仙台にでかけた際、夕食の場所としていしが選んだのが牛タン屋さんだった。
投宿するホテルの近くのお店は1ヶ月前にもかかわらず予約がいっぱいで、第二候補だった別のお店がギリギリ予約が取れた。「(夜の部の営業が開始される)17時から、1時間限定で」という条件つきで、だ。
仙台は牛肉の名産地ではないのに、牛タン料理が名物となっているのはとても有名な話だ。観光にしろビジネスにしろ、仙台を訪れた人は駅でずんだシェイクを飲み、食事は町中で牛タンを食べるという展開は多いだろう。
とはいえ、1か月前の予約電話にもかかわらず、思うように予約がとれないことにびっくりした。そんなに人気なのか。
いしが予約をとってくれたお店は、東北地方一番の繁華街である国分町のほど近くにある、「牛たん料理 閣」というお店だった。17時にお店におとずれてみると、2階にある店舗入口からずらっと行列ができていて、階段にまで列が伸びている状態だった。ここに並んでいる人たちは予約を入れていないのだろう。
人気ラーメン店でも、この行列を見たら「今日はやめておこう・・・」と思うような人の数だった。ましてや牛タンのようにラーメンよりももっと客の回転が遅いであろう業態の店でこの列というのはすごい。よく並ぼうと思ったものだ。そこまで執着してでも、食べたい逸品なのだろう。
1時間でお店を出ないといけないので、たいへんだ。なにせ我が家族には時間と手間がかかる2歳児がいる。2歳児の食事介助をやっていたら、1時間なんてあっという間だ。
お通しは牛タンの角煮。山形名物である玉こんにゃくが添えられている。これだけでもうまい。
酒を飲む人なら、大変にすばらしいスターターキットになるだろう。
トマトサラダ。皮が湯剥きされ、極薄にスライスされたトマトは箸休めにとても良い。
たかがトマトサラダ、と思いがちだが、トマトの丁寧な処理だけでなくドレッシングがうまい。「箸休め」という表現を使ったが、それはここであれもこれもつい料理を頼んじゃうので、結果的に箸休め的ポジションになってしまうからだ。実際には、これ単体でも十分にインパクトのある、ぜひ頼むべき一品。
たんの冷製スライス。からしを付けて食べるスタイルが面白い。
たんタタキ(ハーフサイズ)。
タンをタタキで食べるのか!と感心するが、実物をみてますます感心した。まるでローストビーフのような見た目。
刻み青ネギと玉ねぎスライスが大量に盛られている方に目線がいってしまうが、違う、そっちじゃない。この美しいたんのタタキを見てくれ。見事だよな。というか、こういう火の入れ加減で食べられるものなのか、タンって。
焼肉における牛タンがごく薄切りなのにはわけがある。分厚いと、歯ごたえがありすぎて食べにくい部位だからだ。しかしこのお店のタンはどうだ?分厚くしても、柔らかいったらありゃしない。
ステーキ肉を叩いて肉の繊維を断ち切ることで、柔らかく食べられるようにする、という調理法がある。そういうことをやっているのか?というくらい、僕が知っている牛タンと比べて柔らかい。これはうまい。
・・・と書いたところでふと気がついた。そういえば僕、牛タンってあんまり食べないぞ。大抵、ホルモンや焼肉食べ放題の店に行って、食べるタンといえば豚タンだ。豚タンは弾力がある部位だ。
ちなみに、このお店にはディナータイム限定で「たん刺身」というメニューがある。今回頼んだのだが、欠品しているそうだ。いしはしきりに残念がっていたが、このタタキが食べられたらもう十分だ。・・・と思う。たぶん。
欧風牛たんカリー。
弊息子は歯ごたえがあるもの、酸っぱいものを食べたがらない。なので、牛タンの一品料理ばかり頼んでいたら、弊息子が食べるものがないおそれがあった。なので、カレーを頼んだわけだ。カレーなら、ご飯とルーは確実に食べられるし、煮込まれた牛タンは彼だって食べるはずだ、という計算があってのことだ。
牛タン屋に行ってカレーを食べることになるとは思わなかった。自分ひとりで訪れていたら、何回通ったとしてもカレーを頼むという選択肢はなかっただろう。
だって、圧倒的不動の地位を持っているのが「たん焼き定食」だから。これさえ食べておけばピースフルだ。
たんの枚数は4枚、5枚、6枚のどれかを選ぶことができる。
せっかくだから6枚!4枚なんてあっという間だ!と言いたいところだが、なにせとても柔らかい、スペシャルな肉だ。「せっかくだから」というマジックワードで頼めるほど、気安い値段ではない。なんと、1枚増やすごとに550円が加算される。
えっ!?と二度見してしまう。
だって、牛丼一杯食べてもまだお釣りが来る値段で、ようやくこの肉が一切れだ。
腹を満たしたい、というだけの欲求ならばこんな料理を食べてはいけない。だって、実際に食べてみたら、「うへぇ、これは恐れ入った」と声が出てしまう味だったからだ。
今どき、「うへぇ」という感嘆のしかたも、「恐れ入った」という表現も、完全に時代遅れだ。昭和時代の名残だ。でもそんな言葉が思わず口をついて出てしまうくらい、美味かった。参った。
このお店が他店と比べて際立ってうまいのかどうかは、僕にはわからない。そこまで牛たんを食べた経験がないからだ。でも、このお店が予約を入れてお金を握りしめてでも行く価値がある、と思った。いいものを食べさせてもらった。
値段的には、この「たん焼き定食」だけを食べてストップするのが限界だ。僕が地元民なら、とてもじゃないが2,300円近くする定食なんて食べられないし、食べたとしても罪悪感が勝る。一方、今回の僕らは観光客という立場なので、つい財布の紐が緩んだ。観光って、経済効果がすごいな、と改めて思う。自分の財布が軽くなってしまったことでそれを実感する。
18時、満足してお店を出たら、店の外の行列は階段を下りきって、2階から1階まで伸びていた。最後尾の人は、いったい何時になったら食べられるのだろう?
(2023.09.16)
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