久しぶりに居酒屋に行った【俺のやきとり】

六本木での用事が済んで、家族で新橋にやってきた。

夕食を食べて帰ろう、ということになり、せっかくだから銀座9丁目にある「俺のやきとり」に行ってみることにした。

「俺の◯◯」は、銀座界隈を中心にあちこちに店舗展開しているお店で、「俺のフレンチ」や「俺のイタリアン」が知られている。立食形式で狭い客席にお客さんを大勢入れ、高回転させるのがこのお店独特のビジネスモデルで、高級レストランのシェフを招聘し、フォアグラやトリュフといった高級食材をふんだんに使っているのにもかかわらず「安い」という特徴がある。

いっときは、予約を入れようとしてもどのお店も全然空きがない、という状況だった。しかし、今回web予約画面を見てみたが、空きが多くあって「あれっ」と思った。当日の直前予約はぜんぜんOKだし、平日の19時など、サラリーマン利用が見込める時間帯も空きがあるようだった。コロナを経て、飲食業を取り巻く環境は変わったようだ。

そもそも、「俺の◯◯」はもともと立食スタイルで高級食材を安く食べるお店だったが、そのやり方はそうそうに軌道修正し、今では立ち食いのお店は残っていないかもしれない。やっぱり、椅子がないとしんどい、という客の意見が多かったのだろう。

椅子をお店に置くことで客の回転率は下がるし、店舗の床面積あたりの収益率も下がる。その穴をどう補ったのかというと、ミュージックチャージだ。ピアノやボーカルといった生演奏がステージで展開され、それに対して客からミュージックチャージを取るようになった。はっきりいって、お客さんからすると「音楽はいらないよ、やかましいよ」と思うのだが、多分にお店都合だったのだろう。

何しろ、もともと大して広くないお店に生楽器が置いてあって、プロがバーンと演奏するわけだ。スピーカーからボリューム調整されたBGMが流れるのとはわけがちがい、演奏中は仲間同士での会話がままならないレベルで音量が大きかった。

今回、「俺のやきとり」には6年ぶりに訪問したのだが、音楽ステージは客席に変えられ、生演奏は行われていなかった。店員さんに聞いたら、やっぱりやかましいという意見がお客さんから多かったそうだ。また、コロナ中は歌手によるパフォーマンスができなかったから、というのも理由だそうだ。なるほど、確かに。コロナ中は居酒屋に行くと言うこと自体不謹慎とされていたのに、それに加えて眼の前でボーカストが熱唱する、というのはできる社会情勢ではなかっただろう。

そんな話を店員さんとしていたら、Uber Eatsの配達員さんが焼鳥の配達のために商品を受け取りにやってきた。「あれっ、ウーバーもやってるんですね?」と思わず声が出たら、店員さんは「ええ、コロナ以前と比べてまだ売上が回復していないので、宅配もやってるんです」と少し寂しそうに微笑んだ。

そんなわけで、今ではこのお店は予約時間前後にふらっと訪れて大丈夫になった。昔は、予約時間の5分から10分前には店頭に一列に並び、時間になったら店員さんの誘導で店内に入っていくというお行儀の良い行動を要求されたものだ。

一斉にドドドと店内に入り、店員さんから「入店された方から順番にオーダーを聞いていきますので、メニューを見ながら待っていてください」と念押しされたっけ。つまり、「すいませーん、とりあえず生3つ!」などと店員さんを呼び止めないで欲しい、というわけだ。

それはともかく、久々の飲み屋だ。

焼鳥なんて、スーパーのお惣菜コーナーだとか、イベントやお祭りの屋台で買うことはあっても、居酒屋で頼むのは久しぶり。かなり楽しい。

久々に頼んだ焼鳥はとても美味しい。特にレバーのふんわりとした食感は、食材の鮮度の良さと火の通し方のうまさのたまものだ。

「絶妙な火加減」の焼鳥がけっこうあるので、2歳になる息子に与える肉は慎重に選別することになった。大人なら全く問題ないレベルの火加減でも、耐性に乏しい幼児だと、お腹を壊すかもしれないからだ。

それにしても、塩辛いなぁ・・・と感じる。妊娠以降ほとんどお酒を飲まなくなった、弊パートナーのいしも「塩辛い」と言う。やっぱり酒を飲むためのお店なので、味付けが濃い。僕らはというと、白米のように塩辛さを中和する主食は頼んでいないので、余計辛く感じた。

改めて、「酒を飲む人と飲まない人では、食の世界観が違う」ということを学んだ。何を当たり前なことを、と我ながら思うが、すっかりそんなことを忘れていた。なにせ3年間のコロナ期間があって、飲み会文化自体が僕の周囲ではほぼ絶滅してしまったからだ。

メニューの上では「〆の料理」ということで書かれていた焼そばを頼む。

食べてみたら、これも(僕らにとっては)とても味が濃く、辛かった。「〆の料理でまた酒が飲めちゃうね」と夫婦で笑う。

「俺のやきとり」が塩辛くて味が悪い、というわけではない。味は素敵だと思うので、その点は強調しておく。ただ、酒席からすっかり遠ざかって久しい生活を送って、久しぶりにこういう居酒屋料理を食べると味付けの濃さにびっくりする。

僕がお酒をやめてから早10年。その間、職場の懇親会などで酒席は何度も出席していたが、特に「塩辛い」とは思わなかった。しかしよく考えてみると、コロナ以降3~4年以上、懇親会は全く行っていない。せいぜい、気心知れた友人と「コンパクトな食事会」があった程度だ。その際は、「酒を飲むぞ!」というお店に行くのではなく、「食事ができる、お酒もあるお店」だった。だからすっかり、薄味に慣れてしまったのだろう。

自分の味覚の変化にずいぶん驚いた。コロナによって変わってしまったのは、飲食業の業態だけでなく、僕自身の味覚でもあったとは。

(2023.09.24)

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