パートナーのいしの誕生日が迫っていたので、週末にケーキを作ることにした。
最近の僕は、深夜1時まで働いて、翌朝7時半からまた働き始めるというストロングスタイルの勤務時間が一ヶ月のうちに数日連続するようになり、まさにその超多忙の真っ最中だった。なので、ケーキを作るといっても手間は殆どかけられなかった。
お誕生日のお祝いをレストランでやって、うすうす相手に感づかれている中、サプライズと称してお店からバースデーケーキの差し入れがあって、本人が「うわあ！」と驚いて見せる。こういう展開は僕は好きではない。お金で解決しているようで、相手に対して誠実ではない気がするからだ。だから、家で誕生日パーティーをやるし、ケーキは自分で作ることにしている。
とはいっても、家でケーキを作ろうが、料理を振る舞おうが、結局はどこかのお店で料理や食材を買っている。「お金で解決している」ことには変わりがない。自分でケーキを作るのは、単なる自己満足だと理解している。決して、「愛情を込めてケーキを作っている」などと不遜な態度を取るつもりはない。
というわけで、2023年、いしのバースデーを祝うケーキはこれ。
迫力だけはどこにも負けない。ラーメン二郎を愛する男だからこそ、こんなケーキのビジュアルとボリュームになる。女心を理解しようとしていない、至って自己満足の産物だ。
さすがにこれはひどいと反省したので、後日いしの誕生日当日には、二人の思い出があるお店からタルトを取り寄せた。こんなケーキで「どうだすごいだろう」というほど、僕は厚顔無恥ではない。
仕事がなく、僕の手が空いている週末に作ったので、家にはいしがいる。その彼女がお風呂に入っている間に作るので、とにかく慌ただしかった。なぜか僕はこういうのをコソコソとやりたい性格なので、彼女の前で堂々と作ることはしない。こっそり食材を買ってきて冷蔵庫に隠しておいて、彼女がお風呂の扉を閉めるやいなや、即座に作り始めた。
ケーキのスポンジ部分は、「ドンレミーアウトレット」で買ってきた、一袋50円で円形のスポンジケーキの端切れがどっさりはいったものを使った。50円のアウトレット商品ありき、でケーキを作っている時点で妻に対する愛情表現としてどうなんだ？と他人から言われそうだが、値段の高い低いを気にする間柄ではないのでそれはまったく問題ではない。
このケーキを5層に積み重ね、その間に生クリームと冷凍ミックスフルーツを挟み込んでいった。そしてケーキの一番上には、スーパーで買ってきたカットフルーツ盛り合わせを載せた。
なにせいしがお風呂から出てくるまで時間がない。あいにく、ホイップクリームが既に袋詰になったものは入手できなかったので、生クリームをホイッパーで泡立てるところから始めなくてはいけなかった。だから大忙しだ。
洗面所から「ゴー」というヘアドライヤーの音が聞こえてきたら、もうタイムリミットだ。慌ててケーキを仕上げて、冷蔵庫に隠さなければならない。
この文章を書いていて、改めて「なんでケーキを隠す必要があったのだろう？」と我ながら不思議ではある。彼女がリビングに戻ってきたらケーキが用意されている、というだけでも十分なサプライズだったはずなのに、わざわざ冷蔵庫に隠した。これは子供の頃から培ってきた自分の習性なのかもしれない。
結果として、彼女にはとても喜んでもらえた。ただし、「サプライズ」という点では失敗だった。芝居がかった驚き方を彼女はしたからだ。何しろ、彼女がお風呂に入る前、僕が何度も「ゆっくりお風呂に入ってね」と言って不自然だったし、彼女が風呂に入っている間、台所からハンドミキサーの轟音が数分間も響いていたからだ。きっと風呂にも聞こえていたはずだ。
ネームプレートのところに、「ハッピーバースデー いし」とホワイトチョコのペンで書く予定だったけど、ペンの中に入っているチョコが固くて、字がうまくかけなかった。その結果、「ハッピーバースデー Nレ」になってしまった。誰だそれ。あまりにチョコが出てこないのでチョコペンのマニュアルを見たら、50度以上に温めてチョコを溶かしてから文字を書いてくれ、と書いてあった。チョコを溶かす時間が足りなかったので文字がグダグダに。
あと、誤算だったのが案外高くついた、ということだ。値段相応の超ビッグサイズのケーキが作れたので問題はないのだけど、なにせ生クリームが高い。50円のスポンジケーキ端切れから作り始めたので、1,000円もあれば立派なケーキが作れると思っていたのだけど、その倍以上のお金がかかった。
こんな乱暴なケーキを作ったのは初めてだ。今後、僕がケーキを作る際、上品なケーキを作るというのは性に合わない。次回もこんな感じのものを、今度はもう少し丁寧に作りたい。
(2023.10.08)
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