倉敷で一番の繁盛店かもしれない、とんかつ屋の「かっぱ」に行く

岡山県倉敷市。昔っから古い蔵屋敷が並ぶ町並み(通称「美観地区」)目当てで大勢の観光客がやってくる土地柄だ。

コロナ前から、「なにをしにきたんだ?この人らは?」というレベルで観光客が増え、コロナ明け以降はオーバーツーリズム状態になってきている。僕の知り合いが美観地区に住んでいるのだが、昼間は買い物にも行けないと嘆いていた。人が多すぎて、自転車がこげないからだ。

そんな倉敷の中でも、ひょっとすると一番行列ができる飲食店ではないか?と僕が思っているのが、駅から美観地区に通じる商店街の中にある「かっぱ」というお店だ。

もともと、商店街は完全に地元民向けの場所だった。美観地区に行く観光客は、JR倉敷駅からまっすぐ伸びている倉敷中央通りを通って徒歩10分から15分程度、というのが定番だった。しかし2000年以降頃から、じわじわと観光客が商店街を歩くようになり、今じゃすっかり商店街は観光客で溢れる通りとなった。おそらく、観光ガイドなどで「美観地区に通じる道」として紹介するようになったのだろう。実際には中央通りを通るよりも若干の遠回りになるのだけど、アーケードはあるし、地元民の暮らしっぷりがうかがえるので旅情は楽しめる。

商店街がそんなに観光客が大勢通るなら、さぞや沿道のお店は賑わっているだろう?と思いきや、そこはあまりうまくいっていない。観光客が増える前にだんだんシャッター街化していき、空いたところにナイトクラブのような夜のお店が進出したり駐車場になってしまったりした。お店として復活を遂げたところも、長続きしなかったり。

観光客はあくまでも美観地区に向かおうとしている。またはその帰り道だ。その道中の商店街のお店に立ち寄って、お金を使うというのはなかなかハードルが高いのだろう。以前と比べてとんでもない数の客が右へ左へと行き来しているのだけれど、商店街の悩みというのは全国どこでも同じらしい。

ただ、この「かっぱ」だけは違う。

ありえないくらい、いつも客が店頭に群がっている。入店待ちしている人が店頭に並べられた椅子に座っているだけでなく、それ以外のお客が銀行の取り付け騒ぎみたいに店の入口に群がっているのだった。

何屋なんだ?ここは。

いや、僕自身このお店は昔っから知ってる。物心がついた時点でお店は存在していたので、おそらく半世紀は続いているお店だと思う。しかし、一度もお店に入ったことはない。昔は、客が並ぶようなお店ではなかったからだ。なので、何を食べさせてくれるお店なのかさえ、知らなかった。

聞くと、とんかつのお店なのだという。えっ、とんかつ?

僕は思わず聞き返した。だって、とんかつって、別に倉敷の名物でもなんでもない。お隣の岡山市は、「デミカツ丼」が御当地B級グルメとしてちょっとした知名度を誇るが、倉敷はとんかつと縁もゆかりも無い。豚の生産が盛んということもないし。

にもかかわらず、この行列たるや。だって、10名20名の行列じゃないんだぞ。その倍くらいが並んでいる日もある。「先日テレビに紹介されたばかりだから・・・」ということがあるならまだしも、年に何度かこのお店の前を通り過ぎる都度、全く同じどころかどんどん列の長さが長くなっているという事実にびびった。

地元事情に詳しい知り合いに聞いてみたら、「値段の割にとんかつの量が大きくて分厚い」ということだった。はあ、なるほど。確かにそれはありがたいことだけど、でもだからといってそのために大行列を作って食べようと思うだろうか?しかも観光客が?そんな行列する時間があったら、他の観光をしたほうがマシだろう?

観光ガイド本を見ると、確かにこの「かっぱ」が掲載されていた。倉敷を代表する、倉敷に来たなら食べるべきグルメの一つとして紹介されているのだから恐れ入る。

その知り合いに「客は地元民中心なの?それとも観光客中心?」と聞いてみたが、「さあねぇ・・・私らは地元だから、わざわざ混んでいるお店に行ってまで食べようと思わないから」とのことだった。まあ、そりゃそうだ。

僕らも、このお店に並んでまで食べてみようという意欲はなかった。でも、知り合いから「並ばなくても入店できる方法」を聞き、それを実行してこのお店の料理と対面することができた。持つべきものは地元民だ。

「並ばなくても入店できる」といっても裏技でもなんでもない。営業開始一巡目の客になれるように、営業開始数時間前の段階から順番待ち名簿に名前と人数を書いておく、ただそれだけだ。地元民の強みとして、家で茶でも飲みながら過ごしていればよい。

そんなわけで、念願なのかなんなのか、以前から気になっていた「かっぱ」に入店することができた。昔は、とんかつの店「かっぱ」と、パフェやカツカレーなどを出すお店「kappa」がひとつ屋根の下で並んでお店を営んでいたのだけど、今は「kappa」のほうは営業がストップしている。事情は知らないのだが、とんかつ屋に専念することにしたのかもしれない。

メニューはシンプル。この写真と・・・

この写真がすべて。

お酒の種類は一応あるにはあるのだけれど、あんまり積極的に売っている印象はない。とにかくお客さんが多いので、ばっとメシ食ってサッとでていってほしいような印象を受けた。酒を飲んでダラダラあれこれつまむ、というお店ではない。

なお、客のほとんどが「名代とんかつ定食 1,600円」を頼んでいた。

僕は敢えて違うメニューを頼んでみたい、という気がムラムラしたのだけど、これだけの繁盛店に次訪れる機会はあるだろうか?と思うと、王道の「とんかつ定食」を頼むしか選択肢がなかった。

で、これがその「名代とんかつ定食」。なるほど、でかい。そして分厚い。分厚いせいもあって、オーダーが通ってから調理にけっこうな時間がかかる。この調理時間も、行列の一因だろう。

とんかつが分厚いのは正義だと思う。たとえ、薄さが1/2のカツ2枚があって、重さは同じですよ!もちろんお肉の部位も一緒ですよ!と言われたって、問答無用で「分厚いやつを1枚くれ!」となる。

それはそうなんだが、このカツを食べてもまだ、「いやぁ・・・うまいんだけど、これのためにみんなあんなに並ぶの?」というクエスチョンのほうが大きい。その疑問が、美味いという感覚を上回りつづけた。

ソースは、いわゆるとんかつソースのようなものとは違う。たとえがマニアックだが、広島市民絶愛の洋食店「肉のますゐ」に相通じる味のデミグラスソースだ。

なので、味は間違いなくうまい。肉も、ソースも。そしてライス味噌汁付きで1,600円はすばらしい。

・・・とはいえ、あの行列はあんまりだ。行列が長すぎて、「そこまで列を作って食べる料理か?」という疑問を強く持ってしまう。僕らが全く並ばずに入店したから、なおさらだ。

「もう少し待ち行列の人が少ないなら、料理は良いしいいお店なのにねぇ」

とみんなで話し合ったのだけど、こればっかりは客次第だ。このお店においても、「オーバーツーリズム」的にバランスがとれていない状況が起きている。

(2024.05.05)

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