食べ放題なのに、遠慮してしまった無念な体験。「喜三郎農場」で卵かけご飯を食べる

都営三田線の千石駅の近くに、「喜三郎農場」という飲食店がある。卵料理が自慢のお店らしい。

このお店には、ブランド鶏の卵がいくつも用意されており、それを食べ放題にするプランが存在する。

普段、僕がスーパーで卵を買うときは、「一番安いやつ」という基準で選んでいる。だから大抵「ふぞろいたまご」みたいな名前が付いている、サイズにばらつきがある卵を買っている。それでもまったく不自由を感じたことはない。

厳密なお菓子作りをするわけではないので、卵が少々大きくても小さくても、気にならない。

その程度しか卵に対して気にかけていない僕なので、ブランド鶏の卵というのはまったく想像がつかない。果たして、「さすがブランド鶏!これまで食べてきた卵とぜんぜん違う!」と感心するのか、それとも「うーん、よくわからない」と首を捻ることになるのか。

「食べ放題」であることにはあまり興味はない。卵かけご飯ばっかりを食べてお腹いっぱいになるのは、僕にとってワクワクしないシチュエーションだ。それよりも、いろいろある卵をあれもこれも、食べられるというのが楽しみだ。だって、卵の食べ比べなんてこれまでの人生で経験がないから。

せいぜい、旅館やホテルの朝食ビュッフェで、「生卵と、温泉卵の二種類が用意されている」のを見かけるくらいだ。でもこれは加熱しているかどうかの違いであって、卵そのものは同じはずだ。

先日、「納豆食べ放題」を体験したけれど、それに続く「食べ放題」体験。楽しみだ。

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お店はとても混んでいた。僕が訪れたのがちょうど昼どきだったせいもあるが、そこそこ広さがある店内はお客さんがぎっちり座っていた。繁盛している。

みんな卵かけご飯をモグモグ食べているのかと思ったら、案外そういう人は少数派で、多くの人は別の卵料理を食べていた。

それもそのはず、卵かけご飯の食べ放題は結構高いからだ。

昨今、いろいろな影響で卵の値段が急騰した。わずか1年で価格が約1.5倍になったのだから、卵食べ放題を提供しているこのお店は大変だ。もちろん、値段改定をしているが、それでも客が本気になって卵を食べまくったら、お店は「もうそろそろ食べるのを止めてほしい・・・」と思うだろう。なにせ、市場ではあまり流通していないブランド卵なのだから。

2023年4月時点では、卵とご飯食べ放題の「TKGおおまくれ御膳」が1,600円。これだけのお金があれば、もっと違った美味いものが世の中にいっぱいあると思う。何でご飯と卵のためにこれだけのお金を払うのか?と自問自答してしまう値段だ。でも仕方がない、本当に洒落にならないレベルの物価高だから。

ワンランク落とせば、卵食べ放題の「卵かけご飯御膳」がある。これだと1,000円。うーん、これだったらお札1枚出すだけで済むので、心理的な抵抗が低くなる。

とはいえ、ご飯がおかわり自由の権利がなくなるのは厳しい。いくら卵食べ放題だからといって、生卵だけをズルズルとすすって食べているとだんだん気持ち悪くなってきそうだ。ご飯と生卵、それに醤油をちょっと垂らして食べるのが最高なのであって、生卵だけを食べるのはスタローン演じるロッキーくらいだ。

結局、高いのをぐっとこらえて「TKGおおまくれ御膳」を頼んだ。

お店のルールとして、卵はセルフで取ってくることになっている。

お店の中央に籠が並べられ、そこに卵がたくさん盛られていた。へえー、なるほど面白い。ちなみにこの日は7種類の卵が用意されていた。

みかんたまご、比内地鶏、ハーブ卵、お米卵、ゆうやけ卵、ゆずたま、名古屋コーチン。

とりあえず、お皿に卵を3つ盛って自分の席に戻る。一度にたくさん持って帰っても、どの卵が何だったかわからなくなってしまう。ほら、そうこうしているうちに3つでもどれがどれだかわからなくなったぞ。

料理の構成はすごくシンプル。小ぶりのお茶碗に軽く盛られたご飯、お味噌汁、少量の漬物、少量のサラダ、そして14種類の中から1種類選べるトッピング、ということで僕が選んだ「しらす」。このしらすも小皿に少量だ。

全部が少量。はっきり言って僕はこの構成に定食として物足りなさを感じるが、高級卵を使っていてコストが尋常じゃないお店の都合を思うと文句はない。

それにしても誤算だったのが、ご飯だ。

卵が置いてある籠の横に大きな炊飯器を置いておいて、ご飯のおかわりはセルフサービスでどうぞ、となっていれば嬉しかった。しかしこのお店は、おかわりの都度厨房に「おかわりをお願いします」とお茶碗を持ってお願いしにいかなければならない。

学生ならまだしも、50歳近い人間が何度もおかわりをしにいくのは気が引ける。

さて・・・どうしよう。

見たところ、1杯あたりのご飯の量は少なめだ。ちょうど玉子かけご飯にするとバランスが良いご飯の量、とも言える。お店の愛情なのかもしれない。しかし、僕の頭の中では、「卵が7種類あるからには、当然7個は食べる」という腹積もりだ。となると、6回おかわりを厨房にお願いしないといけないのか・・・と考えてしまう。それは嫌だなあ。

比内地鶏の卵を割ってみる。

割ろうとしてまず「おっ」と思うのが、殻が硬いということだ。スーパーで僕が普段買っている、安い卵だと殻がひ弱ですぐに割れる。殻が粉々にならないように、割る際には力を手加減しないといけないくらいだ。

しかし、こういうブランド鶏は普段良いものを食べているのだろう。殻にまで栄養が行き渡っているようで、硬い。机の角でガンガン叩いて、ようやく割れた。

うっかり割った卵を床に落としてしまった、というのはお店にも卵にも申し訳ないので、割る際は慎重に。

まずはシンプルに卵そのものの味を楽しもう、と決めた。

ご飯の上に乗せず、醤油もかけず、卵を箸で解きほぐしただけのものを食べる。

・・・うーん?

普段とは違うスタイルの食べ方なので、味が良いのか悪いのか、さっぱりわからない。

あと、ホットコーヒーを飲むようにちびちびと生卵は飲まない。飲むならば一気にズルっと飲む。なので、味わう前に飲み込んでしまった。

「納豆食べ放題」のときに感じたことだが、同じ食材を食べ比べた際、自分の味覚や語彙の乏しさを認識する。見た目の違いはすぐにわかるのだけれど、味の違いはうまく表現できないし、表現する以前に違いがわからない。

つまり、7種類全部食べてみたけれど、すごく感動することはなかったし、「これは明らかに美味しい!」と驚くこともなかった、ということだ。

「ゆずたま」のように風味が明らかに違う卵、「お米卵」のように黄身の色が違う卵はわかりやすかったが、それ以外で「これはもう一度リピートしたい」と心がときめいた卵には出会わなかった。卵が悪いんじゃない、僕の味覚が卵の違いを判別できなかったからだ。

あと、卵の大半をご飯にかけず、そのまま食べたから味がよく分からなかった、というのも事実だ。

2度ほどご飯をおかわりしたが、常に忙しそうに調理をしている厨房の方に声がけするのが若干ためらわれたのと、おかわりも相変わらず小盛りで、しかも無言でお茶碗を受け取り、ご飯を盛って、無言で渡してくるのでとても気まずかった。

これだったら、僕が頼むのはご飯食べ放題がない「卵かけご飯御膳」で良かったかもしれない。

(2023.04.19)

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