これまでの「満腹を得るためのビュッフェ」は何だったのか?「銀座朝食ラボ」で真の満足を得る

銀座七丁目に、「ホテルミュッセ銀座名鉄」というホテルがある。

そのホテル内に「銀座朝食ラボ」というレストランがあり、以前から注目していた。

宿泊客優先の場合もあるが、一般開放もされていて、宿泊していない僕らでも利用することができる。

店名のとおり、もともとはホテル宿泊客の朝食提供用レストランを意図したものだろう。しかし、今ではお昼も営業をしており、僕のような外来のお客さんにとってはハードルが低くなった。

このお店は多くのビジネスホテル・シティホテルの朝食用レストラン同様にビュッフェ形式を採っているのだが、他店と大きく異なるのは「見栄えの良い、気持ちの良いビュッフェ」を心がけているということだ。

まず、自分が座るテーブルには9ますに仕切られたトレイが用意されている。ここに、既に小皿に盛り付けられた料理をカウンターから取って並べることになる。

ビュッフェというのは料理が大皿で用意されカウンターに並べられているのが普通だ。そしてそれを各自がスプーンやトングで自分の取皿に欲しい量だけ取り分ける。それはそれで良いのだけれど、時には汚い盛り付けになってしまうことがあるし、大皿の料理がグチャグチャになっていることがある。特にグラタンの場合、大皿がドロドロになっている率が高い。

その点、小皿料理を取るというスタイルは、料理が並ぶカウンターの景色が整然として美しい。そして自分のトレイに料理を盛り付けた際も、汚い見栄えにならない。さらには、カウンター前に料理を取る人の順番待ちができない。すべてにおいて、スマートで気持ちの良い空間だ。

ビュッフェって、どうしても僕は意地汚い気持ちが芽生えてくる。それに対する罪悪感というか、嫌悪感を覚えつつも料理を一生懸命自分のお皿に盛り付ける。だから、お店が汚いとか、客がデブばっかりとか、そういうネガティブな要素があると満足度が一気に下がってしまう。自分の負の感情を誤魔化すためにも、心地よい空間というのは本当にありがたい。

ただ、値段はもちろん安くない。銀座という土地であること、ホテルのレストランであること、そして料理人が手間暇をかけて小皿に料理を盛り付けていることから、1名あたり2,800円のお金がかかる。

お昼ごはんに2,800円!これはもう、なにかのご褒美という理由をつけて自分の中で折り合いをつけよう。この金銭感覚が普通だと勘違いしだすと、今後どんどんエンゲル係数が上がってしまう。

「朝食ラボのご利用方法」について、まず店員さんから說明を受ける。

このお店の最大の特徴である9升トレイを使うのは最初の1回目だけで、2回目以降はこぶりで平らなお替りトレイを使うことになる。

升に収まりきらないお皿を使った料理(ご飯等)があるからだ。

9升トレイの方がクールだとは思うが、利便性を考えると、最初の1回目だけ9升トレイで2回目以降は通常のトレイの方がむしろ便利だ。

豚しゃぶはテーブル番号が書かれたオーダー札を料理カウンターに持参すると、そこから調理人さんが調理をしてできたてを持参してくれる。対応が丁寧だ。

飲み物は牛乳をはじめとしてフリードリンクなのだけど、別料金を払えばお酒を飲むことができる。小皿料理を楽しむお店なので、お酒が好きな人にとっては居酒屋としてもとても優秀だ。

一方で、お店が営業するのは朝から昼にかけての時間帯ということもあって、ドリンクメニューの戦闘はノンアルコールビールやノンアルコールスパークリングワインだった。これもとても僕にとっては好印象だ。なぜなら、僕はノンアルコールビールが大好きだからだ。

ただ、取り揃えているノンアルコールビールの銘柄が僕の好みではなかったので、僕はノンアルコールビールを注文をしなかった。

ウキウキの気分で料理を取りに行く。

小皿料理がずらっと並んでいて、それをどんどん自分のトレイに並べていく。

SNS投稿をエンジョイしているであろう、若い女性客はこの料理を前にずっと悩んでいた。どの料理を自分のトレイのどこに配置すれば一番見栄えが良いのだろう?と考えているからだ。まるでパズルをやっているかのように、トレイの上でお皿の位置を何度もずらしていた。

感心するのが、小皿料理スタイルのお店にすると、ビュッフェでもあまり料理を置くスペースを確保しなくて済む、ということだ。通常のビュッフェでは考えにくい、上下二段の料理配置だって可能だ。

ご飯や炊き込みご飯は大きなおひつに入っている。さすがにご飯は最初から小皿に盛られていることはなく、自分でご飯茶碗に盛り付ける。

このお店の料理は和食中心の品揃えだ。ご飯を食べる習慣がない国の人はどうするのだろう?と思ったら、ちゃんとパンも用意されていた。

おいしそうなジャムやはちみつも用意されている。

グラタン、ミートローフといった料理は通常のビュッフェレストランでよく見かけるスタイルで提供されていた。

なんでだろう?と思ったら、これらの料理は作り置きで冷めた状態で食べても美味しくないので、保温が必要だからだ。

見栄えについて全く考慮しないまま、料理を並べてきたのがこれ。

このお店は料理数がそこまで多くないので、この写真に写っている料理で全体のだいたい7割程度は取ってきたことになる。

ビュッフェレストランで、自分が料理を取ってきたお皿の写真を撮って一般公開するというのは恥ずかしいことだ。というのは、自分が思っている以上に絵面が汚いからだ。しかしこのお店の場合、既にきれいに盛り付け済みの小皿をどんどん並べているだけなので、とても美しい。

真上から撮影してもきれいだけど、斜めから撮影したほうが立体感が出て迫力を感じる。

ちなみに、SNS投稿を狙っていると思われる、隣の席の女性客たちは、9升を全部埋めず、左端に料理皿が置かれていない空白の升を作っていた。お腹いっぱい食べていると思われるのが嫌なのか、それともその方が見栄えが良いと思ったのかは謎だが、たしかに空白の升がある絵面の方がエモーショナルだった。

見栄えの話をどうしても優先してしまうお店だが、味に関しては本当に恐るべきクオリティだった。むしろ、見栄えなんてどうでもよくって、料理の味を目当てに訪れるべきお店だった。

出汁が必要な料理はきっちり出汁を使っていて、うまみのメリハリがくっきりとしている。また、柔らかいもの、硬いもの、すべてにおいて料理ひとつひとつの主張がしっかりしていて、食べている客の背筋がシャンと伸びる感覚を受ける。「腹いっぱい食べよう」と背筋を丸めてガツガツ食べる意欲が失われ、そのかわりに「丁寧に作られた料理をありがたくいただこう」という感謝の気持ちが芽生えてくる。そんな、改心させられる料理だ。

ご飯とお味噌汁が美味しいビュッフェというのは、たくさんの料理を食べたい僕にとっては本当にこまる。だって、ご飯を食べるとお腹がいっぱいになってしまうからだ。できるだけご飯以外の料理を食べた方が良いのだけど、ご飯を食べる手が止まらない。

このお店は3ヶ月単位で小皿料理のラインナップを更新しているようだ。春夏秋冬にあわせて、旬のものを採用しているのだろう。

大げさでなく、ここに掲載されているすべての料理が美味しいのだから、僕は困った。「すべての料理を食べ終わった。美味しいと思った料理だけをおかわりしよう」と思っても、全部が美味しかったからだ。

優劣がつけられないので、結局全部の小皿をもう一度取ってくることになってしまった。

「たかが牛すじコロッケ」と思って食べたコロッケでさえ、とても美味しいのだから驚きだ。その結果、モナカやフレンチトーストといったデザート系の料理を盛り付けているお皿に、2度目のおかわりとして牛すじコロッケがトッピングされたくらいだ。

最近の僕はよくビュッフェや食べ放題のお店に行く。しかし、その多くで「もう気持ち的に十分満たされた」と思って満腹になる前に食べるのを止めたり、食べたあとになって「食べすぎたなあ」と後悔することになる。

しかしこのお店での食事体験は全く違った。僕、そして動向したパートナーのいし、二人揃って精神的に満たされ、物理的にお腹いっぱいになったからだ。「食べすぎて苦しい」という状態になる一歩手前で箸が自然と止まり、心の満腹感で思わずほほえみがこぼれた。

そして、「またこのお店に行こう!」という気持ちにはならなかったのも、二人の共通体験だ。あまりに満足のいく食体験だったので、しばらくはこのお店を再訪しなくても幸福感が持続しそうな気がしたからだ。「とても美味しかったから、メニューが変わる四半期ごとに行こう!」という気持ちにはならず、「またいつか、忘れたころにこのお店に行けるといいね」と二人で話し合った。

こんな体験をしたお店は、これまでの人生で初めてだ。とても良いお店に出会えたと思う。

(2023.11.02)

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