テレビ東京の経済ドキュメント・インタビュー番組「カンブリア宮殿」で紹介されていた飲食店が、「感動の肉と米」だった。
すかいらーく創業者で現在は高倉町珈琲の創業者でもある、横川 竟さんが番組で「このお店は立地さえうまくやれば1,000店舗イケる」という趣旨の発言をしていたのが印象的だ。
この横川さん、齢は既に80代半ばだというのに、未だに外食産業の最前線でバリバリに仕事をしていらっしゃるから恐れ入る。自身のカフェ経営だけでも大変だろうに、競合他店の調査と称して日々あちこちの食べ歩きに余念がない。そして、この「感動の肉と米」のようなガッツリした肉料理なんかも平然と食べ、老害感など微塵も感じさせない明瞭な分析をする。
生ける伝説と呼ばれるような創業者社長は世の中に大勢いるが(特に製造業)、老害とならず、老いぼれず、バキバキに日々を過ごしている人など滅多にいないものだ。「カンブリア宮殿」は、この横川さんがたまに登場して外食産業の新興勢力を忌憚なく批評する回がある。この回だけでも見る価値はある。
横川さんは僕の人生と全く異なる生き方をする人だけど、僕が憧れる高齢者とは誰か?と聞かれたら、間違いなくこの人を思い浮かべる。それくらい、すごい。
そんな人が褒めるようなお店なので、ぜひ一度行ってみようと思った。
店名の通り、肉と米を食べさせるお店だ。
「いきなり!ステーキ」の登場以降、シンプルに肉をドスンと食べさせるお店は多数現われたが、思ったより我々の日常生活に定着はしていない。値段が少々割高なのはしょうがないとしても、もう少し駅前の牛丼店的な感じであちこちにお店ができると嬉しかったのだが。
しかしこのお店はどうだ?まだ全国的に店舗数は多くないものの、都内ならば北千住の駅前徒歩30秒程度のところにお店がある。そして、税込み1,000円のステーキが売りだ。こんなお店、インフレ時代の今どきにあり得ることに驚きだ。
ちなみに1,000円で単品ステーキじゃないぞ。店名通り、肉の他に米もつくぞ。そして米のお供となる漬物類や、お味噌汁もつく。要するに、激安だ。
お店に入ってすぐのところに、巨大なタッチパネル式の注文機が置いてある。前払いで、注文をここで行う。
タッチパネルの使い方なんてわからない、などという客は来てもらわなくて構わない、というお店のスタンスだ。素晴らしい。コスト削減を店員さんの気合いと努力でどうにか解決する時代はもう終わった。
もちろん、ハンディキャップを持っている人に対してどうするんだ問題はあるけれど、それはそういう時に個別対応すればよい。最初っから気を利かせすぎるサービスを用意するのは、オールド日本の癖だ。
そしてこのお店の面白いのは、客に肉を提供する鉄板のかわりに溶岩が用いられていることだ。客が来る前から厨房では溶岩プレートがアツアツに熱せられていて、客が券売機でオーダーを確定するやいなや、その情報は厨房に伝わる。厨房はすぐにアッツい溶岩プレートの上に注文された肉片を乗せ、券売機でお会計を済ませたばかりのお客さんのところに肉が載ったお盆を渡す。客は本当に待ち時間が少ない。
まだ生焼けの肉を提供し、料理の提供時間を短縮するというやり方は「いきなり!ステーキ」をはじめとするファストフードステーキハウスの定番だ。熱々の鉄板を用意するということで、「お客様のお好みにあわせて加熱して食べてください」というのがお店側の言い分だが、サービス速度向上による顧客満足の向上と客の回転率の上昇を狙っているはずだ。
しかしこの「感動の肉と米」が徹底しているのは、料理を運ぶのを客のセルフサービスにしてしまったことだ。料理だけじゃない。ご飯やお味噌汁を盛り付けるのも、客がやらなくちゃいけない。これが競合他店との決定的な違いだ。
そのかわり、お肉以外はおかわりが自由になっている(生卵は一人1個まで)。
なので、客は誰一人文句を言うことなく、むしろ嬉々としておかず類をセルフでよそっている。
ご飯はボタン一つで丼によそってくれるマシンが導入されていて、大中小の3つの量を選ぶことができる。ちなみに大は200グラム。先日、欲張ったおっさんが一度にたくさんご飯を盛りたいがあまりに、大のボタンを2回押して400g丼を作っていたのを見かけた。当然丼からご飯がこぼれ、マシンの周囲にご飯を撒き散らしていた。
こういう欲の皮が突っ張った人が増えると、お店はサービスの質を落とさざるをえなくなる。やめてほしい。食べ放題はそっとおとなしく食べるのが紳士淑女のマナー。
ご飯とお味噌汁の他に、このお店は野沢菜とキムチ、そして牛しぐれが食べ放題になっている。この中で、特に「牛しぐれ」がたまらん。これとご飯だけでどんどんメシが進む。
完成形。僕は「追い肉」ということで肉を追加しているので値段が高くついたが、肉1切れでいいならば、税込み1,000円。写真の一式は、肉が2切れなので1,800円。それでも十分安いと思う。
肉については、「まあこんなものかな」という印象だ。安い・早い・ガッツリという点で最高なのだけど、さすがに旨い肉とまで絶賛するほどの印象はない。しかし、ご飯は店名通りに感動した。うまいぞ、これ。
チェーン飲食店ならではの、パサついたお米をイメージするだろ?違うんだ、ふっくらしているし、結構ツヤツヤしているんだ。自動盛り付けメカによるご飯盛り付けなので、やや不自然なご飯の盛り付けとはなるが、味は素晴らしい。これで高菜、キムチ、牛しぐれを食べていたら本当におかわりが止まらない。
しかも、インスタントのお味噌汁なのにこれがまたうまい。お椀をメカの下にセットして、ボタンを押したらジャーッとお味噌汁が出てくる、そんなお味噌汁とは到底思えないうまさだ。「なんでこんなうまいんだ?」と夫婦で首をひねったくらいだ。
ということで、このお店では肉をガンガン食べるのも良いけど、そこまでしなくてもいい。「肉はそこそこで、ご飯をガンガン」でも十分に楽しく、幸せになれるお店だ。
ただし、メシの盛り付けメカのところに「大 200g」と書いてあるのが僕個人としてはちょっと悲しい。というのは、「ああ、ここで1回おかわりしたら、確実に体重が200g増えるんだな」と思うからだ。ちなみに僕はこの日、2回おかわりした。つまり、最初の1杯を含めるとご飯を600g食べたことになる。自己嫌悪に陥る。
このご飯の美味しさは、3歳になる弊息子タケもウットリしていた。チビのくせに、「おかわり!」と叫んでご飯と牛しぐれをおかわりしに行ったし、食べ終わったら何度も「連れてきてくれてありがとう!美味しかったよ!」と両親にしきりにお礼を言っていた。相当気に入ったらしい。
もうちょっと都内にお店が増えてくれると良いのだけど、今後どういう展開をしていくのだろうか?
(2024.04.11)
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