馬車道、というファミレスがあるのを知っているだろうか。埼玉県を中心に関東近郊に展開しているチェーン店だ。
大正ロマンを売りにしているのか、店内は明治大正期のモダンな洋館の内外装。店員さんは卒業式の女子学生みたいに袴姿のいでたちで目を惹く。
僕が昔住んでいた埼玉県の戸田公園にもこの「馬車道」はあった。お台場の東京ビックサイトでコミケが開催される年2回は、全国から集まったコミケ帰りの人たちがわざわざ戸田公園までやってくることがあったそうだ。なぜなら、JR埼京線に乗れば乗換なしでたどり着ける、貴重な馬車道だからだ。ロードサイド店が主力のファミレスなので、「駅から歩いていけるお店」は数少なかった。
そんな思い出があるお店だ。

この日、多摩ニュータウンを探検してみたい!というかねてからのムラムラを満たすためにレンタサイクルで調布⇒多摩センターを移動していた。
話が脱線するけど、多摩ニュータウンはマジで面白い。住人の高齢化が著しいんだ、とか、高度経済成長のときに一斉に人が住んだので世代がバラけていなくてよくない、みたいなネガティブな話を事前に聞いていたけど、とんでもない。少なくとも、当事者ではなく観光客として街を探検するのは最高の場所だ。電動アシスト付き自転車があるなら、なおさら。
建物の作りがいちいちどれも面白いし、今じゃ考えられないような意欲的な街の作りになっている。そして、丘陵地帯の地形を複雑に活用していて、立体感がある。僕が知っている広島の団地は、山を切り崩して平らにならして、碁盤目状に道路を作って、宅地を分譲するスタイルが多い。それと比べてこの界隈の芳醇さはとても楽しい。つい、あちこち路地に彷徨い込んでしまう。
そろそろお昼ごはんを、と考えていたとき、たまたま目に入ったのが「馬車道」だった。ほう、こんなところにも馬車道が。
多摩ニュータウンという場所柄、「せっかくだからご当地的なものを」というような場所ではない。すっかり観光気分だけど、ここは観光地ではないれっきとした東京都の住宅地だから。ならば、ここで食べるのも悪くない。

・・・とおもったら、驚いた!ここ、「ピッツァ食べ放題」をやってるぞ。知らなかった、こんな業態の馬車道もあるのか。
そういえば、店員さんが袴姿じゃない。ピザだから、和風モダンな格好じゃないんだな。へえー。
それはともかく、値段だ。高かったら話にならないけど、値段は税別1,099円~。いいじゃないか、これ。即決でここに決めた。
ちなみに
- 1,099円の「ローマセット」はピザ食べ放題+サラダ
- 1,249円の「ミラノセット」はピザ食べ放題+メイン料理1品
- 1,349円の「ナポリセット」はピザ食べ放題+メイン料理1品+サラダ
となっている。我々は、一人がミラノセット、もう一人がナポリセットにしてそれぞれを取り分けることにした。こうすれば、メイン料理もサラダも食べられる。そしてピザは食べ放題だ。
客席は空いている印象。こんな楽しげなお店なのになんで?と思ったら、12時を過ぎたころには激混みになっていた。そりゃそうだ。なにせピザ食べ放題のファミレスだ、混まないわけがない。お客さんの回転が鈍いだろうから、なかなか客席が空かないだろうし。

いくら食べ放題好きの僕だからといって、単にピザ食べ放題というだけではここまでワクワクしない。
優柔不断の僕が即断できたのは、このお店の食べ放題スタイルがシュラスコと同じだったからだ。つまり、ピザを持った店員さんが各テーブルを回り、「欲しい」と言うお客さんにピザをサーブする。お客がビュッフェカウンターに取りに行くというスタイルではない。
へえ、こんなお店が存在するとは。
卓上には、シュラスコ店と同じで食べる意欲があるか・ないかを意思表示する札が立っていた。
青い札には「まだまだいただきます」と書いてある。これを出していると、ピザが乗せられた大皿を持った店員さんがにこやかにテーブルまでやってきてくれる。

お腹いっぱいになったり、一旦ストップしたいときは赤い札を出す。「ちょっと休憩」と書いてある。
たったこれだけのことだけど、札というギミックがあるだけでなんとワクワクすることよ。
「まだかな、まだかな」と店員さんの次の来訪を心待ちにする自分がいる。
店員さんが各テーブルを巡回して、「◯◯のピザ、いかがですか」と接客するのはお店にとって手間だ。時間もお金もかかる。カウンターにずらっとピザを並べて客自らに取りにいかせたほうが人件費が浮くと思う。なんでこういう楽しいサービスをやっているのだろう?
それは食べることの楽しみを提供したい、というお店の思いがあるだろう。それと同時に、「次のピザがやってくるまでひたすら待つことになるお客の胃袋」をお店側がコントロールできるので、お店が困るほどドカ食いする人が現れないというメリットも考えられる。
なにせ粉もののピザだ。何ピースか食べてしばらく時間が経てば、人間は満腹感を覚えてくる。ピザをたくさん食べたければ、満腹中枢がピコーンと反応する前にドスドスと胃袋にいれたい。でも、このお店のスタイルだとそうはいかない。なるほどねぇ。
お客としては楽しくて、それでも思ったよりも食べられなくて、でも満足する。いいスタイルじゃないか。

ピザは多くの種類が食べられるように、という配慮もあって小さめのサイズだ。これでアメリカンサイズだったら、1枚食べて終わりじゃねーか!となるけれど、さすがそこは気が利いている。
甘いものしょっぱいもの、トマトソースベースのものそれ以外のもの、順番はランダム。なので、のっけから生クリームが乗っかったピザが届いた。これもまたシュラスコ的な楽しみだ。こちらの自由意志が通用しない不自由さが、面白い。「◯◯が次にやってきたら、それでもう今日はごちそうさまにする」と宣言しても、肝心の◯◯がなかなかテーブルにやってこないとか。
以前、港区広尾に中華飲茶のビュッフェがあって、そこではワゴンにせいろ料理を乗せた服務員が店内を巡回していた。新幹線の車内販売を呼び止めるように、お客は「あ、すいませーん」と声をかけて服務員を呼び止め、料理をもらう。今はこのお店、なくなってしまって残念。
こういう「カウンターまで料理を取りに行かない食べ放題」っていいよな。他にも似たようなことってできないだろうか?とあれこれ考えてしまった。
回転寿司みたいにレーンを設置するほどのものではなく、そしてサラダみたいに「個人の裁量で盛る」のとも違う料理。しかも料理の種類が豊富。・・・うーん?
(2022.04.17)
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