジオになっている、こじんまりとしたお店だ。

ケープルヴィル

あれっ、というほど建物は小さい。間口が狭いだけでなく、奥行きもさほどない。しかもお店は路地に入ったところにある。

僕は、谷根千エリアにある別のカフェで「ケープルヴィルってお店があって、そこは良いよ」と聞いていたので訪れてみたのだけど、初めての時はその外観にビビって素通りしたくらいだ。

ビビる必要なんてないんだけど、到底これがカフェには見えなかったからだ。何しろ、狭いお店は奥行きがなく土間があり、その奥には小上がりがあるからだ。まさに普通の民家。カフェと言われればそうかもしれないが、なんだか部外者が立ち入りにくい雰囲気を感じた。

そんな初回訪問だったけど、今じゃすっかり顔なじみのお店になっている。月替りのランチは必ず食べにいくようにしているし、時々やっているサークル活動的な集まりにも顔を出している。先日は、勢い余って2階のスタジオで写真撮影をお願いしたくらいだ。

ケープルヴィルのボジョレー

ここのオーナーはカメラマンであるとともにソムリエの資格も持っていて、さらに最近はチーズの資格まで習得したというマルチな才能の人だ。フランスに住んでいたという経歴があることから、ワインの買い付けルートは独自のものを持っているようだ。

そんなオーナーがボジョレーについて熱く語る。「とにかく、濃いんです」と。

濃いボジョレー?そんなもの、あるのだろうか。聞いたことがない。

お酒を1滴も飲めない僕が偉そうなことを言う資格はないのだけれど、ボジョレーというのは熟成が浅いぶどう酒なのだから、味は当然薄い。なんでこんなものにボトル1本2,000円前後払うのか、と思わざるをえない物足りなさだ。イベント性を楽しむものだ、と割り切らないと割に合わない味、それがボジョレー。

なのに、ケープルヴィルのオーナーは「ボジョレーって薄いって思ってるでしょう?濃いのもあるんです」と自信たっぷりだ。解禁日前にしてそう宣言するということは、そういうワインを醸造しているシャトーにツテがある、ということなのだろう。それは面白い。ぜひ、「濃いボジョレー」を見てみたいものだ。

そんなわけで、2019年の解禁日である11月21日に、お店を訪れてみた。

ケープルヴィル

もちろん僕はお酒が飲めない。味見程度、すらできないので、ボジョレーの解禁日なんて全く意味がないことだ。かといって自家製ジンジャーエールでも飲んで過ごすというのもつまらない。

そんな貴方に朗報、ここにはノンアルコールワインが赤白両方用意されている。これはさすがにボジョレーと全くの無縁だけど、まあ、雰囲気を楽しむってことで。

ケープルヴィル

オーナーがいつにもましてウキウキだ。今日解禁となったばかりのボジョレーを手に、解説をしてくれる。

「片方はお花畑の上を飛んでいるような、そんな華やかな感じ。もう片方はノンフィルターということもあって、お花畑を這ってるような感じ」

ということを本当に嬉しそうに語る。

ボジョレーの瓶というのは、スーパーの店頭などで大手メーカーや流通業が輸入したものを目にする機会が多いが、それらは大抵派手なラベルだ。中にはペットボトルのものもあったっけ。それと比べて、今回お店が用意したボトルは地味。でも本来こういうものなのだろう。

ボジョレーとお肉

ワインの味について僕はコメントできないので、あとはもう同じテーブルを囲んだ人たちの「おお」とか「ふむ」とかいう反応を見て「どうなの?美味しいの?どういう感じなの?」と聞くしかない。

実際に、かなり濃厚かつ香り豊かで美味いらしい。へええ、ボジョレーでうまいというものがあるのか。

僕の連れは、肉料理とボジョレーをあわせてご機嫌だ。薄い味のボジョレーは、一体何の料理とマリアージュさせればよいのやら、と思ってしまうが、今回の濃いやつならガッツリした肉でもイケるらしい。

そういえば、メルシャンなんてボジョレーの解禁日にあわせて、赤ワインだけでなくて白ワインも用意して販売しているな。ボジョレー・ヌーボーというのは本来赤ワインのはずなんだけど、「やっぱり紅白で飲んでみたいな」という人向けに白ワインも用意してあるようだ。そのかわり、よく見ると「ボジョレー・ヌーボー」とは書いておらず、「マコン・ビラージュ・ヌーボー」と書いてあったりする。

ケープルヴィル

さて一方の僕だが、ノンアルコールワインを注文してみた。

クリスマスの時くらいは、自宅用にノンアルコールスパークリングワインやノンアルコールワインを飲むことがある。しかし、当たり外れが大きい世界で、チョイスに失敗することもある。

妙に甘いとか、ワインに似せようとして無理に渋めにしてあるとか。

単なるぶどうジュースにしてしまうと意味がないので、もう少しワインっぽくしなくちゃ、となると作り手はなかなか難しい。ぶどうジュースならば、スーパーで小岩井ブランドの100%ジュースを買ってくればいい、ってことになっちゃう。ワインの場合、渋いのから酸っぱいのから甘いのからいろいろあるので、どういう味をノンアルコールで目指すのか、というのは難しい。

ケープルヴィル

このお店でよくワインを飲んでいる、という同卓のお客さんから、「ここのノンアルコールワインはおいしいですよ」と教えてもらう。「まるではちみつを飲んでいるようです」とも言う。はちみつ?ベタベタに甘いの?それはちょっと。

裏面ラベルを見ると、「ワイン用ぶどうのジュース」と書いてある。へえ、ワインを作るためのぶどう品種でジュースを作ったのか。でも、ワイン用のぶどうって、食用としてはおいしくないと聞いたことがあるのだけれど?

「いや、そんなことはないですよ。ちゃんとした農家さんが作っていれば、ワイン用のぶどうも十分においしいです」

とオーナーさんがおっしゃる。勉強になる。

ケープルヴィル

右がノンアルコールワイン、左がボジョレー・ヌーボー。

うっかり間違えるとやばいので、写真撮影はほどほどにしておかないと。でもそれくらい、見比べてもわからない。

飲んでみると、たしかにこれには驚いた。ワイン風のぶどうジュースという雰囲気にはなっておらず、「これって単なるぶどうジュースやないか!」というベクトル。でもかなり美味い。同卓のお客さんが言う通り、蜜めいた甘みがある。こってり濃厚な甘みと、濃さ。これはすごい。こんなぶどうジュースは飲んだことがない。

ジュースだけど、お酒を飲んでいる人と同じペースでチビリチビリと飲むのがちょうどいい。それくらい、濃い味わい。こんなジュースに出会えたのはかなり幸運だと思う。

白ぶどうジュースもいただく

気になったので、白の方のノンアルコールワインも飲んでみた。

「ノンアルコールワイン」という言い方はお店の売り方の都合でそう言っているだけで、やっぱりこちらもれっきとした「ぶどうジュース」だ。ワイン風飲み物、とはいえない。でもこれも赤いやつに負けず劣らず、甘くて濃厚。このままかき氷にかけて食べたいくらいだ。

他のみんなは濃いボジョレーを、そしてお酒が飲めない僕は濃いぶどうジュースを。いずれにせよ、幸せな一晩であった。そんな2019年のボジョレー解禁日だった。

(2019.11.21)

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