知名度があって人が大勢訪れる観光地というのはどこも新陳代謝が激しいものだ。
僕にとって馴染みのある場所、岡山県倉敷市の「美観地区」もそうだ。この土地は僕が生まれて以来数十年、変化を見続けてきた。昔は面白みのない、渋いお土産物屋が多かった印象だけど最近はどんどん意欲的なお店が生まれている。しかも、加速度的に。
倉敷に限った話じゃないが、飲食店、特にカフェ系のお店が増えるというのが観光地の特徴だろう。昔の人は「ちょっと一息」をしていなかったんじゃないか?というくらい、今はカフェが増えた。
秋葉原を見ろ、20年以上前はマジでメシを食うところに困るような飲食店不毛の地だった。でも今や、いたるところにメシ屋もカフェもあって食事に不自由しない。
2022年のGW、倉敷美観地区のアイビースクエア付近を散歩していたら、なにやら通り過ぎる人で数名変なのがいる。点滴のバッグのような透明の容器にストローが刺さっているものを手にして、そこからピンク色のものを吸っているのだ。
なんだあれ。また新手のお店ができたのか。だとしても、なんだあれ。
見たことないな、と思いながら先に進んでみると、そこには「うふ、いちご。」という看板を掲げたお店があった。あっ、これかぁ。
ここ、以前は蕎麦屋があったのに、テナントが変わったんだな。で、出来たのがいちごのお店とは。
美観地区といえば、いつも大行列ができている「倉敷桃子」というフルーツパフェのお店がある。四季折々の、旬の果物をどかーんと載っけたパフェが名物で、白桃やいちご、マンゴーなど季節ごとにあれこれ用意されている。1杯2,000円を超えてくるような客単価だけど、それでも行列店なのだからすごい。
人気がありすぎて、わずか数百メートル内に3店舗も出来てしまい、そのいずれもが行列店というとんでもないドミナント運営だ。
他にも、「パーラー倉敷小町」というパフェが名物のお店も2店舗ある。いつの間にか倉敷は、「備前焼や民芸品が売られている街」から「デニムの街」になり、そして「フルーツ王国の街」のイメージも乗っかってきて重層的になってきた。とてもうまくいっていると思う。
で、だ。倉敷桃子では2,000円前後が当たり前のフルーツパフェだけど、ここではその廉価版が売られている。「苺チーズケーキパフェ」が600円~660円。桁が一つ違う。ただし限定20食。
先程見かけた「点滴みたいなやつ」は、「もみもみ苺ミルク」という商品で500円。袋をもみもみして苺を潰してミルクと混ぜつつ飲む、苺ミルク飲料だった。街歩きしながら飲めるので便利。飲み終わったあとのゴミをどうするんだ問題はあるけれど。
イートインで苺チーズケーキパフェを食べることにする。
奥に細長い店内は、壁に面したカウンター席となっていて、デザインが面白い。へえ、今どきだなあと感心させられる。完全にスマホで写真を撮ることを前提としている。
なお、反対側の壁は、病院の待合室にあるような長いソファが据え付けられている。机はない。壁には大きな苺のマークと、「倉敷 ICHIGO SWEETS」のロゴ。そこで食べても良いのだろうけど、どちらかというと「苺スイーツを食べている私を友達に撮ってもらう」ための場所だ。
観光地の新店、というのはすごいな。「良い商品を提供すれば売れる」程度の考えじゃ駄目で、映えとか記憶に残るとか、五感に訴求しようと知恵を絞っている。
これが「うふ、いちご。」の苺チーズケーキパフェ(ミックス)660円。
小ぶりだ。そしてガラス容器ではなく、使い捨てではないプラカップになっている。
さすがに値段相応で、フルーツもっさりの「倉敷桃子」とは方向性が違う。いちごがトッピングされたパフェ風チーズケーキ、というものだ。なるほど、納得。チープさは若干あるものの、写真を撮って楽しむには手軽で嬉しい商品だ。
壁には、なまこ壁の蔵といちごの木。
いちごってこんな木だったっけ?ハウス栽培されている、いちご狩り用のいちごしか見たことがないので、植物学的な正確な知識を持っていない。
あ、違う、これはなまこ壁の建物が並ぶ倉敷川沿いに生えている、柳の木を描いたんだな?で、その美観地区の風景にいちごをドッキングさせたものだ、と。
ちなみに倉敷でいちごが生産されているという話は聞いたことがない。一応岡山県でもいちごの栽培は行われているけれど。もうね、「晴れの国・岡山」=「フルーツ王国・岡山」というブランドが出来つつあるんで、フルーツならどこ産のものを使っても許される感がある。東日本だと、「フルーツ王国」と聞くと山梨とか山形とか長野とか、いろいろ思いつく候補があってごちゃごちゃする。でも西日本なら岡山っぽいというコンセンサスがあるんじゃなかろうか(僕の勝手な思い込みだけど)。
なにはともあれ、「桃太郎」の童話があるおかげで、「岡山といえば桃」というイメージが植え付けられていて強い。
この絵を見たいしは、「AUDREY(オードリー)のデザインみたい」と言っていた。たしかに、いちごを使った線画という点では似てる。
このカウンター席の壁画、ところどころに倉敷川を運行する観光用の川船が組み込まれている。しかも、絵ではなく、わざわざ刺身の舟盛りみたいになっている。
船頭さんが「sweet!」と叫んでおり、なにやらカモーンと僕らに呼びかけているかのようだ。なんだこれは。
この川船、カウンター席の何箇所かに出っ張って設置されている。単なるデザインではないようだ。
そこでいしが気がついた。「あ、これ、スイーツをここに載せて写真を撮るってことじゃないですか?」
あっ、そういうことか!おっさんの僕は全く気が付かなかった。
すでに食べ終わってしまったパフェの容器を川船に乗せてみた。
なるほど確かに!こういうことだったのか。
それにしてもすごいなあ、「映え」をあれこれ考えると、こういうアイディアが出てくるのか。狭くて奥まったお店で、「窓から差し込む天然光」も「広々とした机」も用意できないなかで、壁を使ってくるとは想定外だ。
こういうギミックはリピーター向けではないかもしれない。一見さん中心の観光地だからこその発想で、そういう割り切りもまた清々しかった。
(2022.04.30)
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