定義とうふ店の油揚げは想像レベルを上回る美味しさだった

仙台の郊外に、「定義山」という場所がある。正式には「定義如来 西方寺」というお寺なのだが、年間100万人規模で観光客や参拝客が訪れることもあって参道には飲食店や土産物店が立ち並ぶ。

ここに至るまでの道は、車の対面通行も若干面倒な狭い場所がある。そんな山奥なのになぜ100万人も集まるのか、というと、御本尊の阿弥陀如来のお参り目的だけでなく、この地の名物である「三角油揚げ」目当ての人が多いからだ。

実際僕自身、今回は油揚げを食べにやってきた。西方寺にはお参りしないで、満足して帰っちゃったくらいだ。それくらい、この地は油揚げが有名だ。

僕がこの地の油揚げを知ったのは、久保ミツロウ作の漫画「モテキ」で登場したからだ。単に主人公たちが旅行の際に立ち寄っただけの場所なのだけど、油揚げが美味しいということは強烈に記憶に残った。

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いつか行きたい、と思いつつ行きそびれていたので、今回ようやくたどり着いたことには感慨ひとしおだ。

油揚げを売るお店は参道に何店舗かあるが、油揚げ専門店としてとても有名であり、店構えが大きいのは「定義とうふ店」だ。僕もここで油揚げを食べることにした。

お店に入って「おっ」と驚くのが、注文を受けるレジカウンターが3つあるということだ。売っているのは油揚げと豆乳くらいしかないのに、まるでハンバーガー店のレジのようだ。こんな光景は見たことがない。それだけ繁盛する、ということだ。

油揚げは1枚150円。豆乳は130円。

漫画「モテキ」では、「日本一旨い油揚げ」として紹介されていた油揚げ。

とはいっても、「美味しい」という情報を事前に知っている以上、食べる立場としてはものすごくハードルが上がっている。旨くて当然、予想の1.3倍くらい美味しくないと、「まあ、こんなものか」という感想になるだろう。

しかし、そんな心配は杞憂だった。食べてみたら、想像していた2倍は美味しかったからだ。そんなことって、あるのか。美味いと知ってて食べて、それよりも美味いことって。

最近は「美味いとされるお店に行って、風光明媚だとされる場所に行く」などと、旅行が「事前情報の答え合わせ化」している。そこに大して驚きや興奮はないのだけれど、いやぁこいつァ驚いた。すごいわ。

なにもかけないで食べても美味しいのだけど、むしろこのお店の油揚げは卓上の七味唐辛子をかけたほうがうまくなる気がする。調味料をかけるなんて邪道、と僕は思っていたのだが、この油揚げに関しては別だ。たっぷりの七味唐辛子と、醤油が油揚げの味を引き立てる。

僕ら夫婦は、油揚げをおかわりして一人2枚食べた。2歳になる弊息子も、一人で1枚食べた。べそをかいておかわりを要求したくらいだ。それくらい、うまい。

なんでこんなに美味しいのか、謎だ。たぶん、揚げて間もない油揚げが食べられるから、という要素が大きいと思う。このお店はひっきりなしにお客さんがやってくるので、厨房では常に油揚げを揚げている。揚げたての油揚げはうまいにきまっている。

おそらく、日本全国様々なお豆腐屋さんが存在するのだから、この定義の油揚げと同等ないしそれ以上のポテンシャルを持った逸品はたくさん存在するはずだ。しかし、「観光客が気軽におとずれて、さっと注文したら揚げたてのやつが出てきてスゲー美味い」という体験ができる場所は殆どないはずだ。

びっくりした。また、この定義とうふ店目当てで仙台を訪れたい。駅でずんだシェイクを飲んで、その後車を借りて定義へ、というルートがいい。


【余談】
本当は、定義山からもう少し山奥に入ったところにある「定義温泉」が相当昔から気になり続けていた。一般公開されていない、人里離れた温泉療養のための精神病院だ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%9A%E7%BE%A9%E6%B8%A9%E6%B3%89

人間の体温とほぼ同じ湯温で、湯船に療養患者を1日10時間ほど浸けると精神が落ち着くのだという。暴れるような患者は鎖で縛ったりもしていたようだ。

建物が古めかしくてとても立派であること、一般公開されていないこと、つげ義春をはじめとしてこの温泉について書いた文章やブログがいくつかあることからとても気になっていた。

冷やかしで訪れるのはダメな場所なので、「ひと目、建物の外観だけでも見てみたい」ということさえやめておいた方がいい。でも、そうこうしているうちに2011年の東日本大震災で建物の一部が壊れ、廃業してしまったらしい。今では、木造の風情ある建物は廃墟となっているそうだ。

今回、せめて定義温泉に通じる道の分岐地点まででも行けないかと思ったが、やっぱりやめておいた。気が引けたからだ。現在は廃業したとはいえ、やっぱり興味本位で行く場所ではない気がした。

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